【インタビュー】日本学生支援機構、国内社会的課題に対応の初のソーシャルボンド発行予定〜奨学金制度の状況〜 2018/08/16 事例を見る

 国の奨学金制度の実施機関として知られる独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)。1943年に創立された日本育英会(1953年に大日本育英会から名称変更)を前身とするJASSOは現在、貸与型と給付型の奨学金事業、留学生支援事業、学生生活支援事業の3つの事業を実施しています。

 JASSOは2018年7月6日、貸与奨学金のうち利息付の奨学金「第二種奨学金」を使途とする財投機関債をソーシャルボンドとして9月に300億円発行すると発表しました。日本でのソーシャルボンドは、独立行政法人国際協力機構(JICA)による発行が先行していますが、国内の社会的課題に対応するソーシャルボンドは国内公募債としては初となります。

 ソーシャルボンドとは、社会的課題の解決に資するプロジェクトの資金使途として発行される債券のことです。とりわけ、国際資本市場協会(ICMA)発行のソーシャルボンド原則(SBP)に準拠しているものが正式なソーシャルボンドとして国際的に認知されており、市場慣行としてSBPへの準拠を第三者が保証するセカンドオピニオンの取得も求められています。SBPは、低所得者層や社会的弱者に対する教育へのアクセス支援をソーシャルボンドに適格性のあるプロジェクトの一つと位置づけており、奨学金や低所得者向け教育ローンの原資をソーシャルボンドで調達するという動きは国際的にも広がっています。

 日本では国内における社会的課題に対応するソーシャルボンド第1号、もちろん教育分野を使途とするソーシャルボンドとしても発行第1号となるJASSOの財務部に話を伺いました。

jasso
(中)皆川秀徳 財務部長
(左)有馬慶晋 財務部資金管理課長
(右)小松純子 財務部資金管理課課長補佐

はじめに日本学生支援機構の概要を教えてください

小松純子氏

 まず、私からJASSOの活動についてご説明いたします。JASSOは日本学生支援機構法に基づき設置されている独立行政法人です。業務には、奨学金事業、留学生支援事業、学生生活支援事業の3つがあります。2018年度の予算は1兆838億円。そのうち奨学金事業は全体の98.1%を占める1兆628億円となっており、予算別では奨学金事業が非常に大きな割合を占めています。

 奨学金制度には、無利息の「第一種奨学金」、利息付の「第二種奨学金」、2017年度から開始した給付奨学金の3つがあります。第一種奨学金は1943年度、大日本育英会の発足時にスタートした最も古くからあるものです。第二種奨学金は1984年度から開始し、短大、大学、大学院、高等専門学校の4・5年生、専修学校の専門課程に在学する幅広い学生・生徒を対象とし、第一種奨学金よりも緩やかな採用基準を設定しています。2004年度からは法科大学院生や海外留学希望者も対象となりました。一番新しい給付奨学金は、開始初年度の2017年度は対象者を2,800人としましたが、2018年度は2万人に増やし本格実施をスタートさせました。

日本の奨学金の状況はどのようになっていますか?

皆川秀徳氏

 2016年度では、短大、大学、大学院、高等専門学校、専修学校専門課程の学生等のうち、2.7人に1人が、JASSOの貸与奨学金を利用しています。比率にすると37.7%と高く、日本最大の人材育成のインフラになっていると言っても過言ではない状況です。奨学金貸与者の割合は10年前の2006年度では27.1%でしたので、貸与割合は約1.4倍に増えていることになります。

 JASSOの奨学金貸与割合が増えていることには2つの背景があると考えています。まず、日本の平均給与の減少です。平均給与は1997年の約470万円をピークに減少し、過去8年の間ではおよそ400万円から420万円の間を推移しています。

 もう一つは、各大学の授業料や入学料の上昇で、1975年度には20万円ほどであった私立大学の初年度年間授業料は、今では90万円に近づいています。

 実際に学生の収入状況を調査した統計によると、家庭からの支援の割合は大きく減少し、その分を奨学金によって補填しているという結果も出ています。

最近は少子化という話もありますね

皆川氏

 確かに学生の総数自体は減ってきていますが、大学、短大等への進学率が高まったことで、JASSOの貸与奨学金が対象とする高等教育機関への進学者数にはそれほど大きな変動はありませんでした。このような状況の中、先ほどお話ししたような平均給与の低下などを背景として奨学金受給率は大きく伸びてきました。


 
 JASSOでは拡大する奨学金需要に応えるため、日本育英会時代の1999年度に第二種奨学金を抜本的に拡充し、基準を満たす希望者全員に貸与できるよう制度の見直しを行いました。その後、第二種奨学金の貸与者数は大きく伸びましたが、最近では政府の方針の下、有利子の第二種奨学金から無利子の第一種奨学金への流れが加速しています。

今回のソーシャルボンドの概要と使途を教えてください。

皆川氏

 今回発行予定のソーシャルボンドで調達した資金は全額、第二種奨学金に充当されます。第二種奨学金の財源は現在、国からの借入である財政融資資金、民間金融機関からの借入金、財投機関債という外部資金を主な財源としており、また奨学金貸与者からの返還金も重要な財源となっています。財投機関債の発行は日本育英会時代の2001年度から開始しました。

 JASSOの財投機関債は、ここ数年は2年債を毎年1,200億円発行しております。そして今回9月に発行する第52回債(300億円)をソーシャルボンドとして発行することとしました。第53回債以降もセカンドオピニオンを取得する予定であり、今後発行するJASSOの財投機関債は全てソーシャルボンドとなります。第二種奨学金の事業は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、目標4「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」の達成に貢献します。

一方でJASSOの奨学金事業は昨今、返還困難者に関する報道も多くありますが。

皆川氏

 各種報道については、事実と異なるものも多く、JASSOのホームページでも解説しています。まず、JASSOの奨学金貸与者が増える中、実際には要返還債権に対する3ヶ月以上延滞となった債権の比率は下がってきています。第二種奨学金では、2012年度には3ヶ月以上の延滞債権の比率が4.8%あったのですが、2016年度には3.5%にまで減ってきています。第一種奨学金でも同様に比率の減少が見られます。

小松氏

 延滞に陥らないようにする取組みとして、JASSOではコールセンターでの相談体制を強化し、返還者の状況を把握することに努めています。多くの方は約束どおり返還して頂いております。また、返還が困難な状況にある方に対しては、月々の返還額を減額して返還期間を延長する「減額返還制度」、一定期間返還を猶予する「返還期限猶予制度」をご案内し、状況に応じた返還計画の見直しを実施しています。それでも解決が難しい長期延滞者に対しては法的措置を実施することもありますが、その場合は裁判所において和解での協議を行い、返還計画を設計し直すことでの解決を図っています。

今回のソーシャルボンド発行に至った背景は?

有馬慶晋氏

 JASSOの財投機関債は従前から社会性が非常に高いものです。私達もソーシャルボンドのことは以前から知ってはいたのですが、正直申しまして2年ほど前までは、追加のコストをかけてまでソーシャルボンドを発行することの効果は見えにくいなという考えでした。

 しかし、最近債券を発行する中で、投資家から、しっかりと第三者から評価を取得し正式なソーシャルボンドとして発行してほしいというご意見をいただくようになりました。私達としても、自分たちだけの視点ではなく、第三者の目で事業を評価してもらう必要があるのではというタイミングでもありましたので、前向きに検討を始めました。

 ESG投資の活発化に伴い、ソーシャルボンドというラベルを付けることで、JASSOの奨学金の社会貢献性を投資家に広く理解頂き、今後の安定発行に繋げていきたいという狙いもあります。国連責任投資原則(PRI)が2018年から、PRI署名機関に対し、運用資産の半分以上について責任投資アプローチを適用することをミニマム・リクワイアメント(履行義務)として設定したと聞き、今後ESG性の高い債券は投資需要が高まるだろうと考えました。欧州ではESG投資はスタンダードになってきています。今、債券をソーシャルボンドとして発行する効果は大きいと確信しています。

セカンドオピニオンの取得状況や結果はいかがでしたか?

皆川氏

 ESG評価機関の選定では、企画競争入札を実施し、国際的なESG評価機関であるVigeo Eirisに依頼することとしました。選定の大きな理由は、資金使途となるプロジェクトだけでなく、JASSOの事業全般及びガバナンス体制も評価対象に含まれるという点でした。JASSOは、以前から社会的な事業を実施しているという感覚を持っていましたが、外部の目から見た場合にどのように映るのか、やや自信が持ちきれてはいないという面がありました。そこでソーシャルボンド発行を機に、全面的にJASSOを評価してもらおうと決めました。

 セカンドオピニオンの詳細については、JASSOのホームページに掲載しておりますのでご参照いただければと思います。

セカンドオピニオンの取得過程で苦労したことはありましたか?

小松氏

 Vigeo Eirisとの対応は、私を含めた資金管理課の職員で行いました。通常の財投機関債の発行であればほとんどの業務を財務部内で完結できますが、ソーシャルボンドとしてのセカンドオピニオンの取得では、実際に奨学金業務を担当している部門や機構の運営や人事を取りまとめる部門等に協力を求めなければいけないことがたくさん出てきました。ただ、これは良い効果もありました。日頃JASSO内では財投機関債についてあまり存在が知られていませんでしたが、他部署に直接説明する場を設けることで、ソーシャルボンドとは何か、セカンドオピニオンとは何かということを改めて職員に周知することができました。

皆川氏

 私達があらためて自信を持てた点もありました。セカンドオピニオンに関する質問は、JASSOの中で日頃から重要視されているものが多く、非常に違和感のないものでした。外部の方の評価基準と、JASSO内での観点が一致していると確認でき、良い機会となりました。

調達資金管理やレポーティングの体制はいかがでしょうか?

小松氏

 調達資金の管理については、債券投資家からの入金日を、第二種奨学金の貸与を受ける奨学生の口座に送金する日の2営業日前に設定しており、送金日に調達資金全額が奨学金として充当されるスキームとなっています。

 レポーティングでは、JASSOは独立行政法人として、事業年度毎に業務実績等報告書を作成し、文部科学大臣に提出しています。その報告書の中で、ソーシャルボンドで調達した資金の充当状況でもある奨学金貸与事業の状況を報告することになりますので、追加的なレポーティング業務は特に発生しないと考えています。

ソーシャルボンドやグリーンボンドの国内市場をどのように見ていますか?

有馬氏

 国内の社会的課題に対応するソーシャルボンドとしてはJASSOが発行第1号となる見込みです。今後もソーシャルボンドとして継続して発行していく考えです。次回は11月に300億円、その次は2019年2月に300億円を発行する予定です。

皆川氏

 国内市場は欧米と比べるとまだ成熟途上にあると見ており、JASSOも今後の市場の拡大に貢献したいと考えています。世界銀行等の報告によると今後ESG投資需要はますます旺盛になっていきます。JASSOがソーシャルボンドを発行していくことが、高まるESG投資需要に対する一つの貢献となると考えています。また、グリーンボンドに比べソーシャルボンドは、まだ国内での発行量もそれほど多くはありません。JASSOがロールモデルとなれるように、しっかりとソーシャルボンドの発行を続けていきたいと思っています。


財務部資金管理課の方々

インタビューを終えて

 環境プログラムを使途とするグリーンボンドに対し、社会プログラムを使途とするソーシャルボンドは比較的新しい金融商品です。日本の発行体としては、JASSOがJICA(国際協力機構)に続きソーシャルボンド発行2例目となります。JICAのソーシャルボンドは、発展途上国政府への有償資金協力が資金使途ですので、国内の社会課題を対象としたものではJASSOが初です。一方、海外では、教育、医療、低所得者向けの住宅支援等の分野での発行事例がどんどん登場してきています。

 日本の高等教育学生の2.7人に1人がJASSOの奨学金を受給していることからも、JASSOは日本の教育を大きく支えていることがわかります。また、非常に多くの奨学金受給者が返還を実施していることも理解できました。国内には給付型の奨学金の拡充を求める声も大きいですが、その点については法改正やJASSOへの国家予算配分等を含め幅広い関係者で対応していかなければならない課題だと、今回のインタビューを通じて強く感じました。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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