【金融】三菱商事・ユービーエス・リアルティ。不動産投資信託の第1号グリーンボンド発行を予定 2018/05/02 事例を見る

 不動産投資信託(J-REIT)の運用会社大手の三菱商事・ユービーエス・リアルティ(MC-UBS)は4月16日、同社運用のJ-REITの一つ「日本リテールファンド投資法人(JRF)」が年限5年のグリーンボンドを発行する予定と発表しました。MC-UBSは、三菱商事が51%、スイス金融大手UBSの運用子会社UBSアセット・マネジメントが49%出資の不動産投資運用会社。今回のグリーンボンド発行が実現すれば、J-REITでは初の発行となります。

 グリーンボンドは、調達資金の使途を環境目的に限定した債券。国際資本市場協会(ICMA)が定めたグリーンボンド原則(GBP)が、世界のデファクトスタンダードとなっており、債券がGBPに適合するための要件が定められています。また、第三者評価機関からグリーンボンドとしての適格性に関するセカンド・パーティー・オピニオンを取得することが市場慣行となっています。その項目の一つが調達資金の使途。JRFのグリーンボンドの使途は、一定の環境基準を満たす不動産物件(通称グリーン適格資産)への投資資金。より具体的には、新規または既存のグリーン適格資産の取得資金や、同資産の取得に要した借入金の借換等に充当されます。

 今回のグリーンボンド発行では、注目すべきポイントが複数あります。最初のポイントは、グリーン適格資産の定義。JRFは2018年2月末時点で、全部で100物件(帳簿価額8,590億円)を保有していますが、そのうち30物件については、日本政策投資銀行が管理する「DBJ Green Building認証」、あるいは建築環境・省エネルギー機構が開発した「CASBEE不動産評価認証」を取得しています。双方の認証とも、段階別の評価ランクを設けており、DBJ Green Building認証は5つ星から1つ星までの5段階、CASBEE不動産評価認証はS、A、B+、B-、Cランクの5段階で格付が付与されます。JRFは認証取得30物件のうち、上から3ランク目まで、すなわちDBJ Green Building認証では5つ星から3つ星まで、CASBEE不動産評価認証ではSランクからB+ランクまでをグリーン適格資産と定義しました。

 次のポイントは、環境認証の取得時期の限定。不動産の環境性能は年々向上している昨今、環境認証の評価基準も高くなる傾向にあります。そこでMC-UBSは、セカンド・パーティー・オピニオンを担当したサステイナリティクス(Sustainalytics)と協議の上、不動産の環境認証取得時期を「過去2年以内」に限定しました。このため、本来、JRFが保有している上位3ランク目までの環境認証物件は25件あるのですが、そのうち4件は約3年前に取得していたため除外し、DBJ Green Building認証では12物件(帳簿価額2,179億円)、CASBEE不動産評価認証では9物件(帳簿価額997億円)の合計21物件(帳簿価額3,176億円)をグリーン適格資産としました。

 JRFは、これら定義に基づき、グリーン適格資産3,176億円に有利子負債比率45%を乗じた1,429億円をグリーンボンド発行可能額と設定しました。初回の発行額は未定ですが、一部報道によると初回発行額は50億円から80億円とみられています。同グリーンボンド発行の主幹事は、みずほ証券、SMBC日興証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が務めており、今後、発行条件の検討を行います。

 グリーンボンドの枠組みを構築する上で苦労した点について、MC-UBSの吉見明大・財務部長は、「サステイナリティクスとの折衝」と語ります。サステイナリティクスは、セカンド・パーティー・オピニオンの中で「マーケット・ベスト・プラクティスは、対象物件が前記の認証制度において上位2つのレベルの認証を取得することであると認識しています」と表明。しかし今回、MC-UBSは、DBJ Green Building認証やCASBEE認証は、一度取得すれば永続的に続くものではなく、一定の期間毎に更新しなければならないことや、年々認証の評価基準も高まっており、認証取得後も継続的に環境改善を実施していく姿勢を説明。最終的にセカンド・パーティー・オピニオンの中で、「上位3つ目のレベルの認証を含めることは明確にポジティブな環境効果を有するものであると考えています」と言及されることとなりました。また今回格付投資情報センター(R&I)も、グリーンボンド・アセスメントで最高位となる「GA1」の予備評価を付与しています。

 MC-UBSは、発行後のレポーティングでも先進的なアクションを宣言しています。毎年発表していくグリーンボンドのレポーティングには、調達資金の使途への充当状況だけでなく、グリーン適格資産のポートフォリオ全体の電力消費量、エネルギー消費量、水使用量、二酸化炭素排出量といった投資からの環境インパクトも開示。これを発行したグリーンボンドが残存する限り継続します。サステイナリティクスからは「物件単位での情報開示ができないか」との意見も一度はありましたが、投資法人として物件の売買が発生する可能性がある以上、物件単位の継続開示は本質的ではなく、ポートフォリオの二酸化炭素排出量開示イニシアチブである「PRIモントリオール・カーボン・プレッジ」もポートフォリオ単位での開示を標榜していることを説明し、理解が得られました。

 MC-UBSとサステイナリティクスとのコミュニケーションがスムーズに進んだ背景について、MC-UBSの北岡忠輝・企画調査部長は、「当社の長年のサステナビリティ活動や責任投資に対する取組が、当社への高い信頼に繋がったのでは」と回想します。MC-UBSは、ESG投資分野の国際イニシアチブである「国連責任投資原則(PRI)」「国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)」や「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」に早くから署名。「PRIモントリオール・カーボン・プレッジ」では、現在日本企業の署名機関がわずか4つしかない中、MC-UBSは2番目に署名しました。GRESBリアルエステイト評価でも、JRFは3年連続、またMC-UBSが別途運用する産業ファンド投資法人(IIF)は5年連続で最高位「Green Star」を取得しています。これらの積極的な取組により、JRFとIIFは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用したESG株式インデックスの一つ「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」にも採用。他に採用されたJ-REITファンドは5つしかありません。

 MC-UBSはなぜこれほどまでに国際的なイニシアチブに積極的なのでしょうか。北岡氏は「JRFの投資家の約40%は海外投資家。大きなきっかけは、2012年末にIRで海外に行った際に欧州の年金基金からGRESB評価を取得していないと投資できなくなると言われたこと」と振り返ります。この対話から世界の投資トレンドの変化を感じ取った同社は、2013年に社長を委員長としたサステナビリティ・コミッティを設置。すぐにPRIにも署名し、不動産投資運用会社としてのフレームワークを整備していきます。次にGRESBリアルエステイト評価の対応を開始。GRESBリアルエステイト評価は、物件単位ではなく企業単位の評価で、評価指標には環境認証取得面積率があります。そこで、JRFは2014年11月に商業REIT業界初のDBJ Green Building認証を取得したことを皮切りに、大型物件から環境認証を取得していきます。北岡氏は「大型物件のテナントがESGに積極的なイオンだったことも大きかった」としています。

 JRFは現在、保有物件の環境認証取得率が面積ベースで77%と非常に高い水準にあります。MC-UBSを責任投資という新しい方向に突き動かす背景には何があるのか。北岡氏は「当社は2000年に創業し、JRFが2002年に上場して以来、J-REITの分野で17年の歴史がありますが、初代社長から新しいものに対して積極的にトライする文化。産みの苦しみもあるが、先行者メリットは必ずあるはずだと考えるカルチャーがあります。親会社の三菱商事にも財務面で新しい取組を行う文化があり、2005年に投資法人債を発行したのも当社が初です。」と背景を語ります。また、庄司愛・経営企画部長は「責任投資に積極的なUBSの影響もあります。UBSを親会社に持ち、他の投資法人と比べても、海外投資家を強く意識しているところはあります。」と別の要因も指摘します。UBSは責任投資で非常に知られた金融機関。今では、MC-UBSはUBSグループ全体の責任不動産投資の中でも注目を集めるまでになっているようです。

 グリーンビルディングの市場環境について、北岡氏は「日本では正直まだまだですが、欧州では状況が進んできています。例えば英国では、賃貸や売買時に省エネルギー格付けの取得が義務付けられており、最低基準を満たしていない物件についての賃貸更新、新規賃貸が認められておらず、違反すると法律で罰せられるため、テナントはリーガルリスクを回避しようと認証物件を探す動きがあります」とコメント。グリーンボンドについて北岡氏は「欧州では債券分野でもグリーンプレミアムが発生してきている」と語り、将来への期待感を示しました。

 吉見・財務部長は、今回のグリーンボンド発行の狙いについて「投資家層の拡大。投資法人債をこれまで買っていない投資家にも入ってきて頂きたい」と回答。また今後の継続発行についても「多くの投資家は継続的な発行を望んでいますので、当社もグリーンボンドを継続的に発行したいと考えています」と表明しています。

※画像提供:三菱商事・ユービーエス・リアルティ
※取材協力:みずほ証券

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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