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【環境】グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026開催。開示から測定・実装・価値化へ。熊本宣言

【環境】グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026開催。開示から測定・実装・価値化へ。熊本宣言 1

 ネイチャーポジティブの実現に向けた国際会議「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026」が7月14日と15日、熊本市で開催された。2024年にオーストラリアで開催された第1回会合に続く第2回で、政府、国際機関、企業、金融機関、地方政府、研究機関、NGO、地域団体等が参加。当社ニューラルも現地参加した。

 2022年に昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)が採択され、2020年を基準として2030年までに生物多様性損失を止め、反転させ、2050年までに自然を回復させる目標が掲げられた。2026年10月にアルメニアで開催される国連生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)では、各国の実施状況、資金動員、企業の役割等が議論される。

 今回のサミットでは、ネイチャーポジティブを巡る議論が、目標設定や情報開示から、測定、実装、価値化の段階へ移りつつあることが繰り返し示された。初日には、企業戦略、金融、自然資本評価、地域での実装等を通じ、誰が何を変えるべきかが議論された。2日目には、その成果をどう測り、共通のデータや基準へ変換し、経営や投資の意思決定に使うかが議論された。終盤にはインフラと海洋へ議論が広がり、閉会式では「熊本宣言」が発表された。

開示から事業変革へ

 企業の自然関連対応では、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言を活用し、自然への依存、インパクト、リスク、機会を分析する動きが広がっている。サミットでは、日本のTNFD採用表明企業が約235社に達する一方、AIを用いた別の分析では、採用表明の有無を問わず、TNFDに沿った報告を行う日本企業が約250社に上るとの推計が紹介された。

 しかし、情報開示は最終目的ではない。自然関連リスクを把握しても、原材料調達、生産設備、商品設計、土地利用、投融資等が変わらなければ、自然損失は止まらない。生物多様性条約事務局のアストリッド・ショーメイカー事務局長は、開示は企業の行動変容を促す手段にすぎないと強調した。

 企業には、自然保全活動を追加的に実施するだけでなく、自社の事業モデルそのものを自然の回復と整合させ、自然状態にどのような変化を生み出したかを示すことが求められる。また、ネイチャーポジティブを温室効果ガス排出量ネットゼロやサーキュラーエコノミー等とは別の独立したテーマとして扱わず、一つの企業戦略と資本配分の中で統合する必要がある。

 サミットでは、自然を事業戦略へ組み込む必要性が、複数のセッションを通じて示された。例えばキリンホールディングスは、ブラジルのオレンジ生産への気候変動影響による調達コスト上昇や、米国のビール工場がハリケーンと洪水で被害を受けた経験を紹介。自然の変化は、将来の抽象的な環境リスクではなく、調達価格や操業へすでに影響している。

 また、豪畜産大手オーストラリアン・アグリカルチュラル・カンパニー(AACo)は、土壌、水、牧草、生態系の状態が生産性や収益性を左右するため、自然は事業そのものだと説明。住友林業は、森林を単なる保全対象とせず、保全すべき区域を守りながら、伐採、木材の長期利用、再植林を循環させるウッドサイクルを紹介した。自然資本を維持しながら木材を調達し、建築事業や炭素固定、地域経済の価値に繋げることで、森林保全を事業モデルの中に組み込んでいる。

自然を企業価値と金融へつなぐ

 金融分野では、金融は実体経済から独立してネイチャーポジティブにはなれないとの認識が共有された。実体経済に自然を損なう事業が多ければ、それを支える投融資や保険引受もネイチャー「ネガティブ」に陥ってしまうためだ。

 特に保険では、自然損失や気候変動で災害リスクが高まり、保険料が上昇すれば、企業や家計が適切な条件で保険へ加入できなくなる。保険を付けられない不動産や事業は、融資や投資の対象にもなりにくい。自然損失は、保険金支払額だけでなく、資産価格、信用供与、企業立地、地域経済へ連鎖する。

 そのため保険会社の役割は、災害発生後の補償から、森林、湿地、水資源等を保全し、災害リスク自体を下げる事前のリスク削減へ広がっている。金融機関には、投融資方針、保険引受、企業とのエンゲージメント、金融商品の組成等を通じ、自然を損なう活動から自然を回復させる活動へ資金を移す役割がある。

 自然を企業価値へ組み込む考え方として、「Nature on the Balance Sheet」も議論された。企業は財務資本だけでなく、自然資本、社会資本、人的資本に依存する。しかし現在の企業評価では、森林、水、土壌、生態系等がもたらす便益や、その劣化による損失は十分に認識されていない。

 今回の議論は、自然への依存、リスク、機会を企業価値や投資判断へ反映する段階からさらに進み、森林や生態系等の自然資本を、既存の会計制度の下で資産として認識し、財務諸表へ反映できるかを探るものだった。実現には、企業による支配、測定可能性、将来の経済的便益の立証等の課題が残る。一方、自然資本評価やTNFD、投資案件の評価等を通じ、自然価値を経営や市場評価へ反映する実務はすでに進み始めている。

 セッション内で紹介されたオーストラリア・タスマニア州の森林会社Foricoは、木材価値だけでなく、自然資本上の便益を把握し、可視化した後、当初投資額の約3倍で売却されたという。王子ホールディングスも、森林がもたらす水源涵養、生物多様性、災害防止等の価値を測定し、現在は十分に評価されていない森林価値を投資へ繋げる取り組みを進めているとした。

 シンガポールの政府系投資会社テマセク傘下の脱炭素投資会社GenZeroは、自然へ資金を投じる理由を、Compliance(規制対応)、Climate(気候変動対策)、Commercial(商業的価値)という3つのCで整理。「自然を大切にしよう」という議論から、「自然が生み出す価値」へと議論を移し、売上、利益、雇用、事業継続、資産価値との関係をCFOが理解できる言葉で示す必要があると語った。

自然クレジットとミティゲーション・ヒエラルキー

 自然価値へ民間資金を動員する手段として、自然クレジットへの期待も示された。ただし、自然は炭素のように世界共通の単位で単純比較できない。自然の価値は、場所、生態系、生物種、地域社会との関係によって異なる。ある地域での森林再生を、別の地域での湿地の破壊と単純にオフセットすることはできない。

 自然クレジットは、回避、最小化、回復・再生というミティゲーション・ヒエラルキーに即した企業自身の対応を代替するものではない。残余影響の代償や追加的な自然回復への資金拠出に活用する場合にも、成果の追加性、永続性、地域社会の権利等について高い十全性が求められる。

 加えて市場形成には、成果の信頼性を担保する供給側の品質、企業や投資家が資金を支払う需要側の利用価値、会計、情報開示、主張ルール等の市場インフラが必要となる。

ネイチャーポジティブをどう測るか

 サミットでは、ネイチャーポジティブを企業実務へ落とし込むため、自然測定について複数の国際的な検討が進んでいることが紹介された。中心となるのが、ネイチャーポジティブ・イニシアチブ(NPI)による自然状態の共通指標と、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)等が検討する測定プロセスの共通化である。両者は関係するが、同じものではない。

 NPIは約2年間にわたり、企業や政府のアクションによって自然が回復しているのか、依然として衰退しているのかを判断する「State of Nature Metrics(自然状態に関する指標)」の策定を進めてきた。今回のサミットでは、最終案に近い内容として、生態系の面積、生態系の状態、種の絶滅リスク、種の個体群という4つの共通指標が示された。NPIは2026年後半に、技術的な測定方法と企業向けガイダンスを公表する予定としている。

【参考】【国際】TNFD、SBTN、GRI、「自然状態」観点で基準改定へ。共通概念を基に指標整理(2026年4月13日) 【参考】【国際】ネイチャーポジティブ・イニシアチブ、「自然状態」の測定指標案発表。パブコメ募集(2024年10月11日)

 4つの指標は、植樹本数や保全活動への支出額等の企業の活動量ではなく、生態系の面積や状態、種の絶滅リスク、個体群が実際にどう変化したかを測るための評価項目だ。これらを継続的に測定し、基準時点と比較することで、企業の取り組みによって自然が回復しているのか、劣化が続いているのかを判断する。

 測定範囲も、企業が所有または管理する事業地だけに限られない。企業活動は、取水、排水、原材料調達、土地利用等を通じて、周辺の流域や生態系にも影響を与える。また企業自身も、事業地の外にある水、森林、土壌、生物種等に依存している。そのためNPIは、事業地とその周辺のランドスケープを併せて評価し、地域の文脈を踏まえて自然状態を把握する考え方を採用している。

 一方、共通指標が定まっても、それだけで企業間や地域間の結果を比較できるわけではない。同じ1,000haの森林でも、原生林、希少種の生息地、生物多様性の高い天然林、単一樹種の人工林では、自然上の意味が異なる。東京湾の干潟1haと阿蘇の草原1haも、面積は同じでも、生息種、生態系機能、希少性、地域社会への便益は異なる。

 そこで並行して検討されているのが、自然測定のプロセスを共通化するWBCSDの「Nature Measurement Protocol(自然測定プロトコル)」の策定だ。自然測定プロトコルは、新たな開示基準や単一の自然価値スコアをつくるものではない。どの場所と生態系を対象とするか、企業活動とどのような依存・インパクト関係があるか、どの指標を選び、どのデータと方法で測定し、結果をどう解釈するかという評価プロセスの共通化を目指している。

【参考】【国際】NPIとWBCSD等、「自然測定プロトコル」開発へ。GHGプロトコルの自然資本版(2025年11月22日)

 つまり、NPIは自然状態を評価する共通項目を定め、WBCSDの自然測定プロトコルは、それらをどのような前提、範囲、データ、手順で測定し、意思決定に使える情報へ変えるかを整理している。パイロットでは、ヴァーレが約20年間に蓄積した環境データを活用した他、キリンが自社管理外のスリランカの茶園で、生産者、サプライヤー、NGO等と連携しながら測定を試みた。完璧なデータを待つのではなく、既存情報から始め、地域関係者と実践を重ねることの重要性も強調された。

自然データと基準を共通基盤へ

 自然状態を測るには、生態系のベースラインが必要になる。各国政府や国際機関が参加する地球観測の政府間組織「Group on Earth Observations(GEO)」は、生物多様性条約(CBD)事務局及び国際自然保護連合(IUCN)と連携し、110種類の生態系タイプについて、その世界的な分布を共通の地図として整備する「Global Ecosystems Atlas」の構築を進めている。各国のデータを統合し、データが存在しない地域では地球観測等を用いて地図を作成する。

 生物種のデータ基盤では、Global Biodiversity Information Facility(GBIF)が標準化された情報を提供。企業が環境影響評価等で取得したデータを共有すれば、研究や絶滅リスク評価に利用され、社会全体の測定能力を高めることができる。

 基準も、乱立から相互運用へ向かっている。GRIは企業が自然に与えるインパクトを重視し、TNFDやISSBは自然関連課題が企業価値や財務へ与える影響を重視する。企業がGRI、TNFD、ISSB等の基準毎に、自然関連データを別々に収集、管理するのではなく、事業拠点、取水量、土地利用、生態系、原材料調達地域等の基礎情報を共通化し、投資家、NGO、規制当局等の情報ニーズに応じて整理・開示することが重要となる。

 AIもこの基盤を支える。衛星画像、カメラトラップ、環境センサー、音響データ、環境DNA等を解析することで、広範囲の自然状態を継続的に把握し、施策を軌道修正できる。一方、AI自体も電力や水を大量に消費するため、自然問題の解決へ技術を使うと同時に、技術自体の自然への依存とインパクトも管理しなければならない。

焦点は事業拠点から流域とインフラへ

 自然は企業の敷地境界で区切られていない。河川や地下水は上流から下流へ移動し、野生生物は複数の土地を行き来する。そのため、自社工場内での節水、排水管理、植樹だけでなく、流域やランドスケープ単位で、行政、住民、農家、研究機関、NGO、金融機関、他企業と協働する必要がある。

 開催地の熊本では、市民の水道水源を地下水で賄っている。阿蘇等への降水が、森林、農地、火山性の地層を通じて地下へ浸透し、都市、農業、産業、生態系を支える。一方、近年の半導体関連企業の進出や都市化により、水需要の増加と地下水涵養機能の低下の懸念の声も高まっている。

 こうした課題に対し、流域全体で地下水を維持する企業の取り組みも共有された。例えばサントリーホールディングスは、間伐等による森林管理や冬期に水田へ水を張る冬水田んぼ等を通じ、地下水涵養を進めている。ソニーセミコンダクターソリューションズも、工場内の水利用効率化に加え、農地を活用した地下水涵養を行っている。これらは、農家、土地改良区、自治体、研究機関、住民等との協働によって成立していることも示された。

 2日目終盤では、この考え方がインフラ分野にも広げられた。セッションでは、登壇者から今後20年余りで世界のインフラに約150兆米ドル(約2.4京円)が投じられ、その約60%がアジア太平洋地域に向かうとの見通しが紹介された。この資金を、自然破壊型のインフラへ向けるのか、自然を回復させるインフラへ向けるのかが、将来の自然状態を左右すると語られた。

 森林、湿地、マングローブ、サンゴ礁等は、水供給、洪水緩和、高潮防止、気温調整等のサービスを提供する自然インフラだ。但し、金融機関が投融資を判断するには、自然価値だけでなく、安定したキャッシュフロー、費用対効果、リスク低減効果を示す必要がある。自然価値の可視化と事業モデルの構築を両立できるかが、ネイチャーポジティブ・インフラを主流化する条件となる。

海洋のネイチャーポジティブと陸域との接続

 終盤のセッションでは、海洋に関する議論も行われた。海洋は、気候調整、生物多様性、食料安全保障、国際貿易、雇用を支える地球最大の生態系だが、その価値は経済や金融の意思決定に十分反映されていない。

 特に海運業や水産業は、海洋を事業基盤として利用する一方、船舶の運航、漁獲、養殖等を通じて海洋生態系にもインパクトを与える。そのため両業界には、海洋資源を持続的に利用するだけでなく、海洋の状態を把握し、負のインパクトを抑え、生態系の回復にも関与する事業モデルへの転換が求められる。

 海運業では、日本郵船が、海を利用する企業から海を支える企業への転換を掲げ、環境DNA等を通じた海洋観測、国際ルール形成、藻場や河川、森林の再生を進めている。海運業には、温室効果ガス排出だけでなく、水中騒音、バラスト水や船体付着生物による外来種の移入、生物多様性上重要な海域へのインパクトを管理することが求められる。

 水産業では、漁獲対象種の資源管理に加え、トレーサビリティ、混獲対策、違法漁業への対応、養殖技術、市場形成が論点となった。タイ・ユニオンは、マグロの追跡可能性と海上監視を強化。ニッスイは、ブリの完全養殖や高水温耐性、飼料効率の高い品種の開発を進め、2026年2月には100億円のブルー・ネイチャーボンドを発行した。

 海洋のネイチャーポジティブ化は、企業による技術開発や資源管理だけでは実現できない。沿岸や島嶼地域では、住民や先住民族の生活、文化、食料、雇用が海洋生態系と密接に結び付いているため、保全策の策定や実施に地域社会が参加し、その便益が地域へ還元される仕組みが必要となる。

 太平洋島嶼国では、住民や先住民族が、漁期、漁法、禁漁区域等のルール形成と管理に参加する地域管理型海洋区域が重視されている。海洋保全を地域社会の外から一方的に実施するのではなく、地域の知識と権利を尊重しながら、生態系の回復と持続可能な生計を両立させることが求められる。

 さらに、海洋問題は海域内だけでは完結しない。プラスチック、肥料、化学物質、都市排水等の多くは、陸域から河川を通じて海へ流入する。森林、農地、都市、河川、沿岸、海洋を一つの連続したシステムとして捉え、陸域と海洋の施策を接続する必要がある。

政治的逆風の中で問われる実行力

 米国や欧州の一部では、環境規制の後退やESGへの反発が見られることにも言及された。元ユニリーバCEOのポール・ポールマン氏は、現在の逆風はサステナビリティの方向性が失われたことを意味するのではなく、大きな社会変革に伴う摩擦として捉えるべきと述べた。

 さらに、目標やコミットメントを掲げる段階から、企業が事業モデルや資金配分を実際に変える実行段階に入ったとも付言。企業には、政治環境の変化を待つのではなく、自然への対応がコスト削減、生産性、調達安定、事業レジリエンス、成長機会にどう繋がるかを実証するリーダーシップが求められるとした。

 一方、市場構造に対しては、自然を損なう活動へ資金や補助金が流れ、自然を維持する行動には十分な報酬がないことを課題視。税制、補助金、保険、公的金融、情報開示等を組み合わせ、自然を守る行動が経済的に報われる仕組みへ移行する必要との見方も示された。

熊本宣言が示した実行原則

 閉会式で発表された「熊本宣言―ネイチャーポジティブな未来に向けた熊本の決意」では、サミットの議論が、実行原則へと集約された。同宣言では、KMGBFの2050年ビジョンと2030年ミッションを支持し、2026年2月のIPBES「ビジネスと生物多様性評価報告書」の重要性を認識。日本政府の生物多様性国家戦略とネイチャーポジティブ経済移行戦略を歓迎した。

 また国際合意を現場の行動へ移すには、政府だけでなく、企業、金融機関、NGO、先住民族、地域コミュニティ、市民、消費者を含む「社会全体を巻き込んだアプローチ」の必要性も指摘。ネイチャーポジティブ経済への移行は、コストではなく、持続可能な成長、レジリエンス、イノベーション、長期的価値創造をもたらす投資機会と位置付けた。

 企業行動では、ミティゲーション・ヒエラルキーに加え、自然への依存とインパクト、自然状態を測定するため、標準化され、科学的根拠に基づきながら、実用的で意思決定に役立つ指標と手法を、政府、規制当局、企業、金融機関が共同で整備することを求めた。さらにKMGBFターゲット15に沿い、自然関連課題の評価、目標設定、移行計画、企業報告について、世界的に一貫した標準ベースのアプローチへ市場全体を整合させることを掲げた。

 自然資本を社会と経済を支える不可欠な資産として認識し、自然を軸としたソリューション(NbS)、サーキュラーエコノミー、脱炭素化を統合することも要請。ネイチャーポジティブへの移行を「公正な移行」とする必要性も強調した。自然保全や気候変動対策は、地域社会の生計を損なうのではなく、守り、向上させ、社会的公平性を促進し、周縁化されたコミュニティをエンパワーするものでなければならないとした。自然と人間活動を調和させてきた日本の里山モデルも、その実践例として位置付けられた。

 さらに同宣言は、企業行動、金融、市場制度、地域社会、気候変動、サーキュラーエコノミーを一つの移行プロセスとして捉え、COP17以降も実施事例と教訓を共有し、共同行動を強化すると表明。「人々にポジティブな未来を実現する唯一の道は、ネイチャーポジティブな未来を築くこと」と結んだ。

普遍的なものを守るためには不変ではいらない

 閉会に当たり、ネイチャーポジティブ・イニシアチブ(NPI)のマルコ・ランベルティーニ氏は、日本の若者から学んだ言葉として「不易流行」を紹介した。これは、変えてはならない本質を守るためには、時代に応じて変わらなければならないという考え方だ。同氏は、人類と自然の関係にも同じことが当てはまるとし、自然を将来にわたって守り、人間社会と経済を維持するためには、現在の企業活動、金融、インフラ、市場、地域ガバナンスを変えなければならないと語った。

 今回のサミットが示したのは、ネイチャーポジティブを巡る議論が、目標の表明や情報開示に留まらず、自然状態を測定し、その結果を事業戦略や資本配分へ反映し、流域、ランドスケープ、シースケープで実際の回復を生み出す段階へ移ったことだ。企業には、自然への依存とインパクトを把握するだけでなく、負のインパクトを回避・最小化し、自然資本を維持・回復させながら価値を創出できる事業モデルへの転換が求められる。

 熊本宣言が示した通り、ネイチャーポジティブは企業や政府の単独行動では実現できない。企業、金融機関、政府、地域社会等が共通の測定基盤と目標を持ち、自然の回復を事業、投資、政策、地域の意思決定へ組み込めるかが重要だ。熊本宣言を理念で終わらせず、2030年までの実装へ繋げられるかが、今後問われる。

【参照ページ】The Kumamoto Declaration 【画像】Nature Positive Initiative

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菊池尚人

チーフコンサルタント 兼 事業開発室長

2016年新卒から10年コンサルティング業界に従事。2019年より現職。 大手企業・金融機関向けESG戦略・投資アドバイザリーのリードに加え、 サステナビリティ経営に関する研修講師、Sustainable Japan編集も務める。

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