
国連砂漠化対処条約(UNCCD)事務局は12月9日、国連砂漠化対処条約(UNCCD)第16回リヤド締約国会議(COP16)の場で、「乾燥化」問題に関する初の包括的科学報告書「The Global Threat of Drying Lands」を発行した。類似の減少でも、旱魃が一時的な乾燥減少であるのに対し、乾燥化課題は慢性的で永続的な乾燥問題を指す。
同報告書によると、1990年から2020年までの30年間で、地球上の陸地の約77.6%で乾燥化が進展。同期間に乾燥地帯は、約430万km2拡大し、地球上(南極大陸を除く)の陸地の40.6%を占めるまでになっている。乾燥化傾向による被害が特に深刻な地域には、欧州ほぼ全域(国土の95.9%)、米国西部の一部、ブラジル、アジアの一部(特に東アジア)、アフリカ中央部。特に総面積では中国、面積割合では南スーダンとタンザニアが深刻。
乾燥地問題の主要因が、人間活動による気候変動ということも特定した。湿潤地帯から乾燥地帯への変化、または乾燥度の低い乾燥地帯からより乾燥した乾燥地帯へと変化を指す「乾燥限界」に関しては、過去数十年間で世界の陸地の約7.6%が乾燥限界を超えた。そのほとんどが湿潤地帯から乾燥地帯への変化で、もし温室効果ガスの排出を抑制できない場合、今世紀末までに世界の湿潤地域のさらに3%が乾燥地帯になる見通し。最悪のシナリオでは、今世紀末までに最大50億人が乾燥地帯で暮らすことになり、土壌劣化、水資源減少、生態系の衰退や崩壊に直面する模様。
地域毎の見通しでは、温室効果ガス排出量の多いシナリオでは、米国中西部、メキシコ中央部、ベネズエラ北部、ブラジル北東部、アルゼンチン南東部、地中海地域全体、黒海沿岸、アフリカ南部の大部分、オーストラリア南部で乾燥地帯が拡大すると予測されている。
反対に、地球上の陸地の22.4%湿潤な状態であり、米国中央部、アンゴラのアトランティック・コースト、東南アジアの一部地域では、湿気がやや増加している。それでも地球全体では乾燥化のほうが大きい。
乾燥化の進行によるインパクトは連鎖的かつ多面的。今世紀末までに地球上の土地の5分の1が乾燥化の進行により生態系が急激に変化し、森林が草原になるおそれがある。また、農業劣化の最大の要因が乾燥化で、地球の耕作可能地の40%に影響を与えるおそれがある。すでに、乾燥化の進行により、1990年から2015年の間にアフリカ諸国ではGDPの12%が失われている。
温室効果ガスの排出量がわずかでも増加し続けた場合、地球上(グリーンランドと南極大陸を除く)の全陸地の3分の2以上では、今世紀末までに貯水量が減少。乾燥化は、世界で最も重要な土地劣化の5大原因として、土地浸食、塩類集積、有機炭素の損失、植生劣化と並ぶ課題と考えられている。さらに、気候変動が進むと、より大規模で激しい山火事の一因となることも予想される。主な理由は、半乾燥林における樹木の枯死と、その結果として生じる燃焼可能な乾燥バイオマスの増加。
乾燥化の進行は、貧困、水不足、土地劣化、不十分な食糧生産に影響を及ぼし、世界中で病気や死亡の割合が増加する要因となる。特に子供や女性にその傾向が顕著となる。また、非自発的移住も引き起こし、特に、南欧、中東、北アフリカ、南アジアの超乾燥地域や乾燥地域では顕著となるという。
対策としては、乾燥化の指標を、既存の旱魃監視システムに統合することを提言。さらに、持続可能な土地利用、水効率への投資、脆弱なコミュニティのレジリエンス強化、国際的な枠組みと協力体制の構築の3つも挙げた。
国連砂漠化対処条約(UNCCD)事務局は同日、同条約が目標として掲げる2030年土地劣化ニュートラルを実現するための持続可能な土地利用システムに関し、同様に科学者で構成する「Science-Policy Interface」の提言報告書も発行している。
同報告書では、個々の土地管理に焦点を当てた「持続可能な土地マネジメント(SLM)」、農村・都市・産業のステークホルダーの長期的な参加型開発プロセスを指す「統合的景観マネジメント(ILM)」、将来資源を保全しながら持続的な土地利用をセクター横断で設計する「統合的土地利用計画(ILUP)」に加え、社会的な要素をさらに重視し、社会生態系システムの考察を深めながらマネジメント行う「持続可能な土地利用システム(SLUS)」アプローチを提唱。土地利用を社会全体のシステムとして検討していく道筋を説いた。
【参照ページ】Three-quarters of Earth’s land became permanently drier in last three decades: UN
【参照ページ】Sustainable land use systems – the path forward to collectively achieve Land Degradation Neutrality
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