
国際エネルギー機関(IEA)は10月21日、シンガポール政府と共同でパリ本部以外の初の支部となるIEA地域協力センターをシンガポールに開設した。東南アジア諸国との協力関係拡大を狙う。
東南アジアのエネルギー需要は、現状の政策設定に基づく化石燃料への依存が継続した場合、2050年までに60%以上増加する見通し。同地域のほとんどの国がカーボンニュートラル達成に向けた野心的な目標を発表しているが、エネルギー安全保障と温室効果ガス排出量の削減を達成するには、各国がエネルギー効率の改善、再生可能エネルギーや低排出燃料への転換を加速させる必要がある。
同センターは、IEAの活動と地域とのエンゲージメントの拠点となり、再生可能エネルギー等のクリーンエネルギー技術の普及拡大、国際的な電力貿易の増加、資金調達手段の改善等、様々な分野において支援を行う。
また、IEAは10月22日、東南アジアエネルギー見通し報告書の2024年版を発表した。同報告書は、2015年から約2年に一度の頻度で更新されており、今回で6回目。今後10年間で、世界のエネルギーシステムにおける東南アジアの役割は大きく拡大する見通しを示した。
同報告書によると、東南アジアは、急速な経済成長、人口増加、製造業の拡大がエネルギー消費量を押し上げ、今後10年間でエネルギー需要が増加する世界最大の地域の1つになる。現状の政策では、東南アジアは2035年までに世界のエネルギー需要の増加分の25%を占める見通し。インドに次ぐ第2位の規模になる。2050年には、東南アジアのエネルギー需要はEUのエネルギー需要を上回ると推定した。
エネルギー需要増加を牽引するのは電力セクター。東南アジアの電力需要は年率4%で増加すると予測されており、頻発する熱波によりエアコンの使用増加が電力消費の増加の大きな要因とした。
また、同報告書では、風力発電や太陽光発電、バイオエネルギー、地熱発電等の再生可能エネルギーは、2035年までに同地域のエネルギー需要の3分の1以上を満たすと予測。再生可能エネルギーの割合が大幅に増加していると評価しつつも、温室効果ガス排出量削減は不十分なままで、2050年頃までに同地域からの排出量は35%増加する。
現時点では、東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する10カ国のうち、8カ国が排出量ゼロの目標を掲げている。目標年は、ブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、シンガポール、ベトナムが2050年、インドネシアが2060年、タイが2065年。IEAは、国連気候変動枠組条約第28回ドバイ締約国会議(COP28)で設定された2030年までに再生可能エネルギー設備容量を3倍にする目標の達成に向けたアクションを拡大しなければならないと伝えた。
各国の気候目標を達成するためには、現在の投資水準を5倍に引き上げ、2035年には年間1,900億米ドル(約28兆円)が必要となる。クリーンエネルギーへの投資を拡大するだけでなく、設立経過年数が少ない石炭火力発電所からの排出量を削減する戦略策定の必要性も訴えた。東南アジアでの石炭火力発電所による発電量は世界第4位であり、石炭火力発電所の平均設立年数は15年未満と世界で最も低い。
【参考】【フィリピン】石炭火力廃止で世界初国際移転クレジット創出検討へ。GenZeroやケッペル協働(2024年8月22日)
東南アジアは世界のGDPの6%、エネルギー需要の5%、人口の9%を占めているが、世界のクリーンエネルギー投資額のうち2%しか投資されていない。加えて、安全で柔軟な電力システムを確保するには、系統電力への投資も重要となり、2035年までに現在の投資額の2倍の年間300億米ドル(約4.5兆円)にまで増やす必要があるという。既存インフラの強化だけではなく、離島や遠隔地域に対して再生可能エネルギーを供給するマイクログリッドへの対策も必要となる。
再生可能エネルギーへの移行を加速させた場合、雇用増効果も期待される。2019年以降、東南アジア地域では再生可能エネルギーに関する雇用が8.5万人以上創出。さらに再生可能エネルギーに関する製造業と重要鉱物の加工業は雇用拡大のポテンシャルが大きい。例えば、膨大なニッケル埋蔵量を持つインドネシアは、リチウムイオンバッテリーと部品の主要生産国となった。ベトナム、タイ、マレーシアは、中国に次ぐ太陽光発電システムの最大の製造国へと発展を遂げている。シンガポールは、世界最大の船舶用燃料補給港であり、アンモニアやメタノール等の燃料を活用して世界の船舶からの排出量削減に貢献可能とした。
IEAは、地政学的な緊張が高まり、気候リスクが増大する中で、安全な再生可能エネルギーへの移行を進めるためには、ASEAN等の組織を通じた国際協力が重要だと強調。IEAのシンガポール新事務所の開設は、東南アジア諸国をはじめとする各国との結びつきを強化し、エネルギー安全保証の強化とクリーンエネルギーへの移行を加速させる第一歩になるとした。
【参照ページ】IEA sets up new office in Singapore to strengthen energy collaboration in Southeast Asia
【参照ページ】Southeast Asia’s role in the global energy system is set to grow strongly over next decade
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