【人権】第4回国連ビジネスと人権フォーラム参加報告~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~ 2016/01/14 体系的に学ぶ

 国連主催の第4回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2015年11月16日~18日にスイス・ジュネーブにおいて開催された。このフォーラムは、持続可能なグローバル化に向けた企業と人権に関する基準と慣行の強化を目的として、2011年6月16日に国連にて全会一致で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」を普及させるべく、2012年から年次開催されることとなったものである。筆者は、前年、前々年に続き参加の機会を得た。


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写真:下田屋毅撮影

国連ビジネスと人権フォーラム開催の趣旨

 この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」だが、ハーバード大学のジョン・ラギー教授が、2005年から国連事務総長特別代表を務め「保護・尊重・救済のフレームワーク」として取りまとめたものである。

 これは、①国家による人権保護の義務、②人権を尊重する企業の責任、③人権侵害を受けた者への救済へのアクセス、から構成され、「人権の尊重」、「救済へのアクセス」に関して企業の取り組みが必要とされている。そして、企業には人権を尊重する責任を果たすというコミットメントとしての「人権方針」の作成、そして人権への対処の責任をもつプロセスとしての「人権デュー・ディリジェンス」を実施すること、そして「苦情処理メカニズム」と呼ばれる救済制度を設け、その実効性を確保することが求められている。

 また、年次開催されている国連ビジネスと人権フォーラムは、以下を主要目的として掲げている。

 ①世界の全地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話の為の主要な会合の場所を提供し、効果的で包括的な指導原則の導入へ向けたエンゲージメントを強化する。関係するステークホルダーが、指導原則の導入にあたりトレンド、課題、そして模範事例を見つける手助けをすること。特定の部門、運用環境、または特定の権利やグループの関連において、直面している課題を取り入れるための場所を提供する。

 ②国連ワーキンググループが、彼らの調査結果やアイデアを共有するための重要なプラットフォームとなる。フォーラムはさらに、世界的に指導原則の普及と実施を推進する上で国連のワーキンググループ独自の戦略を伝えるとともに、その任務を果たすことへ向けた、学びを共有することからも恩恵を受ける。

 第4回目となる2015年のフォーラムのテーマは、「進捗状況の検証と一貫性の確保」で、過去3回のフォーラムを踏まえて以下に焦点を当てた。

  • マルチステークホルダーダイアログとエンゲージメントを強化
  • 指導原則を導入へ向けた測定と進捗の報告について効果的な方法を議論する
  • 指導原則を導入へ向けた国家行動計画を議論する
  • 効果的な救済へのアクセスを探る
  • 国と企業の現在の慣行を調査する。そして具体的な地域における指導原則の導入が意味を持つことを公にする。

フォーラムの参加者

 ビジネスと人権フォーラムは、参加登録数は年々増加している。2012年の第一回は1000人、2013年は1700人、2014年は2000人、そして2015年の第四回は、130か国から2300人で関心がより高くなっている。参加者の内訳は、女性52%、男性48%。また政府12%、NGO36%、企業22%、大学研究者15%、各国人権研究所3%、労働組合1%、マルチステークホルダー・イニシアティブ2%、専門職団体・その他1%となっている。

 日本関係の政府・企業・NGO・大学に関する参加登録だが、政府関係は、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、独立行政法人ジェトロ・アジア経済研究所。一般企業・組織は、日立製作所、日立ヨーロッパ、NECヨーロッパ、JTインターナショナル、欧州三菱商事、新日本有限責任監査法人、デロイトトーマツコンサルティング合同会社、創コンサルティング、サステイナビジョン、ミャンマー・ジャパン・ティラワ開発社、日本弁護士連合会。NGO・市民社会からは経済人コー円卓会議日本委員会、CSOネットワーク、反差別国際運動(IMADR)ジュネーブ事務所、ヒューマンライツ・ナウ、「環境・持続社会」研究センター。大学関係は、立命館大学。日本関係者は全体で25人前後とみられ昨年(15人前後)よりも参加者は増加した。

オープニング・プレナリー


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写真:下田屋毅撮影

開会の辞

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写真:下田屋毅撮影
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写真:下田屋毅撮影

 第4回目である2015年の議長は、メキシコ出身の国連グローバル・コンパクトセンター・ラテンアメリカ・カリブ海地域サポートエグゼクティブ・ディレクターのダイアナ・チャベス氏がメキシコ系ラテンアメリカから、そして女性で初めて議長を務めた。

 開会の辞で、ダイアナ・チャベス氏は2015年のフォーラムのテーマである「進捗状況の検証と一貫性の確保」を紹介するとともに、「人権侵害に対処するための国家、企業がコミットメントを行った内容は、実際の行動に移されなければならない。」と述べ、その上でチャベズ氏は、「国家行動計画の導入による政治的コミットメント、企業の人権デュー・ディリジェンス、苦情処理メカニズムと負の影響の緩和、企業の社会的価値を強化することを目的とした予算配分と意思決定を通じた取締役会のサポート」について強調した。さらに、「地球規模の問題は、一国や企業単独では解決できない。集団としての協働と努力が必要となる。」と述べ、「このフォーラムに参加者それぞれが、企業自身の基準を高めるためことを手助けすること、また国家が戦略的な役割を果たせること」についての期待を表した。
 
 また、国連ビジネスと人権作業部会の議長であるマーガレット・ユンク博士は、「我々は法律やプロセスについて話をするためだけにここにいるのではない。これらは重要だが、究極の目的は、紙上だけではなく、会議場でだけではなく、現実に企業の人権の慣行を改善することだ。」と述べ、より実効性のある議論を行うことを求めた。

 また、彼女は、今年がナイジェリアのケン・サロ=ウィワ氏が、ニジェールデルタにおける石油会社の環境破壊の影響への反対運動を行ったことが原因で、ナイジェリアの当時の軍事政権に他の8人と一緒に絞首刑にされてから20周年になることに触れた。「ケン・サロ=ウィワ氏の死は、ビジネスと人権に関して影響を与えた形成期の出来事の一つで、それ以来、大きな進歩を遂げてきている。しかし、今日未だに、世界で企業プロジェクトがコミュニティへ悲惨な人権侵害を引き起こしている事例がある。」と述べ、指導原則のこれまでの効果を挙げると共に、「次へのステップとして、より実効性のある取り組みが必要である」と述べ、フォーラム後にそれぞれが行動に移すことを求めた。

フォーラムのフォーマット

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写真:下田屋毅撮影
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写真:下田屋毅撮影

 ビジネスと人権フォーラムは2015年11月16日~18日の3日間開催され、オープニング・プレナリー(17日)とクロージング・プレナリー(18日)を除いた国連主催のセッションは18個、その他ステークホルダーが主催したサイドイベントは42個にのぼり、それぞれパラレルで別々の部屋で行われた。

 国連主催のセッションは、英語、フランス語、スペイン語の同時通訳が用意され、オープニング・プレナリーとクロージング・プレナリーは、それにアラビア語、中国語、ロシア語、韓国語(オープニング・プレナリーのみ)、の同時通訳が入った。基本的に同じフォーマットに従って導入され、モデレーターの監督の下に会場の参加者が発言できる時間が確保されている。

 セッションでは、パネリスト、コメンテーター、および会場からの発言者は、時間制限が課され、パワーポイントやビデオによる視覚的なプレゼンテーションも用いられた。各セッションのパネリストは5~7分、会場からの発言は1回1~2分の時間が割り当てられた。モデレーターは、多様なステークホルダーからのバランスの取れた適切な内容の意見をセッションで取り上げること、また建設的な対話になるようにすることが求められた。

第4回ビジネスと人権フォーラムで注目された議論

 今回のフォーラムのトピックでは、「国家行動計画の導入」「条約締結による法制化への動き」、「先住民族の人権侵害の訴え」「現代の奴隷制の排除へ向けた取り組み」、「メガ・スポーツ・イベント」などを中心に3日間で約60のセッションが開催された。

国家行動計画の導入

 「国家行動計画」については、既に欧州を中心として導入されており、現段階で、国家行動計画を作成し導入している国は、英国(2013年9月)、オランダ(2013年12月)、イタリア(2014年3月)、デンマーク(2014年4月)、スペイン(2014年6月)、フィンランド(2014年10月)、リトアニア(2015年2月)、スウェーデン(2015年8月)、ノルウェー(2015年10月)であり、さらに多くの国で導入に向けた取り組みが始まっていることが伝えられた。

 米国やドイツでは導入に向けた取り組みをする上で、企業を含むステークホルダーとのコミュニケーション、エンゲージメントを非常に活発に行っており、作成の過程においても、人権への意識が高まる効果が出てきているということだ。まだアジア、アフリカで行動計画を持っている国はないということだが、今回アジアでは、韓国が国内人権機関を中心として取り組みを始めたことをオープニング・プレナリーのパネルディスカッションで披露し、またその後のセッションでも発表した。

 またノルウェー国務長官のトーン・スコーゲン氏は、3日目のクロージング・プレナリーにおいて同国が国家行動計画を導入した際の経験についてスピーチした。スコーゲン氏は、「2015年10月12日に国家行動計画を発行した。その開発過程において、我々はとても幅広いステークホルダー、市民社会、企業、労働組合、その他関心のある団体から貴重な意見をいただいた。ステークホルダーとの対話は、この議題を先に進めるのに不可欠で、ステークホルダーとの対話は、我々政府にとって重要なものである。」と述べ、開発段階でのステークホルダーとの対話の重要性を強調した。

 スコーゲン氏は、経済的、社会的及び文化的権利の促進に取り組んでいる人権擁護者の保護を強化する必要についても強調し、さらに国家の責任として人権擁護者の行動を妨げないようにすること、人権擁護者とその他ステークホルダーが意味のある協議を持つことについて、企業の責任において実施する必要があると述べた。

 また、「①政府は、国家の努力のレベルを上げ、効果的な規制、政策やインセンティブを通じて企業に明確かつ一貫性のある信号を送る必要があること。②企業がどのように人権を尊重するか、そして企業が期待に応えるために政府が手助けすることについて、政府は企業のコミュニティへの明確な期待を設定する必要があること。③国家は、世界のガバナンスとフレームワークとのギャップを埋めるための国際的な取り組みをスピードアップする必要があること。この方法は、地域間の企業に対して一貫性のある予測可能な期待を確保することができる。」と国家の役割に関連する重要な問題として3つを挙げた。

条約締結による法制化への動き

 今回のフォーラムで、昨年に続き注目されたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起され決定された「国際的な条約締結による法制化へ向けた国連の作業部会の設置」についての第26回国連人権理事会決議26/9についてである。2015年7月には、国連人権理事会の作業部会において条約による法制化の作業が始められている。

 法制化の流れについて補足として説明するが、この歴史的な背景には、かつて国連で「多国籍企業及びその他の企業に関する規範」が、人権委員会の専門家による補助機関で起草され、本質的に国家が批准した条約の下で人権の義務を直接に企業に課そうとする動きがあった。しかしこの提案は、経済界と人権活動団体との間に埋めることのできない溝を作りだし、政府からの支持もほとんど受けられず、国連人権委員会は、この提案に関し意思表明をすることさえしなかった。

 そのことを踏まえ新たな取組みとして、2005 年に「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に取り組むためにジョン・ラギー氏が国連事務総長特別代表に任命され、広範にわたる体系的な調査研究の末、2011年に発表したのが「国連ビジネスと人権に関する指導原則」なのである。このような歴史的な背景から、この条約による法制化が、国連ビジネスと人権に関する指導原則の進展を弱める可能性があるとの懸念が当初指摘されていた。


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写真:下田屋毅撮影

 2014年に引き続き条約締結による法制化を提起したエクアドルから、エクアドル常任委員のマリア・フェルナンダ、エスピノーサ氏が、フォーラムにおいてスピーチした。

 エスピノーサ氏は、この条約による法制化の動きにについて「既にこの条約による法制化へのプロセスは始まっており、国際的な関心を得ている。大学関係者、市民団体、NGOが協調し、”Treay Alliance“を結成、1000を超える世界のNGO、そして様々な国々がこのプロセスに賛同し取り組んでいる。」と話した。また2015年7月に開催された作業部会での議論を4つに分けて説明した。

 1つ目として「決議26/9の脚注」について。決議26/9は、多国籍企業に焦点を当てており、脚注で、国内企業は対象外とされる旨が記載されている。しかし、人権侵害は多国籍企業だけでなく国内企業によっても行われており、対象としていれるべきだという意見が出されており、継続して議論が行われている。

 2つ目として「条約による法制化のプロセスと指導原則との関係」について。多くのディスカッションが作業部会の中で行われたが、この中では、条約締結のプロセスと指導原則の推進は、お互いに補足し合う関係であり、補完性があるとされ、現在の課題に対して具体的に2つ方法を繋ぎ合わせて実施していく方法が望ましいとされた。

 3つ目は「範囲」について。これは条約締結によりどの人権についてカバーするのかということであるが、作業部会では、多くの参加者が人権侵害はそれぞれ関係性があるのでより広い範囲の人権についてカバーすることが望まれるとし、より深い議論が今後さらに必要とされることとなった。

 4つ目として「国家の義務と多国籍企業の責任」について。国家の義務としてどのように管理していくのか、そして多国籍企業が将来の条約締結下においてどのように人権を尊重するのかについて議論された。これはこの条約による法制化のプロセスの中で主要な目的であると説明した。

 また、エスピノーサ氏はこのプロセスについて次のように述べている。「この条約締結による法制化のプロセスの目的は、決して企業を悪者扱いすることではない。明確な世界のルールを設定すること、そして公正な競争を確認し、信頼へ向けた効果的なメカニズムによって犠牲者に対して是正を行うことである。我々は、これがとても簡単ではない課題であることと認識している。そして、我々は再度門戸を開き全ての加盟国を招待し、関心の高いステークホルダーがより活発に参加することができるように、公正で包括的な、そして民主的で透明性のあるプロセスによって取り組みを進めていく」と強調した。

 このように条約の法制化に向けた動きについての進捗状況が伝えられ、セッションにおいてはディスカッションが活発に行われた。その上で条約による法制化には時間がかかるので、その法制化の動きを進めていくとともに、企業は指導原則の導入を進め、各国では国家行動計画を所持し、ビジネスと人権の課題に対して取り組みを行っていく必要があることが強調された。

現代奴隷制を含む強制労働、人身取引排除へ向けた取り組み

 人身取引、強制労働を排除するための施策が行われており、その基準、規制、取り組みに関する報告とディスカッションが繰り広げられた。米国政府と英国政府からは、それらを規制するそれぞれ「米国連邦調達規則(FAR:Federal Acquisition Regulations)」の改訂、そして英国「現代奴隷法2015」の制定についての報告があった。


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写真:下田屋毅撮影

 米国労働省のレイチェル・フィリップス・リグビー氏は、「米国連邦調達規則は、米国の政府調達に関する一般的な調達原則を定めたもので、入札招請から契約に至る手続を規定している。米国は、国家の人権の保護の義務の一環として、この中に強制労働を含む人権侵害に関する項目についてドラフトを発行しコンサルテーションを実施、2015年3月に追加した」と述べた。また、リグビー氏から政府の調達に関する請負業者やその下請け業者に対してのデュー・ディリジェンスを含む要求事項や救済へのアクセスの体制について説明があった。

 英国外務・英連邦省のスティーブン・ロウ氏は、英国で2015年3月に現代奴隷法2015が制定されたのを受けてその内容について説明した。英国では、国連ビジネスと人権に関する指導原則に沿って国家行動計画を導入るなど取り組みを実施、そして大きな課題の一つとして世界で2100万人が21世紀になっても奴隷のように強制労働をさせられている現状があり、それに対応するものとして現代奴隷法2015が3月に制定されたとのこと。これは、英国政府が、現代の奴隷制について排除することを目的に非常に強い意志を持って政策としてコミットメントし導入したもので、企業の活動において奴隷制の犠牲となっている人達を保護することも目的としている。

 この現代奴隷法2015では、全世界での売り上げが3600万ポンドを超える企業が対象となっており、自社の事務所や工場とサプライチェーン上においても奴隷制と人身取引についての状況を確認し、「奴隷と人身取引に関する声明」として一会計年度に1度発行することが求められ、その都度排除に向けた企業の行動のステップを踏むことが求められている。

 またロウ氏は、英国政府はこのガイダンスについて2015年10月29日に発行していることも併せて紹介した。企業が声明を出す上での詳細として、奴隷制と人身取引に関する方針の作成、デュー・ディリジェンスの実施、研修の実施などについて説明、また声明について取締役かシニアマネジャーの署名とサポートが必要とされることが強調された。またこの現代奴隷法に関する独立したコミッショナーが任命されており、企業が発行した声明について効果的な内容であるかを評価する役割を担うことも紹介された。

 EICC(電子業界 CSR アライアンス)のロブ・レデラー氏は、「EICCは電子業界のサプライチェーン全体を代表しており、もし強制労働が発生したら、現在ある規制・基準などで解決策ついて話合うと共に、サプライチェーン全体を確認するメカニズムを持っている。我々の行動規範は3年に一度アップデートされるが、2014年に特に強制労働を含む大幅な改訂を行った。」と述べ、さらに「国連ビジネスと人権に関する指導原則については、ベンチマークを行い、一年半に渡って行動規範とのギャップ分析を実施している。我々の行動規範には、グローバルにおける労働者の苦情処理メカニズムがないことを確認した。その上で強制労働に関する事例が挙げられたこともありマレーシアにおいてパイロットプロジェクトを実施するとともに、マレーシア政府とも非常に近い距離で協働している。」と述べ、強化を行っていることを説明した。

 また「数千にも及ぶ幅広いサプライヤーに対しての責任あるデュー・ディリジェンス」を最優先課題として挙げた。NGOのVeriteのフィリップ・ハンター氏は、「規制については、これら人権について配慮を推進するものであり、最初の段階では企業を後押しするので望ましいが、企業にはこれらの規制が何を求めているのか考えて行動していただきたい。例えば、カリフォルニア州サプライチェーン透明法や英国現代奴隷法では報告することが求められているが、報告することだけでなく、その背後にあることを確認することが求められている。」と述べ、法令順守を超えた部分で企業が何をする必要があるのかを考え行動を起こす必要があることを伝えた。その他、強制労働の定義について、労働者からの搾取や、労働条件の査察についてなどがディスカッションされた。

先住民族の訴え

 今年も、南米、中南米、そして東南アジアから、企業による人権侵害を受けた先住民族の方々が、その状況を伝えるために民族衣装を着てフォーラムに参加をしていた。政府や企業が事前の告知による同意なしに勝手にプロジェクトを実施し、多くの先住民族は、そのプロジェクトの影響で強制立退きや避難を余儀なくさせられている。今まで先住民族のコミュニティは、抗議活動などを行うと共に、対話、交渉、調停機構を通じて、政府や企業と相対してきた。しかし残念ながら、国や企業は、先住民族のコミュニティの抵抗を阻止するために、大規模で残忍な弾圧も行われている現状がある。


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写真:下田屋毅撮影

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写真:下田屋毅撮影

 そのような現状を伝える一つの手段として、2日目のオープニング・プレナリーが始まる直前に、先住民族の方が中央の通路を小さな列を作って会場中に響き渡るように先住民族の唄を歌い、そしてステージ前に整列し人権侵害について訴える一幕もあった。

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写真:下田屋毅撮影
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写真:下田屋毅撮影

 また様々なセッションにおいて、先住民族の方々が会場から、昨年よりもさらに注目を集めるように企業による人権侵害について発言されていたのが印象的だった。

メガ・スポーツ・イベントに関連する人権侵害

 オリンピック・パラリンピック、FIFAワールドカップなど大きなスポーツイベントにおける人権侵害に関するセッションが開催された。スポーツのイベントに関する人権侵害をこのフォーラムで取り上げるのは、今回が初めてとのこと。近年メガ・スポーツ・イベントは、サプライチェーンや施設建設において、人権への悪い影響を与える活動が強く監視されている。強制的な立退きや居住権の問題は、南アフリカやブラジルにおいては繰り返し発生しているテーマであり、会場の建設とインフラ整備における職場での人権侵害、移民労働者からの搾取、現代の奴隷制の問題など、北京、ソチ、カタールにおいて主要な関心事となっている。IHRB(人権ビジネス研究所)はこのセッションに先駆け、「Striving for Excellence: Mega-Sporting Events and Human Rights」を2015年10月に改訂しメガ・スポーツ・イベントに関連する人権侵害について警鐘を鳴らしている。

 国際労働組合総連合のシャロン・バロウ事務局長は、「メガ・スポーツ・イベントは、それぞれ1回きりの対応でグローバル・ルールがなかった。今後はこれらのメガ・スポーツ・イベントに対応することができるグローバル・ルールを構築すべき」と話し、また、FIFAサッカーワールドカップが2022年に開催されるカタールにおいて、その準備の為の建設現場などにおいて、現在アジアやアフリカからの出稼ぎ労働者が深刻な現代の奴隷制下で強制的に働かされている状況があることも指摘した。またFIFAの体制についても指摘しFIFAの体制を倫理的な団体に再構築することを提案するとともに、「ビジネスと人権に関する指導原則」に則って進めることはもちろん、法制化を進めることについても訴えた。

 経済人コー円卓会議日本委員会事務局長 石田寛氏は、「CRT日本委員会だけではこの大きな問題に立ち向かうことは難しい。IHRBや人権作業部会、そして海外の国際NGOと連携をして取り組みをしていきたい。また、IHRBとともに東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に人権声明を手渡した。東京オリンピック・パラリンピック2020大会まであと5年しかないが、協働し解決策を探していきたい。」と述べた。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、大会準備運営局長杉浦久弘氏はこのセッションにおいて「東京オリンピック・パラリンピック2020大会に向けた準備を2015年夏より開始し、持続可能な調達基準については、IOCの基準に則り行っており、ロンドンオリンピック、パラリンピックの知識、経験を参考として日本特有の文化と慣習を反映して作成していく。」と述べた。またその上で「幅広く様々な意見を受け入れ参考にしていくのでアドバイスをいただきたい」と述べ人権にも配慮していくことを強調した。

クロージング・プレナリー


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写真:下田屋毅撮影

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写真:下田屋毅撮影
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写真:下田屋毅撮影

 クロージング・プレナリーにおいて、国連ビジネスと人権作業部会議長のマーガレット・ユンク博士は、企業の事例として米国の非鉄金属大手「アルコア社」の話を紹介した。CEOポール・オニール氏が、災害ゼロのみに焦点を当て、不安全な状況を是正していったところ、作業場の改善が進み災害はほぼゼロとなり、利益率が400%となったということ。その上で、ユンク博士は「この話が指し示しているのは、企業が意志を持っている時には、計り知れない力と企業が改善する能力を発揮できるということである。」と述べ、企業が存続していく為の、企業のモラルと法的義務を遂行する側面とともに企業の恩恵の側面についても継続して伝えていくことを強調した。そして、「全ての国家がビジネスと人権に関する国家行動計画を導入すること」「ビジネスと人権に関する指導原則のより多くの普及」、そして「救済へのアクセスの取り組みの強化」について促した。


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 またノルウェー国務長官のトーン・スコーゲン氏は、同国が国家行動計画を導入した際の経験について「2015年10月12日に国家行動計画を発行した。その開発過程において、我々はとても幅広いステークホルダー、市民社会、企業、労働組合、その他関心のある団体から貴重な意見をいただいた。ステークホルダーとの対話は、この議題を先に進めるのに不可欠で、ステークホルダーとの対話は、我々政府にとって重要なものである。」と述べ、開発段階でのステークホルダーとの対話の重要性を強調した。また、スコーゲン氏は、経済的、社会的及び文化的権利の促進に取り組んでいる人権擁護者の保護を強化する必要についても強調し、さらに国家の責任として人権擁護者の行動を妨げないようにすること、人権擁護者とその他ステークホルダーが意味のある協議を持つことについて、企業の責任において実施する必要があると述べた。

 また会場から先住民族の代表が2014年の第3回ビジネスと人権フォーラムで実施された「先住民族の幹部会議宣言」を再び述べた。そして一年経過した後も何も措置も取られていないことに大きな懸念を表明し実施することを促すとともに、今後開催されるビジネスと人権フォーラムにおいて、先住民族が人権侵害を受けている状況を発信できるように、先住民族がより多く発言の場を確保することができるように提案がなされた。

まとめ

 この第4回国連ビジネスと人権フォーラムの印象としては、引き続き企業による人権侵害が行われている実態があり、さらに現代における奴隷労働の問題もクローズアップされ、企業が自社のサプライチェーン上の人権問題について確認と透明性、そして報告がより求められる状況となっていることが感じられた。また現代奴隷法などの指導原則を基本とした法整備も国別に進められてきているとともに、人権に対する取締役やシニアマネジメントのコミットメントについても要求されてきている。

 企業に関わる人権は、多くの問題が発生しており、日本企業も例外ではない。現段階では、企業内部において、人事、CSR部門、調達部門がそれぞれの業務の中で人権課題に対応していると思われるが、それぞれの部門が共通認識を持ち、より密接に行動すること、さらに企業全体としてトップダウンで実施することが求められている。

 このフォーラムは、登録制だが誰でもが参加できるものだ。次回2016年のフォーラムの日程は2016年11月14日~16日と既に決定している。国家、企業、市民社会それぞれの立場から、指導原則に関する情報収集の場として、また取り組みや意見を発する場として是非次回は足を運び、世界のビジネスに関わる人権の議論に加わり、今後の実践にさらにつなげる機会としていただければと思っている。

【PDFダウンロード】第4回国連ビジネスと人権フォーラム」参加報告~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~
【参考サイト】2015 Forum on Business and Human Rights

著者プロフィール

サステイナビジョン 代表取締役 下田屋毅

(ロンドン在住CSR/サステナビリティ・トレーナー)

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