【インタビュー】小田急電鉄が国内鉄道会社初のグリーンボンド発行 〜事業地域密着型のIRと広報〜 2019/01/30 事例を見る

 関東の大手私鉄の一つ、小田急電鉄が2019年1月、国内鉄道会社初のグリーンボンド発行を決定した。発行額は100億円。年限は3年、利率は0.10%。愛称は「小田急ゆけむりグリーンボンド」で、個人投資家向け。主幹事は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券とみずほ証券。

 グリーンボンドは、環境関連プロジェクトを資金使途とする債券なのだが、小田急電鉄は今回の調達資金を、車両の新造・リニューアル、複々線化事業、ホーム延伸・ホームドアの設置などの駅改修に使うという。これらのプロジェクトが、鉄道会社にとってどのような環境との関連性があるのか。CSR・広報部の須永文雄課長、財務部の石渡智也課長、財務部の阿部俊介氏に話を伺った。


(右)須永文雄 CSR・広報部課長
(中)石渡智也 財務部課長
(左)阿部俊介 財務部資金担当

今回のグリーンボンドの概要は?

石渡智也氏

 当社グループは、運輸業をはじめとして、流通業・不動産業など、さまざまな分野で事業を展開しています。航空機や自動車に比べ二酸化炭素排出量や大気汚染物質の少ない鉄道は、気候変動対応として脚光を浴びるようになってきており、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)でも、鉄道事業は「クリーン輸送(Clean Transportation)」としてグリーンボンド使途としての適格事業に位置付けられています。海外では鉄道事業に関するグリーンボンドの発行事例は多くあります。

 さらに当社では、鉄道事業を運営する上でも、電力消費量を削減するため、消費電力削減効果のある車両の新造及び既存車両のリニューアルを以前から継続的に実施しています。今回のグリーンボンドについても、それらに調達資金の多くを充当する予定です。

車両の新造やリニューアルでどのような環境インパクトが見込めますか?

須永文雄氏

 やや細かい話になりますが、今回資金使途とする車両の新造・リニューアルでは、通勤車両用の「1000形」、特急ロマンスカーとして使っている「EXE(30000形)」と「GSE(70000形)」の3タイプを対象とします。一般的に、鉄道車両は40年程度使用しますが、当社では、15年から20年経過を目途にリニューアルを実施し車両を長く使っています。リニューアルを行うのは、その間の技術進化により省エネルギー性能が向上することも理由の一つです。

 例えば1000形通勤車両は、もともとは1988年に就役しました。その車両を2014年から順次リニューアルを実施し、従来型に比べ体積・重量ともに約80%小型軽量化された新型の「VVVFインバータ制御装置」に切り替えています。それにより消費電力を約40%も削減でき、二酸化炭素排出量も約40%削減できます。2018年9月時点で、196両ある1000形車両のうち、すでに50両がリニューアル済みで、残りの車両のリニューアルも進めています。

 VVVFインバータ制御装置のVVVFとは、可変電圧可変周波数の英語の略でして、交流モーターの電圧と周波数を変化させ、電車の加速度をコントロールする装置です。新型のVVVFインバータでは、熱に強く、スイッチング損失の少ないフルSiC素子を採用したことで、車両のブレーキ時に発電する「回生ブレーキ」の効率が大きく向上し、消費電力を削減することが可能となりました。

 同様に、特急ロマンスカーでも、2018年に就役したGSE(70000形)は、2005年就役のVSE(50000形)に比べ消費電力を約30%削減でき、1980年に就役したLSE(7000形)と比較すると、一編成あたり約80%も削減できます。今回、LSEの2編成をGSEに切り替えました。また、1996年就役の特急ロマンスカーのEXE(30000形)も、リニューアル後のEXEα(30000形)では消費電力と二酸化炭素排出量が約20%減ります。2018年9月時点で、リニューアル前のEXE(30000形)が50両、リニューアル後のEXEα(30000形)が20両という構成です。

 他にも、全密閉式主電動機や低騒音コンプレッサー等を採用することで、走行時の騒音や振動を抑制することができます。

 さらに今回の使途とは直接関係はありませんが、当社では車両の廃車・解体によって発生する廃棄物の金属は、可能な限りリサイクルしています。

残りの使途は?

石渡氏

 輸送需要に対する改善策として以前から取り組んできた線路の複々線化工事が終わり、代々木上原~登戸間約11.7kmの複々線化が完成しました。これに伴い、2018年3月から新しいダイヤによる運行を開始し、輸送力の増強や所要時間の短縮、速達性の向上など抜本的な輸送サービスの改善を実現しました。鉄道輸送の効率化による消費電力の削減や、自動車から鉄道へのシフト効果などにより、二酸化炭素の排出量削減に貢献できるものと考えています。

 また、さらなる輸送サービスの改善に向けて、代々木八幡駅と開成駅ではホーム延伸工事を、代々木八幡駅から梅ヶ丘駅までの6駅ではホームドア設置工事を実施します。ホーム延伸やホームドア設置は、乗客の安全性を向上できるとともに定常運行にも寄与するため、鉄道輸送の魅力を高めることにもつながります。

環境へのインパクトをどのように測定しますか?

石渡氏

 調達資金は、グリーンボンド発行から約2年以内に支出することにしています。また、調達資金の全額が充当されるまで、当社ウェブサイトで毎年、資金充当状況と環境インパクトを報告します。

 資金使途の中で、最も二酸化炭素排出量削減効果を可視化しやすい車両の新造及びリニューアルについては、輸送1km当たりの二酸化炭素排出削減量を中心に、騒音・振動の低減度合いを測定します。線路の複々線化やホーム延伸・ホームドア設置については、平均遅延時間や回数の改善効果、平均混雑率の改善効果や所要時間の短縮効果を公表する予定です。

 これらの環境インパクトを勘案したセカンドオピニオンでは、Sustainalytics(サステイナリティクス)からは、グリーンボンド原則に対し「適合」との評価を、日本格付研究所(JCR)からもグリーン性評価で最も高い「g1」の評価を得ました。

資金使途の中にはすでに実施済のプロジェクトもありますね

石渡氏

 はい。例えば、特急ロマンスカーGSE(70000形)の就役は2018年です。線路の複々線化も2018年3月に完了し、朝のラッシュピーク時における主要駅から新宿までの所要時間が最大10分程度短縮されました。

 ICMAのグリーンボンド原則では、既存のプロジェクトのリファイナンスを使途とすることが認められています。またグリーンボンド原則では、リファイナンスについてはルックバック期間を明確にすることを求めていますが、今回のグリーンボンドでは、ルックバック期間を過去2年間と設定しました。今回、当社のグリーンプロジェクトのうち、すでに資金支出が完了している案件については、その一部を手元資金にて支払ってきました。そのため、当該案件によって減少した手元資金への充当についても、資金使途としております。

調達資金の分別管理の方法は?

石渡氏

 調達資金の充当と管理は財務部が担当し、エクセル等のシステムによってプロジェクトへの充当状況を管理します。未充当資金については、充当までの間、現金または現金同等物として管理します。もし今後充当予定のプロジェクトが中止となった場合には、適格クライテリアに適合する新たなプロジェクトに充当します。

阿部俊介氏

 JCRのグリーンボンド評価は、私が直接担当しましたが、調達資金管理の妥当性や透明性について、厳密なチェックがありました。当社の資金調達や設備投資の状況についてきちんとお伝えしたところ、資金管理面でも最も高い「m1」の評価を、グリーンボンド全体としても最上位である「Green 1」の評価をいただけました。
 

今回のグリーンボンドを個人投資家向けにした背景は?

石渡氏

 今回のグリーンボンドは、当社としては82回目の無担保社債発行となりますが、個人投資家向けの社債発行には以前から力を入れており、今回債で37回目の発行となります。個人向け社債の発行を続けているのは、当社が小田急線沿線の社会や人々との一体感を大切にしているためです。そのため、社債だけでなく株式についても、証券会社にもご協力いただき、沿線を中心とした個人投資家の方々に、幅広くご購入いただきたいと考えております。

 当社の個人の株主や社債購入者の方々には、心理面でも当社のファンになっていただきたいと考えております。ですので、より一層、当社の状況や取組内容を深く知っていただけるよう、駅貼りポスターやパンフレット等で積極的な広報を行っています。今回のグリーンボンド発行でも、当社の環境への取組を知っていただくだけでなく、ご自身の資金が当社のグリーンプロジェクトに充当されることで、当社の環境に配慮した事業の推進及び環境改善に寄与しているという点をご理解・ご実感いただければ幸いです。

小田急電鉄として環境面での次の行き先は?

須永氏

 小田急電鉄本体の車両の省エネへの取組は、技術革新が進めば進むだけ改善の余地があると思いますし、小田急グループの他の鉄道会社やバス会社などでも、二酸化炭素排出量の抑制を図れる余地があるかもしれません。また、運輸業以外でも、不動産業でのグリーンビルディング推進は、今後の大きなテーマになってくると思います。

 電力の電源面でも、2014年から世田谷区の喜多見電車基地内と周辺施設に太陽光発電パネル(発電容量590kW)を設置し、固定価格買取制度(FIT)を活用した売電事業を開始しました。さらに、12ヶ所の駅にも太陽光発電パネルを設置し、鉄道施設での自家消費をしています。

石渡氏

 今回のグリーンボンド発行は、当初こそ財務部から話を切り出しましたが、CSR・広報部との深い連携のもとで進めることができました。正直申し上げて、以前の財務部は環境プロジェクトに対する理解が不足していた面は否めません。ですが、今回のプロジェクトを機にCSR・広報部との距離感が一気に近くなりました。

須永氏

 CSR・広報部でも、これまでステークホルダーに向けたESG情報の発信には課題を感じていました。今回、グリーンボンドの発行を通じて、当社の考えやアクションを多くのステークホルダーに知っていただく良い機会になったと感じています。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役CEO

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