世界の発電供給量割合
この図は、国際エネルギー機関(IEA)が公表している最新データベース「Energy Statistics Data Browser」の2023年更新データをもとに、2021年のデータをまとめたもの。各国の状況を横並びで比較することができる。
(出所)IEA “Energy Statistics Data Browser”をもとにニューラル作成
世界全体の発電手法の割合の変化
| 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
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石炭 | 38.5% | 38.0% | 36.8% | 35.2% | 35.9% |
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石油 | 3.3% | 2.9% | 2.7% | 2.5% | 2.5% |
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天然ガス | 22.9% | 23.1% | 23.4% | 23.6% | 23.0% |
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バイオマス | 1.8% | 1.9% | 2.0% | 2.1% | 2.2% |
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廃棄物 | 0.4% | 0.4% | 0.4% | 0.4% | 0.4% |
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原子力 | 10.2% | 10.1% | 10.3% | 10.0% | 9.8% |
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水力 | 16.2% | 16.1% | 16.1% | 16.6% | 15.5% |
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太陽光 | 1.7% | 2.1% | 2.5% | 3.1% | 3.6% |
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風力 | 4.4% | 4.8% | 5.3% | 6.0% | 6.5% |
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その他 | 0.1% | 0.2% | 0.2% | 0.1% | 0.1% |
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地熱 | 0.3% | 0.3% | 0.3% | 0.4% | 0.3% |
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太陽熱 | 0.0% | 0.0% | 0.1% | 0.1% | 0.1% |
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潮力 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
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(出所)IEA “Energy Statistics Data Browser”をもとにニューラル作成
世界の発電総量割合を2020年と2021年で比較すると、増加したものは石炭が0.7ポイント、風力と太陽光が0.5ポイントであり、減少したものは水力が1.1ポイント、天然ガスが0.6ポイントであり、それ以外はほぼ横ばいだった。
北米:資源が豊富で選択肢が幅広い
経済大国米国、そしてカナダ。両国は電力消費量が「一流」なだけではなく、発電量も「一流」だ。世界の発電量のうち、米国だけで約15%、カナダを合わせて約18%を占めている。北米は化石燃料が豊富な地域。2021年時点のIEAのデータでは、石炭生産量は米国が世界第4位。石油生産量は米国が1位で、カナダが4位。天然ガス生産量も米国が1位で、カナダが5位。北米では、シェールガスやシェールオイルの大規模な採掘が行われていたが、近年は新型コロナウイルス・パンデミックによる需要の減少や世界的な物価高、人件費の高騰等によるコスト上昇により事業から撤退する企業も増加している。
広大な大地を要する両国は、水力発電用地にも恵まれ、2023年の水力発電設備容量は米国が世界第3位、カナダが4位。また、科学技術力の高い両国は原子力発電にも積極的で2022年1月時点で原子力発電設備容量は米国が世界1位、カナダが6位だ。
(出所)IEA “Electricity generation by source, United States, 1990-2022”
資源が豊富な米国だが、再生可能エネルギーの導入も着実に進んでいる。2021年は水力を除く再生可能エネルギーで12.6%、水力を含めると18.9%。米国は連邦政府レベルでは依然再生可能エネルギーのシェア目標(英語でRenewable Portfolio Standard。RPSが略称)は設定していないが、州政府は自主的にRPSの設定を行っており、2022年11月時点で36を超える州政府が公式に目標数値を発表している。その中で特に有名なのはカリフォルニア州が掲げた2045年までに100%(水力発電含む・原子力は実質含まない)という目標。同州は、「2020年までに33%」という目標を2019年に2年前倒しで達成している。
またバイデン政権は、パリ協定に再加盟し、2021年には135兆円規模のインフラ投資・雇用法案を可決させ、再生可能エネルギーの普及や石油・天然ガスのパイプラインの建設に反対する立場を示した。1.5度目標達成に向けた取り組みを積極的に進めているが、エネルギーミックス上の化石燃料比率は依然として高く、反ESG政治運動からの訴訟が複数始まる等、政治的な分断が巨大な社会・経済リスクになっている。
西欧:再生可能エネルギーを中心に推進、原子力は対応分かれる
西欧諸国は国毎に原子力発電に対する考え方が大きく分かれているのが特徴。イタリアは従来から原子力発電所を使用しない方針を堅持しており、現在も原子力発電所での発電はゼロ、フランスからの電力輸入で電力消費量の十数%を調達する道を選んできた。東日本大震災後には、ドイツ、ベルギー、スイスが原子力発電所を期限を決めて全廃する方針を決定。スペインもその流れに追随し、原発の新設中止を決めた。世界有数の原子力大国であったフランスでも原子力発電に対する考え方が大きく後退した。
ドイツは2023年4月、最後まで稼働していた原子力発電所の稼働が停止し脱原子力を実現。マクロン政権では原子力依存度を大幅に下げる政策を展開した。
原子力を放棄した西欧諸国の発電量を支えたのは、ロシア産天然ガス。ヨーロッパにはロシア産天然ガスを輸送するためパイプラインが縦横無尽に張り巡らされている。この天然ガスによる火力発電がヨーロッパにとっての安定的なエネルギー供給源となってきた。
ところが、政治的リスクからロシア産天然ガスに依存できない状況が到来した。ウクライナ情勢が不安定化する2000年代から、政治的に対立しやすいロシアに対しエネルギー源を大きく依存することは得策ではないという政治的な判断が発生した。
(出所)欧州理事会「Moving away from Russian gas」
実際にロシアのウクライナ侵攻以来、ロシアからEUへのガス輸入は大幅に減少した。EUがロシアから輸入するパイプライン経由の天然ガスの比率は2021年には40%以上を占めていたが、2023年には8%に減少。そして再生可能エネルギーの導入を推進した。
背景に、欧州委員会が2023年3月に発表した「REPowerEU」がある。「REPowerEU」は、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、欧州の化石燃料調達で、ロシア依存度を2030年よりかなり前にゼロにする計画のこと。その中で、再生可能エネルギー割合の目標を「Fit for 55」で示されていた40%から45%に引き上げた。
【参考】【EU】欧州委、REPowerEU採択。ロシア産天然ガス依存度低下へ28兆円。原発も言及(2022年5月20日)
【参考】【EU】EU-ETSのEUA価格が史上初の100ユーロ超え。REPowerEU政策は立法府で成立(2023年2月23日)
【参考】【EU】EU理事会と欧州議会、再エネ指令改正で政治的合意。イエロー水素は2級品扱い(2023年3月31日)
西欧諸国は世界の中で再生可能エネルギーを最も推進している地域と言える。政府は再生可能エネルギーの導入を推進する制度整備を行い、メガソーラーや大規模洋上風力発電所等への積極的に投資を呼び込んだ。結果、スペインは太陽光・太陽熱・風力を合わせて33%、イタリアも太陽光・風力を合わせて16%、工業国ドイツも太陽光・風力合わせて28%、英国も太陽光・風力で25%を発電している。
欧州で再生可能エネルギーが推進されている理由は政策の影響が大きい。欧州委員会は2019年12月、EUの新たな環境・経済・金融政策「EUグリーンディール政策」を発表。EUとして高い環境基準をルール化することで、投資促進と経済競争力、雇用創出の3点を強化することを目的とした。8つの環境政策分野と金融分野、合計9つの政策骨子から成り立っている。
【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)
2021年5月には、欧州気候法が成立。2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比55%以上削減する目標を策定した。さらに、欧州委員会は2021年7月、同目標を実現するための包括的な気候変動政策パッケージ「Fit for 55」を採択。 エネルギー、二酸化炭素排出量取引制度(ETS)、土地利用、交通、税制等での新ルールの方向性が盛り込まれた。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ戦争では、天然ガス供給の安定性に大きな課題を突きつけられることとなり、化石燃料からの脱却を加速させることで政策一致が進んだ。その結果、各政策に関して議論が進められ、現在までにFit for 55関連で立案されたEU法はほぼすべて成立している。
【参考】【EU】欧州委、包括的気候産業規制「Fit for 55」採択。国境炭素税も盛り込む。大企業賛同(2021年7月15日)
また、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリア、スイスの7政府は2023年12月、2035年までに相互接続された電力系統をカーボンニュートラル化することを宣言する共同声明を発表。英国では2023年10月、エネルギー新法「エネルギー法2023」が成立した。エネルギー安全保障やエネルギー価格高騰に苦しむ中、英政府として、クリーンエネルギー促進や送配電網の強化に関する基本的な方向性を定めた。
特殊な事情にあるのは資源保有国であるドイツと英国。ドイツは世界11位の石炭生産国、英国には北海油田・ガス田がある。その結果、ドイツは石炭での発電割合が21%、英国は天然ガス(ロシア産ではなく自国産)の割合が40%と高い。ところが、その英国も北海油田には依存できない状態が到来している。
(出所)IEA「 “United Kingdom”」
英国の石油・天然ガス生産量は、2000年頃から急減。北海油田が成熟化し採掘コストが増加したことが理由だ。英国は2004年に石油・天然ガスの純輸入国になり、2013年には石油製品も含めた純輸入国へ転換した。それでも天然ガスはロシア産は購入せず、90%以上をカタールからの輸入LNGで賄っている。この状況下で、英国は自前のエネルギー源を確保するため、北海地域で天然ガスやシェールガスの開発を積極化しているが、一方で大規模洋上風力発電にも活路を見出そうとしている。
(出所)IEA「 United Kingdom」
北欧:水力シェアが高い
(出所)IEA “Electricity consumption per capita, global ranking, 2021″をもとにニューラル作成
デンマークを除く北欧地域は一人当たりの電力消費量が高い地域。北極圏に近い寒冷地域のため、暖房での電力消費量が多いためだ。アイスランドは世界1位、ノルウェーが2位、フィンランドが5位。同様のことは同じ北緯にあるカナダや、アルプス山脈地帯であるスイスにも言える。
燃費の悪い地域にはもう一つの特長がある。自然に恵まれた環境であるため、水力発電が盛んだ。水力発電の割合は、アイスランドが70.5%、ノルウェーが92.1%、スウェーデンが42.3%、フィンランドが22.1%。同じく地理的環境が似ているカナダは59.2%、スイスは60.9%。
原子力発電所については北欧でも対応が分かれている。水力発電だけで電力をほぼ100%賄っているノルウェー、アイスランド、デンマークは当初から原子力発電はゼロ。スウェーデンでは2021年のエネルギーミックスで30.8%を原子力発電に依存しており、2023年11月には原子力発電所の新設に向けたロードマップを公表した。2045年までに原子力発電所を10基新設する方針を打ち出した。フィンランドでは電力の32.7%を原子力発電で賄っており、今後も継続していく方針。
(出所)IEA「Energy Statistics Data Browser:Denmark」
北欧は西欧と並んで再生可能エネルギー意欲の高い地域。地理的制約により水力発電が適さないデンマークは従来ロシアから輸入した石炭で火力発電していた。しかし、ロシア依存度の引き下げと気候変動への対応のため、石炭での火力発電を大幅に減少させてきた。火力発電の代替手段として洋上風力による発電量を増加させている。2021年には風力発電だけで48.6%を賄っており、世界の風力発電大国に変貌を遂げた。
スウェーデンとフィンランドでは風力とバイオマスに力を入れており、2つを足したシェアはスウェーデンで22.4%、フィンランドで29.8%に達する。また、ホットプルームという特殊な地理的環境に恵まれたアイスランドは、地熱発電で29.6%の発電を行っており、水力と地熱だけで100%の発電シェアを誇る。
興味深いのはノルウェー。ノルウェーは英国と同様に北海地区に油田・ガス田を有する資源大国であり、天然ガスの生産量は世界第7位。一方で、水力発電が強く、石炭・石油・天然ガスを合わせた火力発電合計の割合はわずか0.6%。ノルウェーは石油・天然ガスの多くを輸出しており、その半分は英国に輸出されている。
アジア・太平洋:火力発電への依存から再エネ・原子力のシェア拡大へ
アジアは非常に火力発電割合の高い地域だ。石炭生産量世界第1位の中国、同2位のインド、同3位のインドネシアは石炭での火力発電が主力。天然ガス生産量世界第3位のサウジアラビア、同8位のイラン、同じく産油国であるエジプトやマレーシアでは、天然ガスと石油が主力となっている。
一方、日本、韓国、台湾、タイといった資源非保有国は輸入石炭や輸入天然ガスによる火力発電が主流。特に、地理的環境や経済構造が日本と近い韓国や台湾では、かつての日本と同様、原子力発電によって自前のエネルギー源を確保する政策を採用していた。
しかし、台湾は2017年に2025年までに原子力発電を全廃することを決定。その後、2018年11月に実施された住民投票で反対多数となり、2025年までに全廃するという期限目標は削除された。
また、韓国も2017年の文在寅政権となってから、脱原発・脱石炭へと舵を切った。しかし、2022年の尹錫悦政権では脱原発政策を転換し、原子力発電をエネルギー政策の重要な柱の一つと位置付けている。
経済成長著しい中国とインドは今後、大気汚染に苦しむ石炭火力発電の割合を大きく引下げ、太陽光発電と風力発電を大規模に展開していく計画となっている。
(出所) IRENA
インドネシアとフィリピンは地熱発電が特徴。インドネシアにおける地熱発電設備容量は2023年時点で世界2位、フィリピンは3位。両国は環太平洋造山帯に立地する地の利を活かし、地熱発電の割合はインドネシアは5.2%、フィリピンは10.1%となっている。両国が地熱発電に踏み切った背景には、原子力発電計画の廃止がある。海外の金融機関や商社が地熱発電プロジェクトに大規模に出資し、開発を展開している。
フィリピンでは、もともと1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、1986年に発足したアキノ政権によって同発電所の安全性および経済性が疑問視され、運転認可が見送られた。その後、地熱発電に舵を切ったが、2019年に策定したフィリピンエネルギー計画(PEP2020-2040)で2035年までに原子力発電を導入することを表明。2024年2月に原子力エネルギー委員会を設立し、具体的な検討が進められている。
また、インドネシアでも、一時検討されていた原子力発電所計画が、福島第一原子力発電所事故を契機に頓挫し、大規模な地熱発電の拡大計画を政府が打ち出すに至った。インドネシア政府は2021年10月、フィリピンと同様に2060年カーボンニュートラル目標達成に向けたロードマップを発表しており、2060年までに35GWの導入を検討する方針とした。
オセアニアの大国、オーストラリアも資源大国。2021年の石炭生産量は世界第5位、石油・天然ガスも生産している。そのため、石炭・石油・天然ガスからの発電量の割合は73.3%と他を圧倒している。人口当たりの温室効果ガス排出量が世界一とも言われるオーストラリアが排出量を減らすため、2006年に原子力発電の導入に踏み切ろうとしたが、国民からの支持を得られず計画は頓挫。気候変動対策も迫られるオーストラリア政府は、太陽光・風力発電の割合を徐々に高めている。
(出所)「 IEA:Australia」
その他新興国
ロシア、南アフリカ、メキシコは、自国の資源を活用した火力発電に大きく依存。ロシアは天然ガス生産量世界第2位、石炭生産量6位。南アフリカは石炭生産量第7位、メキシコは天然ガス産出国。また、メキシコは地熱発電量世界第6位でもあり、今後は地熱発電プロジェクトへの投資も増えていく見込み。
ブラジルも国内で石炭や石油を生産している国だが、火力発電の割合は高くはなく、電力の55%を水力発電で調達している。世界最大の砂糖の生産・輸出国であるブラジルは、バイオエタノールによるバイオマス発電の割合が8.5%と高いことも特徴であり、バイオマスでの再生可能エネルギー導入が進んでいる。
バイオ燃料はブラジル、米国、インドを中心に活用が進んでいる。IEAは2023年7月、G20エネルギー転換相会合の場で、米国、ブラジル、インドのバイオ燃料政策に関する報告書を発表し、2050年のカーボンニュートラル実現のためには、2030年までに世界の持続可能なバイオ燃料の生産量を3倍にする必要があると発表した。その後2023年9月、インド政府が主導し、持続可能なバイオ燃料の利用を強化することを目的とする「世界バイオ燃料同盟(GBA)」の発足を発表した。