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【金融】英保険大手AVIVAの気候変動戦略 〜気候変動に対応したESG投資とリスク管理の先進事例〜 2017/02/09 事例を見る

 2015年12月のパリ協定合意以降、世界全体で急速に気候変動対応ムードが高まっています。2016年12月には、金融安定理事会(FSB)の気候変動関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)が最終報告書案をまとめ、とりわけアセットオーナーや保険会社、銀行、運用会社など金融セクターに対しては、気候変動がもたらす種々のリスクにどう対応していくかについての戦略を打ち立てることを強いる機運が盛り上がってきました。

 その中、英保険大手AVIVAは2016年11月4日、自社の基幹事業である保険事業と、機関投資家としての資産運用の双方において、気候変動に対応していくための戦略書「AVIVAの気候変動への戦略的対応(Aviva’s strategic response to climate change)」を改訂しました。同社は世界16ヶ国で事業を展開、保険加入者は世界全体で約3,300万人、総運用資産額は約3,000億ポンド(約44兆円)という世界有数の保険会社です。

 「AVIVAの気候変動への戦略的対応」は2015年7月に初版を発行、今回が初めての改訂版となります。初版発表から1年数ヶ月の間に、パリ協定の合意、金融安定理事会(FSB)の気候変動関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)での検討開始、仏エネルギー転換法第173条で定められた気候変動関連情報の開示義務化等、大きな変化がありました。そのため、AVIVAは早速、同社の戦略書を改訂したのです。

 AVIVAは、パリ協定で掲げる国際合意「2℃目標」の達成に向け、機関投資家として責任ある投資を実施していくことを宣言しています。今回の戦略書でも、パリ協定を大きく意識した構成となっています。同時に、2015年から2020年までのの5カ年計画の初年度となった前期(2015年7月1日から2016年6月30日まで)の状況もまとめられています。

 今回は、このAVIVAの戦略書を紐解きながら、気候変動に対応する機関投資家・保険会社の先進事例を見ていきたいと思います。

AVIVAの気候変動ガバナンス体制

 AVIVAは、気候変動がもたらすリスクを管理するためのガバナンスとして、取締役会に設置された2つの委員会が大きな役割を担っています。1つ目は「リスク委員会」。この委員会は、AVIVAグループにとって重大なリスクとなる事項を管理・監視しています。リスクは発生確率と影響度の二軸で分析され、「気候変動リスク」はここ数年重大なリスクとして扱われています。とりわけ気候変動がもたらす異常気象の増加は、グループ全体にとって著しく大きいリスク要因となるとみなされています。同委員会では、重大リスクについては、中長期の影響を考慮するため、通常の経営計画よりも長期スパンで評価することが決められています。

 もう一つは「ガバナンス委員会」です。この委員会も取締役会に置かれており、グループ全体が社会的責任に沿った行動を取っているかを監督することが責務の一つとなっています。そのため、ガイダンスや顧客に対するポリシーの制定、CSRアジェンダの設定、取締役会と経営陣に対する助言などを担っています。同委員会も、2014年から気候変動は重要テーマだと位置づけており、「AVIVAの気候変動への戦略的対応」の制定の必要であると訴えもありました。そこで、2015年2月に「AVIVAの気候変動への戦略的対応」が同委員会で承認され、以後気候変動への対応状況を同委員会に報告することが決められています。

AVIVAが想定する気候変動リスク

 AVIVAは、気候変動がもたらす事業関連リスクを、「保険リスク」「再保険リスク」「投資リスク」の3点と「事業機会」の視点から分析しています。

保険リスク

 同社は、生命保険会社として、気象関連の死亡者数が増加していくことを大きなリスクと捉えています。そのため、(1)保険数理上の価格推定と見通しの有効性、(2)気象関連の死亡者数増加に対し保険支払を確実にするための保険カバー範囲の制限の必要性、(3)気象関連の死亡者数増加に伴う財務的影響に関する管理の脆弱性、の3点を、将来に渡る大きなリスク要因だとしています。

再保険リスク

 気候変動は、同社が購入している再保険についてもリスクをもたらすとしています。同社は、大災害時の巨額の保険支払リスクをヘッジするために、再保険を購入しています。しかし、今後気候変動により大災害の発生リスクが高まるにつれ、現行の再保険購入レベルでは不足していないかをチェックし調整していく必要があるとしています。

投資リスク

 巨額の資産を保有する機関投資家としての側面も持つ同社は、グループ内に運用会社AVIVA Investorsを有しています。AVIVA Investorsは、AVIVAグループと外部顧客の双方に対してアセットマネジメントサービスを提供しており、運用資産総額は3,180億ポンド(約44.6兆円)。AVIVAは、AVIVA Investors以外の外部運用会社でも一部運用をしていますが、AVIVAの保有資産の約85%はAVIVA Investorsで運用されています。運用アセットクラスは、債券65%、株式17%、不動産・インフラ12%、その他6%です。

 この投資分野に関するリスクも分析されています。市場調査大手Economist Intelligence社が2015年に実施した調査によると、気候変動が投資、年金積立、長期貯蓄に与える影響をVaR計測したところ、世界全体の運用管理資産に与えるVaRは、現在価値で4.2兆米ドル。テールリスクは、6℃上昇シナリオの際には現在価値損失が民間セクターの割引率を用いて13.8兆米ドル、公共セクターの割引率を用いると43兆米ドルにも上ると試算。これらの問題は、ボラティリティリスクや一時的な価格変動といったものではなく、恒久的な障害や資本損失の問題だとしています。

 また、低炭素経済に向けた転換は投資リスクとなるとしつつも、それ以上に低炭素経済に向けた転換に失敗することからくる投資リスクの方が重大だとし、2℃目標を達成できなかった場合の結果は深刻だと捉えています。

事業機会

 一方で、新たな事業機会としては、省エネ促進や水害による損害保険を再設計することで二酸化炭素排出量の削減になることや、再生可能エネルギー分野での保険事業を拡大することを例として挙げています。

 AVIVAは、上記の「保険リスク」「再保険リスク」「投資リスク」の3つを、気候変動の影響分野の観点から「物理的リスク」「エネルギー転換リスク」「訴訟リスク」の3つ観点から再編成し、さらに分析を進めます。

物理的リスク

 物理的リスクとは、気候変動により企業や民間の物的資産に与える影響のことです。地球温暖化が進むと様々な被害が生じます。異常気象の頻度や被害が増加することによる不動産やインフラ施設の損失やサプライチェーンの破壊、降雨量の変化に寄る水不足、農業の収穫高低下や食糧不足や食料価格の高騰、生態系の破壊、労働生産性の低下、医療支出の増加などです。そのため、気候変動や気候変動への適応失敗は、株式、社債、国債、不動産、インフラなど多くの資産に影響を及ぼします。さらに、地球温暖化が進行すればするほど、これらのリスクは増大していくため、パリ協定の目標達成は非常に重要だとしています。

エネルギー転換リスク

 エネルギー転換リスクは、さらに細かく「政策・規制リスク」「テクノロジーリスク」「需要供給の大きな変化リスク」の3つに分けられています。「政策・規制リスク」では、カーボンプライシング(炭素価格)の導入、化石燃料への補助金廃止、再生可能エネルギー割合目標の設定、汚染規制などの法規制が変化が挙げられています。エネルギー転換リスクは、従来のビジネスモデルや企業のコスト構造などを大きく変える可能性があり、資産価格や企業価値の大きく変化していくことがリスクだと捉えています。

 同社は投資先のモニタリングにおいて、エネルギー転換リスクに大きくさらされる業界や個別企業のリスク分析を進めており、そのため、金融安定理事会(FSB)の気候変動関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)が提唱しようとしている企業の気候変動リスク計測および開示の動きを支持しています。

訴訟リスク

 訴訟リスクについては、契約による取締役や経営陣の免責や、年金受託者賠償責任保険により法的な訴訟リスクは小さいとしつつも、一部の国や地域で企業の気候変動情報開示の点で法規制課題を抱えており、最終的に投資している株式及び債券の価値変動から影響を受けることもあるとしています。また、訴訟リスクや罰則による影響は軽微としつつも、広い意味での社会からの期待や顧客の要求といった点では課題を抱える可能性があるとリスクを捉えています。

基本的なESG投資手法

 AVIVAのESG投資は、「ESGインテグレーション」と「エンゲージメント・議決権行使」を基本としています。「ESGインテグレーション」は、ポートフォリオ検討の意思決定全般においてESG要素を組み込み、統合していく手法です。この手法を実施するために重要な役割を果たしているのが、同社がブルームバーグ端末上で独自に開発している「ESGヒートマップ」と呼ばれるツールです。

 ESGヒートマップには、AVIVAがESG調査会社から獲得したデータと、同社が独自に収集、分析した情報が全て入力され、投資先または投資候補先企業のESG情報が一元的に管理できる仕組みになっています。社外から獲得するデータには、ブルームバークの他、ISS-Ethix、MSCI、VigeoEIRIS等があります。社内で収集する情報には、ファンドマネージャーやアナリストとの対話から得た情報や、同社の過去の議決権行使結果に基づくガバナンス分析情報などがあります。AVIVAのファンドマネージャーやアナリストは、ブルームバーグ端末を通じてESGヒートマップにアクセスができるようになっており、ポートフォリオの銘柄選定、エンゲージメント、議決権行使に役立てています。さらに、NGOからも企業のESG状況について積極的に情報収集を行っています。

 外部運用会社を活用する際には、選定基準として、親会社、商品、投資哲学、投資プロセス、人、パフォーマンス、ポジションの「7P」が設定されており、全てのプロセスにおいてESG要素が考慮されます。2017年前半には、外部運用会社の取扱高上位2社に対し、踏み込んだ気候変動リスクのデューデリジェンスを実施する予定です。

 エンゲージメント・議決権行使では、内部規定が整備されています。エンゲージメント方針は同社の「スチュワードシップ・コード声明」に、議決権行使方針は同社の「コーポレートガバナンスと企業責任議決権行使方針」の中に明記されています。

 ESG投資の方針、アプローチ方法、パフォーマンスについては、AVIVA取締役会の「ガバナンス委員会」とAVIVA Investorsの取締役会で毎年審査され、進捗状況は対外的に「アニュアル責任投資レビュー」という報告書の形で公表されます。

 これらの活動を通じ、AVIVAは国連責任投資原則(PRI)から”A+”の評価を得ています。

気候変動への対応戦略

 前述のリスク分析を踏まえ、AVIVAは気候変動への対応戦略として5つの柱を制定しています。

第1の柱: 投資意思決定プロセスに気候変動リスクを統合

 AVIVAは、投資意思決定のベースとなる経済予測の際に、ファンドマネージャーやアナリストとのセッションを通じて気候変動が経済に与える影響を検討。4半期単位で物理的リスクや政策・規制リスクの動向をアップデートしています。さらに、同社が、企業の二酸化炭素排出効率、現地の二酸化炭素排出規制、企業の二酸化炭素排出量マネジメント力から「カーボン・エクスポージャー」という指数を独自に算出し、カーボンプライシングやエネルギー転換リスクが企業に与える影響度合いを計算する際の変数として用いています。同様に、水利用効率、水資源の利用状況、企業の水資源マネジメント力から「ウォーター・ストレス・エクスポージャー」という指数を計算し、物理的リスクや水の供給ストップから来る操業停止リスクを計算する際の変数として活用しています。この2つのエクスポージャー数値は、前述のESGヒートマップ上で共有されており、銘柄分析や銘柄選定の過程でアナリストやファンドマネージャーに利用されています。

 不動産アセットクラスでは、GRESBベンチマークを活用し、ポートフォリオやファンド全体の気候変動耐性等を判断しています。2016年には運用している9つのポートフォリオをGRESBベンチマークで測定し、そのうち5つは「グリーンスター」等級の判定を受けています。また、同社の保険事業が利用している洪水リスクマップを活用し、投資先不動産ファンドの洪水リスクも独自に算出しています。現在は、GRESBベンチマークをインフラアセットクラスでも活用できるようにするため、2016年9月から他の機関投資家7社と共同でツール「GRESBインフラストラクチャー」を開発中です。

 投資ポートフォリオのカーボンフットプリントの算出にも積極的に取り組んでいます。2015年9月にはモントリール誓約に署名し、さらに同11月にはAVIVAが運用している株式ファンドのうち、運用額上位4つのファンドのカーボンフットプリントを算出、公表しました。4ファンドの合計運用資産額は130億ポンド(約1.8兆円)で、これは株式アセットクラス全体の3分の1、全アセットクラスの5%を占める規模です。ファンドのカーボンフットプリント算出に当っては、信用できるデータがない、物理的リスクに関する測定データがないなどの課題に直面し、推定によってデータを埋めることが行われました。それでも、今後この取組を継続し、精度を上げていくといいます。

 次のステップでは、AVIVA Investorsの最大アセットクラスである債券分野でも気候変動の影響分析を行うという目標を設定。目下のところ、債券分野ではESG調査会社からもデータ提供を受けられない状況ですが、今年中にはデータの提供を受け、分析に活用していくということです。

第2の柱: 低炭素インフラへの投資

 同社は2015年7月、年間5億ポンドを5年間、低炭素インフラに投資すると発表し、それと連動して年間10万tの二酸化炭素排出量削減目標を設定しました。この目標は、再生可能エネルギーや省エネ分野への必要投資額をもとに算出されています。結果、前年度は、風力、太陽光、バイオマス、省エネ分野に5.09億ポンド(約715億円)を投資し、目標を達成しました。

 この低炭素インフラ投資からの二酸化炭素排出量削減効果の測定でもコンサルタントと共同でツールを開発しています。ツールの開発では、英国グリーン投資銀行(GIB)の「環境インパクト報告基準(Green Impact Reporting Criteria)」ガイダンスを採用しています。

第3の柱: 強力な気候変動政策を支持

 政策提言分野では、G20や金融安定理事会(FSB)での議論に積極的に参加。同社のマーク・ウィルソンCEOは2015年11月、IISD(国際持続的発展研究所)が主導した「化石燃料補助金改革コミュニケ」にも署名。化石燃料への補助金が気候変動を悪化させる要因になっているとして、早期の廃止を訴えています。

第4の柱: 気候変動リスク分野での積極的なスチュワードシップ

 投資家としての基本的な責任を果たすため、投資先企業に対し、気候変動リスクや情報開示、成果についての積極的なエンゲージメントや議決権行使を行っています。とりわけ二酸化炭素排出量が多いセクターとのエンゲージメントを重視し、前年度は同セクター51社に対し、踏み込んだエンゲージメントを実施しました。さらに、資源エネルギーセクターの企業の株主総会には積極的に参加しており、気候変動分野の株主決議を発議したり、審議される気候変動対応強化株主決議に対して賛成するアクションも取っています。

 他の機関投資家との協働エンゲージメントも積極化しています。ヨーロッパ圏内での石油、ガス、鉱工業、電力会社、自動車産業における気候変動リスクへの対処ではIIGCC(気候変動に関する機関投資家グループ)での活動に参加。北極海での石油採掘、シェールガス、シェールオイル等の採取方法である水圧破砕、パーム油、水リスクに関しては国連責任投資原則(PRI)との連携を深めています。

第5の柱: 必要に応じた応じたダイベストメント

 同社は2015年7月、30%以上の売上を一般炭採掘または石炭火力発電から得ている企業40社を特定。その40社に対し、ガバナンス、事業戦略、事業効率、責任ある気候変動・エネルギー政策提言に関してエンゲージメントを行っています。とりわけ、石炭火力発電設備能力の新設計画を持つ企業に対しては厳しいエンゲージメントを行いました。そのうちほとんどの企業はエンゲージメントに応じたものの、中国や韓国企業を中心に8社はエンゲージメントの呼びかけに応答せず。このまま応答しない場合は、2017年3月までにその8社と、同様に石炭火力発電申請計画を持つ2社からのダイベストメント(投資引揚げ)を決行するととしています。ダイベストメント実施のタイミングでは、対象企業名が公表される予定です。

【戦略書】Aviva’s strategic response to climate change, 2016 update

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長兼サステナビリティ研究所所長

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