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【インタビュー】CSRアジア赤羽氏「日本企業の課題は『報告』」 2015/08/03 事例を見る

Photo_001 今、世界のサステナビリティ・CSR業界ではアジアに対する注目度が急速に高まっています。環境から人権にいたるまで多くの社会課題を抱えるアジアでは、2013年のインドのCSR義務化、2014年の中国と米国のCO2削減に関する歴史的合意など各国の政策的後押しに加え、社会課題を事業機会と捉えて積極的にサステナビリティ活動を展開する多国籍企業や地場企業が急速に増えているのです。

 このような状況を踏まえ、日本企業はアジア、そして世界の中でどのように存在感を出していくべきか。今回はアジア最大のCSR戦略コンサルティングファーム、CSRアジア東京事務所の代表を務める赤羽真紀子氏に、これまでのCSR担当者としての自身の経験から見てきたアジアや世界、そしてアジアのCSRの現状、日本企業の課題などについて詳しくお話を伺ってきました。

CSRアジア東京事務所代表 赤羽真紀子氏インタビュー:日本企業の課題は「報告」

Q:まずは赤羽様のこれまでのご経歴をお伺いしたいと思います。どのようなきっかけでCSR分野に関わるようになったのでしょうか?

 私はもともと大学時代から環境分野、特に企業の環境対応に興味を持っていました。しかし、当時はちょうど1992年のリオの地球サミットではじめて「生物多様性条約」についての話が出たような頃です。「生物多様性」という言葉自体が非常にマイナーですし、まだ「CSR」という言葉もなく、日本でも環境対応といえば工場の環境対策ぐらいしか取り組んでいなかった時期でした。

 そんなこともあり、大学卒業後は直接環境やCSRに関わる仕事ではなく、当時はまだ少なかった女性総合職として金融機関に入社しました。入社後は支店配属となり、顧客対応や事務手続きなど幅広い仕事をしていました。

 しかし、入社後3年ほどしてから、もともと興味があった企業の環境対応について本格的に学ぼうと思い、アメリカへの留学を決意しました。アメリカでは環境学の分野で生物多様性について学べたらと思っていたのですが、当時は専門の研究室がなかったので、生物学の研究室に入りました。環境やCSRといった分野に本格的に関わり始めたのはそれからとなります。

Q:アメリカではどのようなご経験をされたのですか?

Photo_002 私が行った大学は学部全体でも日本人が一人しかおらず、最初は言葉も通じない環境の中で差別のような扱いを受けることもあり、とても苦労しました。しかし、その後に学部生のティーチングアシスタントを任されるようになり、そのときの経験はすごく役に立ちました。彼らの実験を毎週1度受け持つことになったのですが、私が生徒たちの成績をつける立場に変わった瞬間、周りの反応が大きく変わったのです。

 アメリカは移民社会で、アジアや中東系の移民の子供たちは皆医者になって立身出世するという選択肢を狙います。医者になるためにはメディカル・スクールに行かなければならないのですが、そのためには大学で優秀な成績を収めなければいけません。そこで彼らにとって重要になるのが、私が担当していた生物学の授業の成績だったのです。

 生徒たちは少しでも私からよい成績をもらおうとすごく媚びてくるようになり、これまでの言葉もあまり通じず冷たく対応されていた環境ががらりと変わりました。このとき、アメリカで移民が生き抜いていくためには厳しい競争を勝ち抜ける必要があり、その背景には根強い学歴社会があることを実感しました。「自由の国」アメリカの裏の側面を見た気がして、どのような社会にも外からは見えない課題があることを知りました。

Q:環境以外にも様々な学びがあったのですね。そしてその後、スターバックスに入社をされました。

 アメリカでは企業の環境対応について勉強していたので、日本に戻ってきたら企業に就職したいと思っていたのですが、就職活動はうまく進みませんでした。そのため、しばらくはアルバイトをしながら、やがてとある環境庁の外郭団体で仕事を見つけ、そこで1年ほど環境ニュースレターの発行や学会誌の編集などの仕事をしていました。ある日、新聞の求人広告を見ていたらスターバックス コーヒー ジャパンが新たに環境関連の人材を募集していることを知り、応募してみたところ、自分の変わった経歴に興味を示してくださり、拾って頂けました。

Q:スターバックスではどのような仕事をされたのでしょうか?

 スターバックス コーヒー ジャパンでは、ミッションとして最初から環境のことをやってくれと言われました。当時は広報室が環境と社会貢献をやっていたのですが、私のミッションは新たに環境専門の部署を立ち上げるということでした。

 そのときはISO14001の取得や、牛乳パックのリサイクルの仕組み作りなどを行いました。牛乳の紙パックをトイレットペーパーにリサイクルして店舗で使うといった取り組みですね。日本では牛乳パックが個人用も業務用も同じ小分けのサイズしかなく、大量の廃棄パックが出るのです。他には資材の見直しなどにも取り組みました。

Q:スターバックスでは環境活動の推進にあたり苦労されたことはありましたか?

Photo_003 私がいたころのスターバックス コーヒー ジャパンでは、店舗で働く若い世代の社員は環境意識も高く新しい取り組みに対する受容度も高かったのですが、中途採用で入社してきた中間管理職層などはコストや負担が増えることはやりたがらず、とにかく「店舗の負担を増やすな」という要望が強くありました。
 
 そのため、店舗側のオペレーションが増えるような環境手順の導入には抵抗もかなりありました。こうした社内の抵抗を解消するためには、対話しかありません。管理職の人たちは現場のことをよく分からずに反論していることもあるので、現場に直接行って話をすることもよくありました。

 しかし、もちろん経営陣は環境の取り組みを推進したがっていましたし、若い社員も盛り上がってくれるので、上と下からの圧力により、2年間ぐらいすると中間管理職の人たちの態度も徐々に翻ってきました。決して意図していたわけではないのですが、CSR活動を社内浸透させる際には、上と下の両方から攻めるというのが効果的だと感じました。

Q:CSRを社内に浸透させる上での大事なポイントですね。そしてその後セールスフォースに移られるわけですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

 日本での部署立ち上げにあたり、セールスフォース・ドットコムから声がかかったのがきっかけですね。セールスフォースはCSRの一環としてNPOやNGOに対して無料で自社のデータベースを提供しているので、NGOの人々の間では知名度も高い会社ですし、新しいチャレンジができるかなと思いました。

 セールスフォースでは、日本での部署立ち上げに関わった後、アジア・パシフィックのCSR担当としてシンガポールに行きました。当時のシンガポールではCSRといえば寄付とボランティアぐらいでしたので、社員研修などを積極的に進めつつ、地域のニーズに合ったCSRをしていこうと考えました。

Q:シンガポールはどのような社会課題があり、どのようなCSRプログラムを展開されたのでしょうか?

 シンガポールは一人あたりのGDPがアジアで一番高く治安も良い国なので、一見すると外からは大きな問題があるようには見えにくいのですが、中に入ってみると実は様々な社会課題を抱えていることが分かります。

 たとえばシンガポールは日本よりももっと明確な学歴社会で、小学校、中学、高校、大学と進んでいく中で一度でもコースを外れてしまうと、もう復活することはできません。そのため、青少年の層は大きなストレスを抱えています。それ以外にも高齢化の問題もありますし、貧富の差もあります。また、シンガポールは多民族国家ですが、国の経済は中華系の人々を中心に回っているため、マレー、インド、アラブ系などの移民が出世しづらいなどの問題もありました。

 そこで、セールスフォース・ドットコムでは地元のNPOと協働し、シンガポール のマイノリティの高校生に対する職業体験プログラムを企画して展開しました。問題意識がないと勉強もやる気になれないと思ったので、社会に出ると自分たちはどうなるのかを伝えたうえで、ビジネスプランづくりやプレゼンテーションなど、より実践的で考える力を身につけるプログラムを作成しました。

Q:その後、CSRアジアの東京事務所を設立されたのですね。どのような経緯だったのでしょうか?

Photo_004 CSRアジアの東京事務所は2010年の4月末に登記し、正式にキックオフしたのがそれから3か月後の7月でした。今からちょうど5年前ですね。もともとCSRアジアとの出会いは、セールスフォース時代にシンガポールの社員のCSR研修を依頼したのがきっかけでした。

 当時はアジアのCSRは世界と比較しても遅れていて、CSRアジアのような組織は他にありませんでした。そのため、こうした組織があるのは面白いなと思っていたのに加えて、CSRアジア創業者のリチャード氏の話も直接聞いて興味を持っていました。

 そこでCSRアジアのサミットに参加を申し込んでみたのですが、そのときちょうど妊娠が重なってしまい、サミットに参加できなくなってしまいました。しかし、CSRアジアの方がチケットを次回の参加までとっておいてくれたので、それから2年後にようやくそのときのチケットでサミットに参加してみたら、そこで衝撃を受けました。

 何に驚いたのかというと、アジアにおける日本のプレゼンスが、産休前よりもさらに薄くなっていたのです。日本の状況自体は産休前と後であまり変わっていなかったのですが、私が休んでいたたった2年の間に、アジアのCSRは大きく進化していました。これまでは日本がアジアの経済を牽引していると思っていたのですが、もうそうではなくなっていると実感しました。

 実際にCSRアジア自体も、私が出会った頃はまだ拠点は香港とシンガポールだけでしたが、産休中にバンコクや中国などいろいろなところに拠点ができていました。しかし、日本だけはありませんでした。

 私はこの状況を見たとき、このままだと日本は「日の沈む」国になってしまう気がして、自分には何ができるだろうかと考えました。そして、CSRであれば日本のプレゼンス向上のために何かできることがあるかもしれないと考え、CSRアジアのリチャード氏に「日本でもし拠点を作りたいのであれば、手伝えるよ」と伝えておいたのですね。

 そうしたらサミットが終わった数か月後に彼から連絡が来て、日本での事務所立ち上げを依頼されました。彼が来日して打ち合わせして、その3ヶ月後の2010年7月にCSRアジアの東京事務所が立ち上がりました。

Q:アジアの日本でのプレゼンスの低さがきっかけとなり、立ち上げにつながったのですね。

 そうですね。私の中では日本を何とかしなければまずいという思いがありました。たった数年間で他のアジア諸国とは大きな差が開いていたのです。CSRアジアのイベントでも、参加者500人中、日本人はいつも10人程度。スピーカーにいたっては40人中、1人か2人ぐらいしかいません。日本の経済規模を考えれば、この割合はどう考えても低いと思います。こうした問題意識もあり、先日も日本企業のCSRをもっと海外の人々に知ってほしいと思い、CSRレポートの英訳サービスをオープンしました。

Q:CSRの側面から見た、アジアと日本の違いは何なのでしょうか?

 アジア諸国の場合は政府の力が社会課題に追いついておらず、それを企業も分かっているので、それであれば資金も実行力も持っている企業が社会課題の解決主体となるべき、という考え方が前提にあります。インドやインドネシア、中国といった国々は人口も多く社会課題も溢れているので、そうした暗黙の了解がある点がまず日本とは違います。

 日本の場合、アジア諸国と比較すれば政府がしっかりと社会課題に対応しようとするマインドを持っていますし、これまでも政府に頼ることで何とかなってきたので、社会課題の解決をするのは政府だろうという考えが未だに根強いと感じます。例えば待機児童の問題を一つとってみても、企業内保育所をどう増やすかではなく、行政がなんとかしろという議論が先にくるのが日本です。そのため、日本企業のCSRはあくまで本業のプラスアルファであって、企業自らが社会課題の解決に関わろうとすることはあまりないのかなと感じます。

 アジアで主流なのは、企業やビジネスがいかに社会課題を解決するかという点です。企業は利益の追求するのが本分ですが、利益が得られるのであれば社会善のために動いてよいというのがアジアの考え方なのです。彼らには社会課題をどうCSRで解決するかという共通した考えがあり、例えばサプライチェーンをどうするかといった自社に関わるところだけではなく、もっと広く大きな社会課題そのものを向いているように感じます。

 特に最近では農業や鉱業なども含めた一次産業に関わる地場企業は、NGOからのプレッシャーもあり、しっかりとCSRをやっている印象があります。これらの産業は環境に影響を及ぼしやすいですし、人も使いますし、先住民の土地の権利なども関係してくるため、きちんとした対応が求められるという背景があります。インドネシアなどは数年前までは厳しい状況でしたが、最近になって大きく変わってきています。

 日本企業もグローバルに事業を展開している以上、やるべきことはあると思っています。日本ではアジアのような喫緊の社会課題が身の周りにないため実感しづらいという点はあるかもしれませんが、ひとたび外に出てみれば政府がいろいろとやってくれるのは日本だけだということに気づくはずです。

Q:CSRにおける日本企業の一番の課題は何だと思いますか?

Photo_005 CSRを戦略策定、活動、評価、報告といったフェーズに分けるとすると、一番の課題は「報告」だと思いますね。例えば、中国企業や米国企業などのCSRレポートは、伝え方、見せ方がとても上手だと感じます。

 活動内容自体に目を向けてみると日本企業のほうがしっかりやっていると感じることもあるのですが、日本企業は概して伝え方が控えめで、120%ぐらいできていないと「やっています」と言わない傾向があるように感じます。「これからやります」でもいいので、情報はどんどんと積極的に出していくべきですね。

 最近では会社の評価はウェブサイトやCSRレポートなど公開情報だけで評価されることも多くなっていますので、英語で積極的に情報発信をしていかないと、せっかくの良い取り組みも伝わりません。

Q:海外から日本企業に対する関心はあるのでしょうか?

 もちろんあります。日本の存在感は薄まっているとはいえ、日本企業がどんな取り組みを行っているかはみんな関心を持っています。CSRアジアの海外オフィスからは、日本企業の取り組みに対する質問がよく東京事務所に来ています。日本企業は環境技術や品質管理も優れていますし、福利厚生プログラムもしっかりしていて従業員の忠誠度も高いので、なぜそうした取り組みができるのか、海外の人々も知りたいのです。でも、そうした問い合わせが頻繁に来るということは、裏を返せば日本企業の情報が彼らには届いていないからだとも言えます。

 日本企業はまだ最新情報の発信も日本語だけに限定されており、英訳版も忘れた頃に出てくるというケースも多いのですが、グローバルに事業を展開する以上は海外の思考回路に合わせる必要があると思います。少なくとも英語の思考回路で伝えることは重要でしょう。また、仮に自社ではグローバルに事業を展開していないとしても、ほとんどの日本企業はサプライチェーンを通じて海外企業と何らかのかかわりを持っているわけですから、その意味では日本だからよい、という言い訳は通じないと考えたほうがよいでしょう。

Q:アジアではこの企業のCSRレポートは優れているといった事例はありますか?

 例えば、シンガポールに拠点を置く世界最大のパーム油企業、ウィルマーのレポートなどはしっかりしていますね。他にも、香港のキャセイパシフィック航空や、シンガポールのシティ・デベロップメンツ・リミテッドなどは参考になると思います。

Q:最後に、日々CSR推進に取り組まれている日本企業の方々にメッセージがあればお願いします。

Photo_006 繰り返しになりますが、日本企業は他のアジア企業と比較すると、「活動をやっている割には伝わっていない」ということが言えます。

 海外からの日本企業の情報が欲しいというニーズは強く感じていますので、ぜひ自信を持って自社のことを伝えて頂ければと思います。CSRアジアでは、そうした日本企業と海外をつなぐ役割を果たしていきたいですね。

Q:ありがとうございました。

編集後記

 「日本企業に足りないのは報告」。CSRアジアの赤羽氏はそう明確に指摘します。「活動の内容自体は他のアジア企業にも引けをとらない」「海外は日本企業のことを知りたがっている」という同氏の言葉には勇気づけられますが、一方で相手に伝わる報告ができなければ、いくら良い活動をしていたとしてもそれが評価されることはないのが現実です。

 評価のための活動ではありませんが、優れた報告は優れたフィードバックをもたらし、優れた戦略策定、活動のサイクルへとつながります。その意味で、CSR活動全体の質を向上させる上で報告の質向上を起点とすることは有効です。

 英語、中国語など多言語の情報発信はもちろんですが、今ではその中身も問われるようになってきています。ただ単純に日本版を翻訳していればOKということではなく、海外の文脈、ニーズにあった内容、表現となっているかという点も鍵を握ります。

 これまで企業のアジア・パシフィックのCSR担当として、そしてCSRアジアのコンサルタントとして世界と日本企業のCSRの現場を見てきた赤羽氏からのリアリティのあるメッセージを、どこまで強く認識し、実際のアクションに変えていけるのか、私たち一人一人の意識と行動が問われていると感じました。

著者プロフィール

加藤 佑

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所 主任研究員

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