【金融】ESG投資をリードしてきたPRIの行方 〜PRI in Person 2016参加レポート〜 2016/09/07 体系的に学ぶ

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 機関投資家のESG投資行動を推進するため設立された国連責任投資原則(PRI)。今年で10週年を迎えたPRIは、国連環境計画(UNEP)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)を推進母体として設立され、アセットオーナー、運用会社、サービスプロバイダーの3つのカテゴリーの合計署名機関数は、今この時点の公表数で世界1,549。組織ガバナンスとして、取締役に相当する理事(Board Member)、代表取締役に相当する理事長(Chair)と専属の執行機関が置かれています。PRIは毎年一度年次総会(General Session)を開催しており、この総会で昨年の事業報告や検討中の事案などが署名機関に対して発表されます。また、理事選挙や理事長選挙の案内もあります。選挙に関しては、年次総会に参加しない署名機関も多数あるため、その場では行われず、締切を設けたウェブ投票の形式を取っています。今年の年次総会はシンガポールで9月6日に開催され、その後9月8日まで情報共有フォーラム「PRI in Person」が開催されました。日本の公的年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が昨年9月にPRIに署名したことなどをきっかけに、日本の年金基金や運用会社の署名が急増しており、シンガポールには例年になく多くの日本企業が集まりました。当社、株式会社ニューラル、も昨年にPRIに署名をし、今年の年次総会に初参加してきました。

PRI理事にGPIFの水野弘道・理事が立候補

 今年の年次総会での大きなニュースのひとつが、PRI理事に水野弘道・GPIF理事 (管理運用業務担当) 兼CIOが候補者として立ったことです。現在、アセットオーナー枠の理事2席が空席となっており、今回このポジションで2名の候補者が出ました。もう一人の候補者は、スウェーデンの公的年金基金AP2のEva Halvarsson CEO。2席のポジションに2名が立候補したため、信任投票が行われます。今年11月11日を締切とし、署名機関の投票が行われます。PRI理事はアセットオーナーの現職または元のCEOまたはCIOが候補者資格を持っており、当選後も水野氏はGPIF理事を継続していきます。

 水野氏が当選すると、日本の金融界にとって大きな影響が予想されます。まず、日本のアセットオーナーからの初めてのPRI理事となります。もちろん日本の公的年金としても初めてPRI理事会にメンバーを送ることとなります。このことは日本国内にも大きな意味を持たらします。

 GPIFのPRI署名に関しては、日本政府やGPIFの中にも反対をする方々がいたといいます。また、日本の金融業界には、ESG投資や責任投資という考え方に対する否定的な考え方が依然多くあります。ここでGPIFのCIO(最高投資責任者)が、ESG投資を推進するPRIの理事になるということは、日本の公的機関がESG投資に賛成するというメッセージを日本金融界や国政を担う国会議員や官僚に対しても明確に示すこととなります。これは大きなメッセージです。

PRIのプログラム改革

 またPRIは10週年を迎え、ESG投資の流れをさらに加速させるためのプログラム改革を検討しています。来年3月に最終改革案が発表される予定ですが、総会の中でも概要が伝えられました。プログラム改革では、事前に署名機関に対しての意見募集が行われており、今回はその結果を踏まえ、計画の方向性が発表されました。

署名機関除名制度の創設

 PRIの10年の歴史の中で、一度署名をした機関をPRI側から除名するということはありませんでしたが、今回除名制度を創設する考えを明らかにしました。除名に関しては、宣言している6原則に対して最低限の改善が見られない機関に対しては非公表で警告が出され、その後2年間の猶予期間の間に改善が見られなければ、除名となります。除名宣告された場合の不服申立て措置も整備される予定です。署名機関の管理範囲内で署名機関自身がESG原則に明確に反する行為を行い罰金や規制当局の制裁を受けた場合も除名候補となります。投資先企業の罰金や制裁に関しては対象としない考えです。

年次報告書の運用厳格化

 署名機関に課されている年次報告書(R&Aレポート)にも外部保証制度を導入し、報告書の提出時にはCEO、CIOまたは他の経営陣の署名を必須とする案が検討されています。また、提出されたR&AレポートについてはこれまでPRIによる評価がなされていましがたが、今後は内容そのもののの信憑性をチェックするためのランダム監査も導入する考えです。

サービス・プロバイダー

 これまで年次報告書の提出義務のなかったサービス・プロバイダーにも報告義務が課されていく予定です。報告内容の詳細は未定ですが、6つ原則の実施度合いに関する報告内容となりそうです。来年にトライアル実施をし、2018年からの本格導入を検討しています。

原則そのものの変更はなし

 PRIは昨年頃から7番目の原則として、金融業界全体のシステミック・リスクに関する原則を追加することを検討していましたが、現状維持を望む署名機関の声も少なくなく、今回7番目の原則追加や既存の6つの原則変更はしないと発表されました。一方で、投資行動が経済、環境、社会に対して波及的な影響を及ぼすシステミック・リスクに署名機関も対処していくという考え方そのものについては、署名機関からも一定の支持が得られたということで、今後もPRIの活動内容に反映させていくとしています。

プロセス重視の詳細実施ガイドラインの策定

 また、PRIは責任投資という考え方そのもののについての曖昧性からくる課題についても対処していく考えで、責任投資という定義そのものの明確化や、それに基づく実施内容の詳細化についても検討を深め、ガイドラインにまとめていく考えも見せました。PRIの組織としての達成目標にも曖昧性が残っていますが、PRIからはゴールよりもプロセスに拘りたいという姿勢が伺えました。あるべき責任投資の推進のためにも、署名機関のベストプラクティスを積極的に共有していく考えも見せていました。

注目のキーワード「コレクティブ・エンゲージメント(協働エンゲージメント)」

 今年の年次総会での質疑応答やセッションでのスピーチを通じて浮かび上がってきた今後重要になりそうなキーワードは、「コレクティブ・エンゲージメント(協働エンゲージメント)」です。これまで、エンゲージメントと言えば、投資家と投資先企業との間での対話を意味してきましたが、投資家の間では1社1社対応することの煩雑さと、投資先企業に対してより大きな影響力を行使したいという思惑から、複数の投資家がまとまって投資先企業にエンゲージメントをするというものが「コレクティブ・エンゲージメント」です。米国では今年春の株主総会時に、複数の機関投資家がチームを結成して、集合体として企業に対して気候変動対応を迫るという動きも見られました。PRIとしても、より投資先企業に影響力を持つESG投資を推進するため、今後この「コレクティブ・エンゲージメント」をどのように推奨していくかに今後注目が集まりそうです。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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