
米ドナルド・トランプ大統領は1月9日、米財務省口座に保管されているベネズエラ石油収入を差し押さえや司法手続から保護し、当該資金を保全するため、国家非常事態宣言を発出する大統領令に署名した。米財務長官が当該資金を管理する。
米政府とベネズエラ政府の関係は、1999年にベネズエラの前チャベス政権が誕生したときから大幅に悪化しており、チャベス大統領が2007年にエクソンモービルやコノコフィリップスを含む外国石油企業の資産を国有化したことで対立が決定的となった。
2013年にチャベス大統領が死去した後、副大統領だったマドゥロ氏が後継者として大統領に就任。2018年の大統領選挙で再選(就任は2019年)されたが、主要野党を排除する等、公正な選挙ではないと批判され、第1期トランプ政権は2019年に強力な対ベネズエラ制裁を発動し、多くの外資企業からベネズエラから撤退していた。
一方、100年以上前からベネズエラで石油開発をしている米シェブロンは、米系エネルギー大手の中で唯一完全撤退せず、米財務省外国資産管理室(OFAC)から例外的に一般ライセンスを取得。国営石油会社PDVSAとの合弁会社を通じて操業を継続していた。
バイデン政権になってからも、ベネズエラ政府に資金が渡らないことを条件にシェブロンの例外操業は継続され、原油生産と米国への原油輸出が続行。その過程でベネズエラの原油生産量は、2022年の日量60万バレルから2024年には日量90万バレルへと1.5倍に増加されていた。米国にとっては、メキシコ湾岸エリアを中心に、ベネズエラ産の超重質油を扱える精製所が整備されており、ロシアや中東に対する石油依存を低減できるという意味合いもあった。
【参考】【エネルギー】石油産業の構造② ー原油価格と産油コストの世界ー(2016年2月10日)
しかし再び2024年のベネズエラ大統領選挙で、再び不正選挙が問題となり、米政府はベネズエラ制裁をさらに強化。シェブロンの一般ライセンスを短期更新に切り替えることや条件を厳格化する方針を示唆。その結果、シェブロンは、ベネズエラでの新規大型投資を見送り、生産量の維持に方針を転換していた。2025年にノーベル平和賞を受賞したマリア・コリーナ・マチャド氏は、野党スマテの国民議会(国会)議員で、2024年のベネズエラ大統領選挙に出馬を表明したが、マドゥロ政権側から公職追放処分を受け、出馬を阻止されていた。
2025年1月に再び米大統領に就任したトランプ大統領は、「ベネズエラの石油を買う必要はない」との立場を採り、3月にシェブロン向け一般ライセンスの内容を修正。ベネズエラでの操業を縮小・撤退することのみを許可し、ベネズエラ政府に対する交渉カードを切っている。シェブロンが撤退した場合には、操業ナレッジが減退することで減産が予想されるものの、シェブロン取分がベネズエラ政府分となるため、ベネズエラの財政に与える影響への見極めも重要になっていた。また、OFACは12月、PDVSAが保有している米石油精製CITGOホールディングス株式が、PDVSAの社債不履行による担保として差押さえや所有権移転へと発展することを避けるため、担保権を2026年3月まで停止する命令を発出し、資産保全の態勢強化も図っていた。
その状況で、1月3日に米軍がベネズエラに侵入し、マドゥロ大統領を拘束している。主権国家の大統領を拘束した法的根拠としては、米国での麻薬関連容疑を挙げているが、国連憲章に違反する国家主権侵害及び武力行使禁止、さらには国家元首免責の国際慣習法にも違反しているとの主張も多い。ロシア政府や中国政府も非難している。これに関し、トランプ大統領は「国際法は必要ない」との発言もしている。
マドゥロ大統領の拘束により、トランプ政権はPDVSAを米政府の監理下に置く考えを示している。米エネルギー省は1月7日、ベネズエラ産石油を「無期限」に販売すると発表。トランプ大統領は1月9日、大統領府(ホワイトハウス)に米石油大手20社以上の経営陣を招集し、ベネズエラ石油の増産に向けた投資拡大を要請。シェブロンは「生産量を50%増やす」と応じたが、エクソンモービル等は採算が見えないとし、慎重姿勢を示している。
ベネズエラの原油埋蔵量は多く、2020年末時点では埋蔵量シェア17.5%で世界1位との評価もある。ベネズエラの原油生産量は、国有化直後の1990年代後半には日量300万バレル超だったが、米政府による経済制裁により3分の1以下にまで落ち込んでいる。ベネズエラでの原油を増産することで、米国向け輸出を拡大させ、米国内のエネルギー市場価格を抑制したいとの思惑もあるとみられる。
今回の大統領令は、ベネズエラ政府やPDVSAが持つ債務に関し、米財務省の指定口座や米国政府が保有するベネズエラ政府及びPDVSAの資金を米国の監理下に置くというもの。これにより、米国外の司法機関によって当該資産の差し押さえや司法手続適用の判断が出たとしても、対抗力を保持する。理由としては、「米国の国家安全保障及び外交政策に対する異常かつ特段の脅威を構成する」とし、特にロシアや中国に資金が渡ることを阻止するとみられる。さらに差し押さえを阻止せず民事請求を可能とした場合には、不法移民の流入阻止や違法麻薬の氾濫の阻止といった米国の目標が直接的に脅かされるとともに、イランやヒズボラ等の「悪意ある勢力に力を与える」とも述べた。
また同大統領令は、当該資産を、米財務長官が管理するとしつつ、米国の財産として扱うことは禁止。当該資金は、国際的義務の遵守、政府機能の遂行、外交及び対外政策目標の維持を含む公的主権的目的にのみ使われるとし、ベネズエラ政府に代わって米国務長官が決定する。
【参照ページ】Fact Sheet: President Donald J. Trump Safeguards Venezuelan Oil Revenue for the Good of the American and Venezuelan People
【参照ページ】SAFEGUARDING VENEZUELAN OIL REVENUE FOR THE GOOD OF THE AMERICAN AND VENEZUELAN PEOPLE
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