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【イギリス】医学誌ランセット、気候変動と健康被害の関連性分析レポート2017年版を公表

 有力医学誌ランセットが主宰し、24大学とWHO等の国際機関が健康と気候変動との関連性を分析している共同研究プロジェクト「ランセット・カウントダウン」は10月30日、2017年報告書をランセット誌に掲載し、現時点で明らかになっているデータを公表した。この共同研究は、2015年の「健康と気候変動に関するランセット委員会」による政策提言の進捗状況を2030年まで毎年精査し報告するもの。メンバーには気候学者、生態学者、エンジニア、エネルギー専門家、食品、輸送システムの専門家、地理学者、数学者、社会・経済科学者、公衆衛生専門家、医師等が含まれている。

 同プロジェクトの基本的な方針は、公衆衛生上大きな進歩が見られた過去50年間の成果を、気候変動による後戻りさせてはならず、官民一体となってこの大きな危機を乗り越えようというもの。公表されたデータは、(1)気候変動の影響・暴露・脆弱性、(2)適応策と健康に向けたレジリエンス、(3)緩和対策と健康上のメリット、(4)経営と財政、(5)一般の人々の参画と政治的取り組み、の分野にわたる40項目の年次別指標。

 気候変動による公衆衛生への影響は、過去25年間の対策の遅れにより悪化の一途を辿っていたが、ここ5年間で対策が加速しており、今年はいくつかの項目で改善が見られた。しかしながら、依然として炭素排出量と地球温暖化は増加し続けており、気象関連の災害頻度は2007年以来46%増加している。死亡率に関しては増加か減少かが明確でなく、気候変動への対策が功を奏し始めていることを示唆している。しかし健康への影響は時間とともに悪化すると予測されており、現在の対応策は将来的には不十分になることが予測される。

 健康被害は特に脆弱な人々や低・中所得国(LMIC)人々に出ている。熱波の頻度や強度は明らかに増加しており、2000年から2016年の間に高齢者など1億2,500万人が被害を受けた。また同期間に屋外で作業する肉体労働者による生産性は5.3%減少。2003年にヨーロッパで発生した熱波による熱中症等の死亡者数は約30,000人と推計されているが、今後は熱波と高齢者の増加との相関による被害の拡大が予測されている。

 伝染症では、ネッタイシマカやヒトスジシマカによるデング熱の伝染が拡大。これらの蚊は、1950年からそれぞれ9.4%、11.1%の増加。1990年からは、それぞれ3.0%、5.9%の増加。年間のデング熱の症例は1990年以来10年毎に倍増し、2013年には10,000人以上の死亡。障害調整生命年(DALY)に換算すると114万年分相当の損失となる。
 
 大気汚染面では、エネルギー、輸送、農業、廃棄物、大型船舶等、様々な発生源のうち、製造・使用の双方の過程で汚染物質を排出するエネルギー分野が、最大規模の汚染源となっている。この分野が全体の微粒子物質(PM2.5)の85%、二酸化硫黄(SO2)および窒素酸化物(NOx)の100%を排出しており、とりわけ石炭はエネルギー分野全体で排出するPM2.5の90%以上、SO2の4分の3、NOxの70%を占めている。早死では、住民100万人当たり日本は年間約300人、中国700人以上、パキスタン400人以上、インド約400人であることが推測される。また2016年にWHOが発表したデータによると、世界中で毎年300万人が大気汚染により早死しているという。近年は石炭火力発電からの他の電源へと緩やかに移行しており、一部の都市での汚染度は軽減している。しかし、世界人口に重みづけをして測定すると、1990年以降、微粒子物質(PM2.5)の暴露量が11.2%増加し、WHO大気汚染データベースにある2,971都市のうち、約71%が年間PM2.5のガイドラインを上回っている。カーボン・プライシング(炭素価格制度)は、世界の人為的二酸化炭素排出量の13・1%しかカバーしていない。
 
 気候関連事象に起因する経済損失の総額は1990年以降増加。2016年には1,290億米ドル(約14.7兆円)にまで上った。そのうち、低所得国で発生した損失の99%は無担保だった。

 健康被害を食い止めるため、気候変動に対する脆弱性の評価、対応策および緊急時準備計画の策定、保健サービスへの気候情報の提供等を実践している国や市が増えている。すでに、世界中の都市449以上が気候変動リスクアセスメントを実施。しかし、健康や健康関連への対応予算は、気候変動への世界全体の対応策資金のそれぞれ4.6%、13.3%を占めているに過ぎない。同レポートは、この状況を改善するには、より多くの保健・医療関係者の参画が不可欠だと提言した。

【レポート】The 2017 Report of the Lancet Countdown
【参考ページ】環境省:2003年欧州の熱波による死者数

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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