【インタビュー】米TruValue Labs、人工知能活用の画期的な企業分析ツール「Insight360」 2018/01/19 事例を見る

 ESG投資にフィンテックの波が押し寄せている。フィンテックはこれまで決済を中心に新たなサービスが誕生してきたが、徐々に投資運用にもフィンテックが使われるようになってきた。そして今、ESG投資の世界でもAIを用いたサービスが誕生してきている。

 投資運用におけるAIの活用は、一般的にクオンツ運用モデルの開発用に検討されていることが多い。AIは、人間が感知しきれない市場の異常値(アノマリー)を見出し、そこからリターンを得ることができると考えられているためだ。近年は、AIを用いて自動的にトレーディングの執行までをミリ秒単位などの高頻度で行う「高頻度取引(HFT)」までもが行われるようになってきている。

 一方、長期思考を重要視し、投資先の内容をじっくり吟味するESG投資においては、AI活用は縁遠いという見方がこれまで強かった。実際、ESG投資で用いられる企業のESG評価では、企業が毎年報告するアニュアルレポートを基に各項目をデータ化しているため、1年単位という比較的少ない頻度で銘柄選定に反映されることが多い。しかし、この手法では、企業の不祥事や悪い材料が出てきた際に、タイムリーに銘柄評価に反映させることができないというデメリットがある。それへの対応策として、主要なESGインデックスでは、日々のニュースの中で「Controversy(物議)」なものをウォッチし、できる限り素早く評価に反映する工夫がなされている。そして、この日々のニュースをモニタリングするためのツールとして、AIを活用するサービスも生まれてきている。

 しかし今回紹介するTruValue Labsのツール「Insight360」は、これまでの手法とは一線を画する方法でESG評価にAIを活用している。TruValue Labsは、AIエンジニアが中心となり2013年7月に米サンフランシスコで創業した企業。TruValue Labsが開発したInsight360が画期的なのは、企業のESG評価に、企業が情報開示するアニュアルレポートやESG評価機関のスコアデータを一切使わない点にある。代わりに、世の中に出回っている膨大な活字データをもとに、企業のESG関連の各項目をスコアリングするという非常に新しいアプローチを採っている。この独創的なツールは、米国を軸に世界中の機関投資家の支持を獲得しつつある。
 
 アニュアルレポートのデータを活用しないESG評価はどのようにして可能なのか。Insight360を基に運用した場合に超過リターンは得られるのか。2017年12月、来日したTruValue Labsのデービッド・シルバーChief Revenue Officerに直接話を伺った。

デービッド・シルバー Chief Revenue Officer

まずInsight360の概要を教えてください

 当社では、ESG、AI、ビッグデータという世界的に大きなトレンドとなっている3領域を包摂する形で銘柄評価や投資ポートフォリオ評価を行うツールを提供しています。

 昨今ESG投資は世界的に非常に大きなうなりとなっています。この背景には、企業価値に占める無形資産(Intangibles)価値の割合が近年大きく上昇していることがあると考えています。無形資産には、知的財産の価値やブランド価値等が含まれます。企業価値に占める無形資産の割合は、1975年にはわずか17%でしたが、1995年には68%、2015年には87%にまで高まってきています。そのため、企業価値を評価する側にも、財務情報だけでなく、非財務情報を的確に分析する力が必要となってきています。

TruValue LabsがESG評価でAIを活用している背景は?

 私たちがESG評価にAIやビッグデータを活用していることには大きな理由があります。これまで企業のESGを評価する主流の手法は、企業自身が開示するデータや報告をもとに評価を行うというものでした。しかし、私たちは、それは優れたESG評価の方法として十分だとは考えていません。企業の評価を行うのであれば、企業の言い分でなく、企業以外の第三者が行う企業の評価をもとにESG評価をするべきだと考えているからです。

 私たちは、AIを活用して、75,000もの英語のオンライン情報ソースを常にウォッチし、情報を収集しています。情報ソースには、オンラインニュースサイト、政府当局の発表、政府の調査レポート、業界団体や調査機関の発表、NGOが発信するニュースやレポートやインフルエンサーの発信する情報等が含まれます。この中に、企業自身が発表するプレスリリースは含まれていません。

その情報からどのようにESG評価を行うのですか?

 こうして収集する情報の量は毎月100万を超えます。それをさらにAIを用いてESG関連テーマの情報だけを抽出していきます。抽出は単純なキーワード検索ではなく、自然言語処理技術(NLP)を用いて文脈を判断し、ESGとの関連性を自動的に判別していきます。抽出後の情報量は約30%となり、毎月30万件程度となります。

 当社のツールの大きな特徴の一つは、良い情報も悪い情報も双方収集することにあります。他社のツールでは、「Controversy」という悪い情報だけを集めたりしていますが、ここが大きな違いです。そのため、収集されたESG関連情報はさらに自動現処理技術によりリアルタイムで「ポジティブ」なものか「ネガティブ」なものかが文脈から自動判定されます。判定は0から100までの尺度で行い、50より上がポジティブ、50より下がネガティブなものとしています。

 収集されたESG関連情報は、同様にAIにより、当社が設定しているESG評価14項目に分類されていきます。次に、各項目のポジティブ・ネガティブ度合いの判定を行います。そして、全項目の単純平均を総合スコアとして算出します。この一連のプロセスを、新たな情報が出る度にAIがリアルタイムで次々と処理をしていきます。

 これに加え、最近の開発で、SASBが設定しているESGの30項目でも分析できるSASB版が追加されました。こちらは、SASB30項目の総合スコアに加えて、当該企業の業種のSASBマテリアリティ項目のESGパフォーマンスを確認することが出来ます。

リアルタイムで評価するということは、企業評価が刻々と変わるということですよね?

 そうです。私たちのツールでは、ほぼリアルタイム単位のスコアを「Pulse」と呼んでいます。ですが、Pulseは、その時点で発信された情報に大きく左右され、ボラティリティが高くなりやすい。実際に企業評価をする際には、Pulseの細かい動きではなく、Pulseのトレンドの変化こそが重要だと思っています。

 そのため、私たちのツールでは、より長期での移動平均を「Insight」、より短期(ツール上では12か月)での移動平均を「Momentum」と呼び、企業ごとにその2つを表示できるようになっています。これにより、各企業のESGの動向の変化を捉え、投資判断に活用できるようになっています。

 また同時に、各企業について、過去12ヶ月間の情報量の多さを示す、すなわち情報の信頼度を示す「Volume」スコアも表示しています。

 Pulseを形成する日々の情報の中身も、シームレスに閲覧することができます。各情報の閲覧ページ上部には、AIが自動的に文章の要約を作成、表示するという便利機能も備わっています。

現在何社のESGデータがありますか?

 Insight360は現在、世界8,500社をモニターしています。そのうち約4,000社は米国の上場企業。残り4,500社はMSCIワールドやMSCI新興国インデックスの採用企業ですので日本企業も含まれています。

 この8,500社については、過去3年分のPulse、Insight、Momentum、Volumeのデータが閲覧できます。来年1月からは、そのうちS&P500とラッセル1000採用企業については過去5年分のデータが、来年2月からは、S&P500については過去10年分のデータが見られるようになる予定です。

機関投資家はInsight360をどのように活用していますか?


(出所)TruValue Labsホームページ

 Insight360では、各企業について総合スコアとマテリアリティ毎のスコアを閲覧できますし。そのすぐ上には業界平均データも表示していますので、業界平均との比較も迅速にできます。これにより、当該企業の評価が高いのか低いのかがすぐにわかります。その右側には、InsightとMomentumのトレンド動向が表示されています。

 さらに、Insight360は、各企業の個別の分析だけでなく、同じ方法でポートフォリオ全体の分析も行えるようになっています。ポートフォリオの中で、好調な銘柄と不調な銘柄をすぐに見分けることができます。

 Insight360の具体的な活用方法にはいくつかありますが、とりわけポートフォリオ構築・管理、リスク管理、エンゲージメントツールとして使われています。例えば、運用会社は、Insight360での各企業のESG動向を把握し、ポートフォリオ管理やリスク管理、またアセットオーナー向けの報告や、投資先企業へのエンゲージメントを行っています。また、アセットオーナー側は、各社のESG動向をタイムリーに把握することで、運用会社とコミュニケーションをする材料として活用しています。

Insight360を活用することで投資パフォーマンスは高くなりますか?


(出所)TruValue Labs

 上のグラフは、2013年1月から2017年6月までのリターンを比較したものです。一番下がS&P500(ベンチマーク)。真ん中がS&P500のうち、Volumeが小さい企業を除外し、さらに総合スコアのInsightが低い企業を除外した167社のリターン。一番上が、その167社のうちMomentumが高い上位50社のみのリターンです。

 ご覧のように、Insight360をフル活用した一番上の線は、ベンチマークと比べ年間リターンが5%高く、真ん中の線でも3.5%高いという結果が出ています。


(出所)TruValue Labs

 こちらのグラフは、伝統的なスマートベータとの比較です。こちらもS&P500がベンチマークです。ファクターモデルを用いたスマートベータのリターンが薄い青。Insight360 を活用したモデルのリターンが緑。両方を合わせたものが濃い青です。こちらでも、Insight360を用いた緑のリターンが高いことがわかりますし、既存のスマートベートと組み合わせてもリターンが高く出ることも確認できます。

インタビューを終えて

 今回のインタビューの中で、TruValue Labsより、企業自身が開示する情報を一切用いず、外部評価のみを用いているという話を聞いたとき、正直驚きました。これまで企業の情報開示や報告書は、投資家と投資先企業のコミュニケーションと言われ、企業が適切な情報を正しく開示することに重点が置かれてきました。しかし、TruValue Labsのアプローチは、この前提を根本から否定しているように聞こえます。

 このように全てを外部評価のみに頼るという分析手法は、投資運用の世界で主流になったとはまだ言えません。TruValue Labsのツールを活用するアセットオーナーや運用会社も、これまでの分析手法やツールを補完する形でTruValue Labsのツールを利用しているようです。しかしながら、今後も「補完」という位置づけのみに留まると断じることはできません。

 2017年には、企業の情報開示の信頼性を揺るがすような事件が日本企業の間でも相次ぎました。産業界全体で企業の情報開示への信頼を高める状態を創り上げていかなければ、TruValue Labsのアプローチが徐々に主流になっていくのかもしれません。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る