労働者の人権問題らに取り組む国際NGOらは10月1日、スウェーデンのアパレル大手、H&Mのバングラデシュ下請け工場における労働環境改善の取り組みが非常に遅れているとする報告書を共同で公表した。問題を指摘したのはClean Clothes Campaign、International Labor Rights Forum、Maquila Solidarity Network、Worker Rights Consortiumの4団体だ。
H&Mは「バングラデシュにおける火災予防及び建設物の安全に関する協定」(通称アコード)の調印企業で、下請け工場の労働環境の改善が求められている。Worker Rights ConsortiumのScott Nova氏は「ラナプラザ崩壊事故や他の衣料工場の事故を受けて、H&Mは労働環境の安全性改善に取り組むことを約束した。しかしH&Mはその約束を破った」と述べている。
同報告書は、H&Mの戦略上重要な全ての下請け工場で修復が遅れており、多くの改修工事がまだ達成されていないと指摘している。Maquila Solidarity NetworkのBob Jeffcott氏は「アコードのおかげで、H&Mは初めて、改修すべき全ての工場を把握できている。それにもかかわらず、修復作業の進みは非常に遅い」としている。報告書によると、防火扉の設置や施錠の解除、階段の囲いなどがアコードで要求されており、かつ緊急時に必ず必要なものであるにも関わらず、未だに修復がされていないという。
多層建築のビルの中で火災が起こると、煙は一瞬で広がる。もし各フロアの出入口に防火扉が無ければ階段には煙が充満し、上層階の労働者は逃げられなくなる。バングラデシュのほとんどの衣料工場はこのような状況下にあり、100人以上が死亡した2012年11月のTazreen Fashionの火災を含め、この状況がバングラデシュの衣料産業で起こる大規模火災の主要な原因となっている。
2010年にもH&M下請け工場のGarib&Garibで火災があり、21人が死亡したが、ここでは適切な非常口の設置などの安全対策が欠けていた。さらに火災が起こった際に扉には鍵がかけられており、労働者は逃げられなかった。H&Mは、下請け工場では扉や門は閉められていないと主張している。
NGOらの指摘に対し、H&Mは10月6日に声明を発表した。声明の中で、同社は「H&Mは、アコードの要求事項を満たした工場でしか生産を行っていない。そして、非常口の設置はH&Mの下請け工場になるための最も基本的な要求事項だ。また、H&M自身のフォローアップデータによると、H&Mはほぼ60%の修復作業を終えており、前進していると考えている」と反論している。
H&Mはバングラデシュでは防火扉とスプリンクラーは入手できないため、輸入しなければならないことが遅れの原因の一つだと説明しているが、NGOらは防火扉の問題は2013年での懸念事項であり、現在はより多くの改善がみられるべきだと主張している。報告書では、H&Mの戦略上重要な下請け工場のうち61%には防火扉が無く、そのような工場で78,842人が働いていると指摘している。
Clean Clothes CampaignのSamantha Maher氏は「H&Mが持続可能性へのコミットメントの公表にかけているのと同じだけの力を、実際に行動を起こすことに注いでくれたのなら、バングラデシュの衣料産業の労働環境はより安全になるだろう」は語る。
ビル崩落により1000名以上の労働者が死亡した2013年4月のラナプラザ事故以来、190社以上のグローバル企業がアコードに調印し、二度と同様の悲劇を繰り返さぬようバングラデシュの工場労働環境改善に取り組んできた。一方で、今回のNGOらによる指摘は未だに多くの工場が課題を抱えている現状を浮き彫りにしている。H&Mも含めてアパレル大手各社が今後どのようにこの問題に対応し、取り組みの改善状況を発信していくのか、引き続き注目が集まる。
【レポートダウンロード】Evaluation of H&M Compliance with Corrective Action Plans for Strategic Suppliers in Bangladesh
【参考サイト】Analysis of H&M’s Response to Report on Safety Renovation Delays at its Bangladesh Supplier Factories
【参考サイト】H&M comments on the report on the Bangladesh Fire and Building Safety
(※写真提供:Tupungato / Shutterstock.com)
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