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【環境】化学物質PFASとは何か? 〜マクドナルドやアマゾンが使用禁止を決めた背景やPFOAとの違い〜

【環境】化学物質PFASとは何か? 〜マクドナルドやアマゾンが使用禁止を決めた背景やPFOAとの違い〜 1

 ファーストフード世界大手米マクドナルドは1月13日、2025年までに全ての包装・容器からPFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を全廃すると発表。また、アマゾンも12月1日、自社ブランド「Amazon Kichen」の食品製品の包装・容器で同じくPFASの使用を禁止した。今回、近年、大きく注目されているPFASについて見ていこう。

 PFASは、1940年代頃から普及していった化学物質で、水や油をはじく、熱に強い、薬品に強い、光を吸収しない等の特性を持ち、撥水剤、表面処理剤、乳化剤、消火剤、コーティング剤等に幅広く用いられてきている。PFASは「PFC(パーフルオロ化合物)」の名称で呼ばれることも多い。PFASは、実際には数多くの化学物質の総称で、2018年に経済協力開発機構(OECD)の報告書は、PFASには4,730種類以上があると報告している。特に有名なのは、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の2つ。

 PFASは、英語で「Forever Chemicals(永久に残る化学物質)」とも呼ばれ、自然界や体内で分解されにくく、一度生成されると蓄積されやすい。その理由は、PFASを構成する炭素とフッ素の結合が、有機化学で作りだせる結合の中で最も強力なものの一つであることに由来している。但し、実際に永久に残るわけではなく、半減期が常用されている化学物質の中では4.5年と非常に長いため、この名前が付いている。そして、PFASは、各々種類に応じて半減期は異なり、例えばPFOAは約5年、PFOSは2年から3年だ。しかし、ハーバード大学公衆衛生大学院のジョセフ・アレン准教授が2018年にワシントン・ポスト紙に投稿したOp-edの中で、警鐘を鳴らすために「Forever Chemicals」の言葉を用いたことで一気に広まった。同准教授は、「Forever Chemicals」の頭文字略称「FC」が、「フッ素(F)-炭素(C)結合」と一致することからも「Forever Chemicals」のネーミングを持ち出した。

 PFASの人体への侵入経路としては、水と食品。水に関しては水道水からの侵入。食品については農作物栽培での土壌からの侵入や、食品の包装・容器から侵入するの双方がある。食品からの暴露量では、欧州食品安全機関(EFSA)が2018年に発表した調査報告書によると、PFOAでは、乳及び乳製品」「飲料水」「魚及びその他の海産物」の摂取で、PFOSでは、「魚及びその他の海産物」「肉及び肉製品」「卵及び卵製品」の摂取で食事暴露量が高いことがわかった。

 PFASの健康への悪影響では、同じく欧州食品安全機関(EFSA)の報告書によると、PFOAは血清総コレステロールの増加、PFOSは成人の血清総コレステロールの増加や子供のワクチン接種での抗体反応の低下が特定された。血清総コレステロールの増加は、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、甲状腺機能低下症、肥満他につながる。他にも、PFOAとPFOSの双方で、出生時体重の減少、PFOAで、肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の高血清値の有病率の増加について、リスクがあると判定されている。

規制動向

PFOS

 PFASの中でも、特にPFOSに関しては、2000年頃から規制の導入が行われてきた。PFOSは、分解しづらい特性によるリスクを環境NGO等が早くから叫び、2000年には大手メーカーだった3Mが、野生生物中にPFOSが高濃度で蓄積されていることを認め、2002年に自主的に製造を中止。2002年には経済協力開発機構(OECD)が環境と健康の双方の観点から調査報告書をまとめているが、まだ初期調査として大々的な使用禁止に議論には至らなかった。

 しかし米国では、2002年の3Mの自主的中止に端を発し、米環境保護庁が2002年にPFOSを「重要新規利用規則(SNUR)」の対象物質に指定し、製造、輸入の許可制を導入。さらに2006年、米環境保護庁(EPA)とPFOS生産大手8社との間で、自発的な合意が成立し、2000年比で2010年までに95%減、2015年までに全廃が決まった。

 EUでも対応は早く、2006年に、PFOS使用製品上市禁止指令が制定され、EU域内での販売、輸入、使用の禁止が決まった。しかし、この時点では、使用禁止の対象は、製品及び半製品のみで、フォトリソグラフィー、硬質クロムメッキ用ミスト抑制剤、航空用油圧作動油等の材料としては禁止されなかった。

 そして議論の舞台は徐々に、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)に移っていく。2005年にはスウェーデン政府からPOPs条約に対し、同条約野規制対象物質に追加することを提案。2009年のPOPs条約の第4回締約国会議(COP4)で、PFOSは同条約の附属書B(製造・使用、輸出入の制限)に追加することが決定した。

 この流れを受け、EUでは2009年にPFOSをREACH規則の対象とし、全ての使用を事実上禁止。日本でも2010年4月1日に化審法の第一種特定化学物質に指定され、製造および輸入が許可制となったことで、事実上全廃された。その後も、半導体用のレジストの製造等では、例外的に使用が認められていたが、2017年の法改正で例外用途も含めて全廃が決まった。

 しかし、工業製品等での使用禁止を決めても、自然界で残留しているPFOSについては、水道水含有等の問題が続いている。

PFOA及びその他のPFAS

国際

 PFOAに関しては、2017年に、世界保健機構(WHO)外部組織の国際がん研究機関(IARC)が「グループ2B(発がん性のおそれがある物質)」として分類。2019年に、POPs条約の第9回締約国会議(COP9)で、同条約の附属書A(製造・使用、輸出入の禁止)リストに追加することが決定した。

EU

 EFSAは、2008年にPFOSとPFOAのリスク評価を実施し、2012年には詳細な食事暴露評価を行っている。そして2018年に前述の調査報告書が発表され、現在の食品からのPFOSとPFOAの体内摂取量が、耐容週間摂取量(TWI)を超過しているとの結論を下した。但し、健康悪影響の度合いを見極めるためには、追加調査が必要としている。また、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)、デンマーク環境保護庁(EPA)が、TWIを導出するのに用いた分析手法に疑問を呈しており、今後、科学的な調査があらためて行われる可能性も高い。

 EUは、PFOAに関しては、2017年6月にREACH規制の制限対象物質リストの附属書XVIIに追加し、使用を制限。2020年7月4日からPFOAを含有する製品製品をEU域内に城市するためには、同規則での使用制限遵守が義務付けられている。

 またEUでは欧州委員会が2018年2月に、水の公衆衛生イニシアチブ「Right2Water」の支援のため、飲料水指令(98/83/EC)改正を提案し、2019年12月に欧州議会とEU理事会からの賛同も得た。この中で、水道水のPFAS対策も盛り込んでおり、現在、飲料水指令の改正手続が進められている。

 包装・容器での対策では、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの5ヶ国政府が、PFAS全般の規制検討に向け、広く関係者に、ファクト情報を2020年7月31日までに提出する動きが出ていると、欧州化学品庁(ECHA)が同5月に発表している。ECHAは、2022年までに各国政府がREACH規則案(附属書XVのドシエ)を作成し、欧州委員会から欧州議会とEU理事会に起案しする方向で調整済み。2025年の発効を予定しているという。

米国

 米環境保護庁(EPA)は2016年、飲用水について関し、法的拘束力のない生涯健康勧告値として、PFOS及びPFOAの各々及び合計の濃度を70ng/Lと設定している。

 さらに2018年5月にPFASに関するフォーラムを開催し、政策検討を着手。そして2019年12月に連邦政府で国防権限法が制定され、米軍でのPFAS使用を制限する規制が成立した。米環境保護庁(EPA)は2月14日、ペルフルオロアルキル酸及びポリフルオロアルキル酸(PFAS)を包括的に規制するアクションプランを発表した。

 発表した包括的アクションプランでは、「飲料水」「地下水除染」「法執行」「モニタリング」「研究」「リスク広報」の6つの分野を政策項目とし飲料水では、2019年末までに水質調査にPFOAとPFOSの含有上限量を設ける具体案を検討。地下水除染を行うことも決めた。EPAはその後、安全飲料水法と有害物質規制法(TCSA)を改正したPFASの規制強化や、PFOAのSNUR追加についても検討を進めている。特に民主党が積極的にPFAS規制強化を掲げており、2020年1月には民主党多数派の下院で、PFASアクション法案が通過したが、共和党が多数派を占める上院では、審議が滞っていた。

 そのうち、PFASに含まれる172種類の物質を国防権限法に基づく「有害化学物質排出目録(TRI)」を追加することについては、2019年末の国防権限法の年度予算の中で決定し、2021年7月1日が報告の期限として設定されている。

 また、EPAは2020年12月、非消費財原料に含有するPFASの廃棄処分に関する中間ガイダンスを発表している。

日本

 2019年にPOPs条約で、PFOAが附属書Aに記載されたことを受け、同年から経済産業省・厚生労働省・環境省の合同会合が創設され、PFOSと同じく化審法の第一種特定化学物質に指定する調整を進めている。現在のスケジュールでは、第一種に指定するための政令改正を2021年4月以降に実施し、同10月以降に公布する予定となっている。

 一方、自然界に残留しているPFASについては、農林水産省は、2010年から優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリストにPFOSとPFOAを掲載。厚生労働省も2009年にPFOSとPFOAを水道水の要検討項目としたが、具体的な長らく具体的な目標値設定は避けてきた。しかし、ついに2020年4月、水質管理目標設定項目に位置付けを変更し、暫定目標値をPFOSとPFOAの合算値で50ng/Lと定めた。

 環境省も、PFOSとPFOAを長らく水質環境基準体系における要調査項目に位置付け、調査を続けていたが、2020年5月、要監視項目に位置付け、暫定指針値をPFOSとPFOAの合算値で50ng/Lと定めた。

最近の企業ニュース

 マクドナルドは1月13日、2025年までに全ての包装・容器から全てのPFASを全廃すると発表した。同社は2008年にPFOAとPFOSの双方を全廃することを決定したが、今回は全てのPFASを全廃することを掲げたことが注目を集めた。

 マクドナルドの決定の背景には、米消費者NGOのSafer Chemicals, Healthy Familiesが2020年8月に、マクドナルドの「ビッグマック」と、バーガーキングの「ワッパー」の包装紙から、PFASが検出されたと発表したことが大きな契機となった。この発表では、種類を特定せずに「PFAS」の用語で企業を批判したことで、「PFAS全般が問題」という感覚が社会に広がり、企業には、PFOAやPFOSではなく、PFAS全てを廃止するよう要請される事態となった。

 その後、消費者NGOはマクドナルドに対し、11月に共同書簡を送付し、PFASの使用全廃を要求。それを受け、マクドナルドは今回、2025年までにPFASを全廃する決定を下した。

 アマゾンが12月に行った発表も同様の背景があり、PFOAやPFOSではなく、PFAS全般を使用禁止することを決めた。

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役CEO

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