
役員報酬にESG指標を組み込む動きは、大企業を中心に、導入の是非を論じる段階から、設計の実効性を問う段階に移った。
企業が直面している圧力は一様ではない。米国では、反ESG・反DEIを背景とする政治的圧力や法務リスクの高まりを受け、特定の指標を撤去したり、名称を変更したりする動きが広がっている。一方で、ESGへの政治的な賛否とは別に、目標水準が甘くないか、報酬委員会の裁量が過度に広くないか、実際に経営陣の行動を変える制度になっているかという、役員報酬制度としての批判も強まっている。
日本では、ESG指標を役員報酬に組み込む企業が増加する一方、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の気候関連開示基準により、気候戦略と役員報酬の接続の有無や、報酬への影響も投資家から見えるようになる。
今後問われるのは、ESG指標を採用しているか否かではない。なぜその指標を選び、どの程度の難易度を設定し、実績をどのように測定し、報酬にどう反映するのか。さらに、指標を維持、変更または撤去する場合にも、その判断を取締役会が合理的に説明できるかが、制度の信頼性を左右する。
ESG連動役員報酬とは何か
ESG連動役員報酬とは、取締役や執行役員の業績連動報酬の算定に、環境、社会、ガバナンスに関する非財務指標を組み込む制度を指す。一般的には、単年度の業績に連動する短期インセンティブ報酬(STI)と、3年程度以上の評価期間を持つ長期インセンティブ報酬(LTI)のいずれか、または双方に設定される。
代表的な指標には、温室効果ガス排出量、資源循環、労働安全、従業員エンゲージメント、重要人材の確保、女性管理職比率、顧客安全、人権、重大なコンプライアンス違反等がある。
ESG連動役員報酬の導入が広がった背景には、ESG投資の拡大に加え、役員報酬を短期的な売上高や利益だけでなく、中長期的な企業価値の向上と連動させようとするコーポレートガバナンス改革がある。気候変動、人的資本、労働安全等が経営上の重要課題として認識され、企業が削減目標や人材戦略を経営計画に組み込む中で、その実行責任を経営陣の評価と報酬にも反映する企業が増えてきた。
例えば、脱炭素設備への投資は短期的には費用を増やす一方、将来の規制対応、顧客獲得、エネルギー価格リスクの低減に繋がる可能性がある。人的資本への投資も、当期利益を押し下げる場合があるが、人材確保、生産性、イノベーション、事業継続に影響する。財務指標だけで役員を評価すると、こうした投資を先送りする誘因が生じ得るため、重要な非財務成果を報酬に組み込むことには合理性がある。
ESG連動役員報酬は、企業が掲げるサステナビリティ目標を経営陣の評価と経済的インセンティブへ接続し、達成への責任を明確にするための手段と位置付けられる。
但し、サステナビリティ戦略が曖昧なまま報酬指標だけを設定しても、経営行動は変わらない。ESG連動役員報酬は、企業の重要課題、事業戦略、投資計画、事業部門のKPIを役員評価へ落とし込む最終工程であり、戦略そのものの代替ではない。指標と企業価値の因果関係が説明できなければ、制度は経営規律ではなく、対外的なアピールや報酬支給の裁量を広げる仕組みになってしまう。
導入拡大で顕在化した二つの圧力
ESG連動役員報酬の普及に伴い、企業は性質の異なる二つの圧力に直面するようになった。まず、役員報酬制度としての実効性に対する批判だ。指標が企業価値と本当に結び付いているのか、目標が容易に達成できる水準になっていないか、報酬委員会の裁量が過度に広くなっていないか、経営陣への報酬支給を正当化するための形式的な制度になっていないかが問われている。これはESGへの政治的な賛否とは別に、役員報酬制度としての客観性、透明性及び規律を問うものである。
もう一つは、米国で強まる反ESG・反DEIの政治的圧力と法務リスクだ。特にDEI関連指標では、指標の実効性とは異なる次元から、採用すること自体が政治、訴訟及びレピュテーション上のリスクと捉えられ、撤去や名称変更を行う企業が増えている。
米役員報酬コンサルティングFarient Advisorsの調査によると、S&P500企業のうち、役員報酬にDEI指標を用いると開示した企業の割合は、2023年の57%から2025年には22%まで低下した。同社は、政治、法務及び株主からの圧力が背景にあると分析している。
単純な撤去だけでなく、名称変更も広がった。Pearl MeyerがS&P500企業37社を分析したところ、14%がDEIまたはESG目標を削除し、36%が名称を変更していた。ダイバーシティ関連目標を維持した企業は6%で、前年の先行提出企業100社を対象とした調査の35%から大きく低下した。「ダイバーシティ&インクルージョン」を「タレント戦略」に、「DEI」を「環境及び人的資本」に変更した例も確認された。
但し、DEI指標の減少を、ESG連動役員報酬全体の終焉と読み替えるべきではない。WTW調査では、S&P1500企業の55%が短期インセンティブに何らかのESG指標を残している。実務では、政治的対立を招きやすい表現を避けつつ、従業員エンゲージメント、労働安全、顧客、環境、人的資本等の事業運営上の指標を維持する企業がある。
米国で進んでいるのは、「ESG」という総称を残すか否かより、どの指標を事業上の重要課題として、防御可能な形で報酬に残せるかという選別である。
導入しても、外しても問われる
反ESG側からの圧力も、制度の廃止を直接求めるだけでなく、報酬指標が受託者責任、法務、レピュテーション、財務パフォーマンスに及ぼすリスクの報告を求める形へ変化している。
米エネルギー大手ドミニオン・エナジーの2026年の株主総会では、米保守系シンクタンクのヘリテージ財団が「非受託者的な役員報酬指標」のリスクに関する報告を求める株主提案を提出。米製薬大手ギリアド・サイエンシズに対しても、バーンセン・ファミリー・トラストが、米保守系の議決権行使・株主提案助言団体Bowyer Researchを通じて同種の提案を提出した。提案側は、主観的なESG・DEI指標が経営陣に過度な裁量を与え、財務成果との結び付きが弱いと主張している。
ヘリテージ財団は2026年、米デル・テクノロジーズが役員報酬の決定にDEI指標を用いていないと確認したとして、同社への提案を撤回したと発表した。株主提案は、制度変更だけでなく、報酬指標の有無を企業に確認させる手段にもなっている。
一方、導入済みの指標を途中で外すことにもガバナンス上の問題がある。ISSは2026年方針の策定に向けた市場調査で、評価期間が進行中のインセンティブ報酬からESG・DEI指標を撤去する変更を、どのように議決権行使判断へ反映すべきかを質問した。投資家回答では、説得力のある理由がない中途変更を否定的に評価すべきとの意見が強かった一方、企業及び企業への助言者等を含む非投資家回答では、指標の撤去だけで反対推奨の理由とすべきではないとの見方が多く、立場が分かれた。
したがって、企業は「入れれば批判され、外せば安全になる」と考えることはできない。導入、維持、変更、撤去のいずれについても、取締役会が合理的な根拠を持ち、株主に説明できることが必要となる。
制度設計への批判と、反ESGを背景とする政治的圧力は同じものではない。但し、両者が同時に強まった結果、企業には、どの指標を選び、なぜ報酬に連動させ、どのような手続で維持または変更するのかを、従来以上に明確に説明することが求められるようになった。
名称だけを変更して実態を曖昧にする対応は、政治的批判を一時的に回避できても、投資家からはコミットメントの後退や開示の不透明化と受け止められる可能性がある。
実効性を欠くESG指標への批判を支える実証研究
ESG連動役員報酬への批判は、政治的な反ESG運動だけに由来するものではない。制度設計上の弱点は、学術研究でも指摘されてきた。
ハーバード大学のLucian Bebchuk氏とRoberto Tallarita氏は、S&P100企業の2020年の役員報酬を分析し、ESG指標を採用する企業の多くが、各指標のウェイトを開示していないと指摘。ウェイトを開示した企業でも、ESG指標が役員報酬全体に与える影響は概ね1.5%から3%に留まる例が多かった。両氏は、曖昧で測定が難しく、報酬委員会の裁量が大きい指標は、経営者に有利な支給を正当化するウィンドウドレッシングになり得ると論じた。
さらに、カリフォルニア大学バークレー校のAdam Badawi氏とスタンフォード大学のRobert Bartlett氏は、2023年のS&P500企業の委任状を分析。ESG目標の達成状況を開示した247社のうち、全てのESG目標を達成または超過した企業は76%だったのに対し、全ての財務目標を達成または超過した企業は44%だった。全ての財務目標を未達とした企業は22%を超えた一方、全てのESG目標を未達とした企業は約2%に留まった。また、ESG目標の達成は外部ESG評価の改善と統計的に結び付かず、全てのESG目標を達成または超過した企業では、Say-on-Payの反対票割合が高い統計的関連も確認された。
この研究は、全てのESG指標が不適切であると証明したものではない。しかし、財務指標より達成率が著しく高ければ、目標水準の甘さや評価裁量への疑念が生じる。測定方法が定量化・標準化され、規制上の報告指標等と接続している労働安全等では未達事例が相対的に多く、指標の透明性と標準化が、より挑戦的な目標設定を促す可能性も示唆される。
日本では導入拡大と制度開示が同時進行
日本企業では、ESG連動役員報酬の導入が引き続き拡大している。デロイト・トーマツ・グループの2025年度調査では、短期または長期インセンティブ報酬にESG指標を組み込む企業は、プライム上場企業で27%、売上高1兆円以上の企業で67%となり、いずれも前年から4ポイント上昇した。採用企業数が多い指標は、従業員エンゲージメント110社、二酸化炭素排出量81社、女性管理職比率73社、スコープ1・2の温室効果ガス排出量67社だった。人的資本と気候変動が主要な対象となっている。
今後は、役員報酬の設計とサステナビリティ開示が直接接続する。SSBJの気候関連開示基準では、取締役会等が気候関連目標の設定と進捗をどのように監督しているかを開示する際、関連する業績指標が報酬方針に含まれている場合、その組み込み方を示すことが必要となる。含まれていない場合にも、その旨を開示する。
SSBJ基準は、企業にESG連動役員報酬の導入を義務付けるものではない。しかし、気候関連の評価項目を組み込んでいる企業には、その組み込み方法と、当報告期間に認識された役員報酬のうち当該評価項目と結び付く部分の割合の開示を求める。組み込んでいない企業についても、その旨を開示しなければならない。目標難易度、実績及び支給結果の詳細は、同基準が直接開示を求める事項ではない。但し、制度の実効性を投資家が評価する上では、これらも重要な説明事項となる。
企業が気候変動を重要な経営課題と位置付け、取締役会が目標の設定と進捗を監督しているにもかかわらず、役員報酬との関係がない場合には、その理由が投資家との対話上の論点となり得る。一方、単に統合報告書で「役員報酬にESGを反映」と記載するだけでは、制度の実効性を説明したことにはならない。報酬方針、気候目標、実績データ、取締役会の監督が整合している必要がある。
金融庁は2026年2月、改正開示府令を公布し、東証プライム上場会社のうち、過去5事業年度末の平均時価総額が1兆円以上の企業に対し、SSBJ基準に準拠した開示を義務付けた。適用は原則として2028年3月期からだが、2026年3月期末を基準とした5年平均時価総額が3兆円以上の企業は、2027年3月期から先行適用される。
平均時価総額5,000億円以上1兆円未満の企業については、金融審議会報告で2029年3月期からの適用が適当とされた。第三者保証についても、各層のSSBJ基準適用開始の翌期から段階的に導入する方向が示されている。
役員報酬に用いる気候指標も、開示数値と異なる定義や集計範囲で算定していれば、説明や保証の際に齟齬が生じる。報酬委員会だけでなく、サステナビリティ、経理、法務、内部監査、データ管理部門が共通の算定基盤を整える必要がある。
批判に耐えるKPIの7条件
ESG連動役員報酬に万能の設計はない。企業の業種、戦略、成熟度、データ整備状況によって適切な指標は異なる。但し、批判や実証研究を踏まえると、少なくとも次の7条件を満たすことが重要となる。
1. 重要課題と企業価値の因果関係を示す
指標は、流行しているテーマではなく、自社の重要課題と事業戦略から選ぶ必要がある。温室効果ガス排出量であれば、規制対応、顧客要求、エネルギーコスト、設備投資、製品競争力との関係を示す。人的資本であれば、重要人材の不足、生産性、品質、事業継続、イノベーションとの繋がりを説明する。
単に「ステークホルダーに重視されている」だけでは、報酬に連動させる根拠として弱い。企業価値との関係を説明できない指標は、役員報酬ではなく、事業部門やサステナビリティ部門の管理指標として扱う方が適切な場合もある。
2. 結果指標と先行指標を組み合わせる
最終成果だけでは、役員が評価期間内に制御できない要因の影響が大きくなる。一方、研修回数や方針策定等の活動指標だけでは、成果が出なくても達成できる。
気候変動分野では排出量と設備更新等、人的資本ではエンゲージメントと重要職種の離職率等を組み合わせる。但し、指標数を増やしすぎると優先順位が不明確になり、個々の指標が報酬へ与える影響も小さくなる。
3. 閾値、目標値、上限値を事前に定める
最低支給条件となる閾値、標準的な目標値、最大支給となる上限値を設定し、達成度と支給率の関係を事前に定める。過去3年から5年の実績でバックテストを行い、毎年ほぼ自動的に達成できる水準になっていないかを確認。M&A、事業売却、自然災害等の調整ルールも事前に定め、実績を見てから都合よく修正できないようにする。報酬委員会が裁量を行使できる場合も、適用条件と増減幅の上限を明確にする必要がある。
4. 指標の性質に応じてSTI、LTI、減額条件を使い分ける
気候変動移行、研究開発、サプライチェーン転換等は、単年度では成果が表れにくいため、LTIとの相性が良い。一方、労働安全、品質、重大事故防止等は、年度単位で管理しやすい。
さらに、死亡事故、重大な人権侵害、粉飾、重大コンプライアンス違反等は、達成すれば加点するKPIではなく、発生時に報酬を減額または不支給とするゲート、マルス、クローバックの対象とする方が適切な場合がある。労働安全やコンプライアンスに関する改善活動をKPIとして評価することには合理性があるが、重大事象が発生しても他の指標の達成によって報酬が維持される設計では、経営陣の責任を十分に反映できない。法令遵守や重大事故の回避を「成果」として加点すると、最低限果たすべき責任に追加報酬を支払う構造にもなりかねない。
5. 算定方法とデータ境界を開示・検証可能にする
指標名だけでなく、定義、対象範囲、基準年、算定方法、除外項目、組織再編時の扱いを明確にする。温室効果ガス排出量は、スコープ、連結範囲、電力排出量の算定基準、カーボンクレジットの扱い等で数値が変わる。SSBJ開示や第三者保証に用いるデータと報酬算定データの定義を可能な限り統一し、相違があれば理由を説明する。報酬算定だけで用いる独自の調整後指標を増やすほど、株主による検証は難しくなる。
6. ウェイトではなく、総報酬への実質的影響を確認する
ESG指標のウェイトに一律の正解はない。低すぎれば行動を変える誘因にならず、高すぎれば、測定誤差や経営陣が制御できない要因によって報酬が大きく振れる。
重要なのは、STIやLTIの中での比率だけでなく、固定報酬を含む総報酬に対し、最大でどの程度の増減をもたらすかを確認することだ。ハーバード大学のBebchuk氏とTallarita氏が指摘したように、総報酬への影響が1.5%から3%程度に留まる場合、象徴的な指標と見なされる可能性がある。一方、複数の曖昧なESG指標に大きなウェイトを与えれば、報酬委員会の裁量が過度に広がる。ウェイト、支給曲線、裁量調整の上限を併せて設計する必要がある。
7. 目標、実績、支給結果、変更理由を事後検証できる形で示す
導入の事実だけでなく、目標値、実績値、達成率、支給率を開示することが信頼性の前提となる。競争上の理由で目標値を事前開示できない場合でも、評価期間終了後に遡って開示し、非開示とした理由を説明することが望ましい。
評価期間中の指標変更は原則として避け、やむを得ず変更する場合は、変更前後の指標、事業環境の変化、取締役会の判断、支給額への影響を示す。ISSの調査が示したように、投資家は指標の撤去そのものだけでなく、説得力のない中途変更を警戒している。
企業に求められるアクション
日本企業がまず行うべきは、既存のESG連動役員報酬を、導入率や他社事例ではなく、実際の達成分布から検証することだ。過去数年の各KPIについて、目標値、実績値、支給率を並べ、財務指標より著しく達成率が高くなっていないか、未達が一度もない指標がないか、裁量調整が常に上方に働いていないかを確認する。報酬委員会には、制度導入時の説明だけでなく、目標難易度を継続的に検証する役割がある。
次に、サステナビリティ目標、事業計画、役員報酬、有価証券報告書の開示を一つのデータ系列として管理する必要がある。例えば、2030年の温室効果ガス削減目標を掲げながら、役員報酬では別の基準年、別の対象範囲、別の排出量を使っていれば、制度の整合性は説明しにくい。目標設定、実績集計、報酬算定、取締役会承認、外部開示までの責任者と証跡を明確にし、内部統制と保証に耐え得る体制を整えることが求められる。
新たに導入を検討する企業は、他社が採用しているという理由だけで指標を選ぶべきではない。自社の重要課題、経営戦略、役員が制御可能な範囲、データ品質、評価期間及び総報酬への影響を踏まえ、役員報酬に組み込む必然性を確認する必要がある。
一方、指標を導入しない場合にも、気候変動や人的資本を重要な経営課題と位置付けながら、役員報酬とは連動させない理由を説明できることが重要となる。全ての重要課題を報酬指標にする必要はなく、取締役会による監督、事業部門のKPI、設備投資基準等、別のガバナンス手段で実行を担保する設計もあり得る。
さらに、指標を撤去または改名する場合も、政治的環境や他社動向だけを理由にすべきではない。企業の重要課題から外れたのか、別の指標の方が経営行動を適切に測れるのか、法務リスクをどのように評価したのかを取締役会で検討し、株主に説明する必要がある。米国の事例は、言葉を消せば論争が終わるのではなく、変更の理由と手続が新たなガバナンス評価の対象になることを示している。
今後の注目点
ESG連動役員報酬は、ESGへの賛否を示す象徴ではなく、経営戦略を実行するためのガバナンス手段である。事業との因果関係が弱く、達成が容易で、総報酬への実質的影響が小さく、支給結果が開示されない報酬設計は、実効性を欠くとの批判を免れない。一方、重要課題に基づき、目標難易度、データ、支給曲線、変更手続を検証可能にすれば、短期的な財務成果だけでは捉えにくい経営責任を報酬に反映できる。
日本では、導入企業の増加とSSBJ基準の義務化が同時に進む。但し、SSBJ基準がESG連動役員報酬の導入を直接求めているわけではない。導入の有無と、気候戦略との接続を投資家から見える状態にすることで、取締役会の判断と説明責任を強める制度と捉える必要がある。今後問われるのは、ESG指標を採用している企業の多さではなく、未達時に実際に報酬が減り、その事実を開示できる制度になっているかである。
米国で進む撤去、改名、株主提案と、制度設計に対する学術的批判は、出発点を異にする。しかし、いずれも日本企業に対し、指標を導入しているという事実だけでは制度の正当性を説明できないことを示している。ESG連動役員報酬をやめる理由としてではなく、導入前提を見直し、役員報酬制度としての厳格さを高めるための材料と捉えるべきだ。
【参照ページ】「役員報酬サーベイ(2025年度版)」の結果を発表
【参照ページ】気候関連開示基準 サステナビリティ開示テーマ別基準第2号
【参照ページ】Executive Pay Lessons From 2025
【参照ページ】Security, DEI, and Tariffs: Executive Compensation Insights from Late 2025 and Early 2026 Proxy Filers
【参照ページ】Executive pay trends in 2026: Proxy insights on CEO pay, incentives and governance under pressure
【参照ページ】Dominion Energy 2026 Proxy Statement
【参照ページ】Gilead Sciences 2026 Proxy Statement
【参照ページ】Heritage Foundation Secures Corporate Engagement Win at Dell Technologies Via Shareholder Dialogue
【参照ページ】Policy Survey Summary 2025
【参照ページ】The Perils and Questionable Promise of ESG-Based Compensation
【参照ページ】ESG Overperformance? Assessing the Use of ESG Targets in Executive Compensation Plans
【参照ページ】「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について
【参照ページ】金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告
【参照ページ】G20/OECD Principles of Corporate Governance
【参照ページ】How Compensation Can Support Improved Environmental and Social Governance
【参照ページ】CPG 511 Remuneration
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菊池尚人
チーフコンサルタント 兼 事業開発室長
2016年新卒から10年コンサルティング業界に従事。2019年より現職。
大手企業・金融機関向けESG戦略・投資アドバイザリーのリードに加え、 サステナビリティ経営に関する研修講師、Sustainable Japan編集も務める。