世界銀行は10月11日、年次報告書「世界開発報告(WDR)」の2019年版を発表した。同報告書は、世界銀行が1978年から毎年刊行しており、毎年テーマを設定している。
同報告書は「世界全体でロボットの数が急増しつつある中、雇用システム崩壊への恐怖が広がっている」と指摘。一方で、テクノロジーには、雇用創出、生産性向上、公共サービス拡充にもつながり、イノベーションにより生活水準は大きく向上しているという。デジタル・プラットフォームなどを活用することで、先進国だけでなく発展途上国でもビジネスチャンスが増しており、場所を問わず経済機会の恩恵に預かることができるとまとめた。
それに伴い、労働市場は大きく変化してきている。マニュアル化できる反復作業は排除され、それに替わりチームワーク、コミュニケーション能力、問題解決力を備えた労働者が求められるようになっている。労働条件面でも、従来にはなかった仕事や短期の「単発」の仕事が増えてきている。これは雇用の流動性が高まるメリットともに、雇用の不安定性という懸念も生じている。現在、世界には安定雇用や社会保障・教育機会とは程遠いインフォーマル・セクターで働く人が20億人いるという。労働市場の変化が、このような層の生活向上につながるような配慮が欠かせない。
世界銀行は、今回の報告書作成に合わせて、各国の人的資本力の分析・測定を実施し、「人的資本指標(HCI)」を発表した。HCIは、「ゼロ歳児の学齢期までの生存率」「学校教育の達成度と学習成果」「卒業時の健康状態」の3つ尺度で国別に評価。対象はデータが取得できる157ヶ国。理想状態からの解離度を算出し、国毎に抱えるリスクを測定した。最高スコア1から最低スコア0までで総合スコアを出し、ランキングも発表した。
HCI 2018 上位国・地域
- シンガポール(0.88)
- 韓国(0.84)
- 日本(0.84)
- 香港(0.82)
- フィンランド(0.81)
- アイルランド(0.81)
- オーストラリア(0.80)
- スウェーデン(0.80)
- オランダ(0.80)
- カナダ(0.80)
HCI 2018 下位国・地域
- チャド(0.29)
- 南スーダン(0.30)
- ニジェール(0.32)
- マリ(0.32)
- リベリア(0.32)
- ナイジェリア(0.34)
- シエラレオネ(0.35)
- モーリタニア(0.35)
- コートジボワール(0.35)
- モザンビーク(0.36)
同指数のスコアは、理想状態からの解離度を表している。例えばアゼルバイジャン、エクアドル、メキシコ、タイは約0.6で、今日生まれた子供たちが十分な教育を受け良好な健康状態で成長して職に就くことができれば生産性は40%高くなり、モロッコ、エルサルバドル、チュニジア、ケニアなどの国々では50%高くできることを示している。
HCIは、世界銀行が進める「人的資本プロジェクト」の一環として取りまとめられた。同プロジェクトには、28カ国が早期参加の意向を表明しており、世界銀行グループと連携する政府内の担当部署を定めている。参加国は、アルメニア、ブータン、コスタリカ、エジプト、エチオピア、ジョージア、インドネシア、イラク、ヨルダン、ケニア、クウェート、レソト、レバノン、マラウイ、モロッコ、パキスタン、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ポーランド、ルワンダ、サウジアラビア、セネガル、シエラレオネ、チュニジア、ウクライナ、アラブ首長国連邦(UAE)、ウズベキスタン。
ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は、「2019年世界開発報告」発行に際し、「仕事の本質はただ単に変化しているだけではない。急激なペースで変貌している。今の小学生が、将来どういった仕事を巡って競争することになるかは誰も分からない。そもそも、現在まだ存在していない仕事も今後数多く登場することになるだろう。しかし、将来の仕事の内容を問わず重要となるのは、子供たちに必要となるスキルを身に付けさせることだ。例えば、問題解決力や、物事を検討する思考力、さらには、共感や協力といった対人スキルなどが挙げられよう。人的資本への投資の状況を国別に評価することにより、将来の経済における国民の競争力強化に向けて各国政府が積極的な措置を講じられるよう支援して行きたい」とコメント。持続可能な経済成長のために、人的資本が鍵になるとの考えを示した。
【参照ページ】人々が将来仕事に就けるようにするためには、人への投資の拡大が必要
【参照ページ】Jobs of the future require more investment in people
【参照ページ】各国が迅速に取り組めば、次世代はより健康で、より豊かで、より生産的に
【参照ページ】New Human Capital Index: Bangladesh Has Done Well, Can Do Better
【報告書】WDR 2019
【報告】Human Capital Project
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