【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 2021/06/23 事例を見る

【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 1

 従来、テクノロジーとは対極的なイメージの強かった農業分野。しかし今、農業分野のテクノロジーを意味する「アグリテック」が、金融分野のフィンテック、ヘルスケア分野のメドテックと同様に、大きな関心を集めてきている。そして、ベンチャーキャピタル界隈からも、アグリテックは大きなリターンの狙える投資領域として大注目の分野となってきた。

 例えば、2019年に米ナスダックに上場したビヨンド・ミートは、IPO価格が25ドルだったのに対し、初値は46ドルをつけ、2021年6月14日時点で150ドルで取引されている。ビヨンド・ミートは、大豆を原料とした代替肉の存在を世界に広め、一躍有名となった。他にも、ドローンを活用した農業や、生産者と消費企業を直接マッチングする農作物流通マッチングサービスなど、次から次へと業界の姿を変えるスタートアップが続々と登場している。

 そのアグリテックの中核にいるのが、黎明期から、その可能性に着目し、世界に向けて発信してきた米シリコンバレーのAgFunderだ。先進国から発展途上国までスタートアップ企業の情報を同社メディア「AgFunderNews」で配信するとともに、アグリテック・フードテック特化型ベンチャーキャピタルとしての顔もある。シンガポールにも拠点を持ち、今やアグリテックの分野で無類のネットワーク力を誇る。

 そして今回、AgFunderが、日本のチームとともに、アグリ及びフードテックに特化したベンチャー投資ファンドを、今年の秋頃に立ち上げることとなった。日本チームの「SDGインパクトジャパン」を率いるのは、国連機関でのキャリアも豊富な2人の人物だ。

 一人目は、国連開発計画(UNDP)のブラッドリー・ブセット元技術・革新・持続可能な開発のためのグローバルテクノロジーセンター(GCTISD)ディレクター。もうひとりが、世界銀行や笹川平和財団、ファーストリテイリングで、インパクト投資やESGマネジメントを牽引してきた小木曽麻里氏だ。

 AgFunderとSDGインパクトジャパンが手を組んで設立するベンチャーファンドとは一体、どのような投資戦略を狙っているのか。AgFunder創業パートナーのマイケル・ディーン氏と、SDGインパクトジャパン(SIJ)のブラッドリー・ブセット氏と小木曽麻里氏、そして農林水産省での委員も務める当社CEO夫馬賢治との対談が実現した。

テクノロジードリブンではなく、イシュードリブン

夫馬

【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 2 ついに日本でもアグリテックが脚光を浴びてきましたね。いま日本政府でも農林水産業の世界は、人手不足課題や、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった環境テーマを背景に、変革の真っ只中にあります。今回のアグリテック・ファンド組成の背景には、どのような課題感があるのでしょうか。

AgFunderマイケル・ディーン氏

【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 3 食品・農業セクターでは、農薬などの前工程から、食品廃棄などの後工程まで、全体に渡って数多くの課題があります。マクロ視点では、気候変動の問題もあります。世界全体では、100年に1度と呼ばれていた規模のサイクロンが、25年ごとに3つから4つは発生するようになるなど、自然災害の頻度が高まっています。農業を行う上では、気候変動による物理リスクの考慮が重要が増しています。

 また人為的な森林破壊の進行も課題です。森林の役割は、二酸化炭素吸収源だけではありません。森林の減少により、これまで接してこなかった動物との接点が生まれ、人獣共通感染症の発現も見られます。感染症に関しては、新型コロナウイルス・パンデミックで発展途上国の農業が打撃を受けたため、特にフードシステムへの課題意識の高まりを感じています。

SIJブラッドリー・ブセット氏

【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 4 私も、UNDPの職員として、長い間、世界の食糧問題に向き合ってきました。国連機関の仕事の多くは、課題解決のために、ステークホルダー結びつけるコーディネーター的な役割を担っています。私自身も、発展途上国での課題を解決できる技術やサービスを持つ企業と現地のプレーヤーのマッチングに力を入れていました。しかし残念ながら、国連機関そのものでは、将来不可欠な新たな技術やサービスを生み出すことができません。こうした背景から、未来の技術やサービスを作り出していける民間企業や、その動きを大きく後押しする投資家という立場に大きな可能性と魅力を感じるようになりました。

夫馬

 確かに、農業は課題が山積みですよね。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)でも、農業・食料の分野では、非常に多くの危機感が示されていますし、環境負荷を下げなら、飢餓削減に向けて生産量を上げなければならないなど、対策についても一筋縄ではいかない難しさがある。そうした中で、日本でのベンチャーファンド組成に着目した背景も教えていただけますか?

AgFunderマイケル・ディーン氏

 日本の食品市場は成熟したマーケットで、長年にわたってグローバル市場との接点がある企業が、たくさんあります。また、世界の大手機関投資家がESG投資を加速させている中で、世界中の企業がESG対応のプレッシャーを受け、日本企業もESGについて考え始めています。そうした状況から、日本には、サステナブルファイナンスの機会が多くあると考えています。

 そして、世界中の先進国の投資家の動きが、日本の投資エコシステムの変革ドライバーにもなってきています。投融資を行う上で、投融資先の企業がどれほど気候変動や感染症リスクを経営に統合しているかはとても重要なテーマであり、日本の企業や投資家の間で、アグリテックへの潜在需要が大きいのではないかと考えました。

SIJ小木曽氏

【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 5 私は、社会投資、特にインパクト投資の分野に世界銀行や財団などでここ10年間ほど関わっていますが、日本では、欧米と比べサステナブルファイナンスの浸透が遅れていることに課題感を持ってきました。日本国外のサステナブルな社会の実験に貢献するスタートアップ企業と、日本企業や日本の機関投資家との橋渡しとなるべく、複数のインパクトファンド組成を考えており、その中でも特に食品・農業に特化したのが今回のファンドです。

SIJブラッドリー・ブセット氏

 気候変動や二酸化炭素排出量は、今後15年から20年のうちに解決しなければならない問題です。日本ではこれまで、こうした課題へそれほど高い関心が払われてきませんでした。しかし今、転換点に来ているように感じています。

 UNDPでは、環境・社会課題の解決策と投資家のコネクション創出を支援してきましたが、今回のファンド組成では同じ役割を日本で担えると考えています。

夫馬

 農業・食料の分野では、EUの欧州委員会が早くからアグリテックの領域に着目してきましし、米国でもバイデン政権が誕生してから、同様の動きが加速しているようにみえます。米国やEUでの動きをどのように見ていますか?

AgFunderマイケル・ディーン氏

 サステナビリティやインパクトに関して世界で最も先進的なのは、間違いなくEUでしょう。欧州委員会では「Farm to Fork」戦略が策定されていますが、農業から食卓に並ぶまでバリューチェーン全体での二酸化炭素をどのように削減するかが問われています。農地のある発展途上国はもちろん、都市部への人口の集中がメガトレンドとして予測されているため、世界各地のメガシティにも強く関係してきます。

 米国は、バイデン政権に変わってから急速にキャッチアップしている状況です。パリ協定にも再加盟し、米農務省(USDA)や米環境保護庁(EPA)等が持続可能な農業システムへの政策転換を進めています。

 AgFunderが着目している分野の一つに、カーボン・ファーミングや土壌での炭素貯蔵がありますが、炭素税やクレジット購入については、ゴールド・スタンダードなどの機関が認定したカーボンクレジットが増加しており、EUを模したマーケットメカニズムが世界各国で設立され始めていますね。しかし現状、二酸化炭素排出削減量の算定や炭素のプライシングに関する検証の仕組みがないため、同分野のテクノロジーへの投資へは滞っています。

 そこで私達は、特に土壌や農業に関する二酸化炭素排出削減量測定に関する合意されたメソドロジーの開発に関心を持っており、そこへ更なる投資を行うつもりです。2030年までに国連持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには、現状の進捗から加速する必要があります。炭素税やクレジット市場は、重要な存在となるでしょう。

組成するファンドの概要

夫馬

 今回新たに組成するファンドの特徴や強みを教えてください。

SIJブラッドリー・ブセット氏

 大きく2つの特徴があります。1つ目は、ファンドを運営するAgFunderとSDGインパクトジャパンのチームが、サステナビリティに関する高い専門性を有していることです。サステナビリティに特化したベンチャーファンドは、世界的にも珍しい存在です。日本の機関投資家とグローバル市場の接点も作っていきたいと考えています。

 2つ目は、Agfunderが持つ世界中への幅広いネットワークが活用できることです。一般的なベンチャーファンドでは、日本や米国、シンガポール等のテクロジーを開拓するでしょうが、私達はむしろ農業の現場であるケニアやナイジェリア、インドネシア、フィリピン、インド等の発展途上国から革新的な食品・農業テクノロジーを見出し、スケールさせることも視野に入れています。具体的には、水消費量や肥料使用量を減らすことができる精密農業(プレシジョン農業)や代替肉に注目していますが、それに限らずバリューチェーン全体への対応できるグローバルネットワークがあります。

夫馬

 私もAgFunderのメディアの読者ですので、本当に広くネットワークを持ち、世界中の情報を集められ、配信されているように感じています。どのように、これ程までに強固なネットワークを構築されたのでしょうか。

AgFunderマイケル・ディーン氏

 黎明期から取り組み始めたことに尽きると思います。私はソーシャル・インパクトに関心があり、AgFunder創業以前に西アフリカで農業ビジネスを立ち上げ、小規模農家の支援を行っていました。2012年にはマリ北部での紛争も経験し、そこで地政学的リスクのある地域での事業活動や資金調達に課題を感じるようになりました。特に発展途上国では、農業の現場と投資家コミュニティとの間に分断があったんです。

 そこで私は2013年、シリコンバレーでAgFunderを創業し、食品・農業分野での新たなテクノロジーに特化したブログでの情報発信から始めました。金融のフィンテックやヘルスケアのメドテックの流れを見て、同じ流れが農業・食品にも来ると確信したため、投資家との橋渡しになろうと決めたんです。

 農業カンファレンスでのアグリテックに関する発信は、2012年頃から行っていました。しかし、耳を傾けてくれた人は当時ほとんどいませんでした。しかし、粘り強く業界カンファレンスに登壇し、アグリテックの重要性を呼びかけてきました。こうして、アグリテックの興隆という変遷の中に常にAgFunderは中心的な役割を担ってきましたし、多くの人に関わることで、強固なネットワークを築くことができました。

夫馬

 農業分野への投資に対しては、「投資リターンが低いのではないか」と悲観的にみる向きもあります。実際にアグリテックは、投資リターンの観点ではどうなのでしょうか。

SIJ小木曽氏

 これまでアグリテックやフードテックは、投資に対するリターンが控えめだと言われてきました。しかし、農業分野の重要性が高まり、リターン創出の観点でも転換点にきているように感じています。実際アグリフードテックへの投資は2020年には310億ドルに達し、2012年の8倍以上に増加しています。

 AgFunderが海外に強いネットワークを持っているため、まずは海外企業が投資対象ですが、今後は投資先を日本企業にも広げ、世界の環境・社会課題解決とリターンを両立するアジア初のインパクトに注力したベンチャーファンドを目指します。SDGsに基づいたインパクトKPIにより、投資先企業の環境・社会インパクトについて適切な評価を行っていきます。

注目のアグリテック領域

夫馬

 ファンドとして、具体的にどのようなテクノロジーに関心をお持ちでしょうか。今注目している新たなトレンドについてお聞かせください。

AgFunderマイケル・ディーン氏

 複数ありますが、環境制御型農業(CEA)や垂直農法等への関心は高いです。従来、食品生産を主要事業としていなかった上場企業が、環境制御型農業(CEA)や垂直農法を活用し始めています。投資家からの注目を集めており、過去2年間、多くの資金が集まっている分野です。

 気候変動により屋外での栽培が難しくなっていくため、環境制御型農業(CEA)のトレンドは今後も続くと考えています。但し、より高付加価値な穀物栽培へ移行していくでしょう。これまで注目されてきたのは、容易に屋内栽培が可能なレタスでしたが、既にいちごや生姜、ニンニク等の栽培も始まっています。開発者は、効率的な屋内栽培を検討しており、今後数年でロボティクスやオートメーションが進むでしょう。

 また先進国では、農産物の採取や包装にかかる労働者の賃金の高さが課題となっています。こうした分野でも、ロボティクスやオートメーションの潜在性があります。ディーゼルトラクターのEV化等による二酸化炭素排出量削減も期待されています。

 代替肉も関心を集めている分野でしょう。畜産では、肉牛の飼育過程でのメタン排出量や、動物福祉の観点から集約畜産・工業畜産が課題視。集約畜産・工業畜産を防ぐことのできる細胞農業には、資金が集中すると考えています。ややバブルの気もありますが、テクノロジーの進歩に伴い、スケールすると考え、AgFunderでは、すでに、日本の細胞培養スタートアップ企業インテグリカルチャーに投資しています。

 また代替肉では昨今、科学的なアプローチで、家畜の飼料から味に影響する分子を特定。味の開発も進んでいます。一般的には、ビヨンド・ミートとインポッシブル・フーズが二大企業ですが、AgFunderでは、代替ラム肉を製造するBlack Sheep Foodsへの投資も行っています。

 新型コロナウイルス・パンデミックで、効率的なサプライチェーンが求められるようになり、食品安全保障絡みでIoTも注目されています。IoT活用で商品のサプライチェーン上の移動をリアルタイムにモニタリング。適切な温度に保つだけでなく、廃棄のタイミングも正確に分かります。

 廃棄になった食品のリサイクルも重要です。食品廃棄を別の製品としてリサイクルする技術も開発されており、例えば、腐った牛乳から繊維やプラスチックを生産する企業も出てきています。

 この他にも、食品の栄養を凝縮し、食品企業が原料として使えるよう、食品の脱水・乾燥技術も注目。AgFunderでは、投資していないものの、水産養殖分野でも多くのテクノロジーが勃興しています。

夫馬

 ファンドの資金調達戦略についてお聞かせください。

SIJ小木曽氏

 サステナビリティ や新たなテクノロジーを模索する日本企業にとっては、R&Dや事業開発としてグローバルネットワークとのコネクションの創出やバリューアップに貢献できると考えています。また、私達のファンドの強みは、純粋に投資からのリターン収益を狙うだけでなく、グローバルでの業界ネットワークを構築できる機会を提供できることにあります。

SIJブラッドリー・ブセット氏

 SDGインパクトジャパンの役割は、エヴァンジェリストとして出資企業に対し情報提供を行っていくことにあると考えています。世界中のパートナー企業たちと協働し、食品・農業分野の環境・社会課題の解決を進めていきたいと考えています。

ベンチャーファンドの提供価値とパートナー企業への期待

夫馬

 昨今では、企業自身がCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)としてベンチャー企業に直接投資する動きも出ています。それと比べて企業がベンチャーキャピタルに出資をし、ベンチャーキャピタルを通じて間接的に投資を行うメリットは何でしょうか。

SIJ小木曽氏

 CVCの設立も自社のパートナーや投資先企業を見つける上で有効な手段ですが、私達のようなグローバルネットワークに強みのあるベンチャーキャピタルを通じた投資を行うことで、より幅広い選択肢を持つことができます。精密農業(プレシジョン農業)や代替肉に始まり、様々なテーマでテクノロジーをおさえていくため、企業のポートフォリオを多様化することができます。

SIJブラッドリー・ブセット氏

 強みとも重なるところですが、グローバルネットワークに加え、サステナビリティに関する高い専門性も重要な点です。私達サステナビリティ専門家の目を通し、厳選した企業に投資することができますね。

 ファンド組成は、2021年9月頃を予定しています。食品・農業分野の課題解決に向け、AgFunderと協働し、日本でのサステナブルファイナンス強化を進めていきたいと思います。

夫馬

 率直に、どのような企業にファンド出資していただきたいですか?

SIJブラッドリー・ブセット氏

 出資企業には、他の出資企業を次の次元に引き上げてくれるよう相互に切磋琢磨する存在であってほしいと考えています。そういう点で、サステナビリティの意義を深く理解している企業には、ぜひ出資していただきたいです。

SIJ小木曽氏

 インパクトファンドを、インパクトファンドたらしめるのは、評価観点だけでなく意思もあると考えています。ESG課題に対する深い理解と強い意思を期待したいです。

【対談】SDGインパクトジャパンがAgFunderと協働でファンド組成。農業分野の可能性 6

聞き手:
夫馬 賢治(株式会社ニューラル 代表取締役CEO)
執筆:
菊池 尚人(株式会社ニューラル 事業開発室長)

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