
国連砂漠化対処条約(UNCCD)事務局とEU欧州委員会共同研究センター(JRC)は12月2日、国連砂漠化対処条約(UNCCD)第16回リヤド締約国会議(COP16)の場で、世界の旱魃リスクに関する包括報告書「旱魃アトラス」をリリースした。旱魃は、2050年までに世界の4人に3人が影響を受けると言われている。
旱魃リスクを高めるシステム構造としては、人間活動により、気候変動をもたらすと同時に、水消費量も増加。その結果、気象パターンを変え、生態系にも大きな影響を与える形で発生している。さらに水や水による生態系サービスに人類はますます依存することで、リスクへの脆弱性も高まっている。
世界では、旱魃の頻度、強度、空間的範囲、期間がいずれも増加傾向にある。年間で5,500万人に直接影響を与え、世界的に最も被害が大きく、死者も多い災害のひとつとなっている。また、飲料水供給、農業、エネルギー供給、貿易、航行等の重要なシステムに影響を及ぼすと同時に、生態系の健全性と背板系サービスを脅かしている。関節影響まで含めると、2022年と2023年だけでも、18.4億人が旱魃の影響を受け、その約85%が低・中所得国の人々となっている。
(出所)UNCCD
旱魃は、水供給、農業、水力発電、内陸航行、生態系の5つの主要分野に及ぼす影響を及ぼす。水力発電が減少すれば、エネルギー価格の上昇や停電につながる可能性がある。またパナマ運河に見られるように、水位低下により内陸航路の輸送が妨げられ、国際貿易に支障をきたす可能性もある。農業は世界全体の淡水使用量の約70%を占めており、生産量を下げる。その結果、影響は食料サプライチェーン全体に及び、先進国での食料需給も悪化させる。
一方、豪雨等の一時的な被害をもたらす災害と異なり、慢性的に広がる旱魃については、関心が高くない。同報告書は、旱魃リスクの相互関連性にも着目し、旱魃の影響に対する認識を高め、注意を喚起することを目的としている。また対策として、干ばつの予測し、準備、適応のためのソリューションも紹介している。
同報告書で取り上げた対策には、ガバナンス(早期警報システム、零細農家向けマイクロインシュランス、水利用の価格設定制度等)、土地利用管理(土地の修復やアグロフォレストリー等)、水の供給と利用の管理(廃水の再利用、地下水の涵養と保全等)の3つのカテゴリーに分類されている。
さらに国連砂漠化防止条約(UNCCD)事務局は12月3日、同条約が扱う砂漠化・土地劣化・旱魃(DLDD)の資金ギャップを発表。2025年から2030年までに2.6兆米ドル(約400兆円)以上の資金が必要になると表明した。
国連砂漠化対処条約(UNCCD)では、2030年までに土地劣化ニュートラルを達成することを目標として掲げており、各国に自主目標の設定を推奨している。現在までに131カ国が目標設定にコミットしており、100カ国以上が設定済み。資金ギャップは、これらの目標及び政策を分析する形で算出された。
DLDD対策のための投資額は、2016年の370億米ドルから2022年までに660億米ドルに増加しているが、資金ギャップを埋めるためには、2025年から2030年の間に年間3,550億米ドルが必要となり、2,780億米ドル(約42兆円)不足している。一方、DDLDによる経済損失は毎年8,780億米ドルにも達しており、対策コストよりも損害のほうが大きい。経済損失には、農業生産性や生態系サービスの低下、二酸化炭素吸収量喪失による社会的コスト、旱魃による損害等が含まれる。特に、土地の再生は、投資対効果が高く、年間1.8兆米ドルの利益を生み出すと推定。投資対効果としては最大8倍にもなる。
民間資金では、DLDD対策資金のうち現状では6%しか占めていない。今後、官民パートナーシップ、ブレンデッド・ファイナンス、グリーンボンド等の民間資金動員メカニズムの活性化が必要となる。
UNCCD事務局は、資金の確保に向け、現状歳出されている有害な農業補助金や林業補助金に着目。これらを廃止すれば、持続可能な土地管理に数十億米ドルの予算を投下できると指摘。さらに、公共投資と並行して民間セクターの関与を高めれば、毎年必要とされる3,550億米ドルを効果的に動員できるとした。
【参照ページ】World Drought Atlas reveals systemic nature of hazard risks, calls for national plans, global cooperation
【参照ページ】New UN estimates show the world could save billions annually and earn trillions more by investing in healthy…
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