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【環境】関心高まる「二酸化炭素の電解還元」。CCUS技術開発の新たな競争分野

【環境】関心高まる「二酸化炭素の電解還元」。CCUS技術開発の新たな競争分野 1

 炭素回収・利用・貯留(CCUS)の一つとして、二酸化炭素の電解還元に注目が集まってきている。二酸化炭素の電解還元とは、電気エネルギーを利用して二酸化炭素を原料とし、炭素化合物を合成しつつ酸素との分解する手法。実用化すると、大気中や回収した二酸化炭素が樹脂の原料とすることができ、化石燃料代替が可能となる。

 二酸化炭素の電解還元は、夢のような技術だが、19世紀の段階で水銀やアマルガム電極を用いて電解するとギ酸が生成されることはすでに報告されてきた。そこから1946年にオレゴン大学のピエール・ヴァン・レイセルベルヘ教授が、さらに1954年に同じくオレゴン大学のトルーマン・ティーター教授が水銀を触媒に用いたギ酸生成の論文を発表している。その後も研究は続き、1970年代にはオイルショックで石油供給懸念が出てきたことから、二酸化炭素を樹脂の原料とする研究は盛り上がりをみせていく。

 そして、画期的な研究となったのが、千葉大学の堀善夫教授らが1985年に発表した金属の銅を利用したバルク触媒での還元研究論文で、そこから二酸化炭素の電解還元の研究が世界的に勢いづいたと言われている。堀教授らは、銅論文の中で、気候変動により今後二酸化炭素の利用技術が必要になるとの見解を示しており、気候変動に対する危機感が新たなイノベーションを産んだ好例とも言える。結果、1980年代から1990年代は、二酸化炭素電解還元が化学分野での一大研究テーマとなった。

 その後の研究により、2000年代には、概ね二酸化炭素の電解還元には4つのカテゴリーに分かれるという見方が定着した。1つ目が、一酸化炭素(CO)への還元で、触媒としては、金、銀、プラチナ、パラジウム、銅、亜鉛、ガリウム、ニッケル等が挙げらえる。金と銀は還元性能が高いがコストが高く、亜鉛が最も有望視されてきた。

 2つ目がギ酸(HCOOH)への還元で、触媒としては、鉛、水銀、タリウム、インジウム、錫、カドミウム、ビスマスが有名で、特に錫とビスマスが触媒性能とコストだけでなく、環境影響の面からも注目を集めてきた。

 3つ目が、還元性能はよくないが、水素発生反応に対しては非常に高い効率を示すグループで、プラチナ、ニッケル、鉄、チタン等が有名。

 4つ目が、メタン、エチレン、エタノール、プロパノール等の一酸化炭素以外への還元のグループで、2電子以上の移動反応を起こす触媒として、銅がダントツで有望視されている。現在最もホットな分野、この銅を用いた反応の研究と言っても過言ではない。

 2000年代に流行った二酸化炭素電解還元は、光触媒と分解膜を用いて常温常圧下で反応させる手法で、日本の化学メーカーも数多く研究開発に乗り出している。ただし、この手法は、費用は抑えられるが、反応効率に大きな課題があった。

 そこで2010年以降は、電解セルを用いて大規模に反応させる手法が主流化していった。課題となっていた利用電力の二酸化炭素排出量でも、再生可能エネルギーが普及したことにより、排出係数が抑制できることが弾みとなった。この頃から日本の研究速度は衰え始め、先に実証装置を建設していったのが、独シーメンスのオーストリアGIG Karasekの大手や、米カリフォルニア創業Twelve、米イリノイ州創業のDioxide Materials等のスタートアップ企業だった。他にも続々と研究開発企業が登場してきている。

 日本では、当時の菅義偉首相がカーボンニュートラルを宣言した2020年頃からようやく息を吹き返してきている。二酸化炭素の電気還元は現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や、産業技術総合研究所(産総研)の注力テーマの一つにもなっている。

 企業では、千代田化工建設は2020年9月、研究開発を進め、2027年までに実用化する計画を発表。東芝も、重要事業領域に設定しており、2021年3月には、電解セルを積層することで、省スペースで還元速度の高い装置を開発。いずれもNEDOや環境省の国プロに選定され、開発が進められている。NEDOでは現在、「電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」プロジェクトが進行しており、東京大学の杉山正和教授をプロジェクトマネージャーとし、東京大学、大阪大学、理化学研究所、宇部興産、清水建設、千代田化工建設、古河電気工業が参画している。

 二酸化炭素の電解還元での樹脂生産は、日本で主流扱いされてきた回収二酸化炭素と水素を反応させる手法とも競合する分野。水素を生成させる手間がなくなる分だけ、コスト効率で電解還元が有利とみられている。そのため、グリーン水素の生産プロセス技術として、アルカリ水電解水素製造に力をいれてきた旭化成も、樹脂原料生産では水素が不要になる未来も見据え、二酸化炭素電解還元技術の開発を今まで以上に重視してきた模様。

 旭化成は、2002年に、二酸化炭素を原料に使用するポリカーボネート(PC)樹脂製造プロセスを世界で初めて確立したカーボンリサイクルの老舗企業でもある。同社は、二酸化炭素を原料としたPC樹脂製造技術を、ライセンスビジネスとして展開しており、世界10プラントが同社の技術が使われている。製造能力シェアは約16%にもなる。

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル CEO

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