
国際エネルギー機関(IEA)は11月3日、世界の天然ガス市場の需給動向とエネルギー安全保障を分析した報告書「Global Gas Security Review 2026」を発表した。欧州連合(EU)の天然ガス貯蔵量が2013年以来の低水準となる中、世界の液化天然ガス(LNG)供給量は2026年に前年比約3%減少すると予測。欧州での貯蔵量の補充需要等により、世界のガス市場の需給逼迫が2027年に入っても長期化する可能性があると指摘した。
今回の報告書は、2016年の初版発行から10年を迎える第10版。世界の天然ガス市場の構造変化と、中東紛争に伴う供給途絶の影響を分析した。IEAの四半期ガス市場分析と短期需給見通しも掲載している。
中東紛争によりホルムズ海峡を通過するLNG輸送が事実上停止したことで、2026年3月から10月にかけて、カタールとアラブ首長国連邦(UAE)からのLNG積出量が合計600億m3以上減少。その結果、アジアと欧州の天然ガス価格は、2022年から2023年の天然ガス供給危機以来の高水準に上昇した。
IEAは、2026年の世界のLNG供給量が前年比約3%減の200億m3近く減少すると予測。一方、世界の天然ガス需要も前年比約1.5%減の650億m3近く減少すると見込んだ。需要減少の主な要因として、中東での天然ガス需要の減退、欧州の産業部門における天然ガス消費量の減少、アジアの多くの国での発電燃料の天然ガスから石炭への転換を挙げた。
特に懸念されているのが、EUの天然ガス貯蔵量の低下。EU域内の天然ガス貯蔵施設は、2026年から2027年にかけての冬季暖房シーズンを、2013年以来最低の在庫水準で迎える。これにより、冬季の需要ピーク時における世界のLNG供給への依存度が一段と高まる可能性がある。今冬が予想以上に寒くなった場合や、設備故障等による供給途絶が発生した場合、欧州のエネルギー供給が大きな影響を受けるおそれがある。
【参考】【EU】欧州委、EUメタン規則の一部1年延期案発表。MRV同等性確認や排出原単位上限義務(2026年10月17日)
また、アジアや南米のLNG輸入国でも天然ガス貯蔵能力が限られていることから、欧州とこれらの地域の間で、仕向地を柔軟に変更できるLNG貨物の獲得競争が激化する可能性がある。特に需要が高まる時期には、スポット市場での価格上昇圧力が強まると分析した。
さらに、欧州では冬季の天然ガス消費によって低下した貯蔵量を回復させるため、2027年夏季に大量の天然ガスを貯蔵施設へ注入する必要性が生じる可能性がある。IEAは、こうした貯蔵量の補充需要が世界のLNG市場の需給逼迫を2027年に入っても長期化させる要因になると指摘した。
一方、世界の天然ガス市場では、過去10年間でスポット取引の拡大や仕向地制限のないLNG契約の普及が進み、地域間の市場の相互接続性と柔軟性が高まっている。特に北米からのLNG供給拡大と柔軟な取引契約は、中東からの供給途絶による影響を緩和する役割を果たしている。
IEAは、こうした市場構造の変化によって供給ショックへの対応力が高まる一方、世界の天然ガス市場は一層複雑化していると分析。地政学的リスクや市場の複雑性が高まる中、天然ガス供給の安全保障を確保するためには、各国間の国際協力を強化し、潜在的な供給危機への備えを充実させる必要があると強調した。
【参照ページ】Low storage buffers in Europe could prolong global gas market tightness well into 2027
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