Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【インタビュー】アンバーアワーが創り出すケニアの雇用。「フェアトレード」を超えた挑戦 2017/02/06 事例を見る

 「フェアトレード」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。公平な貿易、途上国への支援…多くのイメージが、誤解されていたり、曖昧だったりと、実はあまり正確な認識が持たれているとはいえない。日本では、いまだ認知度が低いというのも事実だ。しかしその日本で、開発途上国の発展のために何が必要なのか。その問いを突き詰め、事業を展開している企業がある。アフリカ・ケニアで「サイザル」という植物を素材としたナチュラル雑貨を生産し日本で販売している、アンバーアワーという会社だ。2013年に設立後ケニアで織り工房の運営を開始し、現在では約300人の人々が生産に関わっている。地域の素材と伝統的な技術を活かすことで、特に働く機会の乏しい農村部の女性や高齢者を中心に、自立できる機会の提供を目指している。

 「すべての人に、サイザルによる彩りを」。アンバーアワーのブランド・ステートメントには、一つひとつの単語に、スタッフの方々の深い思いが込められている。アンバーアワーが目指すビジネスとは、そしてこのスローガンに込められた意味とは。今回、アンバーアワー副代表の岡本ひかる氏にインタビューを実施した。


(写真)アンバーアワー岡本ひかる副代表

ビジネスによる「貧困削減」へ

アンバーアワー設立に至った経緯を教えてください。

 大学卒業後、金融業界で数年勤務した後、青年海外協力隊としてガーナで二年間を過ごしました。国連職員になるための試験を受ける予定でしたが、大統領選を控えたガーナの治安が悪化し、なんと試験会場のイギリスへは渡航禁止に。試験を受けることができず進路を考えていたときに、同じ協力隊の仲間から起業の誘いを受けました。自分で事業を起こすことなど考えたこともなかったのですが、初めて訪れたアフリカをもっと深く知り、現地の方々とより密接に関わることができる機会であるところに魅力を感じ、起業することに決めました。人生、本当に何があるかわからないですね。いろいろな偶然が重なって、今があります。

なぜ、ケニアのマチャコスという地域を拠点にされたのですか。

 まず、なぜアフリカかというと、「貧困削減」が遅れている地域だからです。ミレニアム開発目標報告書2015においても、貧困率は開発途上国全体で14%まで下がっているなかで、サブサハラ・アフリカのみ41%と依然として高い水準にあります。貧困削減への貢献をビジョンとする上では、最もやりがいのある地域だと考えています。

 次に、なぜケニアかというと、インフラや法整備の観点からビジネスのしやすい環境だと考えたからです。ケニアでは、道路や港湾、通信環境などのインフラや法制度の整備が同地域の国々の中でも進んでおり、日系企業を含め様々な企業が既にビジネスを展開していました。

 また、雇用創出を目的とする上で、雇用機会や収入向上へのモチベーションが高い地域でないと現実的に事業運営が難しい面があります。実際にケニアに足を運んでみたところ、働く意欲が高く、その意欲を活かす場を欲している人が多いと感じました。更に、近年は子供への教育熱の高まりが見られます。つまり、母親の雇用機会が子供たちの教育機会や生活環境の改善に直結するため、働く機会の創出を安心して行うことができる環境であるとも言えます。

 最後に、なぜマチャコスかというと、サイザルという素材や長年培われてきた伝統的な技術に注目したからです。現地の素材と既存の手工芸技術をベースに、日本からの技術移転を進めることで、その地域ならではの新たな商品開発が可能ではないかと考えました。また、以前は盛んだった手工芸も、中国製のプラスチック製品の普及や若者を中心としたサイザル離れもあり、徐々に衰退しています。そうした背景からも、母から娘へ代々継承されてきた技術を守りつつ、サイザル産業をもう一度盛り上げたいと考えています。

貧困削減へのアプローチは、国際機関やNGOなどを含め様々ですが、なぜ「ビジネス」という道を選ばれたのでしょうか。

 NGO・NPO団体の中には素晴らしい活動をされている団体が多くあります。ただし、残念ながら長年の活動で誤った認識が広まっていて、NGO・NPO団体を名乗ると現地の人々が援助を受ける感覚、つまり受け身の甘えた姿勢になりがちです。ビジネスとして関わる場合は双方に利益がでなければならないため、対等な立場で話し合い、お互いに切磋琢磨する環境を作りやすいと考えました。

 またビジネスの場合は、プロジェクトの命運が生産者の生活だけではなく、企業側自身の利益や存続にも直結します。何としても利益を上げ、プロジェクトを継続させなければいけないというプレッシャーが、常に自分自身に厳しくい続ける意識につながっています。

 これは私個人の考え方ですが、NGOの最終目標は事業の対象者が減り、事業がなくなること。つまり、現地の状況が改善し、課題とするテーマに対して手助けを必要とされなくなることが目標です。一方で、企業の最終目標は、その事業をより長くより広く拡大していくこと。安定的な雇用を生み出し、さらに対象者を増やして、事業を継続・拡大していくことを目指します。

 「貧困削減」という目標を踏まえると、現地の人たちに安定した収入をもたらし自立を促すためには、ビジネスという形態が最も適していると考え、この道を選択しました。

現地での生産活動について

生産現場では、具体的にどのような活動が行われていますか。

 私は生産部と商品開発を担当していますが、一年のうち3ヶ月から6ヶ月はケニアで生活し、現地のスタッフや生産者の皆さんの声を聴きながら様々な試行錯誤を続けています。

 生産現場の肝となるのが「仕組みづくり」。村で生産されている糸の買い取り価格、頻度、基準など、すべて一から土台を作り上げなければいけません。例えば、品質によって価格を変えるのか、変えるのであれば品質向上に向けたスキルアップに必要な教育は誰がどのように行うのか。詳細な規定を設け、必要に応じて修正・追加していきます。企業の利益につながりながらも現地の文化に反さないルールづくりを目指しています。

 生産者のトレーニングも行っています。すべての人に働く機会を提供する、ということは、学歴やスキルもバラバラな人たちが集まることを意味します。各自の役割やスキルに合わせて、レポート作成から織り技術まで幅広く生産者のトレーニングを実施しています。

 そして、商品開発。デザインやカラーバリエーション、混ぜ合わせる染料の比率まで、あらゆる開発を自社で行っています。新たな企画の提案と品質基準の設定を繰り返し、バラエティ豊かな商品展開を実現しています。

長期的な生産体制をつくるために、どのような取り組みをされていますか。

 当社は、現地に直営工房を所有しています。ケニアのサイザルを使用したバスケットを輸入・販売している企業は他にもあり、多くは買い取りという形式をとっています。しかし買い取りの場合は、品質向上のための指導がない、管理も年数回の査定のみ、といったケースが少なくなく、現地の長期的な成長は見込めません。

 当社は直営工房を持つことで、オリジナル商品の開発や就業者個人の成長を実現しています。徹底した品質基準を設け常にフィードバックを伝えることで、個人の技術が上がり、ものづくりに対してのモチベーションや自信も生まれています。例年、生産スタッフにその年の目標を聞くのですが、以前は賃金アップの願いのみだったのに対し、今年は「品質を上げたい」という答えが返ってきて本当に嬉しかったです。

 少量多品種のものづくりが可能であるため、豊富なカラーやデザインバリエーションに挑戦しています。今は生産者の方々のサンプルや意見を聞きながら私がすべて決めていますが、いずれは彼女たちが発信するデザインも増やすことができればと願っています。

 実は、サイザル雑貨を従来のかご織りだけに頼らず、専用の機織り機を使って生産するようになったのは、ケニアでは当社が初めてです。織りや縫製の専門家の方々を現地にボランティアとしてお呼びしスタッフのトレーニングを実施したり、私自身も独学で技術を学びそれを伝授したりと、試行錯誤を重ね、オリジナルのサイザル織り生地とそれを活用したバッグや小物の開発を続けています。

 織り機の導入により、従来の方法で課題であった生産性の向上や商品バラエティの拡大が改善されつつあるので、この方向に進むことがケニアのサイザル産業の発展につながると考えています。

フェアトレード事業として、「適正な価格」はどのように決定されているのでしょうか。

 確かに適正な価格設定はとても難しく、いつも頭を悩ませています。現地基準から大きく外れないことを大前提に、お互いが納得感をもてるよう、勤務時間や商品の表面積などを数値化し、基準を示して価格を決定するようにしています。何より継続的な収入につなげるためにも、一回に高額で買うのではなく、現地の基準価格であっても長期に買い続けることにこそ意味があると感じます。でも毎回、「外国人なのにケチ」と言われています。そのくらいがちょうどいいのかもしれません(笑)。

実際に、現地の生活環境は改善しているのでしょうか。どのようなときに事業の成果を実感されますか。

 当社と提携して働く女性の多くが、「子どもを学校に通わせることができるようになった」と話しています。ケニアでは子供への教育熱が高いのですが、教育費を支払うためには継続的な収入が必要です。母親たちが安定的な給与を得る仕組みを提供することによって、次世代の雇用にもつながっているのです。また、男尊女卑の文化が依然強いケニアで、女性が働き子どもの教育費を出すことで、家庭内の女性の地位向上にもつながることも願っています。

「フェアトレード」を押し出さない企業理念

アンバーアワーの商品はフェアトレードであるにも関わらず、認証ラベルを付けていないそうですね。なぜでしょうか?

 本来、どの会社もフェアトレードでなければならないと考えています。「フェアトレードの会社である」という宣言は、「搾取していません」「正直者です」と言っているようなもので、本来当たり前であるべきなのです。当社はフェアトレードであることを大前提とし、その上で、フェアトレードという概念を隅に置いても買ってもらえる商品、すなわちそのものの機能性やデザインに魅力を感じて使ってもらえるような商品を販売したいと考えています。

 ただし、「人」を中心とした理念を掲げることで一般的な企業と戦略や選択肢が異なることがあるのも事実です。例えば、雇用機会を奪ってしまい、限られた人しかアクセスできない機械化は行わないこと。すべての人に雇用機会を提供するという企業理念の根幹を守るのは時に面倒を伴いますが、それでも守ることに価値があると信じています。

フェアトレードの「フェア」は、何を意味するのでしょうか。

 FLO(フェアトレードラベル認証機構)によると、フェアトレードの定義は「対話、透明性、敬意を基盤とし、より公平な条件下で国際貿易を行うことを目指す貿易パートナーシップ」のことです。この中でも特に、「対話」の重要性を実感しています。

 ケニアで活動していると、特に農村部で外国人に対する警戒心を目の当たりにすることがよくありますが、それにはちゃんとした理由があります。例えば、当社のバスケット作りを担当しているある女性グループは以前、外国の団体から注文を受け1,000個以上のバスケットを作ったものの、説明もなく一方的にキャンセルされ、在庫のみが残るという辛い経験をしました。

 このように、プロジェクトの途中で企業や団体が「いなくなってしまう」というケースは、実は非常に多くあります。信頼関係を構築するためには、自分の立場が悪い時も正直に話し、業績悪化の状況や理由をしっかり説明することが大切です。援助をしたり、友達になったりするのではなく、あくまでビジネスとして “give-and-take”の関係を保ち、みんなで共により良い商品を作っていくことが私たちの考える「フェア」です。

「すべての人に、サイザルによる彩りを」。このスローガンには、どのような思いが込められていますか。

 「すべての人」には、生産者も消費者も、文字通りすべての人が含まれています。生産者であるケニアの人たちに長期的な雇用機会を提供することが、アンバーアワーのビジョンです。でも、それだけではありません。日本のお客様に、色鮮やかなものを身につけてもらいたい、自分に似合う色を発見してもらいたい。そんな思いも込められています。もともとナチュラル思考でなくても、フェアトレードへの強い関心がなかったとしても、当社の商品との出会いによって生活の癒しや楽しみを見つけてもらえたら、本当に嬉しく思います。

 貧困削減の方法は様々です。多くのアプローチがある中で、偶然「サイザル」というリソース、ケニアの人々との出会いがあり、今につながっている。当社はこのサイザルを活かして、これからもより多くの人たちに彩りのある生活を提供できたら、と考えています。

今後はどのような事業展開を目指されているのでしょうか。

 今後は当社の強みである「織り」の技術を活かし、オリジナル製品の販売を拡大していきたいと考えています。また、「フェアトレードだから」、「ケニアで生産されたバスケットだから」といった理由ではなく、「アンバーアワーの商品だから」選んでもらえるよう、ブランドとしての認知を上げていけたらと思います。

インタビューを終えて

 取材中、岡本氏は一貫して、フェアトレードにこだわらないというビジネスの立場を貫いた話をしてくださった。「途上国の貧困を削減する」という目標は、知らず知らず「助けてあげたい」と上から目線になってしまいがちである。しかし、岡本氏は常に客観的に自分自身を捉えている。対等な目線で、一方で雇用者として、ケニアの人たちと真摯に向き合う姿勢が印象的だった。
本来はクリエイティブな仕事より、マッチングの仕事が向いているという岡本氏。日本の伝統工芸との融合や、フェアトレードを推進する国内外の企業との提携も目指しているそうだ。本来のフェアトレードのあるべき姿を、はっきりと見せてもらったように思う。

(株)アンバーアワーの公式ホームページ:http://www.amberhour.com/

著者プロフィール

戸張 美紅

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所 研究員

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る