英中間支援組織NGOのSocial Enterprise UK(SEUK)は1月26日、ソーシャル投資の提言レポートを発表した。依然として社会的企業には資金が不足しているとし、低金利でのファイナンス手法の拡大を提唱した。
同組織は2002年に創設。2017年に慈善活動家のビクター・アデボワレ氏が会長に就任。今回の提言レポートは、SEUKが発足したソーシャル投資委員会がまとめた最終報告書で「アデボワレ・レポート」とも呼ばれている。
同レポートは、「社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)」の意味として、SEUK自身やSocial Enterprise World Forumの定義を基に、社会または環境ミッションを明言した上で、利益の大半を課題解決への再投資に費やしている組織と定義。ソーシャル投資とは、社会的企業への債権もしくは出資の形式でのファイナンスと定義し、寄付は含まれない。
同レポートによると、現在、英国には社会的企業が10万社あり、売上は年間600億ポンド(約9.4兆円)、従業員数は約200万人。人口6,700万人の英国でかなり大きな存在になってきている。
一方、課題としては、ファイナンス不足を挙げた。英国では、ファイナンスが困難と感じる社会的企業が多い一方、金融機関側では投資対象が少ないとの認識もある。同レポートは、背景には、社会的企業に多くの財務的リターンを求めすぎている傾向があると見立てた。そのため、解決策として、社会的企業へのファイナンスに対しては期待リターンを低くするよう促した。
そのため、市場水準リターンを求めるファイナンスと市場水準未満リターン型ファイナンスや寄付とを組み合わせたブレンデッド・ファイナンスが重要とした。また、これまで英国でのソーシャル投資を牽引してきた政府系のBig Society Capitalが、近年、市場水準リターンを重視しすぎていることを課題と認識し、機構改革を提言した。
今回SEUKは、期待リターンの低いソーシャル投資を「企業中心ファイナンス」と呼び、休眠預金口座の資金使途も、4億ポンド(約600億円)規模の「フロンティア基金」を新設し、そちらの原資にすべきとした。また、英政府に対し、「フレキシブル資金タスクフォース」を新設し、ソーシャル投資プログラム全体に占める寄付拠出額の割合を2030年までに1%にまで拡大すべきとした。実現すれば、現在の寄付拠出額1.45億ポンドが2030年には3.8億ポンドにまで増えるという。さらに英政府に対し、初期2億ポンド規模の社会的企業融資への特別融資保証制度を新設し、長期、少額、高レベル保証を提供すべきとした。これらを実現すると、社会的企業分野で新たに5万社、18万人の雇用を創出できると試算。加えて、英国内の経済効果は30億ポンド、税収も10億ポンド増えるとした。
英政府は2月2日、国内の社会課題に対応するための新たな政策「Levelling Up the United Kingdom」を独自に発表している。その中で、企業を育成し、生産性、賃金、雇用、生活水準を全て高めることを重視。業績の低い地域が英国の平均値に向かってレベルアップし、潜在能力を引き出せれば、英国のGDPを毎年数百億ポンド単位で押し上げることができると強調した。スキル、健康、教育、ウェルビーイングのレベルアップも同様にGDPを押し上げると期待した。
また同政策では、イングランド地方内での地方分権もさらに進める。具体的には、2030年までに、希望するイングランド地方の全ての地域との間で、権限と長期財源確保のための協定を締結。中央政府の意思決定を地方に委譲するとともに、公務員も22,000人をロンドンから地方へ移住させる。その上で、実行的な地域マネジメントを実現させるために、データ駆動型のガバナンスへと移行させる。中央政府には、「レベルアップ諮問委員会」を新設し、政策設計や進捗状況をまとめた年次報告書の発行に対し助言を行う。
この新政策に対し、SEUKは、歓迎を示しつつも、企業重視の姿勢を批判。企業は短期思考で弊害と切り捨てた。政府に対し、社会的企業重視へあらためるよう苦言を呈した。
【参照ページ】Reclaiming the Future
【参照ページ】Levelling Up the United Kingdom: executive summary
【参照ページ】Social Enterprise UK response to the Levelling Up White Paper
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