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【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望

【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望 1

 ESGクオンツ運用会社英アラベスク・アセット・マネジメントは今年4月、機械学習やビッグデータを活用した新たな企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」をリリースしたと発表した。

 企業のサステナビリティを分析するツールは、これまでにもESG評価会社やNGOなどから多数発表されているが、「S-Ray」にはいくつもの目新しさがある。まず、機械学習やビッグデータいった最新のITを活用しているという点。サステナビリティやESGに関するデータの収集は、世界的にまだ構造化されておらず、収集に手間がかかる分野。S-Rayはこの課題に対して人工知能を使ったソリューションを展開している。次に、運用会社が公開ツールを作成しているという点。一般的に運用会社は、自身の分析手法や分析結果を公表することはない。しかし、S-Rayは全てのデータが閲覧できる有料版だけでなく、大まかな企業スコアに関しては無料版の中でも公開してしまっている。さらに、S-Rayは企業ごとに「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」に準拠したGCスコアとESGスコアの二系統のスコアを付けている点も特徴的だ。

 現在、「S-ray」で格付されているのは、日本企業も含めた世界の大手企業4,000社。「S-Ray」の企業スコアリングには、複数のESG評価機関から提供されたデータや格付の他、15言語5万のニュースメディアからも日々情報を収集し、これらを組み合わせて独自の手法で企業の評価を行っている。

 アラベスク・アセット・マネジメントは会社設立の経由も非常にユニークだ。同社のESGクオンツ投資という手法は、スタンフォード、オックスフォード、ケンブリッジ、マーストリヒトなど世界の名門大学の教授らとのパートナーシップの下、2011年から2013年まで英金融大手バークレイズの中で開発が進められてきた。そして、2013年に同部門幹部がMBOを実施し、バークレイズから独立した。アラベスク・パートナーズのオマール・セリムCEOは、UBS、モルガン・スタンレー、クレディ・スイスと大手金融機関での投資運用経験が長く、バークレイズには2004年から2013年までグローバル・マーケッツ部門のトップとして活躍していた。また、取締役会会長には、国際協力の分野で著名なゲオルグ・ケル氏が着任している。ケル氏は、1997年に国際連合貿易開発会議(UNCTAD)での勤務を開始し、1997年間から3年間国連事務総長室で上級スタッフを務めた。2000年には国連グローバル・コンパクト(UNGC)初代事務局長に就任し、2015年まで15年間同職を勤め上げた。

 このように、金融スペシャリストと元国連幹部という二つの異なる分野が融合している点が、アラベスク・アセット・マネジメントが他の運用会社と大きく異なっていると言うことができる。この特殊な環境の中で、公開サステナビリティ分析ツール「S-Ray」は誕生した。同社はなぜS-Rayを開発し公開したのか。S-Rayが活用しているビッグデータや機械学習とはどのようなものなのか。なぜUNGCとESGという二つのスコアを付けているのか。同社のティム・バーヘイデン・S-Ray部門ヘッドに話を伺った。

【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望 2
ティム・バーヘイデン アラベスク・アセット・マネジメント S-Ray部門ヘッド

今回「S-Ray」開発に至った背景はどのようなものだったのですか?

 運用会社は通常このような公開ツールを開発しないのではというお気持ちは理解できます。しかし同時に私たちは今、ESG投資のメインストリームを築いていきたいという想いも抱いています。自らの投資のためだけでなく、汎く業界全体にESG投資のあるべき姿を広げていくため、今回公開ツールを開発し、ツールという新たなビジネスを開始しました。

「S-Ray」では日々スコアが更新されるそうですね?

 一般的な企業のESG評価の世界では、データや格付が更新されるのは年に一度です。それはサステナビリティレポートの発行などで企業がESG情報を開示する頻度が年に一度となっているからです。その中で「S-Ray」がスコアの日次更新が可能となっているカギは、世界5万のニュースメディアから企業に関する情報を日々収集していることにあります。

 例えば、ニュースメディアが、ある企業について不祥事やNGOからの非難などを報じた場合、その情報の判断を日々行なっていきます。膨大なニュースを毎日モニタリングするのは容易ではありませんが、これを私たちはビッグデータや機械学習の技術で補っています。コンピュータがニュースの一次的なソーシングを行います。それをもとに人の手によって、ニュースソースそのものの信頼度や重要度、そしてニュース内容の最終判断を行っています。

 「S-Ray」には有料版と無料版がありますが、有料版はスコアの更新が即反映されます。無料版は有料版より3ヶ月遅れてスコアが更新されます。

GCスコアとESGスコアの二系統でスコアリングしている意味は?

 まずより一般的なESGスコアから説明していきましょう。ESGスコアでは、企業の財務諸表に影響を与える非財務要素という観点から、長期的な視点で企業のESG状況を評価しています。ですので、ESGスコアについて評価対象となる項目も業界ごとに異なってきます。

 一方、GCスコアでは、普遍的な規範である国連グローバル・コンパクトを用い、業界を問わず同じ基準で企業のサステナビリティ実践状況を評価しています。人権や環境に関しては、企業はいつ何時、自身やサプライヤーの状況をNGO等から非難されてもおかしくない時代です。このように国連グローバル・コンパクトというあるべき姿を照準とし、その到達度合いを判断しています。こちらは、投資家にとって投資先企業の短期的なリスクを補足するのに役立ちます。

 例えば、先進的なサステナビリティアクションで世界的に有名なユニリーバを例に見てみましょう。ユニリーバは、環境や社会に対して高いレベルの取組を行っており、そのためESGスコアも100点満点で70点以上(インタビューをした2017年7月18日時点)をマークしています。一方、GCスコアは同じ100点満点で30点を下回っています(インタビューをした2017年7月18日時点)。これは、ユニリーバが多数の潜在的な短期リスクを背負っていることを意味しています。例えば、先日も東南アジアのパーム油生産企業について問題が発生し、ユニリーバのサプライチェーンにも影響を与える事態となりました。このことは、短期的に株価を左右する要素にもなりえます。株主となっている投資家は、議決権行使(Proxy)の観点からもGCスコアを参照する意味があります。

最近話題のSDGsについてはどのように考えていますか?

 現段階ではSDGsでの評価は行っていませんが、私たちもSDGsには注目しています。あくまで個人的な願望レベルの話ではありますが、将来的にSDGsスコアのようなものを新たに生み出していきたいなと考えています。

スコアリング対象の企業に個別に情報をフィードバックするサービスなどはありますか?

 当社は運用会社ですので、評価情報の全てを対象企業に通知したり、公表したりすることはありません。しかしながら、対象になっている企業がサステナビリティへの取組を強化していくことは良い流れだと思いますし、支援していきたいとも思っています。そこで現在「Deep Dive」というサービスの開発を検討しています。こちらのサービスでは、企業に対し、評価体系の全体像やスコアを上げるために重要となるポイントについてアドバイスを行っていくというものです。

最後に日本企業や日本の機関投資家に対してメッセージをお願いします

 環境や社会に対する配慮を行っていくことは企業経営にとってとても重要になってきています。私自身も、近年日本の投資家がESGに配慮する気運が生まれてきたと感じていますし、それをとても嬉しく思っています。

 日本の皆さんへのメッセージとしては、その中でもとりわけガバナンスに対する関心を高めていって頂ければと思っています。ガバナンスは経営全体にとってとても重要なことです。すなわち、ガバナンスがしっかり機能していれば、環境や社会に対しても正しい配慮が可能となるのです。ガバナンスの問題は日本企業だけの問題ではありません。韓国企業でも最近、ガバナンスの問題に揺れる事態が起きました。同様にガバナンスは世界のどこでも課題になっています。ガバナンスを機能することはとても重要なことなのです。

インタビューを終えて

 アラベスク・アセット・マネジメントは、2013年に設立された比較的新しい運用会社だが、独自手法で企業のESG評価を行い、それを他社も活用できるサービスを展開したことで、すでに世界的に大きな話題を呼んでいる。今回紹介した「S-Ray」のスコアリングを活用している機関投資家や運用会社の数ははっきりとはわからないが、「S-Ray」の評価体系には一般的なESG評価項目が織り込まれていることから、評価対象となっている企業は自社の状況を客観的に知る一つの尺度として大いに活用できるだろう。
 
 インタビュー後の9月12日、アラベスク・アセット・マネジメントは、社外取締役として、米人道援助NGOのCatholic Relief ServicesのCarolyn Woo前CEO、ハーバード・ケネディ・スクールのジョン・ラギー教授、国際環境NGOの世界自然保護基金(WWF)インターナショナルのヨランダ・カカバドス理事長の3名を選任した。カカバドス理事長は、WWFインターナショナルでの任期が満了する2018年1月1日に就任する。運用会社でありながら、NGO歴の長い専門家を取締役会に招聘することで、企業のサステナビリティを評価する視点を磨き続けるとともに、自身のコーポレートガバナンスも強化している。

【機関サイト】アラベスク

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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