
国連気候変動枠組条約第31回アンタルヤ締約国会議(COP31)が11月9日から20日まで開催される。9日に開会全体会合、10日に「エネルギー・デー」、11日から12日に首脳級会合が予定されている。今回は開催国トルコと豪州が役割を分担する異例の体制。トルコはムラト・クルム環境・都市化相がCOP31議長として交渉外の行動アジェンダを担い、豪州のクリス・ボーエン気候・エネルギー相が「交渉議長」として正式交渉を取り仕切る。
議長国トルコは、最終エネルギー消費に占める電力の比率を2035年までに世界全体で35%に引き上げる「35 by 35 Global Electrification Pledge」誓約を目玉に据えている。根拠として国際エネルギー機関(IEA)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の分析を挙げ、1.5℃経路では電化率が2035年に約35%、2050年に50%超となる必要があるとする。政府は「参加者」として、企業・投資家・都市等は「支持者」として加わる二層構造で、送電網・蓄電・柔軟性への投資、途上国向けの譲許的資金と案件パイプライン、IEA・IRENAの報告を用いた進捗レビュー、公正な移行を約束事項に掲げる。
現状の電化率は約20%から24%とされ、環境NGOのクライメート・アクション・トラッカーは現行政策のままでは2035年に28%程度にとどまると見込む。一方、誓約はクリーン電源であることを参加の条件としておらず、「化石燃料からの移行のシグナルがない」との批判もある。参加見通しは、オーストラリアが署名済み、欧州は参加の見込み、インドは拒否の可能性があり、中国は態度未定と報じられている。ボーエン氏は電化を会議の「主要目標」と位置付けているという。
もう一つの目玉が、クルム議長と国際電気通信連合(ITU)が10月27日に共同発表した「アンタルヤAI誓約」。COP31会期中の「科学・産業・技術の日」に開かれるAIに関するハイレベル円卓会議の場で公式発足し、政府だけでなく、企業、NGO、金融機関、大学等も署名できる。
同誓約は、AIの設計、調達、電源、導入・計測・管理のライフサイクル全体を対象とし、3つの柱を掲げている。1つ目が、透明性の向上で、AIシステムが使うエネルギーや水などの資源量、環境負荷の開示を進める。事業者に開示を求めることも選択肢に含まれる。2つ目が、クリーンな電力と効率化。データセンターをゼロ・低排出電源で動かすよう段階的に求め、省資源型のAI設計を広げる。3つ目が、発展途上国支援で、途上国が気候対策にAIを活用できるよう、資金と技術、インフラを提供する。署名者はこれらの中から自ら取り組む項目を選び、必要に応じて目標を書き込む。但し、誓約全体としての数値目標は設けられていない。進捗は来年エチオピア・アディスアベバで開かれるCOP32で初めて点検される。議長国トルコは、これと並行して、スマートエネルギーや産業の脱炭素化を対象にしたAI活用のパイロット事業を集める「AI for Clean Technologies」イニシアチブも立ち上げる。
電化やAI以外の争点も多い。COP30で合意した適応資金の「2035年までに少なくとも3倍」には基準年も金額も定められておらず、具体化が求められている。公正な移行(ジャストトランジション)メカニズムの制度設計、気候関連の貿易措置(アフリカ・グループが議題化を求め、中国はクリーンテック機器への貿易制限を取り上げるよう要求)、海洋等も論点に挙がる。COP31では第2回グローバル・ストックテイクのプロセスも始まる。米国はパリ協定から離脱済みで、首脳の参加は低調と報じられている。
首脳級会合には、ブラジルのルラ大統領、英国のバーナム首相、スペインのサンチェス首相等が出席する見通しの一方、中国とインドは首脳が出席しないと伝えられている。EUについても新たな資金表明を持たずに臨むとの報道がある。日本は高市首相が首脳級会合を欠席し、笹川環境相が政府代表を務める。首相として最後にCOPに出席したのは2023年の岸田首相で、首相の不参加は3年連続となる。
科学面では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第7次評価報告書(AR7)の作業日程で合意できない状態が続いており、12月上旬に臨時会合が予定されていることも、交渉の背景として指摘されている。
パリ協定の下では、各国が2035年を目標年とする新たな国が決定する貢献(NDC)の提出を進めてきたが、国連の統合評価では、現行の目標を積み上げても世界の排出削減は1.5℃経路に大きく届かないとされる。COP28で合意した「再エネ設備容量3倍・エネルギー効率改善率2倍」に続き、今回の電化誓約は、目標の上積みではなく需要側の構造転換に焦点を当てた点に特徴がある。目標設定の議論から、送電網や蓄電といった実物投資をどう動かすかという「実施」の段階へ重心が移りつつあることを示すものといえる。
電化率35%という数値目標が国際的な共通指標として定着すれば、各国のエネルギー政策や企業の移行計画で、電化率が排出削減量と並ぶ評価軸となる可能性がある。日本企業にとっては、熱需要の電化やヒートポンプ、送配電・蓄電、EV(電気自動車)関連の需要拡大が追い風となる一方、電源の脱炭素化が伴わなければ評価されにくい点にも留意が必要だ。
【参照ページ】35-by-35 Global Electrification Pledge
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