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【日本】経産省の電力容量市場オークション、小売電力会社に1.6兆円の負担。石炭火力発電も温存

 経済産業省の外郭機関、電力広域的運営推進機関(OCCTO)は9月14日、新たに導入された容量市場制度の初回のオークション結果を発表した。約定総額は1兆5,987億円で、2024年から小売電力会社から徴収される。費用の一部は電力小売価格に転嫁されるとみられ、電気料金の上昇につながる可能性が高い。

 容量市場は、欧米の一部の国で導入されている制度で、電力の安定供給のために稼働を休止している電源を持つ発電会社に対し、費用を支払い、非常時電源として備えておく制度。安定稼働電源のみが制度の対象となるため火力発電、原子力発電、水力発電などが対象となり、太陽光発電や風力発電等は制度に実質的に参加することができない。欧米でも一般的に火力発電が容量市場制度での対象電源として想定されている。

 しかし容量市場制度に対しては、欧米でも課題が多く指摘されてきた。近年、再生可能エネルギーへの電源の転換が進む中、不要となった石炭火力発電へも容量市場制度を通して発電せずとも対価を支払うことで、電力消費者に対しコスト負担がかかるとともに、不要となった火力発電の「延命策」につながるとの懸念が出ていた。そのため、容量市場制度の設計では、導入したとしても、「制度対象の容量を必要最小限にとどめること」「再生可能エネルギーへの転換を阻害しないこと」「容量市場のオークションでの約定価格を低く抑えること」が重要となっている。

 一方、今回OCCTOが設計した制度では、総容量が1億6,769万kWと膨大な量となり、多数の火力発電を「温存」することが最初から織り込まれていた。さらに今回のオークションへの入札では、石炭火力発電が24.6%、ガス火力発電が42.3%、石油火力発電が8.0%と、予想通り火力発電が全体の75%を占めた上に、落札率は97%で、入札したものがほぼ全て採用された。

 また落札率が97%と非常に高かったことにより、落札価格にも大きな影響を与えた。今回の制度では、落札者は自身の入札価格で約定するのではなく、落札者の最高額が全落札者の約定価格となる「シングルプライス」制度が採用された。そのため、入札では「0円」での入札者が78.5%を占めたが、一部の入札が入札上限価格とほぼ同額の14,137円/kWだっため、全ての落札が14,137円/kWで約定されることとなった。これにより、約定総額は1兆5,987億円と、極めて高額となった。

 決定した1兆5,987億円の発電会社への費用負担は、電力小売会社から徴収されることとなっている。環境NGO気候ネットワークによると、約定総額から概算するkWh当り負担額は約1.9円。そのまま電力需要家に転嫁されると電気料金が10%ほど上がる規模となる。一方、需要家に転嫁せず耐えようとすると、容量市場制度から支払が入ってこない新電力会社には経営難が予想される。一方、大手電力会社は、発送電分離しているとはいえ、グループ内に小売企業と発電企業を抱え、グループ全体での費用負担は実質ゼロ。今回の容量市場制度により、価格競争力が著しく高まる。この点については、電力小売会社からも「極めて公正性を欠く制度」との声が出ている。

 また気候ネットワークの試算では、応札した石炭火力が4,126万kWは、設備利用率を70%から80%と仮定すると、非効率石炭火力発電を含む大部分の既存石炭火力発電が容量市場制度で温存されることとなる。梶山弘志経済産業相は7月3日、低効率の石炭火力発電は廃止するとの考えを披露したが、稼働を止めても容量市場で温存させる道が今回の制度で開けた。また、制度設計では、電源を長く維持するほど支払額が年々増えるものになっており、発電会社は脱炭素化しないほうが得をする形にもなっている。

【参考】【日本】経産省、低効率石炭火力廃止や輸出厳格化の意向表明。このニュースの読み解き方(2020年7月4日)

 今回の制度設計において、膨大な容量設定と高額の上限価格設定により、オークション前から実質的に石炭火力発電の温存につながる形になっていたが、これが意図的であったか、制度設計の瑕疵であったかは、まだ不明。今回のオークションは、設定されたルール通りに実施されており、制度設計に対する不備は設計時に指摘すべきとの意見もあろうが、制度設計時に設計内容や想定される影響等の説明について「十分な透明性を欠いていた」ということはできそうだ。

【参照ページ】容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2024年度)の公表について
【参照ページ】【プレスリリース】石炭火力や原発を温存し、気候変動対策に逆行する 容量市場の抜本的見直しを

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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