【EU】欧州金融監督機構、移行リスク・ストレステスト結果公表。金融安定化で政策協調必要

　EUの欧州金融監督機構（ESAs）を構成する欧州証券市場監督局（ESMA）、欧州銀行監督局（EBA）、欧州保険・企業年金監督局（EIOPA）は11月19日、欧州中銀行（ECB）とともに、気候変動移行リスクに関する気候ストレステストの結果を発表した。マクロ金融情勢の悪化と移行リスク要因との相互作用は、移行を混乱させ、金融機関の損失を大幅に増加させ、それによって金融不安定化を招くリスクが有ると指摘した。

　今回のステレステストでは、EU「Fit for 55」政策の移行リスクを分析。Fit for 55政策では、グリーン経済への移行における投資とイノベーションを刺激し、2030年までに温室効果ガス排出量を55%削減、2050年までにカーボンニュートラル実現することを目的している。

【参考】【EU】欧州委、包括的気候産業規制「Fit for 55」採択。国境炭素税も盛り込む。大企業賛同（2021年7月15日）

　今回のストレステストでは、3つのシナリオを用いてシナリオ分析を実施した。また、各シナリオが個々の金融セクターに与える影響「第一ラウンド効果」と、他の金融セクターを含む金融システム全体への波及と増幅効果の可能性「第二ラウンド効果」を、トップダウンモデルを用いて評価した。モデルでは、110の銀行、2,331の保険会社、629の職域退職年金基金（IORPs）、および約22,000のEU籍ファンドで構成される金融機関のサンプルが保有する非金融法人（NFC）への融資、株式、債券（国債を含む）、ファンドのポジションを対象とした。

• Baseline：欧州中銀行制度（ESCB）の2023年6月時点のマクロ経済予測を反映した環境の下で、「Fit-for-55」パッケージが実施されるながら、グリーン移行に関連する追加コストが発生する。
• Adverse 1：移行リスクは、投資家が炭素集約型企業（ブラウン企業）の資産を売却する「ラン・オン・ブラウン」ショックという形で顕在化。ブラウン企業はグリーン活動に必要な資金を調達できず、グリーン移行の妨げとなる。
• Adverse 2：「ラン・オン・ブラウン」ショックは他の標準的なマクロ金融ストレス要因によって増幅される。

（出所）ESAs

　シミュレーションの結果、Adverse 1シナリオでは、今後8年間の時間軸で、第一ラウンドの損失総額は、各セクターにおいて、開始時点のエクスポージャーの5.2%から6.7%。第二ラウンドの損失では、主に投資ファンドに関連し、開始時点のエクスポージャーの11.2%に達した。これを受け、「ラン・オン・ブラウン」ショックから生じる損失がEU金融システムに与える影響は限定的との見方を示した。

　一方、Adverse 2シナリオでは、銀行、保険会社、企業年金基金、投資ファンドが計上する第一ラウンドの損失は、セクターによって10.9%から21.5%となった。そのため、移行リスクがマクロ経済ショックと組み合わさった場合、金融機関の損失を増大させ、混乱につながる可能性があるとした。但し、これらの損失が金融機関の自己資本に与える影響は、銀行の収益、保険会社や企業年金の負債、評価には含まれなかった投資ファンドの現金保有などの要因によって緩和されると予想。対策として、グリーン移行への資金供給に対する協調的な政策アプローチが必要となり、金融機関は気候変動リスクを包括的かつタイムリーにリスク管理に組み込む必要があるとした。

【参照ページ】Transition risk losses alone unlikely to threaten EU financial stability, “Fit-For-55” climate stress test shows

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