【インタビュー】笹川平和財団、日本初・アジア最大の女性支援インパクト投資ファンド始動 2018/02/15 事例を見る

 2017年9月、笹川平和財団がアジアで最大規模の投資総額となる女性支援型インパクト投資ファンドを設定した。インパクト投資は経済的利益を損なうことなく、教育、貧困、環境、医療等の社会的課題を解決する組織やプロジェクトに投資を行う金融手法の一つだ。欧米では、その高い効果性から、過去10年で大幅に拡大を遂げてきた。しかし、日本では大規模な取り組みはほとんど見られなかった。そのような中、笹川平和財団が、アジア向けの大型インパクト投資ファンドを組成したということで、今、世界中から大きな注目を浴びている。その全体設計に携わっている小木曽麻里氏に、世界的なインパクト投資の潮流、ファンド組成にあたっての苦労やローンチのアドバイスを伺った。

小木曽麻里氏の経歴


2016年1月より笹川平和財団国際事業企画部長を経て、現在ジェンダーイノベーション事業グループ長。2017年に運用総額100億円規模の「アジア女性インパクトファンド」を設定し、アジアにおける女性の機会創出とジェンダー格差是正の取り組みを行う。日本長期信用銀行、世界銀行グループ多国間投資保証機関(MIGA)東京事務所長、Kopernikアドバイザリーボード、ダルバーグ東京事務所長を歴任。東京大学経済学部卒業。タフツ大学フレッチャー校修士。国際開発機構海外投融資委員会有識者委員。2017年「Forbes世界で闘う日本の女性55名」に選ばれる。

笹川平和財団でのお仕事を教えて下さい。

 2年ほど前に笹川財団で現在の仕事を始めました。昨年から「アジア女性インパクトファンド」という新しいファンドの組成を手がけています。この他に、アジアの財団や、富裕層の資産運用や慈善活動を行うファミリー・オフィス向けに、アジアで年1回のインパクト投資会議を開催、また、ジェンダー投資についてもフォーラムを行っています。そして、日本国内で、STEMセクター(Science, Technology, Engineering and Mathematicsの頭文字をとった名称で、科学・技術・工学・数学・分野を利用した産業全体を指す。最後にMedicineを加え、医療分野を含むこともある。)の女性比率を向上すべく、日本の大学6校とジェンダーアセスメントの導入を進めています。STEMセクターは、国の基幹産業であるがゆえに、ダイバーシティの重要性が言われていますが、日本ではほぼ進んでいません。イギリスにAthena Swanという評価機関があり、STEMセクターの高等教育を受ける女性のキャリア支援に取り組む大学に、ゴールドメダル、シルバーメダル等を出しており、大学は取得したメダルの色により、申請できる国の補助金枠が異なるという措置を受けます。大学の補助金枠に制限がかかるため、どの大学でもかなり真剣に取り組まれており、こういった評価システムを日本の大学も取り組んで行くべきだという政策の推進も行っています。

「アジア女性インパクトファンド」

背景と概要

 最初に100億円規模のインパクト投資ファンドをやろうと話が出たときは、トピックを環境にするのかジェンダーにするのかまだ決まっていませんでした。ジェンダーに決まったタイミングで、ちょうどカナダ政府やオーストラリア政府が、アジアのジェンダープロジェクトを大々的に始めたタイミングにありました。女性、ジェンダー投資は世界で盛り上がっているテーマです。カナダは特に、世界的にジェンダー関連のプロジェクトを支援しており、アジアでの取り組みもその一環です。オーストラリア政府では、ジェンダー投資のみならず、ジェンダー平等推進に関するあらゆる分野の取り組みを行なっています。こうした動きの中で、今年はアジアのジェンダー投資元年になっています。Aspen Instituteの途上国支援組織、Aspen Network of Development Entrepreneurs(ANDE)がアジアに拠点を置きました。ロックフェラー財団の支援を受けて設立され、インパクト投資のエコシステム構築に大きく貢献してきたGIINもアジアでの活動拡大を模索しているようです。

 「アジア女性インパクトファンド」は、ファイナンス・アクセスと男女間の所得格差をなくすことを目的としており、原資の100億円をインパクト投資で運用、得られたリターンを東南アジアの女性起業家支援に充てるというコンセプトで、本体の運用は現在マイクロファイナンス機関等へ投資しています。得られたリターンによる女性支援では、ICT(情報・通信技術)トレーニングをマイクロソフトとともに実施しています。また、ジェンダーの定義が明確でないことが多いため、国連機関などの地域のパートナーと一緒に「ジェンダー50」というプログラムを作り、活躍する女性起業家50名を発表出来ないか立案しているところです。

 ファンド本体の運用は、上場の投資ファンドで運用を予定しています。ジェンダーにプラスのインパクトがあると笹川平和財団の基準で判断できる投資先を選定するという意味で、現在、その基準を作っているところです。また、現在アジアの女性に特化した上場金融商品がないため、これを自社で作れないかも検討しています。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が昨年選定したMSCI日本株女性活躍指数(WIN)がありますが、この指数は日本だけでアジア全体が含まれていません。よって、アジアでも作れないかとデータ収集をしています。マイクロファイナンスのみで100億円を運用するのではなく、年間10億から20億円ほどを数年かけて投資先を決めていく予定です。実際のリターンが出てくるのはまだ先ですので、本来運用リターンで行うグラント(寄付型助成金)事業は、現在のところ別会計から拠出しています。

 本体運用のマイクロファイナス投資は、スイスのBlue Orchardのフラッグシップ・ファンド「ブルーオーチャード・マイクロファイナンス・ファンド(DEXORCH:LX)」で一部を運用しています。目標リターンはドル建てで4%。現在、マイクロファイナンスの平均リターンが3%から4%のため、少し高めですが、4%としました。上場株式を入れればもっと上がるのでしょうが、マイクロファイナンスの良いところは、景気循環の影響を受けにくく、安定的に利回りが取れるところにあります。Blue Orchardは途上国開発に近い活動を展開する機関で、国連が作りました。JICAとともにアジア地域の女性のエンパワメントを支援するマイクロファイナンス・ファンド「JAPAN ASEAN Women Empowerment Fund」を組成した機関でもあります。アジアの女性支援ファンドに出資を当初は模索しましたが、アジア限定のものは残念ながら現在Blue Orchardの上場ファンドとしては存在せず、個別で設定するには投資資金規模が小さく不可能でした。今はグローバル規模のファンドに投資を始め、今後、アジアにフォーカスしたファンドができた時点で資金を移すつもりです。インパクト評価部分については、アジアに特化したインパクト評価を作成してもらう予定です。流動性にも問題はなく、運用資産総額が1,000億円ほどの上場ファンドのため売買の制限はそれほどありません。欧米ではマイクロファイナンス・ファンドでも規模の大きなものが出ていますが、これをテイラーメイドのファンドにするとその辺りの制限はもっと厳しくなるかもしれません。

協力を得られた外部機関

 グラント事業ではシンガポールのマイクロソフトが協力を申し出てくれました。東南アジアの女性は、良いビジネスアイデアを持っていてもテクノロジーに苦手意識のある人が多く、うまく事業化できないことがあります。この分野に女性が進出できていない現状を改善したいという思いもあり、ICTインキュベーションの機能をマイクロソフトに打診したところ、ぜひ一緒にやろうと言っていただけました。途上国の農村でも携帯アクセスは非常に進んでいます。パソコンや高度なシステムがない状況でも、簡単なアプリなどを開発してソーシャル分野の問題解決を進める組織を支援したいと思っています。

 また、KL Felicitas 財団や、エンジェル・インベスターのファミリー・オフィスが集まってインパクト投資を実践するToniic(トニック)などの欧米の財団の方からも親切に多くのアドバイスを頂きました。我々が直接実施したヒアリング以外でも、欧米のコンサルタントに依頼して30くらいの財団を対象にインタビュー調査を行いました。結果、多くの情報を惜しみなく共有頂けました。米国には財団のインパクト投資の研修をするMission Investors Exchangeという団体があり、当財団のスタッフもそこで研修を受けました。アジアでは、香港のRSグループはとてもお世話になりました。こちらは従業員5名で資産規模は20億円ほどのファミリー・オフィスです。比較的資産額の大きい笹川平和財団が参入することを歓迎してくれました。このように、海外では大きな反響があり、多大な協力が得られました。

立ち上げにあたってクリアすべきだった課題

 まず、マイクロファイナンスに運用資産をアロケーション(配分)することに、当財団の内部の承諾を得るのは容易ではありませんでした。マイクロファイナンスと言った瞬間に、「リスクが大きく怪しい」「リターンを犠牲にしているのではないか」という根強い意見がありました。こうした意見を覆すために、インパクト投資に理解のある運用投資委員会を別途創設し、専門家を集め、その意見を伝えていくことにしました。委員には、インパクト投資やベンチャーフィランソロピーを実践している方、元JICA職員、弁護士、著名なベンチャーキャピタルの方に入ってもらいました。しかし最大の成功要因は、インパクト投資分野に理解のある上司が当財団内にいてくれたことだったと考えています。そのおかげで、今回のファンド組成が実現しました。

 また、デューデリジェンスは金融機関に依頼しました。今後、アドバイザーとして、企業もしくは個人の方にも入ってもらうことも考えています。しかし、インパクト投資のアドバイザーができる人や組織が日本に多くありません。アジアという視点では、オーストラリアに候補となる面白い会社が数社あり、現在話を進めています。大手外資系コンサルティング会社にもサステナビリティ関連の事業がありますが、インパクト投資の知識が、まだそこまでないという印象も持っています。欧米ではファミリー・オフィスが多く、インパクト投資が進んでいるため、個人を含め多くのアドバイザーがいるのですが、日本ではまだそうしたエコシステムができていないのが現状です。したがって、アジアでこのような人材を育てたいという意識もあったのですが、残念ながら合致する人、組織が見つかっていません。アジアはインドを除き、投資ファンドも少なければ、専門プレイヤーも少なく、むしろアフリカの方が進んでいるほどです。

 さらに、国内の規制や法整備の遅れもあります。本体の運用で得られたリターンを、より小さなビジネスや起業家などに再投資、貸付ができないか考えているのですが、日本ではまだ事例がほとんどなく、現在、内閣府(財団の監督官庁)への申請方法について、法律関係の専門家と検討しています。というのも、これまで財団の資産運用を、寄付型の助成や補助金ではなく、リスクを伴い投資リターンの上がる再投資や貸付で実施した事例が国内にほとんどないためです。過去には、三菱復興支援財団が実施されたそうですが、東日本大震災の特例的な位置づけで許可が下りたようでした。欧米ではすでに、この分野の法整備が進んでおり、元々寄付や助成に充てていた資産を、積極的にインパクト投資等に充てる動きがあります。多くの財団がフィランソロピー投資を行っていますが、日本ではまだ整備が進んでいません。 

インパクト投資の潮流

欧米と日本、アジア

 マイクロファイナンスをはじめ、欧米では、インパクト投資が上場、非上場含めて大きな変化と流れができているのに対し、日本を含めアジア全体はだいぶ遠いところにあると感じます。アジア全体を調査しましたが、必ず名前が上がるのは、前述のRSという香港のファミリー・オフィスです。しかし、それ以外は名前が出てきません。最近、DBS(シンガポール銀行最大手)が財団を作り、インパクト投資のエコシステム支援をはじめたそうです。シンガポールは国家戦略として、特にテクノロジー分野の社会起業家支援を行なっているようです。

 欧米の関係者は、アジアではどこから火がつくのかに、非常に大きな関心を寄せていると感じます。中国のファミリー・オフィスも、香港で創設されファンドを設定してきており、運用はインパクト投資を検討しているようです。

日本のインパクト投資の現状と課題

 日本国内ではESG投資が盛んに言われ始めましたが、インパクト投資への関心は非常に低いと感じます。日本では、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)や休眠預金の活用といった分野で、国内向けのインパクト投資に徐々に関心が高まってきていますが、海外投資となるとさらに関心の度合いが下がってしまいます。今年2月に笹川平和財団も共催する「社会インパクト投資フォーラム2018」では、英国のロナルド・コーエン卿をお招きしています。彼は英国にて「G8社会的インパクト投資タスクフォース」を立ち上げ、ソーシャル・インパクト・ボンドを開始。インパクト投資の父と呼ばれています。彼は援助ではなく社会を変えるツールとしてインパクト投資を位置づけましたが、ビジネス系ではなく援助関係者が積極的に手法を採り入れました。同じく来日する、トニック(Toniic)共同創設者のチャーリー・クライスナー氏は、「インパクト投資はインテンション(意図)があり、評価が明確にできる」という定義の下、様々なデータを収集され、現在、チューリッヒ大学と協働研究を行っています。

 そうした経緯からか、インパクト投資には援助やフィランソロピーのイメージが強いことも認識しています。ESG投資は金融系、インパクト投資は財団やフィランソロフィーなど非金融系、関係者も異なるといったイメージがあるも事実です。しかし、インドをはじめ、様々な市場でインパクト投資のパフォーマンスがデータとして積み上がってくるにつれ、インパクト投資と既存の投資では、リターンに差が無いことが証明されつつあり、アジアのインパクト投資を実践してきた投資運用会社アビシュカール(Aavishkaar)は、リターンを犠牲にすることはないと言います。このあたりの理解が日本でももう少し進むとよいのかな、と思います。

インパクト投資ファンド組成の経験から

設定のプロセスを経て、発想が変わられたことはありますか?

 インパクト投資自体についての発想は変わっていませんが、フィランソロピーの役割が世界で大きく変わってきていると感じました。ハイリスクや寄付の部分は財団や政府開発援助(ODA)が担い、比較的ローリスクのトランシェに機関投資家を呼び込む「ブレンデッド・ファイナンス」というアプローチも生まれてきています。とりわけ、ODAは、リスクを許容できなかったり、ファースト・ロスや保証が取れなかったりしますので、その部分をフィランソロピーピーが埋めるという機能が求められています。伝統的な財団はそこまで動けていないですが、今後期待される役割として感じています。

 また、インパクト投資やESG投資は、最近では投資家よりの内容が多く語られるようになっていますが、フィランソロピーを志向するグループからは、長期に投資にする、貸付レートを低めにするなど、配慮が必要ではないかと言われています。投資家目線からするとギャップが生まれるわけですが、そこを財団が何とかできないか、というお話も聞きます。

インパクト投資成功のためのヒント、アドバイス

 まず、社内、組織内の反対をどう説得するか、という観点では、ビッグネームの相手と組むことで安心材料とすることができます。今回では、マイクロソフトであったり、JICAと連携した経験のあるBlue Orchardです。Blue Orchardについては、国連が設立した機関という安心感の上、USAID(米国際開発庁)も投資し、ドイツ政府も検討している等の政府の動きを伝えたところ、理解を得られました。国内投資だとGPIFの実績が大きな影響を与えるでしょう。GPIFが決めたことをきっかけに、他機関でも動きやすくなるのではないでしょうか。

 一方、アジアでも多くのインパクト投資の会議があるのですが、ほとんど日本人にはお目に掛かりません。こうした場で積極的に情報を集められると、肌で感じられるものはあると思います。インドでは、Sankalp(サンカルプ)という、社会的投資の推進団体が開催するソーシャル・ビジネスの国際会議が開催されています。韓国からは、香港、台湾、中国等と一緒に東アジアのプラットフォームを作れないか、と相談を受けたりもしています。

投資対象が日本国内となるといかがでしょうか?

 課題は評価だけだと思います。結局、インパクト投資と言われる所以は、「投資のインテンション(意図)があるか」と、「評価ができるか」の2点です。前者は分かりやすいですが、後者の評価ができるか、すなわち、データが取れるかどうか。それさえできれば問題なくできるはずだと個人的には思います。国内の社会課題を反映し、幅広いステークホルダーに受け入れられるインパクト評価システムがなければ前に進みにくいというのもあると思いますが、社会的インパクトの評価はやらなくてはならないという動きは、国内でも盛り上がっています。こうした動きと並行して、投資自体が促進されればと思います。そして、評価やそれぞれの役割を担うプレイヤーが日本国内で育つ環境設定は必要です。評価システムができ、ネットワークができ、プロダクトができ、エコシステムが構築されれば、前に進むのではないか、と期待しています。

 もう一つ気づいた点は、海外投資をする私たちと、国内投資を見ている機関では、なぜだか分断されています。諸外国の財団は海外も国内もカバーしていますが、日本では海外向けと国内向けで財団が分離しています。NGOも同じです。活動の場所は違えど、社会課題の解決を目指す組織同士、将来的に交流ができればと思います。

インタビューを終えて

 途上国開発やコミュニティ開発は、対象となる地域や分野にもよるが、従来の寄付型援助からビジネスモデルの形成を利用した持続可能な援助形態に移行しつつある。一方、これまでの伝統的な投資運用の世界では、政府が運用する公的な資金がESG投資で運用され、欧米富裕層の間で社会的リターンと投資リターンの両方を追うインパクト投資へのアセットアロケーション(資産配分)が進んだことから、社会的意義を問う投資手法の開発が進んだ。

 これまで全く別のものと考えられてきた、寄付型のチャリティ活動と従来の投資運用業の性質を分ける境目が薄まりつつある中で、それぞれの立場の団体が得意とする手法がどう具現化するか、日本でどのような展開が広がるのか、非常に興味深い。

 国内大手銀行から世界銀行へ、途上国開発の現場を政府レベルから草の根レベルまで歩んでこられた小木曽氏が、日本で例を見ない取り組みに正面から挑んでいらっしゃる力強さが印象的だった。ジェンダーの取り組みは女性が残す成果に正当な評価を行う外部環境の整備も必要であるが、彼女自身の働き方からは、女性が実績や結果を残す力を身につける重要性が伝わって来た。

聞き手:
夫馬 賢治(株式会社ニューラル 代表取締役社長)
宝本 美佐(株式会社ニューラル サステナビリティ研究所 コンサルタント/リサーチャー)

執筆:
宝本 美佐(株式会社ニューラル サステナビリティ研究所 コンサルタント/リサーチャー)

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