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【EU】EU理事会と欧州議会、自然再生法案で政治的合意。2050年までに劣化生態系を90%以上再生

 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は11月7日、自然再生法(EU規則)案で政治的合意に達した。今後、双方での立法手続きに入る。

【参考】【EU】欧州委、自然再生法と農薬50%減で政策発表。生物多様性戦略を具体化(2022年6月24日)
【参考】【EU】世界大手50社、EUに自然再生法の早期成立要請。ネイチャーポジティブとカーボンニュートラル(2023年6月19日)
【参考】【EU】欧州議会、自然再生法の交渉見解を可決。僅差で賛成多数。欧州委、EU理事会との交渉へ(2023年7月17日)

 同法は、EU加盟国政府を対象に、2030年までにEUの陸地と海域の少なくとも20%、2050年までに再生が必要なすべての生態系を再生するための法的義務を設定することを目的としている。対象は、農地、森林、海洋、淡水、都市生態系まで多岐にわたる。再生と劣化防止の双方の要件が定められた。

 再生では、EU加盟国は、2030年までに、湿地、草原、森林、河川、湖沼等の陸域生態系(附属書I)、沿岸、淡水、海草、サンゴ礁等の海洋生態系(附属書II)に記載されている生息地のうち、状態の悪い30%以上を再生させるための措置を講じることが義務化される。加えて、2030年まで、EU加盟国がこの規則で定められた再生措置を実施する際、欧州委員会が指定する自然保護区「NATURA2000」のサイトを優先することにも合意した。

 さらに、2040年までに状態の悪い生態系の60%以上、2050年までに90%以上を再生させるための措置を確立することも義務化される。非常に一般的で広く分布している生態系については、柔軟性を認める要件が追加された。

 劣化防止では、良好な状態に達した再生対象地域と、附属書IとIIに記載された陸域および海域の生態系では、著しい劣化を防止する努力義務を課すことでも合意。要件は生態系の種類レベルで測定される。

 送粉者保護では、加盟国に対し、2030年までに送粉者の個体数を回復させるための対策を定めることを加盟国に求める具体的な要件を課す。欧州委員会は、送粉者の多様性と個体数を監視するための科学的根拠に基づく測定方法を定める委託法令を制定し、それに基づき加盟国は2030年以降、少なくとも6年毎に進捗状況をモニタリングしなければならない。

 農地では、KPIとして3つを設定。具体的には「草地蝶指数」「多様性の高い景観特性(HDLF)を持つ農地の割合」「農地の鉱物性土壌中の有機炭素蓄積量」。加盟国は、この3つのうち2つ以上を改善するための措置を講ずることが義務化される。国単位で共通農地鳥類指標を増加させるための期限付き目標も設定される。

 泥炭地では、2030年までに農業利用されている排水泥炭地の30%、2040年までに40%、2050年までに50%を再生させるという目標を設定。ただし、強い影響を受けている加盟国は、目標を低くすることを許容する。再生措置には、排水された泥炭地を構成する有機土壌の再湿潤化等が掲げられた。再湿潤化目標の達成については、徒に農家や私有地所有者の義務を課さないようにすることも合意された。

 森林では、森林火災のリスクを考慮した上で、立枯材や倒木、共通森林鳥類指数等の特定指標の国単位での増加傾向を達成することを義務化。EU単位では、加盟国に対し、2030年までに30億本以上の植林に貢献することを求める条項も追加した。

 都市生態系では、都市の緑地面積を増加させていくことで合意。また、加盟国は、同法の発効から2030年末までの間に、都市生態系がすでに45%以上の緑地を有している場合を除き、都市緑地と都市樹冠被覆の純減がないことを保証することでも合意した。さらに、2030年までに25,000km以上の河川を自然流域にするため、地表水域の連結性を阻害する人工的な障害を特定、除去、再生し、自然の河川の連結性を維持することも義務化する。

 同法は、これらの目標を達成するための国別再生計画を欧州委員会に提出することが義務付けられる。まず、2032年6月までの期間をカバーする国別再生計画と2032年6月以降の期間についての戦略的概要を示した計画書を提出。次に、2032年6月までに、2042年までの10年間の再生計画を2050年までの戦略的概要とともに提出。2042年6月までに残りの2050年までの計画を提出する。加盟国は、計画を策定する際に、辺境地の特殊な状況を含め、多様な社会的、経済的、文化的要件、地域的、地方的特性、人口密度を考慮することを認めている。

 財源では、欧州委員会は、同法発効から1年以内に、資金ギャップを特定する分析報告書を提出。適切と判断されれば、次回の多年度財政枠組み(MFF2028-2034)に組み入れる。さらに、企業や農林漁業者向けの再生措置支援として、加盟国が既存の民間および公的制度を推進することを奨励する規定を導入することでも合意した。

 同法が、農林水産業や食料供給を含めた広範な社会経済的影響がマイナスに作用する可能性を踏まえ、2033年までに同法のインパクトをレビューすることも明記。さらに、制御不能な不測の事態が発生し、EU全域の食料安全保障に深刻な影響を及ぼす場合、実施法を通じ、農業生態系に関連する規制条項の実施を最長1年間停止するオプションも導入する。

【参照ページ】Nature restoration: Council and Parliament reach agreement on new rules to restore and preserve degraded habitats in the EU

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 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は11月7日、自然再生法(EU規則)案で政治的合意に達した。今後、双方での立法手続きに入る。

【参考】【EU】欧州委、自然再生法と農薬50%減で政策発表。生物多様性戦略を具体化(2022年6月24日)
【参考】【EU】世界大手50社、EUに自然再生法の早期成立要請。ネイチャーポジティブとカーボンニュートラル(2023年6月19日)
【参考】【EU】欧州議会、自然再生法の交渉見解を可決。僅差で賛成多数。欧州委、EU理事会との交渉へ(2023年7月17日)

 同法は、

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 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は11月7日、自然再生法(EU規則)案で政治的合意に達した。今後、双方での立法手続きに入る。

【参考】【EU】欧州委、自然再生法と農薬50%減で政策発表。生物多様性戦略を具体化(2022年6月24日)
【参考】【EU】世界大手50社、EUに自然再生法の早期成立要請。ネイチャーポジティブとカーボンニュートラル(2023年6月19日)
【参考】【EU】欧州議会、自然再生法の交渉見解を可決。僅差で賛成多数。欧州委、EU理事会との交渉へ(2023年7月17日)

 同法は、

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 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は11月7日、自然再生法(EU規則)案で政治的合意に達した。今後、双方での立法手続きに入る。

【参考】【EU】欧州委、自然再生法と農薬50%減で政策発表。生物多様性戦略を具体化(2022年6月24日)
【参考】【EU】世界大手50社、EUに自然再生法の早期成立要請。ネイチャーポジティブとカーボンニュートラル(2023年6月19日)
【参考】【EU】欧州議会、自然再生法の交渉見解を可決。僅差で賛成多数。欧州委、EU理事会との交渉へ(2023年7月17日)

 同法は、EU加盟国政府を対象に、2030年までにEUの陸地と海域の少なくとも20%、2050年までに再生が必要なすべての生態系を再生するための法的義務を設定することを目的としている。対象は、農地、森林、海洋、淡水、都市生態系まで多岐にわたる。再生と劣化防止の双方の要件が定められた。

 再生では、EU加盟国は、2030年までに、湿地、草原、森林、河川、湖沼等の陸域生態系(附属書I)、沿岸、淡水、海草、サンゴ礁等の海洋生態系(附属書II)に記載されている生息地のうち、状態の悪い30%以上を再生させるための措置を講じることが義務化される。加えて、2030年まで、EU加盟国がこの規則で定められた再生措置を実施する際、欧州委員会が指定する自然保護区「NATURA2000」のサイトを優先することにも合意した。

 さらに、2040年までに状態の悪い生態系の60%以上、2050年までに90%以上を再生させるための措置を確立することも義務化される。非常に一般的で広く分布している生態系については、柔軟性を認める要件が追加された。

 劣化防止では、良好な状態に達した再生対象地域と、附属書IとIIに記載された陸域および海域の生態系では、著しい劣化を防止する努力義務を課すことでも合意。要件は生態系の種類レベルで測定される。

 送粉者保護では、加盟国に対し、2030年までに送粉者の個体数を回復させるための対策を定めることを加盟国に求める具体的な要件を課す。欧州委員会は、送粉者の多様性と個体数を監視するための科学的根拠に基づく測定方法を定める委託法令を制定し、それに基づき加盟国は2030年以降、少なくとも6年毎に進捗状況をモニタリングしなければならない。

 農地では、KPIとして3つを設定。具体的には「草地蝶指数」「多様性の高い景観特性(HDLF)を持つ農地の割合」「農地の鉱物性土壌中の有機炭素蓄積量」。加盟国は、この3つのうち2つ以上を改善するための措置を講ずることが義務化される。国単位で共通農地鳥類指標を増加させるための期限付き目標も設定される。

 泥炭地では、2030年までに農業利用されている排水泥炭地の30%、2040年までに40%、2050年までに50%を再生させるという目標を設定。ただし、強い影響を受けている加盟国は、目標を低くすることを許容する。再生措置には、排水された泥炭地を構成する有機土壌の再湿潤化等が掲げられた。再湿潤化目標の達成については、徒に農家や私有地所有者の義務を課さないようにすることも合意された。

 森林では、森林火災のリスクを考慮した上で、立枯材や倒木、共通森林鳥類指数等の特定指標の国単位での増加傾向を達成することを義務化。EU単位では、加盟国に対し、2030年までに30億本以上の植林に貢献することを求める条項も追加した。

 都市生態系では、都市の緑地面積を増加させていくことで合意。また、加盟国は、同法の発効から2030年末までの間に、都市生態系がすでに45%以上の緑地を有している場合を除き、都市緑地と都市樹冠被覆の純減がないことを保証することでも合意した。さらに、2030年までに25,000km以上の河川を自然流域にするため、地表水域の連結性を阻害する人工的な障害を特定、除去、再生し、自然の河川の連結性を維持することも義務化する。

 同法は、これらの目標を達成するための国別再生計画を欧州委員会に提出することが義務付けられる。まず、2032年6月までの期間をカバーする国別再生計画と2032年6月以降の期間についての戦略的概要を示した計画書を提出。次に、2032年6月までに、2042年までの10年間の再生計画を2050年までの戦略的概要とともに提出。2042年6月までに残りの2050年までの計画を提出する。加盟国は、計画を策定する際に、辺境地の特殊な状況を含め、多様な社会的、経済的、文化的要件、地域的、地方的特性、人口密度を考慮することを認めている。

 財源では、欧州委員会は、同法発効から1年以内に、資金ギャップを特定する分析報告書を提出。適切と判断されれば、次回の多年度財政枠組み(MFF2028-2034)に組み入れる。さらに、企業や農林漁業者向けの再生措置支援として、加盟国が既存の民間および公的制度を推進することを奨励する規定を導入することでも合意した。

 同法が、農林水産業や食料供給を含めた広範な社会経済的影響がマイナスに作用する可能性を踏まえ、2033年までに同法のインパクトをレビューすることも明記。さらに、制御不能な不測の事態が発生し、EU全域の食料安全保障に深刻な影響を及ぼす場合、実施法を通じ、農業生態系に関連する規制条項の実施を最長1年間停止するオプションも導入する。

【参照ページ】Nature restoration: Council and Parliament reach agreement on new rules to restore and preserve degraded habitats in the EU

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