市民一人一人から少しずつ自分のコンピュータの空き容量を寄付してもらい、それを集めることで膨大なデータ分析に耐えうる仮想スーパーコンピューターを創りだし、科学者に無料で提供する。そして科学者はそのコンピュータを利用して政府が公開する気候変動関連オープンデータを分析し、自らの研究を前に進めていく。そんな市民、政府、科学者が一体となった気候変動プロジェクトをコーディネートするのがIBMだ。
IBMは7月29日、米ホワイトハウスで発表された最新版のClimate Data Initiativeへの支援の一環として、気候変動問題の研究に取り組む科学者に対して無料で専用の仮想スーパーコンピューターおよびプラットフォームへのアクセスを提供していくと発表した。
Climate Data Initiativeとは、米国政府が保有する膨大な気象関連データを民間企業や研究者などに広く公開し、研究や事業開発などに活用してもらいながら官民一体となって気候変動に取り組んでいくためのオープンデータ活用イニシアチブだ。
今年3月の創設以降、既にGoogleやIntel、Microsoftなど米国大手企業の多くが参画しており、今回のホワイトハウスの発表では、今後はClimate Data Initiativeのオープンデータ活用を農業セクターまで拡大していくという方針が示された。
今回のIBMの取り組みでは、研究プロジェクトが許可されると科学者は最大で演算時間10万年分までのコンピュータ(6,000万ドルの価値に相当)を無料で利用することができるようになる。このシステムはIBMの慈善プラットフォーム、World Community Grid上で稼働する予定だ。
World Community Gridは、市民がボランティアとして自身のコンピュータやモバイル端末の空き容量を科学者に寄付することができるプラットフォームだ。ボランティアは専用のソフトウェアをダウンロードすると、そのソフトウェアがダウンロードされたパソコンやモバイル端末が不稼働時、または簡単な作業しかしていないときにコンピュータから演算課題を受け取り、それを完了させたうえで科学者へ演算結果を返す仕組みとなっている。
このように、何十万というボランティアによって提供され、合成されたコンピューターパワーは地球上で最速の処理速度を持つ仮想コンピュータとの一つとして稼働し、科学者の研究を後押しすることになる。
科学者は多くは気候変動の研究に必要となる膨大な量のデータを解析しようと思っても、そのデータ処理に耐えうる十分なコンピュータリソースの確保が困難なため、研究が前に進められないという課題を抱えてきた。World Community Gridはそうした十分な研究資金がない科学者や、シミュレーション計算、仮想実験専用のパワフルなスーパーコンピューターを持たない科学者にとって研究の大きな助けとなる。
実際に、World Community Gridのスーパーコンピューターはこれまでにもがんやエイズの治療をはじめ、クリーン・エナジーやクリーン・ウオーター、健康食品に関する研究などに利用されてきた。
IBMのCorporate Citizenship & Corporate Affairs担当副社長であり、IBM International Foundationの代表を務めるStanley S. Litow氏は、「巨大なコンピュータのパワーは試験管や望遠鏡と同様に現代の科学的研究に不可欠なものだ。しかし、研究資金の不足により、先駆的な科学者が自身の研究に必要な能力を持つスーパーコンピューターにアクセスできないというケースをよく見てきた。IBMは、科学者一人につき10万年分相当の演算時間を提供することで、気候変動問題に立ち向かう手助けとなる次の大きなブレークスルーが早まることを期待している」と語り、今後の研究の視点に期待を寄せた。
今回のIBMの取り組みの優れた点は、気候変動という共通課題の解決に向けて、異なるステークホルダーがそれぞれの強みやリソースを持ちだしながら、足りない点を補い合いつつプロジェクトを進めている点だ。
市民はボランティアとして自身のパソコンやモバイル端末の空き容量を提供する。企業はそれらのリソースを集めて一つの巨大な仮想スーパーコンピューターを作り上げる。政府は研究に活用可能なオープンデータを公開する。そして、そのスーパーコンピューターとオープンデータを活用し、科学者は自身の研究を前に進めていく。
サステナビリティ課題の解決にはあらゆるセクターの連携、協働が不可欠だが、まさにIBMの取り組みはそれを体現している。
【参考サイト】World Community Grid
【企業サイト】IBM
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