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【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等)

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近年、地球温暖化対策への関心が世界的に高まっており、カーボンニュートラルやESG投資に関する取り組みが世界各地で行われています。2020年10月、日本は2050年までにカーボンニュートラルになることを宣言しました。2021年4月には、菅首相が地球温暖化対策推進本部および米国主催の気候サミットにおいて、日本が2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指すと発表しました。日常生活でもSDGsに関しての取り組みやキーワードなどもよく見かけるようになってきました。サステナビリティに対する意識が高まる中、日本のエネルギー・電力の供給量割合がどのように変化したのか、紹介していきます。

日本のエネルギー・発電の供給量割合

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 1
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

こちらは経済産業省エネルギー庁が発表している「2021年度エネルギー白書」のデータです。この表は、日本の発電事業者全体での、石油、石炭、天然ガス、原子力、水力、再生可能エネルギー(風力、地熱、太陽光など)別の電源割合を示したものです。統計対象については、2016年度のエネルギー白書までは、旧一般電気事業者、すなわち「電力会社」10社(北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力)のみが集計対象(「電源開発の概要」「電力供給計画の概要」)でしたが、2017年度からは、製鉄や重工業メーカーや再生可能エネルギー発電事業者が主な主体となる独立系発電事業者(IPP)を含む発電事業者全体を集計対象(「総合エネルギー統計」)とする大きな変更がありました。それに伴い、2010年以降のデータも新手法により再計算されました。

この推移から、日本の発電の歴史が垣間見られます。発電の主要電源は、1965年頃までは水力、1973年の第一次オイルショックまでは石油、そしてその後は石油に変わって石炭とLNG、そして原子力が担っていきます。2011年の東日本大震災以降は、原子力発電の割合がほぼゼロにまで減り、その減少分の大半をLNGがカバーしています。

2019年時点で、割合が最も大きなものがLNGで37.1%、その他、石炭と石油を合わせた火力発電で75.7%を占めています。2018年度と比べてLNGと石油等のシェアが低減する一方で、新エネ等が増大しています。2015年度から前述の原子力発電所の再稼働が始まったことで、2019年度の発電量は638億kWhと増加しています。石炭火力発電所の2019年度の発電量は、前年度比1.9%減の3,262億kWhとなりました。

発電総量が2010年以降減少していることも、興味深いポイントです。東日本大震災から約8年経ち、市民の生活にはほぼ節電の印象はなくなりましたが、実際には電力会社の発電総量は当時の水準には戻っていません。日本が発電量を減らしながら持ちこたえている背景には、企業による節電努力があると言えそうです。また、2015年末の気候変動枠組み条約パリ条約で化石燃料、とりわけ石炭火力発電からの脱却が世界的なトレンドとなる中、日本では石炭火力発電の割合が2012年の31.0%から2019年の31.8%へと増加したことにも注目です。

各電力源の状況

水力発電(一般水力・揚水水力)

2017年度末の時点で、日本の一般水力発電所は、既存発電所数が計2,029か所、新規建設中のものが62か所に上りました。また、未開発は2,709カ所(既設・建設中の約1.3倍)で、総出力は1,884万kW(全体の約3分の2)となっています。しかし、未開発の一般水力発電(包括的水力発電)の平均発電量は5,122kWで、既開発・建設中の電源の平均発電量よりもかなり小さなものとなっています。また、他の電源に比べて相対的に高価であり、開発の大きな阻害要因となっています。今後は、農業用水などを利用した小水力発電の可能性を活かすことが重要になってきます。小規模水力発電は、地域のエネルギーの地産地消の促進にもつながります。

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

2012年に開始した固定価格買取制度により、2020年3月時点で51万kWの小水力発電が新たに運転を開始しており、今後も発展が期待されています。2019年度末時点で、一般水力発電と揚水発電を合わせた水力発電の設備容量は5,003万kWに達し、年間発電量は863億kWhとなっています。また、国際的に見ると、水力発電導入量の日本のシェアは約4%となりました。

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

石油等

下の図は1960年から2017年まで長期に渡る日本の原油輸入量の推移です。日本では、二度の石油危機を経験したことで、原油の輸入先が多角化しました。中国やインドネシアからの原油輸入を増やすことで、中東地域の比率は1967年度の91.2%から1987年度には67.9%まで低下しました。しかし、その後、中国や東南アジア諸国からの輸入が減少したため、中東への依存度が再び上昇し、2009年度には89.5%に達しました。2010年代に入ると、サハリンや東シベリアなどロシアからの原油輸入が増加したため、中東依存度は2009年度に比べて低下傾向にありました。2016年度にはロシアをはじめとするアジアからの輸入が減少し、中東への依存度は再び上昇に転じ、2019年度には89.6%に達しました。これに対し、2019年の米国の中東依存度は12.9%、欧州OECDは18.1%であり、日本の中東依存度は諸外国と比べて高い水準となっています。

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

アジアの産油国の石油需給の動向を見ると、国内の石油需要が増加し、これまで輸出されていた原油が国内にシフトしていることから、1990年に比べて原油の輸出量が減少していることがわかります。IEAは各加盟国に対し、石油の純輸入量の90日分以上の緊急備蓄を維持することを勧告していますが、日本は2020年3月時点で183日分の石油備蓄を保有しています。これは、加盟国30か国中4番目であり、平均 145.3日(23か国の平均)より多い日数の備蓄を有しています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 5
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

原油価格のトレンドはこの数年で急速に変化しています。リーマンショックの2009年頃から原油価格は急速に高騰していきましたが、2014年秋から反落、今は2019年頃の水準に回帰しています。背景には、シェールガスやシェールオイルにより米国を始め世界中で化石燃料供給量が一気に増え、それに対し従来は価格調整機能を果たしていたOPECが対抗するために原油産出量を減らさない方針を発表したことがありました。その結果、石油火力発電のコストは減少。しかし、その後、再びエネルギー需要の増加により価格は一旦持ち直したものの、2020年3月にCOVID-19が起こりました。この状況に対処するため、OPECは2020年3月に非OPEC諸国に追加減産を提案しましたが、ロシアがこの提案を拒否したため、協調減産自体が破綻し、崩壊しました。この結果を受けて、協調減産を主導していたサウジアラビアが態度を一変させ、増産を表明しました。市場は価格競争に突入するとみられ、原油価格は急落しました。原油価格の急落から2020年4月にOPECプラスは再び協調減産に合意しましたが、都市封鎖(ロックダウン)などで世界の石油需要は急減し、また原油の貯蔵能力の限界を超えるとの見方から、一時WTI原油はマイナス価格を記録するという前代未聞の状況を経験しました。その後はOPECプラスが合意した過去に例のない規模での協調減産の効果や、COVID-19禍ながら経済活動が徐々に再開されたことなどにより価格は緩やかに上昇しています。原油の輸入代金は、日本にとって無視できない負担となっています。近年の日本の総輸入金額に占める原油輸入金額の割合を見ると、2015年度に10%を下回って以降、9%から11%程度の水準が継続しており、2019年度は10.3%、金額で7兆9,772億円となっています。下の図は2020年1月以降の米WTI原油スポット価格の推移を表しています。

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

石炭

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

こちらのグラフは日本の石炭の国内生産量と輸入量の推移を示しています。2019年度、日本は、石炭の国内供給のほぼ全量(99.6%)を海外からの輸入に依存しました。日本の国内石炭生産量は、2000年代以降、年間120万トン前後で横ばいでしたが、2019年度の国内一般炭生産量は78万トンに減少しました。国内の一般炭は、そのほとんどが発電用に消費されています。2019年度は、原料炭の輸入量が7,070万トン、一般炭の輸入量が1億1,030万トンとなり、無煙炭を含む石炭の総輸入量は1億8,688万トンとなります。2019年度の輸入原料炭は7,070万トン、輸入一般炭は1億1,030万トンとなり、無煙炭を含む石炭の総輸入量は1億8,688万トンとなりました。同年の輸入一般炭のうち、オーストラリアが68.0%を占め、次いでインドネシア(12.4%)、ロシア(11.9%)、米国(3.7%)、カナダ(2.9%)の順となっています。このような環境の中、日本企業はオーストラリアを中心とした海外の炭鉱開発に積極的に参加してきましたが、近年、企業に環境への配慮を求めるESG投資への移行に伴い、海外の一般炭鉱から撤退する動きが出てきました。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 8
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

1990年以降、日本における輸入石炭価格(CIF価格)は、原料炭で4,000~10,000円/トン、一般炭で3,500~8,000円/トンの範囲で推移してきました。2000年代半ば以降、原油価格の上昇に伴って石炭の採掘コストや輸送コストが上昇し、これに世界的な石炭需要の増加が加わって石炭価格が高騰しましたが、2009年には世界金融危機の影響で急落しました。しかし、2011年には中国などの需要増により再び上昇。原料炭の輸入価格は、2017年3月に5年ぶりに20,000円/トン前後まで上昇した後、反動減があったものの再び上昇し、2019年5月時点では17,000~18,000円/トン台で推移しました。しかし、生産・輸出が堅調な一方で需要の伸びが鈍化したことで徐々に低下し、COVID-19で経済活動が停滞したこともあり、2020年7月以降は10,000円/トン台まで下落しました。一般炭の輸入価格は、2018年10月に1万4,000円/トン以上に上昇しましたが、その後は下落が続き、2020年8月以降は0.7万円/トンとなっています。国産石炭と輸入石炭の価格差は、1980年代後半から拡大しており、競争力の低下により生産量が減少しています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 9
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

2019年の世界の石炭消費量は、前年比1.7%減の76億466万トンと推計されています。2019年の石炭消費量の国別シェアを見ると、中国の消費量は38億1879万トンで、中国だけで世界全体の半分を消費してます。中国の石炭消費量は、2000年代に入って急速に増加し、2013年には40億トンを超えました。その後、大気汚染対策により2016年まで減少しましたが、2018年(前年比2.0%増)、2019年(前年比1.0%増)に再び増加しました。また中国とインド(総消費量の12.9%)で世界の石炭消費量の62.9%を占め、米国、ロシア、日本を含む上位5カ国で世界の石炭消費量の75.1%を占めています。日本の2019年の石炭消費量は1億8,571万トンで、世界第5位ですが、全体に占める割合は2.4%となっています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 10
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

中国が膨大な石炭を必要としている背景には、石炭を用いた火力発電の伸長があります。中国は現在、再生可能エネルギーや原子力発電の建設を推し進めていますが、火力発電、特に石炭火力にかなり依存しています。石炭は石油や天然ガスと比しても世界での埋蔵量が多く、今後も安定的なエネルギー源として用いられていく見込みですが、需給が逼迫すれば当然価格は高騰します。また、石炭は他のエネルギー源に比べ、燃焼による窒素加工物含有量や硫黄加工物含有量が多く、後処理をしなければ深刻な大気汚染を引き起こします。環境対策も今後の大きな課題です。大気汚染問題を重く見た中国は、エネルギー消費量全体は伸ばしつつも、石炭の消費量は2014年以降、減少に転じています。

石油・石炭・天然ガスの化合物含有量

天然ガス

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

ガスと言うと、お風呂やガスコンロで用いられるガスのことを想像するかもしれません。確かにガスという燃料はそのまま家庭用や産業用に「ガス」という状態のままで使用されています。ところが、実際の日本での消費量を見てみると、都市ガスとして使われているのは全体の30%弱にすぎず、ほとんどのガス燃料は、火力発電のための燃料して使われています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 12
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

天然ガスには、ガス採掘所から気体のままパイプラインを通して流通させるものと、一度冷却し液体状態にしたLNG(液化天然ガス)の2種類があります。ヨーロッパや米国では一般的に天然ガスはパイプラインで輸送されています。日本でも国内で採掘させる天然ガスはパイプラインで輸送されています。しかし国内天然ガスの採掘量は非常に少なく、日本は海外からの輸入天然ガスに頼っています。日本が輸入している多くの天然ガス産地は日本から離れており、LNGの形でタンカーに載って国内に入ってきています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 13
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

日本は現在電力の約35%を天然ガスで調達しています。では、その天然ガスはどこから輸入しているのでしょうか。特に、2012年度から最大のLNG輸入先となっているオーストラリアは、新たなLNG基地からのLNG輸入を徐々に開始しており、LNG輸入に占める割合は、2012年度の19.6%から2019年度には39.2%に拡大すると予想されています。一方、インドネシアは1980年代半ば、マレーシアは2000年代半ばにピークを迎え、その割合は年々減少しています。また、2014年度からパプアニューギニアからの輸入が始まり、2017年1月からはシェールガスを原料とする米国からのLNG輸入が始まるなど、供給源の多様化もさらに進んでいます。2019年には、日本の輸入量が世界のLNG貿易の22%を占めるようになりました。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 14(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

新潟県、千葉県、北海道を中心に生産されている国内天然ガスの生産量は、2019年度は約25億㎥(LNG換算で約173万トン)で、国内天然ガス消費量の2.2%を占めています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 15

(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

2011年度から2013年度にかけて、日本のLNG輸入CIF価格は、原油価格が3年連続で平均100ドル/バレルを超え続け、円建てLNG輸入CIF価格は2014年度に約87,000円/トンと過去最高を記録しました。2014年度後半には、国際原油価格の下落に伴い円建てLNG輸入価格も下落し、2016年度の円建てLNG輸入価格は約39,000円と、過去最高だった2014年度の半分以下の水準となりました。また、2017年度に国際原油価格が上昇に転じたことで、2018年度の円建てLNG輸入価格は約60,000円/トンに上昇しました。2019年度は再び原油価格が減少に転じ、また原油価格に連動しない米国産LNGやスポットLNG増加の影響もあり、1トン当たり5万円台に下がっています。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 16
(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

2019年の天然ガス生産量は約4.0兆㎥で、2009年から2019年にかけて、天然ガス生産量の年平均成長率は3.1%の伸びを記録しました。世界的な天然ガス消費量の増加を受けて、天然ガス資源の大規模な開発が進められています。2020年は原油価格下落の影響を受け、新規LNGプロジェクトの最終投資決定は低調でしたが、堅調なLNG需要に対応するためには、今後も新規プロジェクト投資が必要となります。また、GTL(Gas to Liquids)やDME(Di-Methyl Ether)など、天然ガスの新しい利用法の可能性を広げる技術の研究開発が進んでおり、すでに商業生産が行われているケースもあります。世界の多くの国でシェールガスやCBMなどの非在来型天然ガスの開発が計画されており、特に米国でのシェールガス増産が顕著です。米国におけるCBMの生産量は、2003年の53億㎥から2008年には572億㎥と10倍以上に増加しましたが、その後は減少し、2019年には257億㎥となりました。一方、シェールガスの生産量は2007年以降、着実かつ急速に増加し、2019年には7,860億㎥に達しています。

原子力発電

日本のエネルギー政策全体の大きな転換点となった東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から10年が経過しました。東日本大震災後に原子力発電所が全て稼働停止となりましたが、その後も2013年まで少量ながら原子力発電量が存在している理由は、関西電力の福井県大飯発電所の原子力発電所が一時的に再稼働されていたためです。もともと原子力発電は、日本の高度経済成長期に膨れ上がる電力需要を賄うため政府主導で進められてきました。1955年12月原子力基本法が成立し原子力利用の大枠が決定、1957年には原子力発電を行う事業者として日本原子力発電が発足します。1963年に日本初の原子力発電に成功し、1966年には日本初の原子力発電所・東海発電所が完成し、商用の営業運転を開始しました。「省資源・二酸化炭素排出量ゼロ・エネルギー安全保障の確立」という夢の技術として期待された原子力発電は、2011年の東日本大震災で社会の捉え方が大きく変化しました。その後全ての原子力発電所は全て活動を停止しましたが、2015年8月に九州電力の川内原子力発電所が運転を再開、2016年2月に関西電力の高浜原子力発電所が運転を再開しました。しかし同3月大津地方裁判所の仮処分を決定、高浜原子力発電所は運転を再び停止しました。その後、2016年8月には伊方原子力発電所、2018年3月には玄海原子力発電所が再稼働し、2021年3月末現在、東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所6、7号機、関西電力高浜発電所1、2号機、関西電力美浜発電所3号機、日本原子力発電東海第二発電所、東北電力女川原子力発電所2号機について、原子力規制委員会により、新規制基準適合に係る設置変更の許可がなされています。

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(出所)第23回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会

原子力発電の魅力的な点は発電コストの低さです。現在日本政府の検討会議で使われている比較データでも、原子力発電は最も発電コストの低い手法の一つとして扱われています。しかしこの発電コストの低さを強調する議論に対し、「原発事故が起こった場合の対策費用や社会的損失費用などがしっかり考慮されていない」といった、原子力の発電コストの計算方法に異議を唱える人々も少なくありません。そうした声を背景に、日本政府は2015年1月30日、経済産業省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に「発電コスト検証ワーキンググループ」を設置し、最新のエネルギー市場を踏まえて再度エネルギーコストを試算し、発電コストの見直しを行いました。

世界の主要原子力プラントメーカーの変遷
(出所)経済産業省エネルギー庁総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会「参考資料(事務局提出資料)

また、日本政府が原子力発電を推進したいもう一つの要因は、日本の原子力発電産業の振興です。かつて原子力発電の将来の国内の主要電源として位置づけてきた日本は、原子力技術は言わば長期にわたって官民で投資してきた分野。これを海外に輸出することを産業振興の一つの柱としてきました。世界の主要原子力プラントメーカーは再編が進み、現在は3つのグループに分かれています。1つが三菱・アレバグループ、2つ目が東芝・ウエスチングハウスグループ、そして日立・GEグループで、いずれにも日の丸電機メーカーが入っています。しかしながら、東日本大震災以後、日本国内での原子力に対する期待が大きく下がる中、韓国・中国・ロシアの新興原子力プラントメーカーが台頭してきており、日本の産業界からは危機感が募っています。

原子力発電の核燃料サイクル
(出所)日本原燃

原子力発電にはメルトダウンなどのリスク以外にも、放射性廃棄物の再処理・中間貯蔵・最終処分の問題があります。そのためもあり、日本政府が2018年7月に閣議決定した新しい「エネルギー計画」では、「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。」という方針が決まりました。しかしながら、全面廃止するという意味合いではなく、発電コストを下げるためにも、目下のところ経済産業省は原子力発電の再稼働に躍起になっています。

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により、日本では原子力発電による発電量が減少しましたが、2014年には再び増加に転じました。一方、欧米では、原子力発電所の新規建設は少ないものの、発電量の増加や設備利用率の向上などにより、発電量は増加傾向にあります。例えば米国では、スリーマイル島事故後の安全性向上のための自主的な取り組みにより、官民一体となって原子力発電所の稼働率を向上させた結果、近年は90%前後の稼働率を維持しています。一方、日本では、東日本大震災後、原子力発電所が長期にわたって停止しており、2015年8月に新規制基準の施行後初めて再稼働した九州電力川内原発1号機をはじめ、2021年3月までに9基の原子力発電所が再稼働したものの、稼働率は低迷しています。また、エネルギー需要が急増している新興国を中心に、新たな原子力発電所の導入や原子力発電所の増設が検討されています。

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(出所)経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021

再生可能エネルギー(新エネルギー)

最後に、「未来のエネルギー」と呼ばれてきた再生可能エネルギーの状況を見ていきましょう。再生可能エネルギーと一言で言っても実は定義は曖昧です。経済産業省は、再生可能エネルギーと新エネルギーの用語を使い分けており、再生可能エネルギーは広義で、太陽光発電(PV)、太陽熱発電(CSP)、風力発電、地熱発電、潮力発電、バイオマス発電、水力発電などを全て含みます。一方で新エネルギーは、再生可能エネルギーから大規模水力発電、フラッシュ方式地熱発電、空気熱発電、地中熱発電を除いたものを指します。ですが、実態としては専門家の間でも定義は今でも揺り動いていますし、外国にいけばなおさら定義は異なります。

日本の2014年の電力事業者が行っている発電のうち、新エネルギーが占める割合は3.2%。震災前の2009年には1.1%でしたので多少は増えましたが、それでも微々たる数値です。期待されてもなかなか日本で導入が進んでこなかった理由はコスト面です。原子力発電所のコーナーでご紹介したように、再生可能エネルギーのコストは比較的高いと計算されているのです。しかしながら、近年諸外国では再生可能エネルギーは積極的に導入されてきており、技術革新が進展。結果として、コストはどんどん下がってきています。

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(出所)IRENA

こちらは国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が発表したデータです。再生可能エネルギーの発電コストについて、2010年と2019年を比べたものですが、太陽光(PV)、太陽熱(CSP)でコストが大きく下がり、風力もコストが低減していることが見て取れます。背景には、太陽光発電パネルメーカーも風力発電機メーカーもグローバル規模で熾烈な企業競争があります。とりわけ、中国やインドなどの新興国メーカーの台頭が目覚ましく、それらが発電コストをどんどん押し下げてくれています。日本政府も、固定価格買取(FIT)制度を2012年に本格開始しました。固定価格買取制度の導入により、再生可能エネルギーに対する投資回収の見込みが安定化したこともあり、制度開始後、2018年度末までに運転を開始した再生可能エネルギー発電設備は制度開始前と比較して約2.3倍に増加しています。2022年4月1日より、固定価格買取制度(FIT)に加えて、再生可能エネルギー発電事業者の投資の予見性を確保しつつ、市場を意識した行動を促すために、市場価格に応じた固定のプレミアムを提供するFIP制度が創設される予定です。

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(出所)METI

上の図は、経済産業省より入手した2019年度の再生可能エネルギー導入状況です。近年の世界的なエネルギー需要の急増を背景に、これまでと同じ質と量の化石燃料の確保が困難になることが懸念されています。このような状況に対応し、低炭素社会を実現するために、再生可能エネルギーの需要が高まっています。2010年6月に改訂された日本政府の「第3次エネルギー基本計画」では、原子力発電と再生可能エネルギー(水力含む)の比率を、2020年までに50%、2030年までに70%とする計画を打ち上げました。さらに、その中で、再生可能エネルギーが占める割合を、2020年までに全体の10%に達するという計画も含まれました。しかし、東日本大震災によって計画は方向性を失い、2018年7月の「第5次エネルギー計画」では、2030年目標として水力と再生可能エネルギーで22%から24%、原子力を20%から22%としています。

では、再生可能エネルギーはやはり期待できない電力源なのでしょうか。国際機関の分析によると、日本の再生可能エネルギーの設備容量は世界第6位、太陽光発電の設備容量は世界第3位となっています。日本の発電量はこの6年間で約3倍に増加しており、世界で最も成長している国の一つと言えます。しかし、日本の発電における再生可能エネルギー割合は8.2%(バイオマス発電が3.3%で牽引)です。この数値で比較するとドイツはそれぞれ27.1%、同じ島国英国は23.8%、デンマークはなんと68.0%です。また、各国ではCOVID-19の間にさらに再生可能エネルギー投資を活発化させており、年々この差は開いていきそうです。

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(出所)METI

電力の行方

電力問題の課題には基本的に2つの大きなテーマがあります。

  1. ピーク電力需要の削減(ピークシフト・ピークカット)
  2. バッテリーと水素蓄電

ピーク電力需要の削減とは、1年や1日の中で最も電気を必要とする時間帯の電気使用量を減らすということです。電気は1日中満遍なく使われているわけではありません。基本的には夏の昼間が最も電力需要が大きく、春秋の夜は電力需要が著しく低下します。すなわち1日をかけて電力消費量を減らす必要はなく、ピーク時の電力需要を削減できれば発電容量を大きくする必要がなくなるというわけです。そこでピークシフトとピークカットという考え方が出てきます。ピークシフトとはピーク時に節電しピーク時でないとき電気を使うという電力需要の差を平準化する試みです。その方策としては、ピークでないときに蓄電してピーク時に使用するという供給側の対策と、電気料金を時間帯ごとに変えピーク時に高くそれ以外に安くすることで利用者のピーク時以外利用を促すという需要側の対策の2つが大きく検討されています。ピークカットとは節電技術を開発・導入して常時電力を下げるという方法と、ピーク時に活用できる太陽光発電などを利用してピーク時の商用発電量を減らすという方法があります。

日本が目指す再生可能エネルギーの大量導入には、電力需要のピークを抑えるための蓄電対策に加え、出力変動を吸収するための大量の蓄電システムが必要となります。そこで注目されているのが、水素エネルギー貯蔵の可能性です。Power to Gas(P2G)は、不安定な再生可能エネルギーの余剰電力を利用して水素を製造・貯蔵・利用するシステムで、貯蔵した水素はいつでも燃料電池で電気として取り出すことができます。蓄電池と水素を比較すると、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵するという点では同じですが、蓄電池は変換部分と貯蔵部分が一体化しているため、大容量を実現するためにはコストのかかる蓄電池をいくつも並べる必要があります。一方、水素は貯蔵部(ガスタンク)を追加するだけで簡単かつ安価に容量を増やすことができ、また、水素貯蔵は既存の蓄電池に比べて大容量の電気を長時間貯蔵できるというメリットもあります。日本におけるP2Gはまだ始まったばかりですが、今後の再生可能エネルギーの拡大のためには必須の技術です。欧州で活躍している水電解システム、水素エネルギー貯蔵システム、燃料電池システムなど、P2Gに必要な技術は、いずれも日本が得意とする技術であり、これらの技術を普及させることで、再生可能エネルギー発電の大量導入を実現することができます。

電力の問題は、今や地球環境の問題と密接に関連してきています。日本が目指すカーボンニュートラルへの挑戦は簡単なことではなく、あらゆるリソースを最大限投入し、経済と環境の好循環を生み出していくことが重要です。これはエネルギーも含めてです。電力や再生可能エネルギーについて基本的な内容を知った後は、国連や経済界が今後の世界がどうなっていくと予測しているのかもおさえておきましょう。またESGの話題についても理解しておくと、今の世の中や将来についての視界が開けてくると思います。

【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 23【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 24【エネルギー】日本の発電力の供給量割合[2021年版](火力・水力・原子力・風力・地熱・太陽光等) 25

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氷室 壮一朗

ESGリサーチャー

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