【対談】北九州市はなぜSDGsで旗を挙げたのか 〜地方行政と未来課題〜 2019/05/30 事例を見る

【対談】北九州市はなぜSDGsで旗を挙げたのか 〜地方行政と未来課題〜 1
 
 国連持続可能な開発目標(SDGs)に対する国内での関心が高まる中、地方自治体としてよく名前があがる都市がある。福岡県の政令指定都市の一つ、北九州市だ。2017年12月に、外務省の第1回「ジャパンSDGs アワード」で受賞団体の1つに選ばれ、2018年4月には、国際機関の経済協力開発機構(OECD)から、「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」の一つに選ばれた。さらに同6月、内閣府から「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれた。同7月には国連本部での国連会合(国連ハイレベル政治フォーラム)において、日本の自治体の代表として、北九州市長がプレゼンテーションを行うまでに至っている。

 だが、もともと地方自治体が日々携わっている地方創生、福祉、教育、環境などは、どれもSDGsと関連性の高いものばかりだ。2015年に国連でSDGsを採択する前から、当たり前のようにこれらの事業を行ってきた。では一体、北九州市がいまSDGsに着目する理由は何だろうか。今回、北九州市財政局財務部財政課の山口浩二係長と、当社CEO夫馬賢治との対談が実現した。

SDGsを意識し始めた背景

夫馬

 これまでSDGsやサステナビリティの分野では国や企業の話題が中心でした。しかし、その一方、地方行政が担う役割に対しても、世界的にスポットライトが当たるようになってきています。そういうタイミングで、北九州市さんがどーんとSDGsで狼煙を上げた。どんな背景があったんですか?

山口氏

【対談】北九州市はなぜSDGsで旗を挙げたのか 〜地方行政と未来課題〜 2 北九州市のSDGsの話を語るには、時代をもっと遡る必要があります。皆さんの中では、北九州市といえば「八幡製鐵所」「北九州工業地帯」というようなイメージがあると思いますが、実際に高度経済成長期には公害問題に苦しんでいました。

 どのぐらい深刻だったかというと、市民から「家の中がざらつく」「洗濯物が汚れる」といった声が寄せられたり、また、子どもたちが絵を描くと空は黒や灰色で郊外に遠足にいくと「どうしてここの空が青いの?」という質問が出てくるぐらい、大気汚染が進んでいました。

 そこで公害克服の運動の先頭に立ったのが地域の婦人会の方々です。環境汚染のない街づくりを求める声をあげ、それが行政や企業を動かしていきました。なので、北九州市での環境への取り組みは、市民運動から始まったと言えると思います。北九州市としても、公害対策組織を整備するとともに、公害防止対策を進めるために必要な財政措置や規制制度の整備、企業との協定の締結や被害者の救済など実施しました。

夫馬

 なるほど。工業都市だったからこそ、逆に環境への意識が早くから芽生えていくんですね。

山口氏

 そうなんです。1997年には日本最大級となるエコタウン事業もはじめました。循環型社会を謳い、リサイクルを推進するというコンセプトです。こちらには、780億円の投資を行い、現在1,000人の雇用を生んでいます。毎年10万人近くが見学に訪れ、循環型社会のあり方を学びに来られています。最近では、長年培ってきた廃棄物管理、エネルギー、上下水道、環境保全など環境技術を、北九州市の企業とともに海外へ輸出しています。こうした形で、北九州市は自然と環境都市として世界をリードしようという考え方が出てきました。

夫馬

 SDGsという言葉だけみると、2015年以降に何かを始めたような印象を持ってしまいますが、北九州市では以前からの取組の延長線として自然へとSDGsへとつながっていくわけですね。

山口氏

 そのとおりです。北九州市は、2011年に国から「環境未来都市」に選定されました。そして2018年に国から再び「SDGs未来都市」に選定されたのですが、全ての動きはつながっているわけです。

 環境未来都市からSDGs未来都市へと発展していく中で、環境以外の要素も行政の構想に採り入れ始めました。2018年に策定した「SDGs未来都市計画」では、優先的に取り組むゴールに関しての2030年目標を定めました。例えば環境分野では、再生可能エネルギー導入量を2018年7月の2倍以上である700MWにまで引き上げるとともに、家庭ごみの量を2018年7月の16.4万tから16.0万tに削減していきます。アジアの環境人材育成のための研修員の延べ受入数も2018年3月時点の9,083人から10,000人に増やします。

 他にも社会観点から、市全ての属機関等の女性委員の参画率を2030年までに半数以上にまで向上させ、就業率でも現在の52.8%から56.7%に高めていきます。従業員一人あたりの市内GDPも現在の802万円から932万円に16%以上伸ばします。

北九州市と人口

夫馬

【対談】北九州市はなぜSDGsで旗を挙げたのか 〜地方行政と未来課題〜 3 SDGsというスローガンだけでなく、具体的な長期目標設定までしているとはさすがですね。一方で、北九州市には人口減少という負のイメージも付きまとっているように思います。北九州市は1980年代まで政令指定都市らしく人口も100万人を超え、県庁所在地の福岡市よりも人口が多かった。しかし、その後人口は減少し現在は96万人。市民の市外への転出が原因とも言われています。2045年頃には77万人にまで減っていくという専門家の推計もあります。

山口氏

 確かに北九州市は人口減少を経験してきました。ですが近年、状況は大きく改善していますので、ぜひそのあたりを今日はしっかりお話させてください(笑)。北九州市は、住みよいまちづくりを目指し、経済、雇用、子育て、高齢者の活躍等、様々な施策を打っています。その結果、市内から市外への転出した人口の数は、2015年は約2,500人だったのですが、そこから毎年減り、2018年は700人まできました。宝島社の「田舎暮らしの本2019年2月号」の「住みたい田舎ベストランキング」では「シニア世代部門」で2年連続1位、NPO法人エガリテ大手前の「次世代育成環境ランキング」では2018年度まで8年連続1位を取得しています。

夫馬

 転出を減らしてきたのはすごいですね。北九州市は、どんな点で高く評価されていますか?

山口氏

【対談】北九州市はなぜSDGsで旗を挙げたのか 〜地方行政と未来課題〜 4 いくつかの点があります。北九州市は、電車やバス、モノレールなどの公共交通機関が整備されており、平均通勤時間は24分と短い。これは市内の企業にとって大きな魅力になります。さらに、新幹線、空港、フェリー港も市内にあり、非常に交通インフラに恵まれていると言えます。それに加えて、物価が安い。政令指定都市では最も物価が安い点も住みよい環境といえます。

 医療機関が充実している点も大きいです。人口10万人当たりの病床数は政令指定都市で熊本市に次いで第2位です。北九州市は、かつては治安面を懸念する声もありましたが、刑法犯認知件数は、2002年をピークに急減し、2017年は約5分の1にまで激減。政令指定都市の平均と比較しても低い状況にあります。

 こうした住みやすい北九州市を知っていただくために、映画やドラマのロケ誘致も積極的に行っており、日本初のフィルム・コミッション組織も立ち上げました。2017年だけでも、映画11本、テレビドラマ13本、CM等20本の撮影が北九州市でなされました。

北九州市と子育て

夫馬

 住みやすさという観点では、子育て面はどうでしょうか。昨今、「待機児童」問題が大きく取り沙汰されていますが。

山口氏

 いいパスをありがとうございます(笑)。北九州市は、2011年度から2018年度まで一貫して年度当初の待機児童がゼロなんです。保育園や幼稚園を探す、いわゆる「保活」のストレスがありません。保護者が外出先で容易にオムツ替えや授乳ができる施設を開放する「赤ちゃんの駅」も全国で初めて民間事業者と協力して事業化しました。放課後児童クラブでも、全国に先駆けて「全児童化」を実現。小学6年生まで希望すれば、誰でも放課後児童クラブを活用することができます。

 併せて、女性の雇用支援も手厚くしています。行政の雇用サポートは、国、県、市が各々制度を運営しており分かりづらい面があります。そこで、北九州市は、政令指定都市として全国で初めて、国・県・市が一体となって女性の就業支援やキャリアアップ支援、子育てとの両立など「はたらく」ことをワンストップでサポートする「ウーマンワークカフェ」を開設しました。実際に新規利用者数は50%ほど増加しました。

夫馬

 自治体が行政サービスを手厚くしていくのは素敵なことだと思いますが、一方で自治体としては財政の健全性も同時に追わなければなりません。特に、人口減少のリスクが叫ばれる日本では、財政は非常に重要なテーマとなりますよね。

山口氏

【対談】北九州市はなぜSDGsで旗を挙げたのか 〜地方行政と未来課題〜 5 おっしゃるとおりです。自治体の財政の健全化を示す指標としては、健全化法において「健全化判断比率」という数値が用いられています。これは、地方公共団体の一般会計等に生じている赤字の大きさをその団体の財政規模に対する割合で表した「実質赤字比率」、公立病院や下水道などの公営企業を含む全会計に生じている赤字の大きさを財政規模に対する割合で表した「連結実質赤字比率」に加え、借入金(地方債)の返済額(公債費)の大きさを財政規模に対する割合で表した「実質公債費比率」と、借入金(地方債)など現在抱えている負債の大きさを財政規模に対する割合で表した「将来負担比率」の4つで示されています。このうち、北九州市は、連結ベースでも黒字を確保していますので、「実質赤字比率」と「連結実質赤字比率」は該当なし。「実質公債費比率」と「将来負担比率」は国の基準を大きく下回っており、財政規律を堅持し財政の健全性を維持していると言えます。

市職員のモチベーション

夫馬

 SDGsを打ち出したことにより、市の仕事の進め方が変わったことはありますか?

山口氏

 いろいろあると思うのですが、私自身の実感値として、働くモチベーションに係る部分が大きく向上したと感じています。夫馬さんの言うように、行政の仕事は本来SDGsと密接なのですが、日々の業務の中で一人ひとりが仕事の意義を見失ってしまっているということが多々あります。

 そうした中で、SDGsによって仕事の意味が整理され、大きな目標に向かって自分たちは日々頑張っているのだと意識できるようになると、自然とやる気がみなぎってきます。これは、大きな効果だなと感じています。

社会への期待

夫馬

 最後に誰かに何かお伝えしたいことがありましたら。

山口氏

 北九州市は「SDGs未来都市」を掲げ、SDGs未来都市計画を策定しましたが、達成するためには、行政、企業、市民、大学・学校等の連携が不可欠です。そのために北九州市では「北九州SDGsクラブ」を創設しました。このクラブには、SDGsに関連する活動に取り組んでいたり、関心をもっている法人・団体・個人なら誰でもオンラインから無料で会員登録できます。クラブに登録いただくと、活動内容の発信や、情報共有、交流会開催等に参加していただけます。もちろん、北九州市外の法人・団体・個人の方の登録も大歓迎です。

 北九州市は、SDGsのトップランナーとして奮闘しています。ぜひ一緒によい社会を築いていきましょう。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役CEO

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