EU下院の役割を担う欧州議会と、EU上院の役割を担う加盟国閣僚級のEU理事会は1月28日、欧州委員会が提案した欧州イノベーション・技術機構(EIT)の運営継続と、2021年から2027年までの7カ年戦略イノベーション・アジェンダで政治的合意に達した。これにより3者の協議が成立し、今後形式的に欧州議会とEU理事会でのEIT規則改正作業を経て、正式にEUの7カ年イノベーション政策が決定する。
EITは、2008年に発足し、本部をハンガリー・ブダベストに置くEUのイノベーション政策推進機関。EUは2021年から2027年までの7カ年長期予算「Horizon Europe」の中で、科学分野の「Excellent Science」、産業政策分野の「Global Challenge & European Industrial Competitiveness」、イノベーション政策の「Innovative Europe」の3つの柱を設定し、Innovative Europeの遂行機関としてEITは位置づけられている。
EITには現在、企業、大学、研究機関を分野ごとに総括する機関として、8つの「知識・イノベーション共同体(KIC)」を運営中。具体的には、気候変動(EIT Climate-KIC)、デジタル、食品、健康、エネルギー、製造業、原材料、都市モビリティの8つ。そして今回の決定でさらに、文化・クリエイティブと、水・海洋・海事の2つの分野でKICを立ち上げることが決まった。
今回の欧州委員会の提案は、2019年7月に欧州議会とEU理事会に提示され、約1年半をかけて議論し、今回政治的合意に達した。予算規模は、原案通り、2020年までの7カ年戦略的イノベーション計画から6億ユーロ(25%)増の30億ユーロ(約3,800億円)。波及効果は、750の高等教育機関を支援し、学生3万人をサポート。4,000のイノベーションを産業界に送り出し、スタートアップ700社の支援を実施していく。
また今回のイノベーション戦略では、イノベーションが遅れている地域を重点的に支援する視点も埋め込まれた。また大学等の高等教育機関からの起業やイノベーション創出能力にも重きが置かれた。また、2021年に正式発足したEUの俯瞰的なイノベーション助成機関「欧州イノベーション会議(EIC)」との連携も強化し、インパクトの拡大にも努める。
【参考】【EU】欧州委、イノベーション助成機関「欧州イノベーション会議(EIC)」を2021年に正式発足。920億円(2019年3月23日)
また欧州議会とEU理事会は同日、ソーシャル分野での7カ年政策基金「EU社会基金+(ESF+)」の運営でも政治的合意に達した。基金の規模は、総額880億ユーロ(約11兆円)。貧困リスクの高い子供の数がEU平均を上回っている加盟国は、医療、教育、保育、住宅、栄養等の基礎的ニーズへのアクセス確保のために、ESF+の5%以上の予算を投じることで合意した。今後、形式的に欧州議会とEU理事会で正式に可決する。
ESF+の前身の欧州社会基金は、1957年のローマ条約で創設。今回、欧州社会基金(ESF)、若者雇用イニシアティブ(YEI)、欧州困窮者援助基金(FEAD)、雇用・社会イノベーション・プログラム(EaSI)を統合し、新たにESF+が発足した。
【参照ページ】European Institute of Innovation and Technology: Commission welcomes political agreement on strategy for 2021-2027
【参照ページ】Agreement reached on the European Social Fund+ for 2021-2027
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