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【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 1

 水・衛生分野で高い専門性を発揮する国際NGOウォーターエイド。1981年に英国ロンドンで設立され、現在、世界34カ国で活動を展開している。発足してから今年でちょうど満40年。国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標6には「安全な水とトイレを世界中に」が置かれているが、まさにこの目標6の達成を目指してきたのがウォーターエイドだ。

 2005年には、国連経済社会理事会(ECOSOC)から、特定の分野について特別の能力と関心を有するNGOを示す「特別協議資格」が付与。SDGsと「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のフォローアップとレビューを目的とし、国連が毎年開催している国際会議「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」でも、中心的な役割を担う「NGO Major Group」の一員になっている。

 もともとウォーターエイドは、1981年に英国の各地の水道関連公社が協力して発足するというユニークな歴史を持ち、初年度からザンビアとスリランカでの活動を開始。今では、HSBC、アクサ、H&M、ディアジオ、AVEDAなどのグローバル企業と国際的なパートナーシップを締結しており、GAP等との協業事例も持つようになった。CDPや国連責任投資原則(PRI)との関係も深い。SDGsの目標17には「パートナーシップで目標を達成しよう」があるが、まさに水・衛生分野でのパートナーシップ先としても人気を集めてきている。日本でもアビームコンサルティングや栗田工業などがパートナーとして活動に参画している。

 今回、Sustainable Japanを運営している当社ニューラルCEOの夫馬賢治が、ウォーターエイドの日本法人である認定NPO法人ウォーターエイドジャパンの理事に就任した。ウォーターエイドの活動や現状について同NGOの夫馬理事と高橋郁事務局長の対談を取材した。

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 2
左:夫馬賢治 ウォーターエイドジャパン理事、ニューラルCEO
右:高橋郁 ウォーターエイドジャパン事務局長

夫馬

 ウォーターエイドは、水と衛生に特化した活動をしているNGOです。そして、いま、新型コロナ感染症が世界中で流行して、水と衛生のテーマはかつて以上に重要性が叫ばれています。先進国では、当たり前のように「石鹸で手洗いをしましょう」という対策が可能ですが、世界では自宅に石鹸と水で手洗いをすることできない人が30億人もいて、世界の人口の40%を占めます。手洗い設備が備わっていないところは、アフリカに多いですが、南アジアや中央アジア、東南アジア、中南米にもあります。保健医療施設でも世界では43%の施設で、手洗い設備がありません。そうした意味でも、ウォーターエイドの活動は非常に重要になっていますよね。

高橋氏

 そのとおりです。ウォーターエイドはいま、新型コロナウイルスの感染防止のため、26ヶ国で緊急活動を進めています。内容は、病院や公共施設などで手洗いができるように設備の導入を進める、そして手洗いの重要性や正しい手洗いの方法を広めるというもので、内容はシンプルなんですが、感染防止のためには非常に重要な対策なんです。最近感染が拡大する中で、比較的医療体制が整っている地域でも、対策が必要になってきています。私たちも危機感を強めています。

夫馬

 ウォーターエイドが、このコロナ禍で非常に重要な役割を担ってくれているわけですね。SDGsの目標6で掲げられているターゲットの一つ目が、2030年までに安全で安価な飲料水へのアクセスを100%にすること。そして2つ目が、2030年までに適切かつ平等な下水施設や衛生施設へのアクセスを100%にすること。これらはウォーターエイドの組織としての目標をまさに表していると思うのですが、そもそもウォーターエイドは、どのようにして発足したんですか?

高橋氏

 ウォーターエイドは1981年に発足するのですが、主導したのは英国各地の水道公社で働いていた従業員の皆さんです。ちょうど前年の1980年に、国連水会議という1977年に設立された国際会議で、1981年から1990年までの10年を「国際飲料水供給と衛生の10年」と呼ぶことが決まりました。水問題に対する関心が世界的に高まっていたタイミングとなります。

 その後、英国政府の「国家水会議(NWC)」が1981年に「渇いた第三世界会議」というフォーラムを開き、そこで英国の水関連業界として、「国際飲料水供給と衛生の10年」に何ができるかという話し合いが行われたんです。そこで開発途上国の水問題解決を支援するNGOを作ろうという意見がまとまり、発足したのがウォーターエイドです。

夫馬

 活動が地域に根づいている水道公社から、開発途上国の水支援をしようという動きがいっきにまとまっていくのは、興味深いエピソードですね。僕も英国でのフォーラムに参加することが多いのですが、英国ではアフリカや東南アジアのニュースをよくとりあげている印象がある。英国の方と話をしたりすると、世界中の話題に関心を持っていたりすると感じたりもします。ウォーターエイドの初年度の活動もザンビアとスリランカからで、両国とも大英帝国時代の旧植民地だった。歴史的なつながりから、英国では開発途上国の情勢に詳しいのではないかという仮説が僕の中ではあります。

高橋氏

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 3 以前、ウォーターエイドのロンドン事務所の職員に聞いた際、植民地時代のつながりについては否定する回答が返ってきました。実際に今活動をしている34ヶ国には、マダガスカル、東ティモール、コロンビア、ニカラグアなど、大英帝国との直接的なつながりがない国も多くあります。ただ、私も英国の大学院を卒業しているのですが、やはり英国では、アフリカやアジアの話題への興味が高いと感じており、その点では同感です。

夫馬

 話を戻すと、ウォーターエイドの発足の母体ともいえる存在だった英国(実際にはイングランドとウェールズ)の水道公社は、当時のサッチャー政権の政策で、1989年に完全民営化される。現在、上下水道会社10社と上水道会社11社により水道事業が営まれており、その大半は、「水業界パートナー」として、ウォーターエイドの活動を支えてくれています。

 一方、最近では国際NGOについては財源が非常に多様化している印象もあります。ウォーターエイドの現状はどうですか?

高橋氏

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 4 一番規模の大きい英国のウォーターエイドの2019年度の予算規模は9,140万ポンド(約126億円)で、そのうち英国の個人の寄付者が4,590万ポンド(約64億円)と約半分を占めます。このことからも、ウォーターエイドは英国で大きな知名度があることが理解してもらえると思います。他には、企業などからの寄付が2,110万ポンド(約29億円)と4分の1弱。残りは、他のウォーターエイドのメンバー国からの寄付金が1,280万ポンド、政府や関連機関からの助成金が1,110万ポンドという状況です。

 ウォーターエイドが展開する34ヶ国のうち、イギリス、アメリカ、カナダ、スウェーデン、オーストラリア、インド、そして日本の7ヶ国は、各国の法人として財政の自立化を目指せる体制があるとして「メンバー国」のステータスが与えられています。メンバー国は、事業資金を自前で調達しながら、支援が必要な「プロジェクト実施国」に資金を提供する役割を担います。インドは新興国ながら「メンバー国」のステータスが与えられていますが、それは、インドでは多額の寄付が企業などから集まっており、財政の自立化を目指す体制が構築できているからです。

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 5

 ちなみにウォーターエイドジャパンは、2012年に活動を開始し、2013年に法人格を取得しました。私が初代からの事務局長をさせていただいています。ジャパンの2019年度の予算規模は1.5億円(他のメンバー国からの補助金含む)。もっと活動の規模を大きくしていきたいと考えています。

夫馬

 活動規模やインパクト面についても教えていただけますか?

高橋氏

 ウォーターエイドの水・衛生支援の成果は、主に保健医療施設、学校、地域コミュニティに分けて公開しています。2018年度のウォーターエイドの活動によって合計でコミュニティの38.5万人の方が清潔な水を使えるようになりました。他にも学校の合計20.6万人に、さらに保健医療施設のスタッフ・利用者123.8万人が清潔な水を利用できるようになりました。また、コミュニティの45.3万人が清潔なトイレを利用できるようになりました。

 ウォーターエイドは、常にプロジェクトの質を高める努力をしています。一例ですが、多くの地域では、既存の井戸の3割から5割が壊れている、と言われているなか、西アフリカのマリでウォーターエイドが新設または改修した井戸は、その後も90%以上が稼働し続けています。

夫馬

 高橋さんからさきほど、企業などからの寄付が英国では約29億円あるというお話がありました。ウォーターエイドはどのような企業とのつながりが強いですか?

高橋氏

 ウォーターエイドは、英国の水道公社の従業員の声で始まったので、個人寄付の割合が比較的多い団体だと思いますが、最近では企業とのパートナーシップも増えてきています。

 私が印象に残っているのは、英国の大手銀行のHSBCです。HSBCは金融機関なので、自社での水消費量はそれほど多くはありませんが、水は健康的なコミュニティの形成や経済に不可欠である、という考えから、2012年にHSBCウォータープログラムを開始。8年間にわたり、ウォーターエイド、アースウォッチ、WWFと協働し、170万人に安全な水を届けました。2013年には、HSBC主催の水フォーラムも開催し、積極的に水問題に対する認知の拡大と対策での連携を進めていました。今でもHSBCは重要なパートナーとなってくれています。

夫馬

 水分野だとユニリーバもよく名前が挙がりますね。

高橋氏

 はい。ユニリーバは基金を通じご寄付いただいている他、2015年には、水・衛生・女性に関する啓発レポート「We can’t wait」を協働で制作しました。

夫馬

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 6 ウォーターエイドのホームページを見ると、サプライチェーンの水対策として、企業が水・トイレ・衛生の3分野(Water, Sanitary, Hygeneの頭文字をとって「WASH」と呼称)でアクションとるようになってきていると書かれています。そして、具体的なケーススタディとして、GAP、ディアジオなどの例が書かれている。これら3社とも、アパレル、飲料の業界の大手企業で、事業が水資源に大きく依存している企業です。実際にこれらのケーススタディでは、原材料調達のサステナビリティ確保のために、水問題への対策としてウォーターエイドとパートナーシップを結ぶ意義が記されています。

 また、水の分野では、日本企業の間でも「CDPウォーター」の存在が知られるようになってきました。こちらは、機関投資家が主導して企業に情報開示を求めるCDPが実施する水分野の情報開示回答書ですが、ウォーターエイドは、調査票や採点フレームワークの策定にも深く関与していますよね。特にCDPウォーターでもサプライチェーンの観点が強く打ち出されるようになり、現地での水問題対策に関する知見の獲得は日本企業にとっても急務になっています。

 そうした点で、日本企業とウォーターエイドの現状のパートナーシップはいかがですか?

高橋氏

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 7 企業の前に、まずは政府の話をしたいのですが、水・衛生分野で世界最大のドナー国は、日本です。2013年にウォーターエイドが出したレポートでは、世界各国の拠出金の半分を日本政府が出しているというほどでした。そういう意味で、日本は海外での水・衛生問題に積極的に取り組んできたという歴史があります。ウォーターエイドジャパンも、日本政府に対する政策提言に取り組み、日本政府が共催するアフリカ開発会議(TICAD)にも積極的に参加していきました。

 一方で、ウォーターエイドジャパンと日本企業との連携の多くはまだ始まったばかりという状況です。それでも当団体が主催するチャリティマラソンに参加していただいたり、水問題について発信活動を行う「スピーカークラブ」になっていただいたりという形で設立直後からご支援くださっている企業もありますあります。最近では、中堅・中小企業のからのお問い合わせも増えました。

 それでも、サプライチェーンでの水問題に関するパートナーシップについては、まだ生まれてきていません。ウォーターエイドは、企業がサプライチェーンの水課題にどのように取り組むかを示したガイダンスも策定済みです。海外で実現できているように、企業規模の大小を問わず、日本企業にももっとウォーターエイドの存在をうまく活用していただければと思っています。

夫馬

 ウォーターエイドのCMを最近テレビでも目にするようになりました。ACジャパンのCMでウォーターエイドの活動が紹介されていますよね。

高橋氏

 そのとおりです。テレビCMにより大きな反響をいただき、個人の方の寄付も増えています。私が大学等で講演を行う際にも、確実に認知が高まっているように感じます。

 国連持続可能な開発目標(SDGs)の中で、水・衛生が一つの目標として扱われるようになったことも、この分野への関心が高まっていることの大きな要因だと思っています。やはり関心が高まると、アクションをとろうとする人が増えるのだと実感しています。

夫馬

 最後に、ウォーターエイドの体制面の話も少し。僕自身は2020年6月の総会で理事に選任していただいた身ですが、発足時からのウォーターエイドジャパンの理事や監事の方は、すごい布陣ですよね。私も理事就任の声をかけていただいたとき、その点もすごく印象的でした。

高橋氏

 ウォーターエイドジャパンは2013年の設立ですが、発足の計画は2010年頃から英国で進められていました。実際にウォーターエイドジャパンの理事や監事の方々には、国内外で活躍されウォーターエイド・イギリスとの接点が多い方もいらっしゃいました。

 設立当時の理事には、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の滝沢智教授、水ジャーナリストの橋本淳司さん、CSRアジア日本代表の赤羽真紀子さんなどに、そして監事にはモリソン・フォスター外国法事務弁護士事務所の和仁亮裕さんに就いていただきました。2年前からは、世界銀行・IMF合同開発委員会事務局長、アフリカ開発銀行理事、国際協力機構(JICA)理事等を歴任され、グローバル視点での国際協力に精通した小寺清さんが、理事長に就任されています。

夫馬

 コロナ禍で、水・衛生への長期的な危機意識がさらに高まったことで、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)と水・衛生アクセス向上のための国際イニシアチブ「WASH4Work」が5月に、職場での水・衛生アクセス整備をコミットする誓約「WASH Pledge」発表しました。WASH Pledgeには、ユニリーバ、ネスレ、ペプシコ、ディアジオ等のグローバル企業だけでなく、実はインド企業も多数署名しています。

 もっと日本企業もこうしたイニシアチブに参画する必要があると考えています。水や衛生が事業の継続性に与える影響は何か、どのような対策が必要になっていくのか。サステナビリティを高めるための機会やリスクを適切にマネジメントしていく上で、ウォーターエイドは日本企業にとって頼もしいパートナーになってくれるのではないか。理事に就任してまだ2ヶ月ですが、世界各国のウォーターエイドの方々とも話をしてみて、強くその様に感じています。

【対談】水・衛生の分野で世界的な影響力を持つ国際NGOウォーターエイド 〜企業パートナーシップの状況〜 8

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菊池 尚人

株式会社ニューラル 事業開発室長

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