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【人権】トルコでのシリア難民の児童労働、企業イニシアチブでの対応~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~

turkey

 英国放送協会(BBC)のドキュメンタリー「パノラマ」で、トルコの衣料品工場において、シリア難民の児童労働や不法労働により欧州の衣料品ブランド向けの衣服が製造されていることが報道された。

 トルコは国際的な調達先として人気が高く、高品質の製品を迅速に生産するために急成長しており、バングラデシュと中国に次いで欧州への衣料品と皮革製品に関して3番目の輸出国となっている。その一方でトルコは、昨今のシリア国内の内戦を受けて、過去5年間で約300万人のシリア難民を受け入れているが、そのシリア難民に対するトルコでの対応が十分でない状況があることを、この度BBCパノラマが報道した。

 2016年10月24日に報道されたこの番組では、トルコの工場を潜入調査し、児童労働によって英マークス・アンド・スペンサー、ASOS向けの衣服を製造していたことを報道。またZARAとMango向けのジーンズ製造工場では、シリア難民が1日12時間以上労働することを余儀なくされ、ジーンズを漂白する有害な化学物質の噴霧に従事し、それら労働者に保護具着用がなされていない状況を伝えている。シリア難民の労働者は、トルコの最低賃金をはるかに下回る非常に低い賃金で過酷な労働環境で働かせられ、労働搾取の状況下にあり、彼ら自体ではどうすることもできない非常に弱い立場にいるとしている。またほとんどの難民は労働許可証を持たず、多くは衣服業界で不法に働いていて、路上の仲買人を通じて雇用されている状況がある。

 今回報道されたASOSのCEOニック・ビートン氏は、ウェブサイト上で声明を発表し次のように述べている。「世界のサプライチェーン上で何が起こっているかに注意を払うことは、単なる選択肢ではなく、極めて重要なことである。トルコは難民が大量に流入していて、現在、特に我々の大きな課題となってきている。」また、「パノラマが提起した問題だが、この工場は、我々が監査し認可した工場ではなく、未承認の工場で製造委託がなされている状況であった。これは、非常に難しいことだが、全ての衣服がどこで作られているのかを我々が知るまで継続する問題であり、最終的に達成しなければならないこととして認識している。我々はその仕事を他国へ変更することもできるが、それは無責任だと考えており、トルコにそのまま滞在し、そしてそのシステムの中で仕事を行うことで、我々のサプライチェーンにおいて、良い倫理的取引を確立することが高く意識され、脆弱な人々の支援に引き続き貢献していくことができると考えている。」と述べる。

 またマークス・アンド・スペンサーの広報担当者は、BBCのこの調査結果が、「非常に深刻」かつ「容認できない」ことであると述べ、「倫理的な取引は、マークス・アンド・スペンサーにとって基礎となるものであり、当社のサプライヤーはすべて、契約上、当社が期待する従業員の処遇をカバーする『グローバル調達原則』を遵守する必要がある。我々はこれらの原則の違反を容認することはできず、これが再び起こらないようにできる限りの努力をする」とは述べている。

 筆者は、11月下旬にロンドンのカンファレンスで、マークス・アンド・スペンサーの持続可能な開発マネージャーのフィオナ・ウィートリー氏に会う機会があり、彼女からこの件について直接話を伺った。ウィートリー氏曰く、「短期間での反応に対してとても難しさを感じている。マークス・アンド・スペンサー単独では、トルコの現地で、我々の全てのサプライヤーにアプローチし契約状況を確認するなど実態を確認し、救済を含めた対応を行うことを考えている。長期的には、どのように我々がこのグローバルな課題に対して対応するのかということだが、システマティックに対応することが必要であり、他団体、企業とコレボレーションを行うことが必要と考えている。」と述べている。

 この問題は、直接の1次サプライヤーということではなく、2次、3次サプライヤー、さらにその先の上流において問題が発生している可能性があり、対応することは簡単ではないとしている。それ故に、自社単独で実施できる内容と、イニシアチブなどの活用により、より長期的な視野で包括的に関連団体や同業他社との連携により問題へ対処する内容があり、それぞれ実施していくことが必要だということをASOS、そしてマークス・アンド・スペンサーともに語っている。

 これらトルコの衣料品工場に発注しているこれら欧州企業は、今回BBCパノラマが提起した問題に対して、関連団体との連携により既に状況を理解し、これまでも取り組みを行ってきている。

 その一つとして英国ETI(Ethical Trading Initiative)がある。ETIは2014年後半に、既にシリア難民の不法雇用に起因するトルコのサプライチェーンにおける問題について懸念を表明。今回報道されたマークス・アンド・スペンサー、ASOS、Inditex(ZARA)などの、ETIのメンバー企業は、トルコでの調達を行っていたため関心を示し、責任ある企業としてこの問題に対処し、労働搾取を根絶するために、ETIに援助を求めた。この動きは、企業単独での対応では限界があるとされ、イニシアチブを立ち上げ、企業とNGO、そして労働組合をも巻き込んで対応しようとするものだ。

 ETIは、この問題に関係するイニシアチブとして「トルコの衣服分野で働くシリア難民プログラム」を立ち上げ支援している。ETIは、詳細な議論の後、FLA(公正労働協会)とも協力し、2015年3月にイスタンブールで会合を開き、行動のロードマップにも合意している。その対応策として現在は地域のビジネスと人権のプラットフォームの確立や、ビジネスと人権のデューデリジェンスのリソース開発、そしてより良い苦情処理メカニズムの開発の支援を行っている。

 このように、欧州企業は、サプライチェーン上での課題に対してETIのような中立的な立場の団体や、NGOと協働しイニシアチブを立ち上げ、競合関係にある企業とも協力して課題解決に向けた行動を行っている。今回の事例は欧州に近いトルコでの課題対応だが、欧州企業もアジアにサプライチェーンがあり、アジアでの課題対応においてもイニシアチブにより行動を起こしていくことが今後増えていくものと思われる。そしてアジアのサプライチェーンにおいても、欧米企業と日本企業が重なる部分があり、今後このようなイニシアチブを協働で行っていく可能性も予想される。日本企業同士の協働作業ではない、欧米企業との協働作業を視野にいれることが今後必要となる。

【参考】RepRisk、小売業界のリスク報告書サマリーを発表。世界トップ10社のリスク度を公開(2016年1月4日)

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サステイナビジョン 代表取締役 下田屋毅

(ロンドン在住CSR/サステナビリティ・トレーナー)

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