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【インタビュー】アメリカ大豆輸出協会地域代表が語る大豆の未来~SSAP認証の特徴と展望~

【インタビュー】アメリカ大豆輸出協会地域代表が語る大豆の未来~SSAP認証の特徴と展望~ 1

 人権侵害や環境破壊等、サプライチェーン上での課題の多い大豆。食品企業にとってサプライチェーンのトレーサビリティの重要性が高まる一方、日本大豆の自給率は2019年時点で7%程度と低く、海外を視野に入れた管理が必須となる。

 農林水産物輸出入統計(2019年調査)によると、輸入大豆の73%が米国産からの輸入。日本企業では、特に米国産大豆について、サプライチェーンを可視化できるかが重要な論点となっている。

 こうした中、アメリカ大豆輸出協会(USSEC)では、大豆生産のサステナビリティに関するプロトコル「大豆サステナビリティ認証プロトコル(SSAP)」を開発。適切な農業運営とサステナビリティと保全を目的とした自主プログラムに参加しているアメリカ産大豆生産者に対し、認証を与えている。

 今回は、USSECの北東アジア地域代表 /市場アクセスシニアディレクターのロズ・リーク氏に話を聞いた。

SSAP認証概要と欧米からの受け止められ方

菊池

 まずは始めに、SSAP認証について概要を伺いたいと思います。大豆生産は世界全体で拡大している一方、拡大を推進する遺伝子組み換え作物(GMO)やゲノム編集や農地開拓用の森林破壊への懸念も高まっています。USSECでは、所定の基準を満たした大豆に対し、SSAP認証を発行しておりますが、こうした取り組みも消費者不安を取り除く方法の一つでしょう。

 SSAP認証では、具体的に何を保証しており、そして認証が無い大豆とは具体的に何が異なるのでしょうか?

ロズ・リーク氏

【インタビュー】アメリカ大豆輸出協会地域代表が語る大豆の未来~SSAP認証の特徴と展望~ 2 SSAP認証は、環境・社会観点で4つの指令を満たした輸出用の米国産大豆に対して、付与する認証です。具体的には、「生物多様性および炭素貯蔵量の多い生産に関わる管理方法と規則」「生産活動に関わる管理方法と規則」「一般市民および労働者の健康と福祉に関わる管理方法と規則」「生産活動および環境保護の継続的な改善に関わる管理方法と規則」の4つの指令を満たす必要があります。

菊池

 大豆のサステナビリティ認証では、「持続可能な大豆のための円卓会議(RTRS)」がありますが、どのような違いがあるのでしょうか?

ロズ・リーク氏

 最大の違いは、生産地固有性でしょう。SSAP認証では、米国産大豆のみを取り扱っていますが、RTRSは認証大豆の証券が生産者と最終製品製造者、販売者との間でオンライン取引されるモデル「ブックアンドクレーム」を採用しており、産地に制限はありません。

菊池

 SSAP認証は、米国産大豆の中でも、輸出向けのものを対象としていますが、米国外に拠点を置く米国企業でも、SSAP認証大豆を使用する場合があると思います。米国企業からは、どのように評価されていますでしょうか?良い点はもちろん、何か改善に向けて取り組まれていること等がありましたら、お聞かせください。

ロズ・リーク氏

【インタビュー】アメリカ大豆輸出協会地域代表が語る大豆の未来~SSAP認証の特徴と展望~ 3 仰る通り、SSAP認証は、米国外への輸出用大豆のみに対し、適用されます。米国企業では、SSAP認証の価値が理解されており、海外拠点を置く複数企業からSSAP認証大豆を求める声があります。これは、認証農家で環境に配慮した大豆生産を行っていることや、労働問題等の社会課題が限定的であること等が、米国企業らから受け入れられているからだと考えています。

菊池

 SSAP認証に対する欧州企業からは、どんな反応がありますか?

ロズ・リーク氏

 欧州は、多くのサステナビリティ関連イニシアチブを先導する存在です。欧州配合飼料製造者連盟(FEFAC)は約10年前、サステナビリティに関する議論を始めており、大豆の持続可能な生産を保証するためのガイドライン策定について検討していました。

 FEFACの検討を受け、USSECとしても同時期に、SSAP認証を策定を開始しました。FEFACの懸念事項が理解できたからです。結果、SSAP認証は、FEFACのガイドライン策定時に、ベンチマークとして活用。国家策定の仕組みとして唯一、ベンチマーク採用されました。現在、欧州が米国から輸入している大豆のうち、99%がSSAP認証大豆となっています。こうした実情から、欧州からも高い評価を得ていると考えています。

 さらに、欧州委員会では「EU再生可能エネルギー指令(EU Renewable Energy Directive)」もあり、再生可能エネルギーとしての大豆利用についても議論が進んでいます。欧州において再生可能エネルギーとして活用できるよう、USSECでは、同指令の基準に適うSSAP認証を用意する等、対応を進めています。

トレーサビリティおよびリジェネラティブ農業

菊池

 農業・食品セクターでは、「トレーサビリティ」が重要テーマとなっています。将来的な気候変動の影響等を踏まえ、収量予測を行う上ためにも、トレーサビリティは欠かせません。SSAP認証では、トレーサビリティについては、どのように考えていますか?また、今後どのような取り組みを進める想定ですか?

ロズ・リーク氏

【インタビュー】アメリカ大豆輸出協会地域代表が語る大豆の未来~SSAP認証の特徴と展望~ 4 トレーサビリティについては、SSAP認証大豆である以上、最低限、米国産であることは明らかになります。また、全米農家の殆どの大豆農家が準拠する、保全に関する米国政府の法規制体系に基づいており、結果重視で定量測定も可能です。トレーサビリティをより明確に担保したい場合、米国バリューチェーン内の大豆購入企業や輸出企業側から、追加要件を求めることもできます。

 日本が米国から輸入している大豆の80%以上は、SSAP認証済みです。そのため、日本の食品企業は、SSAP認証を公表するだけで、簡易にトレーサビリティを構築することが可能です。

 トレーサビリティは、「透明性」の文脈で使われることも多くあります。実際、皆さまが気にされているのは、農家や州等との連携を強化し、実際に農地で何が起きているかを把握する「透明性」でしょう。現状、完全な透明性を担保するのは難しいのですが、公開情報を活用し、可能な限りの保証に努めています。

菊池

 米国の食品大手カーギルや穀物大手ゼネラル・ミルズ等では近年、リジェネラティブ農業を推進する動きがあります。農業関係者の中には、このような動きを「バカげている」ととらえる向きもありますが、USSECとしては、どのように見ていますか?

ロズ・リーク氏

 リジェネラティブ農業の重要性を市場に理解させる上で、民間企業は重要な役割を担うと考えています。また、リジェネラティブ農業が経済性あるものとして、活用されるためにも重要な役割を担います。真に持続可能であるためには、経済的安定性が必要となるからです。

 サステナビリティは、継続的に改善していく戦略であり、こうした課題に取り組むための新たな方法を探し続ける必要があります。リジェネラティブ農業に関しては、農業システムを念頭に置くことが重要ですが、複眼的な視点を持つ必要があります。例えば、農業の基本となる土壌。当然、健康的な土壌が必要ですが、最も持続可能な穀物生産のためには、多くの文化的慣行の有効活用がポイントになります。

 より多くのバリューチェーンで、サステナビリティに関する取り組みが進むことで、短期的・単発的ではなく、より長期的に大きなインパクトを創出できると考えています。

新型コロナウイルス・パンデミックと気候変動

菊池

 新型コロナウイルス・パンデミックでは、認証農家にどのような影響がありましたか?また、USSECとして何か農家コミュニティに対して支援されたこと等がありましたら、お聞かせください。

ロズ・リーク氏

 新型コロナウイルス・パンデミックは、世界的な課題であり、米国の農業も例外ではありません。しかし、米国の農業システムのレジリエンスの高さもあり、幸いなことに現在までに大規模な混乱は発生していません。大豆生産は、労働集約性が低く、労働者の接触は多くありません。大豆を出荷する港でも大規模クラスター等は発生しておらず、現在も完全稼働を続けています。

菊池

 次に、気候変動について、お聞かせください。気候変動は、長期的に大豆農家の収量へ悪影響を与えますが、短期的には影響が見えづらいという難しさがあります。例えば今回の米国大統領選でも、大豆農家が多く生活する田舎の地域には、共和党支持の「赤い州(Red State)」が多く、気候変動を含むサステナビリティを重視しない方が多い傾向にあるように見えます。やや困難な状況にも取れますが、USSECでは今後、どのように持続可能な大豆生産を米国農家へ浸透させていこうと考えていますか?

ロズ・リーク氏

 環境サステナビリティや気候変動は、グローバルで議論が必要な重要テーマだと考えています。たしかに、農家の方々は、気候変動の専門家ではなく、気候変動対策に取り組むという意識も強くはありません。しかし、農家は第一線にいる存在であり、適応力も驚く程に高いです。最も環境に良く、安全性の高い穀物生産に向け、イノベーションを受け入れ、改善点を探し続ける姿勢を感じています。

食品企業の責任およびエンゲージメント

菊池

 先日、オックスフォード大学の研究チームの発表で、仮に化石燃料からの二酸化炭素排出が今すぐ止まったとしても、食料生産からの二酸化炭素排出量だけでパリ協定の目標達成が難しくなってしまうとの指摘がありました。改めて農業セクターの責任が問われているとも言えるでしょう。

 こうした中、大量の二酸化炭素排出量が課題視される食肉に代わり、大豆ミート等の代替たんぱく質に注目が集まっていますが、代替たんぱく質については、どのように捉えていますか?

ロズ・リーク氏

 まず大前提として、農業セクターでは、気候変動に向け多くの打開策の提供に取り組んでいる点をお伝えしたいです。また、カーボンフットプリントの観点から課題視されることが多い農業セクターですが、その分、二酸化炭素排出量削減に貢献する機会が多くあります。環境との調和をとり、農業システムを強化することは可能だと考えています。このように米国農業では、消費者需要を捉えた動きを進めており、代替たんぱく質についても大豆産業として、取り組みを進めています。

菊池

 次に、投資家との関係性の観点について、お聞かせください。ESG投資方針を掲げる機関投資家によるエンゲージメントは今後、化石燃料と同様に農業セクターでも想定されます。国連責任投資原則(PRI)の署名機関も年々増加しており、気運の高まりが見えますが、USSECとしては、今後金融機関や機関投資家へも働きかけを行っていくのでしょうか。

ロズ・リーク氏

 グリーンファイナンスは、非常に重要な役割を担っています。USSECでもグリーンファイナンスについてのキャッチアップを進め、企業や農家の機会を最大化する取り組みへの理解に努めています。特に、グリーンファイナンスを享受しようとしている企業を見る際、そうした企業が持続可能な調達を重要な要素と認識しているかを確認するようにしています。また、持続可能な調達として様々にベンチマークされているSSAP認証等は、金融機関からも真剣に受け止められていることも、改めて認識しました。

アジアおよび日本について

菊池

 SSAP認証拡大にあたり、アジア特有の課題はありますか。

ロズ・リーク氏

 アジアは、経済的成熟性において、非常に多様です。発展途上国では、特に多くの課題を抱えています。USSECとしては、我々には大豆調達に関するナレッジがあり、環境フットプリントの改善に寄与する大豆調達の支援が可能だということを、伝えていかなければならないと考えています。

 また、アジアにおける過去10年での変化は、非常に興味深いものでした。2020年に開催が予定されていた東京五輪は、史上最もサステナブルなものとなり、日本に閉じず、アジアにおけるサステナビリティの議論を活発化させたと考えています。SSAP認証への関心についても高まりを感じています。

菊池

 日本企業については、どうですか?日本企業のESG評価機関からの評価は、芳しくない場合も少なくありません。輸入大豆の7割超が米国産の日本では、SSAP認証を上手く活用することで、伸び代がまだまだあるとも考えていますが、今後、日本企業にどのようなことを期待しますか?

ロズ・リーク氏

 USSECでは、多くの日本企業へのエンゲージメントを行ってきました。日本企業では、消費者の声への関心が高いように感じています。消費者コミュニケーションで活用できるよう、USSECでは、SSAP認証と国連持続可能な開発目標(SDGs)の各目標との紐づけも実施しました。既にいくつかの企業は、SSAP認証取得の旨を大豆製品ラベル等のパッケージングに表示し始めています。今後も継続的に対話を行い、日本市場の需要に適うパートナーであり続けたいと考えています。

菊池

 農林水産省は、欧州委員会が採択した「Farm to Fork」戦略に倣い、規制に関する議論を始めています。同議論では、肥料や殺虫剤からの転換が論点となりますが、こうしたトレンドをどのように捉えていますか?

ロズ・リーク氏

 欧州委員会は、野心的な目標を打ち出していますね。欧州委員会として、どのように取り組みを進め、そしてその意味合いが何であるかについては、議論を追う必要があるでしょう。欧州委員会の動きをどのように理解するかについて、欧州企業間での議論も重要になってくると考えています。

 USSECでは、欧州パートナーとの対話を開始しており、欧州委員会の意図するところの理解に努める他、USSECがどのように貢献できるかについて協議しています。共通認識を持ち、課題解決への糸口を探すことが成功裏に進める方法だと考えています。

菊池

 日本政府では、Non-GMOに関する表示基準の厳格化が予定されていますが、USSECとしては、今後の日本向け大豆供給をどのように考えていますか?

ロズ・リーク氏

【インタビュー】アメリカ大豆輸出協会地域代表が語る大豆の未来~SSAP認証の特徴と展望~ 5 米国は、Non-GMO アイデンティティ・プリザーブド(IP-分別生産流通管理)を運用する世界最大のサプライヤーです。最高峰のIPハンドリング技術を活用し、種子生産から流通に至る各段階で、遺伝子組換え作物との混入が起こらないよう、厳格に管理しています。

 USSECのIPハンドリングシステムは、日米の業界、政府の協働で20年以上前に開発。その後も日本の需要に合わせ、改善に取り組んできました。米国では、Non-GMO大豆の継続供給を確信しており、世界最大かつ最も重要市場である日本の食品企業への供給に、全力で取り組んでいます。

菊池

 最後に、何かこれだけは伝えておきたい、ということはありますか?

ロズ・リーク氏

 USSECは1956年に日本事務所を設立しており、日本と長きにわたる関係があります。日本では今後、人口減少が見込まれていますが、米国にとって重要市場であることに変わりはありません。農業セクター全体では、様々に課題がありますが、日米間の協力で、乗り越えていくことが出来るはずです。今後も、日本企業と継続的に協働していきたいと考えています。

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聞き手:菊池 尚人(株式会社ニューラル 事業開発室長)

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