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【国際】バイオ燃料作物栽培と食糧栽培は両立するか。国際会議の場で激論

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 英国に拠点を置き、地球温暖化に関するニュース配信や情報分析を行っているClimate Homeによると、5月16日から26日までドイツのボンで開催された国連主催の気候変動会議の場で、「エネルギー作物と食糧安全保障」について、研究者や環境活動家の間で激しい論争が巻き起こったという。

 昨年12月に合意された「パリ協定」では、世界各国は地球の気温上昇を産業革命以前と比較して2度未満に抑えることを目標に取り組み、さらに1.5度未満に向けて努力を求められることになった。この目標を達成するための手段としてCO2削減プランに盛り込まれているのが既に実用化が進んでいるバイオ燃料の促進だ。

 特に輸送用燃料として有望視されているのがバイオエタノールとバイオディーゼルで、原料となるトウモロコシやサトウキビ、菜種油等の栽培面積を拡大する方向で政策手段にも組み込まれている。国際エネルギー機関(IEA)の2011年発行の報告書は、2050年までに、27%の輸送エネルギーはバイオエネルギー由来のものとなると見積っている。また、EUは2020年までにバイオエタノールとバイオディーゼルにより輸送エネルギーの10%を賄うという目標を立てている。

 このように大きな期待を担っているバイオエネルギーだが、一方で、その原料となるエネルギー作物の栽培が、食糧生産用の土地を奪い、食糧の高騰につながり、特に貧困層の人々に悪影響を及ぼすのではないかということを、世界資源研究所の研究者、Tim Searchinger氏や、ActionAid等の環境活動家を含む一部の研究者、環境活動家、政府機関関係者が懸念を表している。

 今回の論争が起きたのは、バイオエネルギー推進派が、データを検証すれば、エネルギー作物と食糧栽培は両立でき、エネルギー作物の栽培によって土地管理がむしろ向上し、食糧のサステナビリティが増進すると議論を展開したのに対し、反対派が反論を試みたことから生じた。

 反対派は次のような議論を展開している。

1)耕作可能な土地は有限、食糧生産とエネルギー作物栽培は両立しない。エネルギー作物の増加は食糧減と価格高騰につながる。
2)エネルギー作物への転換は高額な費用がかかる。
3)エネルギー作物より太陽光発電パネルを利用したエネルギー生成の方が効率がよい。
4)食糧の栽培により今でも二酸化炭素の貯留は行われており、エネルギー作物への転換は必要としない。
5)貧困層を追い込むのではなく、富裕層のCO2排出を抑制すべき。

 それに対し、推進派のオークリッジ国立研究所気候変動研究所のLeith L. Kline氏は、自身が筆頭著者として発表した論文「Reconciling food security and bioenergy: priorities for action(GCB Bioenergy, 14 June 2016)」で、反対派の主張は複雑な実態を単純化したものであり、科学的根拠に乏しいと指摘。バイオエネルギーと食糧安全保障とのシナジー効果を促進し、長期的な作戦を立て、サステナビリティと飢えの根絶を目指すために、次のことを提唱した。

 まず、食糧安全保障に関する用語自体が統一されていない。食糧安全保障という概念自体が多様な解釈が伴うため測定基準がなく、替わりに「飢え」の指標を適用している。しかし「飢え」についても、国連世界食糧計画(WFP)は「エネルギー需要を満たすための十分な食糧がない状態」と定義する中、World Hunger Education Servicesは「栄養不良等の総体的な食糧不足」としており、同じ定義とはいえない。従って用語や概念を統一し、測定を容易にすることが必要である。

 次に、国連食糧農業機関(FAO)により毎月発表されるFAO食料価格指数は、2002年から2004年を100として、国際取引価格から算出されている。FAOや世界銀行は2007年から2008年の食糧高騰をバイオ燃料のせいだとしているが、他の研究でも明らかにされているように原油価格や貿易政策が関連している。食糧価格とエネルギー作物との相関関係は単純ではなく、精査が必要だとした。

 国連持続可能な開発目標(SDGs)の一つにとしても掲げられている「飢餓」の問題。この食糧の分野では、バイオ燃料との関係、遺伝子組換え作物の扱い方が大きな問題として湧き上がっている。このテーマはすでに、倫理の問題から科学的数値の問題へと様相の変化を見せており、科学者の役割がますます重要になってきている。気候変動の問題もかつては「温暖化してる」「温暖化していない」議論が巻き起こり、20年以上に渡る科学者の議論の結果、「温暖化している」ことがほぼ確実となった。バイオ燃料と遺伝子組換えについても議論の枠組みが必要となってきている。

【参照ページ】Reconciling food security and bioenergy: priorities for action
【参照ページ】Biofuels are good for food security – study
【参照ページ】Activists row over bioenergy role in meeting 1.5C climate target
【参照ページ】Bioenergy “incompatible” with sustainable food production – study
【関連ページ】バイオ燃料の種類・実用性・課題

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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