世界経済フォーラム(WEF)は1月6日、新型コロナウイルス感染症のワクチンの国際分配状況を分析した結果を発表した。今回の感染症でも、過去と同様、「ワクチン・ナショナリズム」と呼べる状況が発生しており、先進国が自分たちの摂取量買確保を優先。しかし、そのことが結果的にパンデミックの終息を遅らせ、先進国の経済的打撃にもつながるとし、冷静になって俯瞰的なアクションを採るよう求めた。
現在、ワクチンの開発企業に対しては、先進各国からの個別の数量確保契約と、国際的なワクチン分配スキーム「COVAX」による発展途上国への分配が並行して実施されている。先進国はCOVAXを通じて、自国確保分に応じた寄付金をCOVAXに拠出し、発展途上国のワクチン購入費に充てるスキームに協力しつつ、COVAXの制度外で個別契約で数量確保も行っている。
(出所)WEF
すでにいずれかの国で承認されている新型コロナウイルス感染症ワクチンは、1月5日時点で、アストラゼネカ/オックスフォード大学(英国)、モデルナ(米国)、ファイザー/BioNTech(米・独)、バーラト・ビオンテック/国立ウイルス研究所/インド医学研究評議会(インド)、ガマレヤ研究所(ロシア)、中国医薬集団(シノファーム)(中国)の6種。
また、完成間近のフェーズ3の臨床試験ステータスにいるのが、ジョンソン・エンド・ジョンソン(米国)、ノババックス(米国)、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)(中国)、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)(中国)、中国科学院微生物研究所/安徽智飛(中国)、メディカゴ(メキシコ)、キュアバック(ドイツ)。
このうち、COVAXに参加しているのは、アストラゼネカ/オックスフォード大学のワクチンで、20億回分の分配方法が決定している。他にも、同社は、中進国や後進国とも個別に供給契約を結んでいる。一方、仏サノフィもCOVAXに参加しているが、まだ完成には時間がかかる状況。
【参考】【国際】WHO、新型コロナ変異種で人々に落ち着くよう呼びかけ。COVAXはワクチン20億回分の配分確保(2020年12月22日)
先進国の獲得では、モデルナとファイザー/BioNTechのワクチンは、ほぼすべて米欧日等の先進国でしか分配されない。完成間近のジョンソン・エンド・ジョンソンも同じ状況にある。一方、ロシアのガマレヤ研究所や、中国医薬集団のワクチンは、自国優先での分配が色濃く、一部のみ海外向けに供給する。
同様の事態はインドでも発生している。インドでは、バーラト・ビオンテック等が開発したワクチンが1月4日に国内で許認可が下りたが、やはりインド国内で接種を優先。他にもアストラゼネカ/オックスフォード大学のワクチンをインドのセラム・インスティテュート・オブ・インディア(SII)が委託生産しているが、発展途上国向けに生産する10億回分に関し、インド政府は国内輸出を当面禁止し、自国での接種を優先している模様。
世界経済フォーラムは、このようにワクチン・ナショナリズムが広がる中、COVAXが最適な分配枠組みと強調した。経済的にも、RAND Europeによると、パンデミックの経済コストは世界で年間1.2兆米ドル、先進国だけでも1,190億米ドルとなり、一刻も早く世界全体でパンデミックの終息に向かう必要性がある。
それに対し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の試算によると、発展途上国にワクチンも分配するための資金はわず250億米ドルで済むという。だが、現状でCOVAXでの拠出金は24億米ドルにとどまり、世界保健機関(WHO)の「ACT-Accelerator」スキームを足しても全体で8.2億米ドル。支援を拡大することの経済合理性を示した。
【参照ページ】Vaccine nationalism – and how it could affect us all
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