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【戦略】2030年以降、SDGsはどうなるか ~ポストSDGsを巡る国際議論と日本企業への示唆~

【戦略】2030年以降、SDGsはどうなるか ~ポストSDGsを巡る国際議論と日本企業への示唆~ 3

 持続可能な開発目標(SDGs)の目標年である2030年まで、残された期間が短くなってきた。国連のSDGs報告書2026年版によると、進捗を評価できる139ターゲットのうち、達成軌道にあるのは15%、中程度の進捗を示しているものを合わせても36%。約半数は進展が僅か、またはほとんどなく、15%は2015年時点より後退している。2030年までに全ての目標を達成することは極めて困難な状況となっている。

 そこで日本では、「SDGsの次は何になるのか」というポストSDGsへの関心が高まり始めている。日本政府も2023年改定のSDGs実施指針で、2030年以降を見据えた国際議論を主導する方針を明記。環境省も2026年3月のSDGsステークホルダーズ・ミーティングで、「ポストSDGsの議論も見据えた取組発信」を正式な政策アジェンダとしてに掲げている。

 一方、国連等の国際的な政策議論では、日本のようにポストSDGsという一つの言葉が前面に出ているわけではない。「post-2030 agenda」「beyond 2030」「post-2030 framework」等の表現が使われ、次の17目標をどうするかだけでなく、持続可能な開発をどのように測定し、実行し、資金を動かし、将来世代まで含めて国際社会を運営するかという複数の制度論が並行している。

国際議論は「ポストSDGs」という一つの言葉に集約されていない

 現在の国連の最優先事項は、依然として2030年までのSDGs達成を加速することだ。2026年7月の持続可能な開発目標に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)でも、2030アジェンダとSDGsの実行加速が中心テーマとなり、水、エネルギー、インフラ、都市、パートナーシップ等の進捗が検討された。

 一方、2030年以降を見据えた議論も並行して進んでいる。次回のSDGサミットは2027年9月に予定されており、2030年以降の持続可能な開発について検討する重要な節目となる。JICA緒方貞子平和開発研究所と国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)も2026年、ポスト2030アジェンダのグローバル指標フレームワークに関する共同研究を開始。JICA緒方研究所は、2030年以降の開発アジェンダに関する国連での正式な議論は2027年に開始される予定としている。

 現時点では、2030年以降も17目標を維持するのか、新たな目標体系を設定するのか、目標数を変えるのか、SDGsという名称を残すのかも決まっていない。その一方で、国連機関や専門家グループでは、SDGsの15年間の経験を踏まえた個別検討がすでに始まっている。

 国連開発政策委員会(CDP)も2026年2月の第28回会合報告書で、2030年以降の枠組について、網羅的なターゲット群を設定することより、少数の触媒的な優先事項に焦点を当てる考え方を提示。複数分野で波及効果を生む変革のレバーを特定するとともに、明確な責任・説明責任、資金、貿易、技術、制度能力等の実施手段を枠組の中心に据えることを提言した。

 ポスト2030は、「18番目以降にどの目標を追加するか」という話だけではない。15年間運用してきたSDGsの経験を基に、目標設定、実施、資金、モニタリング、説明責任を含む国際ガバナンスそのものをどのように再設計するかという議論になりつつある。

「次の17目標」より広い国際ガバナンスの再設計

 2030年以降の方向性を考える上で重要なのが、国連加盟国が2024年9月の未来サミットで採択した「未来のための協定(Pact for the Future)」だ。同協定はSDGsの後継目標ではない。持続可能な開発と開発資金、国際平和と安全保障、科学・技術・イノベーション、デジタル協力、若者と将来世代、国際ガバナンス改革等を横断する枠組となっている。付属文書として「グローバル・デジタル・コンパクト」と「将来世代に関する宣言」も採択された。

【参考】【国際】国連、2100年に3.2℃上昇ペースと警鐘。民間金融に期待。未来のための協定採択(2024年9月23日)

 SDGsは、貧困、健康、教育、気候変動、生物多様性、平和等を17の目標として一つの体系に統合するものとして掲げられた。一方、2030年代に国際社会が対応しなければならない問題には、SDGs採択後に重要性が一段と高まったAI・デジタルガバナンス、地政学的分断、国際金融システム、将来世代への影響等もある。

 今後の枠組では、現行SDGsの未達課題を引き継ぐだけでなく、こうした新たな課題をどこまで一つの目標体系に組み込むのか、それとも複数の国際制度を接続して管理するのかという設計も問われることになる。

SDG17.19からBeyond GDPの31指標へ

 SDGsから2030年以降への制度的な連続性を示す代表例が「Beyond GDP」だ。SDGsにはもともと、ターゲット17.19として、2030年までにGDPを補完する持続可能な開発の進捗測定手法を開発することが盛り込まれている。

 GDPは経済活動の規模を把握する上で重要な指標だが、人々のウェルビーイング、格差、社会的包摂、環境状態、将来にわたる持続可能性等を全て捉えるものではない。「未来のための協定」でも、社会の進歩をGDPだけで評価せず、持続可能な開発の進捗を補完的に測定する仕組みを整備する方針が確認された。

 これを受け、国連事務総長が設置したBeyond GDPハイレベル専門家グループは2026年5月、最終報告書「Counting What Counts: A Compass of Progress for People and Planet」を公表。同報告書では、「公平で包摂的かつ持続可能なウェルビーイング」を中心概念とし、31指標からなるグローバル・ダッシュボードを提案した。このうち半数近くは既存のSDGs指標から採用されている。

 提案されているのはGDPを廃止することではない。経済規模を測るGDPを維持しつつ、人々の現在のウェルビーイング、公平性・包摂性、持続可能性・レジリエンス等を併せて測ることで、社会の進歩を多面的に把握する考え方だ。

 2015年のSDGs採択時に既に掲げられていた課題が、「未来のための協定」を経て31指標の具体案へと発展。ポスト2030は、SDGsを全て捨てて新しい体系へ置き換えるのではなく、SDGsで十分に実現できなかった制度課題を引き継ぎ、具体化する形で形成され得る。

AI時代には「何を測るか」だけでなく「誰がデータを統治するか」が問われる

 SDGsの15年間で大きく進展した分野の一つが統計基盤だ。国連のSDGデータベースで利用可能な指標は2016年の115から2026年には233へ増加し、データ件数も約33万件から320万件へ拡大した。SDGs開始時には約40%の指標で国際的に合意された統計手法が存在していなかったが、現在では全ての指標に合意された手法が存在する。良好な国別データカバレッジを持つ指標の割合も、約3分の1から約70%まで上昇した。

 一方、2026年の国連SDGs報告書がモニタリング分野で提起した問題は、単純に「指標が多すぎる」ということではない。AI時代に、どの数字が測定され、何が知識として流通し、その数字の信頼性を誰が担保するのかという問題へ論点が広がっている。

 統計インフラを支える資金も弱体化している。2025年には、OECD開発援助委員会(DAC)加盟国・アソシエートによる政府開発援助(ODA)が前年比23.1%減少し、過去最大の年間減少となった。国連は、ODAが2030アジェンダ開始時の水準まで後退し、低・中所得国の統計機関では、SDGモニタリング、家計調査、行政データ等の中核的な統計事業に既に影響が生じていると指摘している。

 AIの普及も新たな問題を生む。大規模言語モデルは、データに関する質問に対し、公式統計ではなく古い情報や未検証の情報を参照する場合がある。信頼できるデータが存在しない場合には、補間、外挿、合成等によって欠損を埋め、一見すると権威があるように見える数字を生成しながら、大きな不確実性を隠す可能性もある。

 データ主権も課題となる。国連によると、低所得国・低中所得国で、自国内のマイクロデータ・リポジトリを自ら管理している国は約3分の1に留まる。2025年に国家統計計画を実施していた135カ国でも、必要な予算が完全に確保されていたのは59%。サブサハラ・アフリカでは15%に過ぎない。

 2030年以降のモニタリング制度では、何を指標にするかとともに、誰がデータを保有し、どの方法で測定し、AIによる推計と実測値をどう区別し、公式統計としての信頼性をどう維持するかが重要になる。サステナビリティ情報を利用する企業にとっても、AIが提示する国別統計や環境・社会データについて、出所、測定年、推計の有無を確認する重要性は一段と高まる。

ポスト2030指標は継承・簡素化へ。3層構造も提案

 2030年以降のモニタリング制度については、具体的な指標体系の検討も始まっている。2025年11月には、SDG指標に関する国連の機関間・専門家グループ「IAEG-SDGs」の第16回会合が北九州市で開催され、総務省がホストした。

 同会合ではJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員もポスト2030の指標フレームワークに関する研究を紹介。同研究は、世界全体で継続的に測定する「グローバルコア指標」、各国が必要に応じて利用する「グローバル任意指標」、地域の実情や優先事項に合わせた「カスタム指標」の3層構造を提案している。現行のSDGs指標が抱えるデータ不足、指標間の重複、地域実情との不整合等を踏まえ、世界共通の比較可能性と各国の政策課題を反映する柔軟性を両立させる考え方だ。

 IAEG-SDGsでは、SDGsモニタリングの経験を将来の開発アジェンダへ反映する「Lessons Learned」タスクチームも活動している。フェーズIでは2025年から2026年にグローバルレベルの経験を検証し、フェーズIIでは2026年から2027年にテーマ別、地域別、国・地方レベルの経験を検討する。

 同タスクチームが第57回国連統計委員会に提出した「Lessons from a Decade of Sustainable Development Goal Monitoring」では、将来のモニタリング制度はゼロから作り直すのではなく、既に存在するSDGモニタリング体系を基礎にすべきとの考え方を明確にした。SDGsの期間に蓄積された制度的知見、統計インフラ、信頼を失わないよう、既存体系を再利用し、簡素化し、強化することを提言している。

 一方で、現在の指標体系は多くの国にとって複雑すぎるとも指摘。将来の枠組では、SDGsが持っていた普遍性や対象範囲の広さを維持しながら、より簡潔で焦点を絞った仕組みにする必要があるとしている。

 ポスト2030の指標設計では、単純に現在の233指標を増減させるのではなく、SDGsの15年間で構築した統計基盤をどこまで残し、世界共通の比較可能性と各国の実情をどう両立させるかが主要論点になる。

日本ではSDGsの定着と摩耗が同時に進む

 日本でポストSDGsという言葉が注目されやすい背景には、SDGsが社会の共通言語として広く定着したことがある。クロス・マーケティングが2025年に全国18歳から69歳の3,000人を対象に実施した調査では、「名称も内容も知っている」と「名称は聞いたことがある」を合わせたSDGs認知率は83%。2022年以降、4年連続で同水準となった。学校教育、企業研修、自治体施策、メディア、商品・サービス等を通じて、SDGsという名称そのものは広く知られるようになった。

 政府政策でも、SDGsは地方創生、企業活動、国際協力等へ組み込まれている。2023年改定のSDGs実施指針では、SDGsが地方創生等の旗印として浸透していることを日本の特徴として位置付け、2030年以降も見据えた国際議論を主導する方針も掲げた。

 一方、高い認知がそのまま支持や行動の拡大に繋がっているわけではない。クロス・マーケティングの2025年調査では、SDGsに取り組む企業・団体への好感度は36.9%と前年比10.2ポイント低下。SDGs目標達成への貢献意欲も38.7%と前年の45.4%から低下し、SDGs関連商品・サービスの購入・利用意向も57.8%に低下した。

 企業側でも変化が見られる。帝国データバンクの2026年調査では、「SDGsの意味および重要性を理解し、取り組んでいる」企業は30.3%。前年比では0.1ポイント増に留まるものの、2020年の調査開始以来の最高となった。一方、「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」企業は22.3%と0.8ポイント減少した。両者を合わせた「SDGsに前向き」な企業は52.6%で2年連続低下した。

 さらに、17目標のいずれかに力を入れている企業は72.0%で前年の73.2%から低下し、調査開始以来初めて前年を下回った。帝国データバンクは、SDGsが企業経営に一定程度定着する一方、取り組みの裾野は「拡大局面から選別局面へ移りつつある」と分析している。

 日本のポストSDGsへの関心には、二つの側面がある。SDGsが企業、自治体、教育等に広く組み込まれたため、2030年以降に何へ接続すべきかという実務的な問いが生じている。一方、認知率が高止まりする中で好感度や行動意欲が低下していることから、言葉としての新鮮さや動員力が摩耗し、「次のキーワード」を求める動きが生じる可能性もある。

 だからこそ、ポストSDGsを単なる次のラベル探しにしてはならない。SDGsという言葉を使い続けるか、新しい名称へ切り替えるかよりも、その背後にある気候変動、人権、生物多様性、水、サーキュラーエコノミー、格差等の課題をどう管理するかが重要になる。

企業は次の枠組を待たず、2030年目標の更新を始める

 企業にとって2030年は、SDGsから卒業する期限ではない。多くの企業ではすでに、中期経営計画、重要課題、サステナビリティ目標、社内研修、統合報告書等にSDGsを組み込んでいる。2030年になったからといって、それらを一度リセットし、別の国際目標に全面的に置き換える必要はない。

 重要なのは、企業が実際に管理する経営課題と、国際目標へのマッピングを分けることだ。温室効果ガス排出量削減であれば、企業が管理するのはスコープ1、2、3排出量や移行計画、生物多様性であれば自然への依存・インパクトやリスク、水では流域リスク、人権ではデューデリジェンスが実務上の管理対象となる。

 これらのKPIは、SDGsの後継枠組が決まってから設定するものではない。気候変動、人権、自然、水等では、それぞれの科学、規制、国際基準、事業戦略に基づき、2030年以降の目標を更新する必要がある。その上で新しい国際枠組が成立した際に、既存KPIとの対応関係を整理すればよい。

 時間軸にも注意が必要だ。2027年9月のSDGサミットがポスト2030を議論する重要な節目となる一方、次期枠組の具体像が固まるまでには一定の時間を要する可能性がある。その間にも、2030年を目標年としている企業は次の中期経営計画や2030年代のサステナビリティ目標を策定しなければならない。

 企業が次の国際枠組を待ってから2030年以降の目標を考え始めると、経営計画の更新に間に合わない可能性がある。2030年目標について、達成後も継続するもの、目標水準を引き上げるもの、科学や規制の変化に合わせて再設計するものを整理し始める必要がある。

 また、次期国際枠組が形成されたとしても、社会や企業での認知が直ちにSDGsと置き換わるとは限らない。2030年代の一定期間、SDGsと新たな国際枠組が併存する可能性もある。企業が2030年以降もSDGsを利用すること自体が問題なのではなく、目標年を過ぎたSDGsをどのような位置付けで利用し、実際の経営KPIとどのように結び付けているのかを説明できることが重要になる。

今後の焦点

 2030年以降の持続可能な開発枠組が最終的にどのような形になるかは、現時点では決まっていない。次期目標体系、指標、レビュー制度、名称等の具体像は、今後の国連加盟国による議論で形成されていく。

 但し、既に始まっている議論を見る限り、ポスト2030はSDGsをゼロから作り直すものになるとは限らない。SDGsの15年間で構築した目標、統計、データ、制度的知見を引き継ぎながら、複雑性を減らし、2030年代に重要性を増す課題を組み込む方向が模索されている。

 日本では「SDGsの次は何か」という問いに関心が向きやすいが、ポストSDGsを「次の17色のロゴ」や新たなサステナビリティ用語を探す議論にしてはならない。重要なのは、新しい名称ではなく、SDGsで構築した制度や企業の取り組みのうち、何を残し、何を改善するかである。

 企業にとって2030年はSDGsの終了日ではない。次期国際枠組の名称や目標体系が決まるのを待つのではなく、気候変動、人権、生物多様性、水等、2030年代にも残る実質的な経営課題から次の目標を設計し、将来の国際枠組が具体化した段階で対応関係を整理することが求められる。

【参照ページ】The Sustainable Development Goals Report 2026 【参照ページ】SDGs実施指針改定版 【参照ページ】持続可能な開発目標(SDGs)ステークホルダーズ・ミーティング第17回会合 兼 第6回SDGs推進円卓会議環境分科会の開催について 【参照ページ】High-Level Political Forum 2026 【参照ページ】High-Level Political Forum on Sustainable Development 【参照ページ】JICA緒方研究所とSDSNがポスト2030アジェンダの指標フレームワークに関する共同研究を開始 【参照ページ】Committee for Development Policy: report on the 28th session (23-27 February 2026) 【参照ページ】Way forward to 2030 and beyond 【参照ページ】Pact for the Future 【参照ページ】Goal 17: Revitalize the global partnership for sustainable development 【参照ページ】Counting What Counts: A Compass of Progress for People and Planet 【参照ページ】PGA Remarks at the Informal Consultations of the Co-Facilitators of the Intergovernmental Process on Beyond GDP and Launch of the Final Report of the High-Level Expert Group on Beyond GDP 【参照ページ】SDG monitoring in the AI era: renewing official statistics for people, trust and sovereignty 【参照ページ】A historic decline in foreign aid: Preliminary 2025 ODA data 【参照ページ】16th Meeting of the IAEG-SDGs 【参照ページ】2030年以降を見据え、新たな指標体系を模索する:SDGs指標に関する国連の専門家グループ会合が北九州市で開催 【参照ページ】An indicator framework for post-2030 international development goals 【参照ページ】Task Team on Lessons Learned from Monitoring the Sustainable Development Goals 【参照ページ】Lessons from a Decade of Sustainable Development Goal Monitoring 【参照ページ】SDGsに関する調査(2025年)認知・興味関心編 【参照ページ】SDGsに関する調査(2025年)評価・行動編 【参照ページ】SDGsに関する企業の意識調査(2026年)

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菊池尚人

チーフコンサルタント 兼 事業開発室長

PwCコンサルティングを経て、2019年より現職。コンサルティング業務に10年間従事。 大手企業・金融機関向けに、国内外の政策・市場・企業動向に関する継続モニタリングやテーマ別リサーチ、ESG・サステナビリティ戦略策定、研修を提供。 Sustainable Japanの編集も務め、サステナビリティ経営に関する国内外の動向を分析・発信している。

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