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【物流】ヤマト運輸が展開する「客貨混載」。温室効果ガス削減と地域貢献の二大効果

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 物流大手のヤマト運輸が「客貨混載」という取組を拡大しています。客貨混載(きゃくかこんさい)とは、人と貨物を同じ車両で一緒に運ぶこと。通常、運輸・物流の世界では「客貨分離」と呼ばれる旅客(人間)と貨物(モノ)の運搬を分けて行うことが多くなっていました。例えば電車では、旅客列車と貨物列車は別々に運行されています。同様に、航空分野でも旅客機と貨物機は別の機体で運航されていることが一般的です。旅客と貨物は運航において配慮する点が異なるため、これまで客貨分離は理に適った効率的な手段だと言われてきましたが、今、ヤマト運輸は「客貨混載」という手法に着目しています。

 ヤマト運輸が最初に客貨混載を導入したのは2015年6月3日、舞台は岩手県です。ヤマト運輸は現地のバス運行会社である岩手県北自動車と連携し、岩手県中部の盛岡市-宮古市(約90km)を結ぶ路線で客貨混載を開始しました。同地は、過疎化や高齢化が進む中山間地帯にあり、路線利用客の減少からバス路線の存続そのものが危ぶまれている地域です。仕組みは、まず岩手県北自動車の運航バスの座席の一部を荷台スペースに改造し、ヤマト運輸の宅急便を積載できるようにします。そして、盛岡市-宮古市の路線では、盛岡市地域と宮古市地域のそれぞれの地域の宅急便の集配送はヤマト運輸が自身で行いますが、ヤマト運輸の盛岡市の営業所と宮古市の営業所の間の宅急便の輸送は、岩手県北自動車の都市間路線バスが替わりに実施するというものです。さらに同時に、宮古市内ー同市重茂半島(約18km)を結ぶ一般路線バスの「重茂路線バス」でも同様の取組を開始しました。なんだか回りくどい方法のようにも思えますが、これには大きなメリットがあります。

 まず、ヤマト運輸のメリット。ヤマト運輸としては、盛岡市ー宮古市の区間のトラック輸送を一部取りやめることができるため、まずトラック代や燃料費を節約することができます。また、それに伴い、燃料やトラックによって発生していた二酸化炭素排出量も削減できます。日本の部門別二酸化炭素排出量のうち、運輸部門の排出量は、発電などエネルギー部門、工場など産業部門に次いで3番目に多く、客貨混載によって二酸化炭素排出量を削減できることは大きな意味を持ちます。

 バスを運行する岩手県北自動車にもメリットがあります。岩手県北自動車は、ヤマト運輸の荷物を同社のバスが代行輸送するというサービスが、新たな収入源になります。とりわけ過疎地では赤字路線が発生していることが多く、路線からの新たな収入はバス路線網の維持につながります。当然このことは地域住民にとっても大きなメリットとなります。路線バスの維持は、病院やスーパーなどへの移動が容易になり、生活基盤の維持や向上につながります。その上、地域住民にとって客貨混載は別のメリットもあります。ヤマト運輸のドライバーは、盛岡市と宮古市のそれぞれの担当地域に滞在する時間が長くできることから、日々の集荷や配送の最終時刻を延長することが可能となり、地域住民にとって利便性が向上するのです。

 ヤマト運輸は、この夢のような三方良しの取組を、過疎に悩む全国地域へと拡大しようとしています。同年9月には、宮崎県の宮崎交通と連携し、同県中部の西都市ー西米良村(約45km)を結ぶ路線バスで客貨混載を開始。2016年6月には同じく宮崎交通と連携し、同県北部の延岡市-高千穂町(約50km)、諸塚村-日向市(約50km)を結ぶ2路線でも開始します。続いて9月には北海道の名士バス、士別軌道、十勝バスの3社と一斉に連携し、名寄市-美深町(約20km)、名寄市-下川町(約20km)、士別市-朝日町(約20km)、足寄町-陸別町(約35km)の4路線で、10月には熊本県の産交バスと連携し、熊本県南部の人吉市-五木村(約30km)を結ぶ路線で客貨混載を開始しました。いずれも深刻な過疎地域で、バスだけでなく最近ではJR路線の廃止なども取り沙汰されたりしている地域でもあります。

 パナソニックも、別の角度から運輸分野での二酸化炭素排出量削減に資する取組を開始します。今年10月、同社は福井県で「宅配ボックス実証実験」を11月から開始すると発表しました。「宅配ボックス実証実験」は、同社の戸建住宅用宅配ボックスを一般世帯に配置、留守中でもこのボックスに荷物を投下することで再配達の手間をなくすというものです。再配達は荷物を受け取る人にとってもストレスとなるだけでなく、再配達をする宅配事業者にとっても大きな負担。同社によると、宅配便配達の走行距離のうち25%は再配達のために費やされているという結果も出ており、再配達だけで年間約42万トンの二酸化炭素(JR山手線の内側の約2.5倍の面積の杉林が吸収するのと同じ量)が排出されていると言います。また、再配達が減ることで、宅配事業者の労働時間の削減にもなります。パナソニックはこの実証実験を、日本郵便、ヤマト運輸、そして現地の福井県あわら市と共同で実施していきます。

 二酸化炭素排出量の削減、過疎地域の赤字路線問題、従業員の労働時間削減。どれも現代社会において重要なテーマですが、ついつい私たちはそれぞれを別の問題として考えがちです。ともすると、何を優先し、何を犠牲にするのかという、問題それぞれを二者択一で考えたりしてしまうこともあります。しかし、今回ヤマト運輸やパナソニックが編み出した作戦は、これらを同時に解決してしまうというもの。最近企業の間でも意識するところが増えてきた国連持続可能な開発原則(SDGs)に照らし合わせると、二酸化炭素排出量の削減は、「目標13 気候変動に具体的な対策を」、過疎地域の赤字路線問題は、「目標11 住みつづけられる街づくりを」、従業員の労働時間削減は、「目標8 働きがいも経済成長も」に該当します。発想は変えた素晴らしいアイデアは、企業の新たな収入源を創出しながら、自然にSDGsの貢献にもつながっていきます。

【参照ページ】路線バスを活用した宅急便輸送「貨客混載」の開始について
【参照ページ】西日本初!路線バスが宅急便を輸送する「客貨混載(きゃくかこんさい)」の開始
【参照ページ】路線バスが宅急便を輸送する「客貨混載」の路線拡大
【参照ページ】北海道で路線バスが宅急便を輸送する「客貨混載」を開始
【参照ページ】熊本県で路線バスが宅急便を輸送する「客貨混載」の開始
【参照ページ】「宅配ボックス実証実験」をスタート

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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