【インタビュー】生活用品を通したカンボジア森の再生。「みんなでみらいを」サステナビリティ経営戦略 2017/07/31 事例を見る

 これまでBOPビジネス、SDGsビジネスは既存の技術や事業の一部を途上国市場に反映させ展開させる企業が多かったのではないか。化粧品ブランド「みんなでみらいを」を展開するフロムファーイースト株式会社は違う。全事業、全商品を環境改善につなげ、原材料の調達するほどに産地である途上国の森林をよみがえらせ、農村に住む人々と日本に住む人々を共に豊かにしていくという「森の叡智プロジェクト」を推進する。環境を改善しながら会社を成長させ、経済を成長させるビジネスモデルを目指す。これまで7つの事業を成功に導いて来た、起業家阪口竜也社長のアプローチ、彼の考える経営、貧困削減へのアプローチを伺いながら、同社のサステナビリティ経営戦略をお聞きした。

フロムファーイースト株式会社 企業概要

  • 代表取締役 阪口 竜也
  • 設立    2003年12月
  • 所在地   大阪市中央区備後町2-4-6
  • 沿革
    • 2003 有限会社エクステンド設立
    • 2009 代表の阪口氏がアーンスト・ヤング主催のEntrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞
    • 2010 フロムファーイースト株式会社に商号変更
    • 2014 カンボジア循環型植林プロジェクト「森の叡智プロジェクト」が経済産業省より途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業に採択される
    • 2015 「森の叡智プロジェクト」が経済産業省より途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業に採択される
    • 2017 SDGsビジネスアワードで大賞に選ばれる
  • ウェブサイトリンク


(写真)フロムファーイースト株式会社 阪口竜也 代表取締役

経営者・阪口竜也氏の軌跡

ご経歴を教えて下さい

 学生時代、大阪芸術大学にてデザインを専攻していました。19歳でローンを組んで、マッキントッシュのパソコンを買い、仕事を作るところから始め、デザインの仕事を請け負いました。当時はデザイン事務所を作るのが夢でした。

 大学卒業後、組織について学ぶため1年限定で企業に就職、人材教育や人材派遣を行う会社の上場準備の部門でCI(Corporate Identity)を中心にブランドマネジメントの担当になりました。経営が分からないと社内で会話ができない。そこでMBA経営本を全て買い、必要な箇所を読んでは、翌日自分の口からその話をして身に着けていく。経営学が出来たからって、経営ができるわけではありませんが、自分の考えを理解してもらい、信用してもらうには知識は必要と思っていました。約束通り1年で辞め、その後その会社は上場しました。

 退職後は、学生時代にお世話になった小さな美容室に入りました。美容室のメニューはどこも「パーマ」「カット」「カラー」の3種です。業界の外にいた自分からは異様だと思いました。当時、ちょうどロンドンからエクステンションが入ってきており、「美容室で髪を伸ばす」というメニューを増やせる、4つ目のメニューができる、差別化できる、と考えました。髪を切りたい人より伸ばしたい人の方が多い、それなら潜在マーケットが大きいはず、と考えたのです。すぐに数多くの競合が出てきたのですが、マーケット拡大させるには競合は必要です。むしろありがたいと思いました。エクステはヒットし、1億円だった売上は3年後には9億円まで伸びました。

 そして2003年、20万軒あると言われる競合の美容室を全て顧客に変え、エクステを無料でコンサルティングしながら直販する、有限会社エクステンドを設立しました。現在のフロムファーイースト株式会社の前身です。実はそれまで美容業界には一切、メーカーによる直販がありませんでした。そこで市場の3割安で販売したところ、すぐに年商10億円まで伸びました。海外にも進出しました。2007年、シンガポール政府の新聞広告を見て、エクステのサプライヤーとして現地で展開を開始、今やシンガポールでも多くの美容室がエクステを導入しています。これ以外にも現地で2社立ち上げました。本体のエクステビジネスを上場させる準備に入ったことでシンガポールから撤退を決めましたが、上場準備中にリーマンで為替が動き、仕入れ安定のためかけた為替予約が反転、そこで数億の損を出しました。上場どころではなくなりました。

経営者としての経験値

 これまで7つの事業を通じて、経営における良い局面、悪い局面を若いうちから経験できました。何が正解だったかは分かりませんが、ノウハウが蓄積できました。一方、エクステが一般に普及すると、次第に事業に対する興味が無くなって行ったのです。逆に売上は増えていく。会社の銀行通帳に1行、莫大なお金が印字されたとき、それが楽しいとは思えませんでした。面白くない、いや、一生できる仕事ではないと思っていました。当時、上場準備は数字の話ばかり。主幹事、監査法人を入れての日々のディスカッションで、数字嫌いな自分はへこたれていました。

 これまでの業績が評価され、美容業界のエクステンションビジネスで2009年にアーンスト・ヤングの起業家表彰制度、Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリストに選ばれました。

生活を通じた環境改善ビジネスへの転換

なぜ「みんなでみらいを」を作られたのですか?

 構想を始めたのは2003年、実際に「みんなでみらいを」を始める10年前にさかのぼります。子どもが生まれたことがきっかけです。これまでは時間について、あと50年ほど生きて、いずれ寿命が尽きるのかな、程度しか考えていなかった。ところが初めて自分の子どもを抱っこしたとたん、その子の命の分まで考えるべき将来が伸びたのです。衝撃でした。そして、何気に近所の池を見ると、いつまでたっても汚れたまま、きれいにはならない。誰もその環境を良くしようと動かないからです。周囲の環境とは個人の行動の積み重ね。子どもの将来、環境は悪化するしかないんではないかと考えたのです。これは何か自分で環境を良くすることを実現せねばと。以前のエクステビジネスがさらに拡大を続ける中、事業と自分の意識に乖離が出てきました。10年間、ずっと環境事業を手掛けたいと考えてきました。

 しかし、リオの環境会議を経ても、みんなが環境改善を叫んでも、一向に環境悪化に歯止めはかかっていない。環境を良くしようと叫ぶだけで行動が伴わない。これまでと同じ環境ビジネスをすれば失敗すると思いました。

 そこで考えたのが、生活すること自体で環境が良くなるとすればどうか―。これまでもエクステを作ってきましたが、一般的にはものを作るほど環境を破壊するものです。では、ものを作るほど環境が良くなれば、経済の成長と環境改善の両方がイコールで結ばれると考えました。

工夫にあふれた経営

しかし、生活に身近な製品だと競合も多く大変では?

 実際、競合調査してみると、環境負荷や身体への負荷が全くない、一定のクオリティの商品がなかったのです。逆に言えば、そこで勝負したら他ではできないものができると思いました。しかし、大量生産はできず、ここまでこだわった商品を扱う市場がなかったのです。よって大手が来なかった。既存のオーガニック市場にものを出したいのではありません。「環境を良くする生活をするための商品」を作りたかった。そのためにはオーガニックの原料も使うし、完全無添加にしないと排水に負荷をかける。「環境を良くする生活をする消費財を作る」ということだけが商品開発のコンセプトで、無添加やオーガニックは必然的にそうなっただけです。開発の意図が、オーガニック市場に売ろうとするその時のプレイヤーとは違いました。自分の目からすると、他の商品はオーガニックと言いながら、合成界面活性剤そのものに見えました。この市場は原料の一つでもオーガニックを使えば、後の原料はそうでなくてもオーガニックといえる市場です。一方で、顧客は残留農薬を避けたい、生産のところで土をキレイにしながら使いたい、という2つのニーズを持っています。しかし、その前に既存のオーガニック製品に含まれる合成界面活性剤の方がよっぽど体にも環境にも悪いのではないか、と考えました。

なぜ、専門家でないのに実現できたのでしょうか?

 美容業界もそうでしたがが、外の人間の方が客観的によく見渡せるものです。当時、カット・パーマ・カラーしかない美容業界はおかしいと思ったし、ぼくには化学の知識がないため、洗剤を作ろうとすると他の人と違う発想でものを作れます。専門家でないからこそ、できることがあります。例えば、経営者の知り合いは何千もおり、相談受けたら、相手にアドバイスできます。しかし、自分のこと、自分の事業のことは自分では分からないものです。外から指摘されて初めて気づいたり考えたりすることができます。

環境や健康志向が市場になったと思ったのはどの段階でしたか?

 最初はシャンプー市場でした。これまで大手のみがプレイヤーだった市場が、ノンシリコンやオーガニックというと、小さな会社の商品でも売れるようになっていきました。この10年で健康志向の市場がここまで拡大してきたか、と実感しました。しかし、ノンシリコンだけで本当に健康でしょうか?実は、メーカーは本当に顧客を健康にしようとしていない。マーケットでミスマッチが起こっていると考えました。インターネットなどで調べてすぐに良いもの悪いものを判断する時代です。ちゃんとした本物を作れば、彼らは自分たちの商品を手に取ってくれる、また、大手小売店もこちらの方向に動いている、と思いました。よって商品には徹底的にこだわりました。クオリティには絶対の自信があります。

大手の小売店に置いてもらえたきっかけは?

 最初の大手との取引はイオンでした。展示会で出していたところ、イオンのバイヤーが3人、様々な部署からブースに来てくれました。そして、2015年秋に1店舗からスタートして売ってくれました。そこから一気に全国に広がりました。「森の叡智プロジェクト」を始めた翌年です。それまでは小さな個人店のみでした。今は東急ハンズ、ロフト、プラザに入っています。ロフトについては近日中に全店に広がります。

なぜ、大手が取り扱ってくれるのでしょうか?

 小売店は、これを売ることによりCSVにつながり、顧客へのブランディングができ、利益が上がります。CSRのためにコストをかけるのではなく、売上につながります。また、販売の一環として「森の叡智プロジェクト」がどうなっているか目を配ってくれます。商談の際は必ず、プロジェクトの進捗を伝えています。非常に気にしていただいています。

なぜ中小企業が実現できたのでしょうか?

 結果として、大手もSDGsができてからは何かしないといけないと思っています。本気でやらないといけないがやり方が分からない。その中で小さな会社がやっていることに乗っかったら、ひとまずはやったことになるな、と利用してもらっています。こういうイメージで入るので、値段交渉などは出てこない。また、自社製品は他にないコンセプトの商品のため、商談中に値下げの話をされたことがありません。

 また、中小企業の組織はシンプルです。スピードで勝負できることが圧倒的にメリットだと考えます。例えば売り場に立つと、クレンジングを「無添加です」と売るより、「毛穴の汚れが簡単に取れます」といった方が良ければ、販促ワードは翌週から変えられる。それだけで月10個売れていたものが15個売れるようになる。他のスタッフに横展開してすぐに販売方法を変えられます。大手であれば、そんな小さなことは上に上げても本当に変化する前に優先の高い課題が上がってきて、埋もれてしまいます。他の商品の売れ筋も見えれば、次の商品開発も現場に立てば良く分かる。

顧客が最も反応した、相手に伝わったワードとは?

 共通して一つ上げるとすれば、「みんなでみらいを」ですね。これは共通して必ず響いてくれる。その上で、無添加を強調するより、毛穴の汚れが簡単に落ちる、と効果性を伝えると購買行動に結びつきました。販売の現場に立つと、若い人にもおばあちゃんにも、必ずコンセプトの話をします。子どもの将来のために、使うほどに環境が良くなる商品を、と話すと、必ず共感してくれます。

カンボジアの原材料の利用は具体的にどの商品でされていますか?

 最初はモリンガという植物です。タブレットにして販売したところ、欠品になるほど売れています。カンボジアの森の再生では、まず大きな木を植え、その下草としてハーブを植えています。今、森を作り始めて3年目で、大手に流通させるにはもう少し時間がかかります。

 実はこのハーブを元に乳液を製造するのですが、商品はほぼできました。次の商品は「森の叡智プロジェクト」からの商品になります。また、「森の叡智プロジェクト」のアパレル版を試行しています。化粧品のみならず、Tシャツがもう出来上がります。コットンは1年で収穫できますが、相当数を植える必要があります。まずオーガニックで植えるところから始めました。今はまだ「森の叡智プロジェクト」のオーガニックコットン100%ではありませんが、他大手が作ったオーガニックコットンの中に混ぜ、徐々に自社100%の製品にしていく予定です。販売はこの(2017年)8月の予定です。「森の叡智プロジェクト」を展開しながら、服が売れていく。まず、大手だったら化粧品メーカーがこんなことはやらないでしょう(笑)。中小企業の意思決定とスピードだからできることだと考えています。

途上国とのやり取りは時間とエネルギーを消耗するのでは?

 例えば、化粧品に利用できるオイルは、ほとんどが途上国から日本に入ってきています。大手が一気に安く仕入れているのではなく、多くの小ロットのサイズで輸入されています。自分たちが原材料調達に動けば、同じロットサイズだと、通常輸入と同程度の調達コストになります。もし「森の叡智プロジェクト」が拡大し、輸入のロットサイズがこれまで以上に大きくなれば、国内市場で他社から仕入れるより安い単価で仕入れることができます。また、間に入る問屋も省けるため、その効果も見込めます。

BOPビジネス、SDGsビジネスへの示唆

阪口社長から見たBOPビジネス、SDGsビジネスとは?

 一般的なBOPは、途上国の貧困者を消費者に変えよう、というモデルのため、僕は大反対です。経済産業省で「収益志向型 BOP ビジネス推進事業に関わる有識者研究会」の委員として、「環境破壊が一気に進むことを推進してはいけない」と伝えできました。また、取り上げて頂いた、『BOPビジネス 3.0』(英治出版)には記されていますが、今後は環境配慮のBOPビジネスをせねばならない。そもそも、BOPビジネスというと、これまで多くの先進国の企業がターゲットにしなかった貧困層にものを売るという発想です。貧困層の間ではこうした企業が来る前にすでに彼らの間で経済圏がありました。それを大手企業がシェアを獲得しようというもの。多くのBOPのビジネスモデルを見てきましたが、こうした企業活動が本当の意味で貧困層のためになるとは思えません。社会課題解決にはつながらない。

 本質的には、BOP層、貧困層にある人と一緒に環境を保全し、成長し、利潤も分かちあう、それがBOPビジネスおよびSDGsの目指すところではないでしょうか。利潤を作りながら再投資をする繰り返しの中でBOPビジネスもSDGsの達成も起こることであり、これはビジネス以外では実現できないと思います。

 途上国の人が幸せになるのと不幸になるの、どちらがいい?と聞かれれば、誰もが幸せを選ぶでしょう。大企業の場合、自分たちが犯した問題をこちらで改善しようという話になり、社会起業家の方々の多くは経営の経験がないため失敗する人が多いでしょう。どうやれば利益が上がるか、真剣に考えてもほとんどの経営が失敗するような難しい部分を、ソーシャルというフィルターをかけながらビジネスをするのは経営の難易度が相当に上がります。経営上取れるはずの選択肢の幅が狭まります。これまでは、社会課題解決というフィルターがあるが故に難しかった。ところが、今後はニーズが社会課題にある。利益と社会課題解決がイコールになるビジネスモデルができれば実現可能になります。

しかし、企業はそもそも事業により社会に貢献するというソーシャルミッションがあるはずでは?

 それは、日本がどん底にあった時代はそうだったと思います。しかし、経営者も代が変わり、大企業の最初の理念を本気で思ってはいません。従業員をまとめ上げるためのルールの位置づけになっていると思います。ベンチャーもしかりです。「本当かそれは?」と疑いたくなることが多く、言っていることとやっていることが違うと、従業員は誰も話を聞かなくなります。ではなぜそれでも掲げるのかというと、それでも会社としての一体感を醸成するための内部管理のツールが必要だからではないかと思うのです。

 いまやSDGsは世界共通語になっています。会社理念より世界共通の話にあてこむと、内にも外にも理解されやすいでしょう。フロムファーイースト株式会社の理念は「みんなでみらいを」という言葉に集約し、長い文言を使っていません。シンプルで分かりやすいでしょ?元々、CIの仕事をしていたため、手を込んだ方法をとっても印象に残らないのを知っていました。「みんなのみらい」とするとそれで終わってしまいますが、「みんなでみらいを」にすると後に続きますよね。続きはそれぞれの人が自分で作ってくれたら、印象に残るはずです。「みんなで」とは、商品を買う人も、作る人も、売る人も、政府も、個人も、企業もみんなが入ってくる。商品名も、理念も、方向性も、「みんなでみらいを」の一つだけです。一度みたら忘れない。無駄なコストもありません。

今後5年、10年の目標は?

 次の5年、大手が同じコンセプトで続いてくれれば、影響力を果たせた、革命が起こせたと思えます。生活消費財の市場規模は大きく、自分たちはそのほんの僅かです。それより、大手化粧品メーカーが同じような商品を作ってくれたら、これまで興味なかった人が環境商品にも振り向いてくれます。市場を動かすということは大手にしかできません。大手が生活消費財を売ることで排水がキレイになる、植林しながら原材料を調達すれば、今破壊されている森は全部元の姿を取り戻すと思います。それでも足りなければ、アパレルで貧困を作るファーストファッションにオーガニックコットンを作ってもらい、広げて行ければどうでしょうか。売上1,000億のブランドの10%の100億円相当をオーガニックコットンにすれば、莫大な広さになります。それが数社集まれば影響は莫大です。

 次の5年はどれだけ巻き込めるかが勝負です。近くあるオリンピックは競技の1位、2位を競うだけでなく、日本が今どんな国かを伝える重要なイベントになります。同じようにSDGsに取り組む企業が増えて、世界に発信できることを望んでいます。10年後はSDGsが目標に掲げる2030年が間近かにせまります。現実に達成しなくてはいけないタイミングではないでしょうか?

インタビューを終えて

 通常であれば、「次の5年、10年は?」と問われ、自社の売上がいくら、自社をどうしていくか、という話が出るのがお決まりだ。しかし、阪口社長の口から出てきたのは、あくまで市場全体をどうしていくか、地球規模でどうしていくか。経済成長のモデルそのものを変えて行きたい、という大きな目標だった。

 身の回りにあふれる商品やサービスを根底から疑い、ひっくり返し、市場を作り上げていく。昔は「革命家になりたかった」とおっしゃったが、今でもその精神のまま、ビジネスをツールに革命を起こし続ける姿と、やさしいお父さんのたたずまいを合わせ持つ。阪口社長の巻き起こす次の一手が楽しみだ。

著者プロフィール

宝本 美佐

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所 コンサルタント/リサーチャー

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