
フィリピン財閥アヤラ・コーポレーションの発電子会社ACエナジーは8月16日、フィリピンのバタンガス市にある石炭火力発電所を2030年までに廃止し、クリーンエネルギー供給施設へ移行するためのカーボンクレジットの利用を検討するため、シンガポール政府系投資会社テマセクが設立したGenZero及びシンガポール複合企業ケッペルと覚書を締結したと発表した。パリ協定6条2項に基づく「協力的アプローチ」型の市場メカニズムを通じ、フィリピンからシンガポールへ緩和成果の移転も視野に入れる。
【参考】【アジア】VCMIとGenZero、信頼性の高いカーボン市場構築で連携強化(2024年5月3日)
ACエナジーは2020年5月、2030年までに石炭火力発電事業から完全撤退すると発表。親会社のアヤラ・コーポレーションは2021年10月、スコープ3含めた2050年カーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)を宣言している。
【参考】【フィリピン】アヤラ財閥、スコープ3含め2050年カーボンニュートラル宣言(2021年11月17日)
【参考】【フィリピン】アヤラ財閥のACエナジー、2030年までに石炭火力完全撤退。丸紅との合弁案件も(2020年5月9日)
今回の発表は、フィリピンのルソン島バダンガン市にある「南ルソン火力エネルギー(SLTEC)」が所有する246MWの石炭火力発電所を廃止するというもの。GenZeroとケッペルは、プロジェクトに廃止プロジェクトに参画し、2030年までに廃止するためのエネルギー移行型カーボンクレジットの発行を共同検討する。ロックフェラー財団のCoal to Clean Credit Initiative(CCCI)と、シンガポール金融庁のTransition Credits Coalition(TRACTION)も協力する。
パリ協定第6条では、パリ協定締約国の国別削減目標(NDC)の達成について、自国での削減以外の手法として、削減成果を二国間で移転する協力的アプローチ共通ガイダンス(6.2条)、高品質のカーボンクレジットを用いた国連管理メカニズム(6.4条)、削減成果の移転を伴わない機会創出型の非市場アプローチ(6.8条)の3つが設けられている。
同プロジェクトが完遂されれば、国際移転クレジットを発行した世界初の石炭火力発電所廃止プロジェクトとなる。廃止後の跡地には、太陽光発電所と蓄電池で構成される新たな発電所に転換する。石炭火力発電から再生可能エネルギーへの転換では、ESG基準とベストプラクティスも考慮し、労働者と地域コミュニティを対象とした職業訓練、資産の再利用、地域社会と地元環境への影響を最小限に抑える手法を模索する。
シンガポール政府は2023年12月、国連気候変動枠組条約第28回ドバイ締約国会議(COP28)の場で、シンガポール政府の環境保全基準を満たす場合には、国際移転クレジットを購入する用意があると発表しており、フィリピンとシンガポール間のパリ協定第6条に基づく移転が実現する可能性が出てきた。
石炭火力発電所は、世界の温室効果ガス排出量の最大の原因。東南アジアでの石炭火力発電所による発電量は世界第4位であり、石炭火力発電所の平均設立年数は15年未満と世界で最も低い。SLTECのような石炭火力発電所を早期廃止することは、パリ協定及び2050年カーボンニュートラルの達成に向けて重要なアクションとなる。
【参照ページ】ACEN, GenZero and Keppel join hands to catalyse retirement of coal-fired plants in Southeast Asia
【参照ページ】ACEN, GenZero, Keppel ink deal for coal phaseout
【参照ページ】COP28: The Rockefeller Foundation, ACEN Corporation, Monetary Authority of Singapore Partner to Explore Phasing Out Coal Plant in Philippines
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