
米環境保護庁(EPA)のリー・ゼルディン長官は7月29日、EPAが2009年に発出した温室効果ガスの「危険性認定」を撤回する政策を発表した。撤回が正式に採択されると、EPAが制定してきた温室効果ガス排出量規制が全て無効になる。
危険性認定は、EPAの行政権限に関わる重要な判断のことを指す。米連邦政府では、1963年に大気浄化法(CAA)が制定され、1970年に改正された際に、大気汚染物質に関する基準を設定する権限がEPAに付与されている。さらにマサチューセッツ州がEPAを相手取り起こした裁判で、2007年に連邦最高裁判所は、温室効果ガスも大気汚染物質に該当すると認定。EPAが温室効果ガスを「危険性がある」と認定すれば、EPAは温室効果ガスの排出基準を課すことができると判断された。
それを受け、オバマ政権時のEPAは2009年に温室効果ガスを「危険性がある」と認定。今に至るまで自動車、航空機、発電所、冷媒等に対する温室効果ガス排出規制をEPAが制定してきている。温室効果ガス排出関連の条約に米国が加盟する際には、危険性認定が根拠とされてきた。そのため、危険性認定が撤回されると、EPAには温室効果ガスの排出基準を課す権限がなくなり、規制が無効となる。
ゼルディン長官は今回、危険性認定を撤回すれば、年間540億米ドル(約8兆円)以上のコスト削減につながるとの見方を示した。特に、電気自動車(EV)による規制負担に矛先を向けており、EV規制を撤廃するために、EPAの全ての関連規制を葬り去ろうとしている。
今回の提案文書には、温室効果ガスが危険ではない科学的根拠として、2009年の「危険性認定」時に予測されていた「壊滅的結果」が、15年以上経っても生じていないことを強調。気象災害による死亡率は低下しており、米国では農業生産性も食糧供給も増加していると主張した。一方、気象災害による損害の増加や、食料増産によって温室効果ガスが増加し続けていることは軽視した。
また2009年の危険性認定時に科学的根拠として用いられた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や米国地球変動研究プログラム(USGCRP)の科学的評価については、「政策的にバイアスがかかっている」と判断。気温上昇を予測する気候モデルについても不確実性が高いとした。
同じく、2009年の危険性認定時に採用された「予防原則」の考え方についても、「将来の潜在的リスクに基づいて現在の公衆福祉への危険を認定することは、法的にも科学的にも不合理」とし、予防原則の考え方を破棄。「証明責任」と「合理的懐疑」の原則にシフトすべきとした。
これに対し、米国の官民気候変動イニシアチブ「America is All In」は同日、EPAの政策を批判する声明を発表。温室効果ガスが喘息、心臓病、呼吸器疾患、早期死亡、気候変動による災害(熱波、洪水、山火事、ハリケーン等)を引き起こす汚染物質であると2007年に連邦最高裁判所が判断したことや、数十年にわたる科学的根拠を無視していると主張した。
【参照ページ】EPA Releases Proposal to Rescind Obama-Era Endangerment Finding, Regulations that Paved the Way for Electric Vehicle Mandates
【参照ページ】Leaders Across U.S. Condemn EPA For Reneging On Its Duty To Protect Americans From Climate Pollution
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