Skip navigation
サステナビリティ・
ESG金融のニュース
時価総額上位100社の97%が
Sustainable Japanに登録している。その理由は?

【環境】日本国内の水リスクはどこにあるか ~渇水・水道インフラ・地域需要を全国データで読み解く~

【環境】日本国内の水リスクはどこにあるか ~渇水・水道インフラ・地域需要を全国データで読み解く~ 1

 日本国内で、水の安定供給リスクが改めて顕在化している。2026年8月、吉野川水系では早明浦ダムの貯水量低下を受け、香川用水と徳島用水で第四次取水制限に移行した。香川用水では取水量を60%削減。吉野川水系で第四次取水制限が実施されるのは2008年8月以来となる。

 企業向けの水供給にも影響が及んでいる。水資源機構は三重用水で工業用水30%、愛知用水で20%、豊川用水で5%の節水対策を実施している。日本の水リスクは、農業用水や生活用水にとどまらず、工場の操業を支える工業用水にも及び始めている。

 今回の渇水は突発的なものでもない。2025年夏には各地で少雨となり、国土交通省が8年ぶりに渇水対策本部を設置。その後も秋から冬にかけて少雨傾向が続き、2026年7月まで関東、中部、近畿、四国、九州等で渇水対応が続いた。高知県の仁淀川水系では、大渡ダムの貯水率が0%となり緊急取水も実施された。2026年夏には再び東日本と西日本を中心に少雨となり、国土交通省は8月に渇水情報連絡室を再設置した。

 水リスクは、降雨量やダムの貯水率だけでは決まらない。どの水源に依存し、代替水源を持つか、さらに水を事業拠点まで届けるインフラがどのような状態にあるかによって、実際の供給リスクは変わる。

日本は本当に水が豊富な国なのか

 日本全体の水収支を見ると、直ちに国全体が水不足に陥っているわけではない。国土交通省によると、1992年から2021年までの年間平均降水量は約6,600億m3。このうち約2,300億m3が蒸発散し、残る約4,300億m3が、理論上人間が最大限利用可能な「水資源賦存量」となる。

 水利用量はこれを大きく下回る。2023年の水使用量は約768億m3。生活用水約143億m3、工業用水約100億m3、農業用水約525億m3だった。

【環境】日本国内の水リスクはどこにあるか ~渇水・水道インフラ・地域需要を全国データで読み解く~ 2 (出所)国土交通省

 しかし、日本は水資源が豊富と単純化することもできない。一人当たり水資源賦存量は、世界平均の約6,800m3/人・年に対し、日本は約3,400m3/人・年と約半分。首都圏では849m3/人・年とされる。また、平均水資源賦存量が約4,300億m3なのに対し、10年に1度程度の少雨時に相当する渇水年水資源賦存量は約3,100億m3と約73%まで低下する。近畿、山陽、中国、四国、北九州では、平均年からの低下率が全国値より大きい。

 国内水リスクを把握する際には、日本全国に年間どれだけ水が存在するかではなく、必要な地域と時期に水を確保し、それを事業所まで安定的に届けられるかが重要となる。

水リスクのデータは存在するが、一元化されていない

【環境】日本国内の水リスクはどこにあるか ~渇水・水道インフラ・地域需要を全国データで読み解く~ 3 (出所)ニューラル作成

 日本国内の水リスクを全国横断で把握しにくい背景には、水の用途によって所管・管理主体が異なることがある。河川・ダムでは、国土交通省の地方整備局や河川事務所、水資源機構、地方公共団体等が管理に関与する。一方、上水道では国土交通省と環境省が行政を所管し、地方公共団体や企業団等の水道事業者が実際の供給を担う。

 工業用水道は経済産業省が所管し、地方公共団体や企業団等が事業を運営する。農業用水では農林水産省、地方公共団体、土地改良区等が水利施設の整備・管理に関与する。地下水では国土交通省や環境省等の国の制度に加え、地方公共団体による条例や地域ごとの管理制度が重要となる。下水道では国土交通省と地方公共団体が中心的な役割を担う。

 つまり、日本の水に関する情報が不足しているわけではない。用途ごとに異なる主体が詳細な情報を持つ一方、企業から見ると、自社拠点の水源や供給経路に応じて複数の情報を接続しなければ、水リスクの全体像を把握しにくい構造となっている。

水資源・渇水リスクは水源の代替性でも変わる

 渇水リスクを見る際には、降水量やダム貯水率だけでなく、各地域がどの水源に依存しているかを把握する必要がある。例えば2026年8月の香川県では、早明浦ダムの貯水量低下を背景に香川用水の取水制限が20%、35%、50%、60%へ段階的に強化された。

 但し、香川用水では渇水時の供給安定性を高めるため香川用水調整池「宝山湖」が整備されている。今回も第三次取水制限が始まった8月19日から宝山湖に貯留していた水を活用。第四次取水制限への移行に伴い、宝山湖から香川用水側へ供給する水量を増やした。さらに、早明浦ダムの利水容量が枯渇した場合に備え、香川県は通常は水力発電に利用される水を緊急的に補給できるよう国に要望している。

 こうした代替水源の活用は香川県に限らない。2025年冬から2026年春にかけての少雨では、東海地方の豊川水系の水不足に対応するため、天竜川水系の佐久間ダムから豊川用水へ緊急導水が行われた。渇水時の供給影響は、主要水源の貯水量だけでなく、調整池、代替水源、他水系からの導水等をどの程度利用できるかによっても左右される。

 企業が国内拠点の渇水リスクを評価する場合には、所在地の年間降水量や一般的な水ストレス指標だけでなく、実際に使用する水がどこから供給され、代替水源や水融通の余地がどの程度存在するかまで確認する必要がある。

水道管路の経年化に大きな地域差

 水資源そのものが存在していても、取水し、浄水し、事業所まで運ぶインフラが機能しなければ利用することはできない。水道インフラについて全国横断で確認できる資料の一つが、国土交通省が公表している「水道カルテ」だ。

 水道カルテでは、管路経年化率、管路更新率、取水施設、浄水施設、配水池、導水管・送水管、重要施設へ接続する管路等の耐震化状況を公開している。各都道府県の平均を47都道府県分横断して整理した結果、管路経年化率が最も高いのは大阪府の36%、次いで千葉県、神奈川県、京都府が32%、山口県と香川県が31%だった。一方、栃木県と山梨県は17%、熊本県は18%だった。

 全国では2023年度の管路経年化率が25.3%まで上昇している。法定耐用年数40年を超えた水道管路は約18.8万kmに達する一方、同年度の管路更新率は0.61%に留まった。管路経年化率は、管路全体のうち法定耐用年数40年を超えた管路が占める割合で、現在どの程度の経年管を抱えているかというストックを示す。一方、管路更新率は管路をどの程度更新しているかというフローを示す。

 但し、更新率が高ければ経年化率が直ちに低下するわけではない。毎年新たに40年を超える管路が発生する他、耐震化等を目的に40年未満の管路が更新される場合もある。このため、経年化率だけを見て「大阪府の水道リスクが高く、栃木県は低い」と判断することはできない。現在どれだけ経年管を抱えているかと、どの程度のペースで管路を更新しているかの双方を見る必要がある。

経年化率と更新率を重ねると異なる姿が見える

 水道カルテの管路更新率は、2019年度から2023年度までの5年間平均であり、この更新率と管路経年化率を重ねると、経年化率だけでは見えない地域差が現れる。例えば、管路経年化率が低い熊本県(18%)や栃木県(17%)では、管路更新率はそれぞれ0.3%、0.4%と低い。更新率が低いからといって、現時点で経年管を多く抱えているとは限らない。

 一方、管路経年化率が高い神奈川県(32%)や大阪府(36%)では、管路更新率もそれぞれ1.0%、0.9%と47都道府県の中では比較的高い。これに対し、三重県と奈良県では、いずれも2023年度の管路経年化率が30%と全国値25.3%を上回る一方、2019年度から2023年度までの5年間平均の管路更新率は0.5%だった。

 このように、経年管が多く更新率も比較的高い地域、経年管が少なく更新率も低い地域、経年管が多い一方、神奈川県や大阪府ほど高い更新率となっていない地域がある。両指標を重ねることで、経年化率だけでは見えない地域差が浮かぶ。

水道の耐震性は施設別に確認する必要がある

 水道カルテでは、取水施設、浄水施設、配水池、導水管・送水管、重要施設へ接続する管路等の耐震関連指標が示されている。

 典型的なのが東京都だ。重要施設へ接続する管路の耐震適合率は91%と47都道府県で最も高く、取水施設、配水池、導水管・送水管でも56%から78%となっている。一方、浄水施設の耐震化率は13%と全国で最も低い。各指標は対象や算定方法が異なるため単純な横比較はできないものの、東京都という一つの地域の中でも、施設種別によって耐震関連指標の数値が大きく異なることが分かる。

 企業が水供給の地震リスクを確認する際には、都道府県単位の一つの指標だけで判断するのではなく、自社拠点に水が届くまでの取水、導水、浄水、配水、接続管路等を個別に確認する必要がある。

産業立地で変化する地域の水需要

 水資源と供給インフラに加え、地域の水需要自体も固定されているわけではない。2022年から2023年にかけて、生活用水は144億m3から143億m3、農業用水は528億m3から525億m3へ減少した一方、工業用水は98億m3から約100億m3へ増加した。全国の水需要が長期的には縮小していても、大規模な工場等が特定地域へ集中すれば、その地域の水需給は全国平均とは異なる動きをする。

【環境】日本国内の水リスクはどこにあるか ~渇水・水道インフラ・地域需要を全国データで読み解く~ 4 (出所)国土交通省

【参考】【日本】国交省、水資源の概況で年次報告書。設備老朽化がさらに悪化。工業用水増(2026年8月13日)

 代表例の一つが熊本地域の地下水管理である。熊本県と地下水盆を共有する11市町村は2026年3月、「第二期熊本地域地下水総合保全管理計画」を策定。2030年度の目標として地下水採取量の上限を年間1億6,700万m3、目標涵養量を年間4,820万m3とした。

 熊本県では、半導体関連企業の集積等による地下水需要の変化を踏まえ、2023年9月に「地下水の涵養の促進に関する指針」を改正。重点地域で知事の許可を受けて地下水を採取する事業者等に求める目標涵養量を、それまでの地下水採取量の1割から、採取量に見合う量となる原則10割へ引き上げた。

 勿論、半導体工場等の進出によって水需要が増加しても、それだけで直ちに水不足が生じるわけではない。実際のリスクは、増加する需要に対し、地下水の涵養量や既存の取水量、代替水源等を含めて地域としてどの程度の水を持続的に供給できるかによって決まる。熊本地域では、産業集積による需要変化に対し、地下水採取と涵養を一体的に管理する方向が強まっている。

水リスク評価は全国平均から流域・拠点単位へ

 こうした場所単位で水リスクを捉える方向は、企業のサステナビリティ実務でも具体化している。2026年7月、気候変動による水資源リスクの評価研究会は「気候変動を踏まえた水資源リスク評価の手引き」をとりまとめた。主な対象は、水資源リスクの評価・開示に取り組む企業の財務情報開示担当者等で、具体的な評価手順や考え方を示している。

 国土交通省は、新たな水資源リスク評価指標「SS-DTA」の研究開発や、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)での渇水リスク可視化、研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)での水資源リスク評価の国際標準化にも関与している。さらに8月21日には「気候変動による水資源への影響評価ガイドライン」を公表し、全国一律ではなく流域単位で水資源への影響を評価する手法を示した。

【参考】【日本】国交省、気候変動の水資源影響で評価手法提示。関係者にd4PDFによる評価要請

 国際的にも、科学に基づく目標ネットワーク(SBTN)の淡水目標は流域固有で設定され、Alliance for Water Stewardship(AWS)も事業所と流域を単位とした水管理を進めている。AWSは2026年3月、AWS Standard Version 3.0を東京でグローバルローンチした。

 国内外に共通するのは、企業全体の年間取水量だけでなく、「どの流域で、どのような水資源状況の中で水を利用しているか」を評価する考え方である。

国内拠点では水が届く「供給経路」の把握が必要

 日本企業が国内拠点の水リスクを確認する際には、まず各事業所が上水道、工業用水道、地下水等のどの方法で水を調達しているかを確認し、供給主体を特定する必要がある。

 例えば三重県では、2026年に三重用水で3月以降4回の節水対策が実施され、8月には工業用水30%の節水となった。一方、水道カルテでは、県平均の管路経年化率が30%、2019年度から2023年度までの5年間平均の管路更新率が0.5%となっている。三重用水と水道カルテでは対象となる供給系統や施設が異なるため直接結び付けることはできないが、都道府県単位の一つの指標だけでは拠点の水リスクを把握できず、実際の供給経路に沿って渇水とインフラの双方を確認する必要があることが分かる。

 その上で、取水施設、導水施設、浄水施設等まで遡り、依存する河川、地下水、水系、ダム等を把握する。過去の渇水や取水制限、水源の分散性、代替供給手段、関連インフラの経年化・耐震化状況を重ねて評価することが重要となる。地下水を利用する場合には、地域の地下水管理計画、採取量、涵養状況等も確認する必要がある。排水ができなければ操業を継続できない業種では、下水道や自社排水処理設備等も別のインフラリスクとなる。

 食品・飲料等では、自社工場だけでなく、農産物等の主要な国内調達地域についても同様の視点が必要となる。自社事業所への水供給が安定していても、国内サプライチェーン側で水不足が発生する可能性があるためだ。

日本国内の水リスクをどう捉えるか

 全国の公的データを横断すると、「日本は水が豊富か、水不足か」という二分法では国内水リスクを捉えられないことが分かる。日本全体では水資源賦存量が使用量を大きく上回る一方、少雨時には利用可能な水資源量が大きく低下する地域があり、2026年には工業用水でも節水対応が実際に発動した。

 また、水道インフラでは、地域によって管路の経年化と更新の状況が異なり、耐震関連指標も施設ごとに異なる。産業立地によって地域の水需要が変化すれば、熊本地域のように地下水管理のあり方自体が変化する場合もある。

 日本企業に必要なのは、「日本国内だから水リスクは低い」と一括して判断することでも、日本全体を水不足地域として扱うことでもない。全国平均から地域・流域へ、さらに実際の水源、供給事業者、個別拠点へと分析単位を下げ、水資源量、代替水源、供給インフラ、地域需要を重ねて見ることが、日本国内の水リスクを実態に即して把握する出発点となる。

【参照ページ】令和8年8月からの渇水 【参照ページ】香川用水 渇水状況 【参照ページ】四国地方整備局管内の渇水情報 【参照ページ】過去の渇水情報 【参照ページ】「国土交通省渇水対策本部」を解散します 【参照ページ】水は限りある資源です。節水にご協力を! ~「渇水情報連絡室」を設置し、情報収集・連絡体制を強化します~ 【参照ページ】「渇水情報連絡室」を解散しました 【参照ページ】水は限りある資源です。節水にご協力を! ~「渇水情報連絡室」を設置し、情報収集・連絡体制を強化します~ 【参照ページ】日本の水収支 【参照ページ】令和8年版 日本の水資源の現況 【参照ページ】日本の水資源の現況 第1章 水の循環と水資源の賦存状況 【参照ページ】水道整備・管理行政の移管について 【参照ページ】工業用水の概要 【参照ページ】農業水利施設の保全管理 【参照ページ】地下水の適正な保全と利用に関する検討会 【参照ページ】香川用水の第四次取水制限の開始に伴う県の対応と取水制限に対応する市町等の実施状況について 【参照ページ】四国地方整備局に対する要望について 【参照ページ】佐久間緊急導水の開始 【参照ページ】水道事業の経営原則・水道カルテ 【参照ページ】水道カルテ(令和6年3月末時点版)全国データ 【参照ページ】上下水道管路の経年化の現状と課題 【参照ページ】第二期熊本地域地下水総合保全管理計画について 【参照ページ】地下水の涵養の促進に関する指針 【参照ページ】気候変動を踏まえた水資源リスク評価の手引き 【参照ページ】「気候変動による水資源への影響評価ガイドライン」を作成しました 【参照ページ】Freshwater targets 【参照ページ】AWS Standard Version 3.0 launches at event in Tokyo, Japan 【参照ページ】AWS Standard

無料会員に登録すると、
有料記事の「閲覧チケット」を毎月1枚プレゼント。
登録後、すぐにご希望の有料記事の閲覧が可能です。

※ 閲覧チケットは翌月への繰り越しはできません。

無料登録してチケットを受け取る

【無料会員向け】有料記事の閲覧チケットの詳細はこちら

または

有料会員プランで
企業内の情報収集を効率化

  • 2000本近い最新有料記事が読み放題
  • 有料会員継続率98%の高い満足度
  • 有料会員の役職者比率46%
有料会員プランに登録する
author image

菊池尚人

チーフコンサルタント 兼 事業開発室長

PwCコンサルティングを経て、2019年より現職。コンサルティング業務に10年間従事。 大手企業・金融機関向けに、国内外の政策・市場・企業動向に関する継続モニタリングやテーマ別リサーチ、ESG・サステナビリティ戦略策定、研修を提供。 Sustainable Japanの編集も務め、サステナビリティ経営に関する国内外の動向を分析・発信している。

この記事のタグ

"【ランキング】2019年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能な企業100社」"を、お気に入りから削除しました。