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【スウェーデン】「楽しさ」が人々の行動を変える。フォルクスワーゲンが提唱する「ファン・セオリー」

様々なインフラの発展に伴って世の中はますます便利になる一方で、その便利さが人々の健康とトレードオフになることも多い。健康のためには運動をしたほうがよいとわかっていても、楽をする道があればついついそちらを選んでしまうのが人というものだ。階段よりもエスカレーターやエレベーターを使ってしまう私たちが、週末にフィットネスジムで汗を流しているというのも現代ならではの皮肉な話だ。

上記の動画は、そんな人々のジレンマを解決する一つのアイデアとして、2009年にスウェーデン、ストックホルムにあるodenplan駅で行われた有名なプロジェクトだ。「どうやったら駅の利用者はエスカレーターではなく階段をもっと使ってくれるだろうか?」この問いに対して提案されたのは、シンプルだがとてもユニークなソリューションだった。

動画を見れば一目瞭然、階段をピアノの鍵盤に見立てて、階段を上がると音が奏でられるようにしたのだ。結果、なんと普段より66%も多くの人がエスカレーターではなく階段を利用するようになったという。

このプロジェクトを仕掛けたのは、世界を代表する自動車ブランド、フォルクスワーゲンだ。上記の動画はフォルクスワーゲン・スウェーデン社が提唱する「ファン・セオリー」というプロジェクトの一環として行われた実験で、「ファン・セオリー」とは、一言でいえば「楽しさ」こそが人々の行動を変える一番シンプルで簡単な方法だ、という考え方のことを指す。

フォルクスワーゲンはこのコンセプトに基づいて「TheFuntheory.com(ザ・ファンセオリー・ドットコム)」というサイトを2009年に開設し、どのように人々の行動をその人や社会にとって良い方向へと変えていけるか、ユニークな実験動画を通じて様々な提案をしている。

同サイトで公開されている動画の中から、上記の他にもいくつかご紹介したい。

どうすれば皆ちゃんとごみをごみ箱に捨ててくれるだろうか?

続いて紹介するのは、とある公園で行われたプロジェクト。「公園や道路などの公共スペースではゴミをポイ捨てしてはいけない。」それは誰もが分かっていることだが、それでもポイ捨てがなくならないのは、きっと本心では「ごみをごみ箱まで捨てに行くのは面倒くさい」と感じている人が少なくないからだろう。それなら、「ごみを捨てるという行為を、もっと楽しいものにしたらどうだろう?」そう考えたフォルクスワーゲンは、ごみ箱にある仕掛けを施した。


こちらも動画を見れば一目瞭然、ついついゴミ箱の中に顔を入れて中を覗きたくなるような仕掛けだ。結果、一日で72kgものごみがごみ箱に集まった。ごみのポイ捨てを減らすには罰金や罰則といったアプローチもあるが、そんなことをしなくても、ちょっとした楽しい仕掛けがあれば人はポイ捨てなどしないのだ。

どうすれば皆ちゃんとシートベルトを締めてくれるだろう?

上記2つの動画は直接はフォルクスワーゲンの事業と関係がないが、もちろん同社はこのファン・セオリーを自社の製品開発にも取り入れている。まずは下記の動画を見て頂きたい。


シートベルト着用率を高めるためのこのアイデアは、The funtheory award(ファン・セオリーを活用した様々な問題解決アイデアを募るコンテスト)のファイナリストで、セルビア出身のNevena Stojanovicさんによるものだ。

シートベルト着用が交通事故時の死亡率を大きく下げることは誰もが知っているが、ほんの少しの面倒くささがベルトの着用を遠ざける。このアイデアでは、シートベルト着用を社内に搭載されたエンターテインメントシステムを楽しむための手段に置き換えることで、見事に子供の心理的な障壁をクリアすることに成功している。

この取り組みは最初スウェーデンでテストされていたが、同社は将来全ての自動車に同様の仕組みを導入したいと考えているという。

「やったほうがいい」を「やりたい」へ

上記のプロジェクト全てに共通するのは、「楽しさ」という要素を加えることで人々の振る舞いをより良い方向へと変えているという点だ。TheFuntheory.comで紹介されている取り組みの一つ一つはとても小さなものかもしれないが、ファン・セオリーそのものはより大きな事業やアイデアにも活かせるはずだ。

最近ではサステナビリティ活動にゲーミフィケーションを取り入れたユニークなプロジェクトを展開する事例なども出てきているが(参考記事:「【TED】サステナビリティにゲーミフィケーションを掛け合わせたスイスのスタートアップのアイデアとは?」)、よりサステナブルな世界を作る一番の近道は、一人一人に高い市民意識を期待することではなく、放っておいても「やりたい」と思えるような仕掛けや仕組みを作ることなのかもしれない。

CSR活動やサステナビリティへの取り組みも同様で、それが自社の利益につながると分かっていれば、どんな企業もこぞって積極的に取り組むはずだ。社会のために良いことをやっている企業が得をする仕組みさえあれば、あとは自然競争に任せることで結果としてサステナブルなビジネス慣行が実現できるだろう。

今、まさに世界中の国家や国際機関がそのためのルール作りを進めており、サステナビリティがグローバル競争を勝ち抜くための新たなルールになろうとしている。

ぜひフォルクスワーゲンの取り組みを参考にしつつ、どうすれば自社のステークホルダーに対してより望ましい行動をとってもらえるか、ファン・セオリーの観点から仕掛けを考えたいところだ。

また、このフォルクスワーゲン社の取り組みのクリエイティブを担当しているのは、世界を代表するグローバルクリエイティブエージェンシー、DDBだ。DDBは世界96ケ国、14,000名のスタッフを抱えるグローバルエージェンシーで、これまでにカンヌ国際広告祭で最も多くの賞を受賞している。フォルクスワーゲン以外にも様々なグローバル企業のサステナブルなマーケティングキャンペーンを手掛けている企業としても有名だ。

2011年5月にカルフォルニアのモントレーで開催されたSustainable Brands 2011では、DDB WestでCheif Creative Officerを務めるLisa Bennett氏が、DDBが手掛けたフォルクスワーゲンの「ファン・セオリー」の取り組みを上記のピアノ階段の取り組みも含めて紹介している。興味がある方はぜひ下記も見てほしい。


人にも企業にも、「やったほうがいい」とわかっていても「やりたくない」ことがいっぱいある。ただ、その長期的なリターンと短期的なリターンのジレンマに悩まされる限り、本当の意味で問題を全て解決することは難しい。どうすれば両者を一致させられるか、そこに様々なビジネスチャンスがありそうだ。

【参考サイト】TheFuntheory.com
【企業サイト】Volkswagen
【企業サイト】DDB

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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