
EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会は5月30日、エネルギー憲章条約からEUと欧州原子力機関(ユーラトム)が脱退することを決定した。同議案は欧州議会でも4月に可決されており、脱退が最終決定した。決定は即日発効した。
エネルギー憲章条約は、1991年にソ連が崩壊したことに伴い、旧ソ連諸国、欧州諸国、米国、カナダ、オーストラリア及び日本の間で1994年に締結された条約。1998年に発効した。主権国家以外ではEUとEURATOMが加盟していた。
同条約は、主に、エネルギー原料・産品の貿易及び通過の自由化並びにエネルギー分野における投資の保護等について規定している。貿易については、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)を遵守することを、通貨に関しては、パイプラインによる石油及び天然ガスの輸送並びに送電設備による電力の送電において、通過の自由の原則に従い、その出発地及び仕向地等による差別または不合理な制限等を行ってはならないことを規定していた。また、エネルギー分野における投資の保護に関しても、一般的な二国間の投資保護協定で定められているものと同様に、内国民待遇(NT)又は最恵国待遇(MFN)のうち有利なものを付与することや、一定の要件を満たさない収用の禁止、送金の自由、紛争解決手続等と類似の内容も定めていた。
さらに同条約では、エネルギーサイクルにおいて生ずる環境上の悪影響を経済的に効率的な方法で最小限にするよう努めることも規定。こちらの内容については、条約と同時に「エネルギー効率及び関係する環境上の側面に関するエネルギー憲章に関する議定書」が採択されていた。
同条約に対しては、化石燃料への投資継続をもたらす観点から、EUの欧州グリーンディール政策やパリ協定におけるEUの温室効果ガス削減目標と不整合として、欧州委員会が2023年7月に脱退を提案。2024年3月に決議案が提出され、今回正式に最終決定した形。
同条約を巡っては、ロシアとオーストラリアは、条約に正式加盟せず、暫定適用の立場を採り、ロシアは2009年に、オーストラリアは2021年に暫定適用を終了し、離脱している。イタリアも2016年に脱退した。
2018年には欧州委員会は、条約改正交渉を開始し、再生可能エネルギー促進等を盛り込むことや、投資家対国家紛争解決(ISDS)の改正を通じ、同政策を実行する加盟国の被提訴リスクを軽減する条項を盛り込もうとしたが、2020年に正式開始した交渉は難航。結果、欧州委員会が条約加盟国と合意した内容が不十分と判断したドイツ、フランス、スペイン、オランダ、ポーランド、スロベニア、ルクセンブルクの7カ国が、同条約を国として脱退することを表明するとともに、EUとしても脱退するよう求めていった。実際に、ドイツ、フランス、ポーランドは2023年に脱退している。
同条約からの脱退は、脱退通知から1年後に発効するため、EUはユーラトムの正式脱退は約1年後となる。但し、EUとEURATOMは、予定されている同条約改正に関する投票を棄権することが決まっている。さらに、今回の決定では、現状の条約改正案はEU政策と整合しないと判断しており、他のEU加盟国で同条約に加盟している国にも、同条約改正に賛成しないことが決まった。
同条約の加盟国の大半はEU加盟国となっており、今回の決定により、実質的に同条約は実効性を欠く機能停止状態に陥ることになる。
【参照ページ】Energy Charter Treaty: Council gives final green light to EU’s withdrawal
Sustainable Japanの特長
Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。
- 時価総額上位100社の96%が登録済
- 業界第一人者が編集長
- 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
- 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく
ログインする
※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら