【インタビュー】日本郵船、海運業界世界初のグリーンボンド発行事例 〜苦労と気づき〜 2018/04/27 事例を見る

 2018年もグリーンボンド市場は大きな成長が予想される中、グリーンボンド発行で世界初となる新たな事例が日本から生まれようとしています。海運国内最大手の日本郵船は4月17日、償還期間5年のグリーンボンドを100億円発行すると発表しました。海運事業者のグリーンボンド発行はまだ世界に例がなく、成立すれば海運業界として世界初となります。主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券と野村證券。グリーンボンド・ストラクチャリング・エージェントは三菱UFJモルガン・スタンレー証券。資金使途は、日本郵船が策定した環境対応船の技術ロードマップで予定する4案件の投資。環境省も、同グリーンボンドを一般事業会社として初のグリーンボンド発行モデル創出事業に係るモデル発行事例に選定しており、グリーンボンドの可能性を大きく広げると注目されています。

 これまで、海運事業者からグリーンボンドが発行されなかった理由の一つは、海運分野のグリーンボンド調達資金使途の適格要件が確立されていなかったことと言われています。実際、各業界での適格要件のデファクトスタンダードを策定している気候債券イニシアチブ(CBI)も海運業界に関する基準は未策定。このような難しい状況の中で、日本郵船はどのように発行に漕ぎつけつつあるのか。同社の財務グループの白根佑一氏、赤木倫子氏に話を伺いました。


(左)白根佑一 財務グループ統轄チーム課長代理
(右)赤木倫子 財務グループ統轄チーム員

最初に今回のグリーンボンドの概要を教えて下さい

白根佑一氏

 当社は、毎年200億円から300億円の社債を起債していますが、そのうち100億円をグリーンボンドとして発行することとしました。グリーンボンドの使途は、当社が策定した環境対応船の技術ロードマップで予定する投資です。技術ロードマップでは、2030年に2008年比で二酸化炭素排出量を69%削減できるコンセプトシップ「NYK SUPER ECO SHIP 2030」を掲げ、燃料転換、環境負荷低減、船型改造、ビックデータ等を活用した運航最適化、自然エネルギー利用、空気潤滑法導入等の様々な面で新たな技術開発を行うとしています。


(出所)日本郵船資料

グリーンボンド発行を検討するに当たって経緯を教えて下さい

白根氏

 当社は今年3月、新たな 5カ年の中期経営計画”Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”を策定し、その中で「デジタライゼーション」と「グリーン」の2つを大きな柱として位置づけました。また、環境規制の強化や低炭素社会へのシフトが求められる今、社長の内藤から1月の商事始め式において、グリーンビジネスを実現していくという強いトップメッセージがありました。

 そのした中、財務グループとして何ができるか考えた際、グリーンボンド発行というアイデアが出てきました。

グリーンボンド発行の資金使途を詳しくお聞かせ下さい

白根氏

 資金使途は、LNG燃料船、LNG燃料供給船、バラスト水処理装置、スクラバー装置の4案件を予定しています。まず、LNG船ですが、燃料を重油からLNGに変えることで、大気汚染物質である硫黄酸化物(SOx)を約100%、PMを100%、窒素化合物(NOx)を最大86%削減できます。また気候変動の原因物質である二酸化炭素も30%削減できます。船舶は概ね15年から20年を耐用年数として建造されますので、環境負荷削減効果は長期間にわたり大きなインパクトがあります。現在、世界の船舶全体に占めるLNG燃料船の割合は0.1%しかありませんが、当社は2015年に国内初のLNG燃料タグボートを竣工。2016年9月には世界初のLNG燃料自動車専用船が竣工し、現在まで2隻が竣工しております。

 2017年2月には、世界初のLNG燃料供給船「ENGIE ZEEBRUGGE」が竣工しました。LNG燃料供給船がなければ、岸壁でLNGをLNG燃料船に供給しなくはいけませんが、燃料供給船があれば沿岸部でも供給が可能となります。LNG燃料供給船はLNG燃料船そのものの普及を大きく左右する要素と言えます。

 バラスト水処理装置(船舶がバランスを保持する海水であり、通常荷揚港で船底のタンクに注水し、荷積港で排出されるバラスト水とともに運ばれた海洋生物を処理し、排水による生態系破壊を防止するシステム)は、国際的な規制もあり一層注目されています。スクラバーは、SOxを含むエンジンから排出されるガスに海水を噴霧し、硫黄分を除去する装置で、大気汚染を防止できます。

 当社は中期経営計画の中で、海上輸送での輸送単位(重量t×運航km)当たりの原単位二酸化炭素排出量の削減について、2030年度までに2015年比で30%減、2050年度までに50%減という目標を掲げ、サプライチェーン全体への波及効果としても原単位排出量を2030年度までに40%減、2050年度までに70%減を掲げています。

環境分野に大きな投資をしていくことを財務グループとしてどのように受け止めましたか?

白根氏

 当社には以前から環境保全に対する高い意識があります。海運は多量の燃料を消費する事業ですので、環境問題を避けて通ることができません。技術部門・営業部門はもちろん、全社を挙げて日々環境負荷を低減するための取り組みを積極的に実施しています。

赤木氏

 確かに通常の船舶を建造するより環境対応船を建造するほうがコストはかかります。しかし、グリーンボンド発行を通じて、当社の環境への取り組みを顧客をはじめとする幅広い方々に知って頂くことで、社会的に必要なコストをみなで負担していこうという意識を醸成する一助になるのではと、財務グループの中から意見もありました。

白根氏

 幅広いステークホルダーの方々の期待に応えていくためには、環境に向き合い続けなければならないと思っています。

資金調達をグリーンボンド発行で行う狙いは何でしょうか?

白根氏

 狙いは大きく3点あります。まず、投資家層の拡大。グリーンボンドという形で起債することで、これまで当社に関心がなかった投資家のみなさまにも注目いただけるのではと考えました。次に、当社の環境への取り組みを幅広いステークホルダーの方々に認知して頂くということ。そして、やや大きな目標ではありますが、海運業界での牽引役となるという点。海運業界初のグリーンボンド発行を実現し、業界全体をリードしたいと考えました。

今回の発行に当たり苦労した点は?

赤木氏

 海運業界での初めてのグリーンボンド発行でしたので、当社の状況を理解して頂くことに苦労しました。グリーンボンドでは、再生可能エネルギーに焦点が当たることが多い中で、LNGの位置づけを理解頂くことに努めました。

白根氏

 グリーンボンドでは、先に述べたように再生可能エネルギーに焦点が当たることが多いですが、再生可能エネルギーだけで巨大な船舶を動かすことはまだ不可能です。そこで、現段階でのベストソリューションであるLNG燃料への転換を、関係者に丁寧に説明していきました。最終的には世界的に知名度の高いVigeoEirisにセカンドオピニオンを引き受けて頂くことができました(現時点はセカンドオピニオン発表待ちの状態)。

 VigeoEirisのセカンドオピニオンは、使途のプロジェクトだけでなく、発行体全体の状況をレビューするところに特徴があると思います。その点、当社の様々な情報をインプットさせて頂けたことも良かったと思います。

グリーンボンドとクーポン(利率)の観点ではどうお考えですか?

白根氏

 グリーンボンドは投資家の間でも関心が高いと聞いており、価格にも反映される可能性はあるのではと考えています。他社の事例では、一般社債(SB)とグリーンボンドをほぼ同時期に発行した際、グリーンボンドの方の注文が多かったというケースもあったと聞きました。但し、最終的に利回りは今後のマーケティングプロセスにより市場実勢にて決定されると考えます。

発行後の使途報告についてお考えのところはありますか?

白根氏

 船舶建造では様々な守秘義務があり制約が多い一方、曖昧な報告では投資家から理解を得られにくいとも考えています。まさに今、どのような報告をしていくかを議論しているところです。一案ですが、第三者の評価機関に対し詳細開示を行い、適切にグリーンボンド調達資金の管理をしていることを確認して頂き、第三者から保証を得ている旨を一般の方々にも開示する手法についても検討を進めているところです。

 社内での報告オペレーションをスムーズに進めることも重要だと考えています。負荷の高いオペレーションとなると継続性に問題が出てくるため、その点も重要なポイントになると思います。

CBIの海運業界の基準策定ワーキンググループに参加するという発表もありました

白根氏

 今回の起債を機に、海運業界での環境投資の促進や、グリーンボンド発行の牽引役を目指すという大きな目標を掲げています。CBIで海運業界の基準がないままでは、グローバルの海運業界でのグリーンボンド起債が進まないのではないか、そして、当社が第1号となり、基準策定にも加わることで、門戸を開きたいと考えています。

発行準備を通じて何か気づきはありましたか?

赤木氏

 グリーンボンドの発行は、社内の本当に多くの部署の方々の協力なしには成し遂げられませんでした。特に技術部門や環境グループからは多くの支援を得ました。心から感謝しています。

白根氏

 本当にそうだと思います。主幹事証券の皆様も含め大きなチームとなって目標に向かっていく一体感があったと思います。今回私たちの間では、手間暇惜しまずやれることは全部やろうという意気込みで臨みました。ただ発行するだけでなく、より多くの方から評価していただけるよう環境省のモデル事業に応募する、CBIの基準策定にも参加するという話になりました。

 また今回の発行準備を通じて、ESG投資のうねりが大きくなっていることを身をもって体験しました。このような大きな動きをいち早く発行体側が感じ取り、調達にもグリーンという観点を入れていくことが重要となるのではないでしょうか。最初は確かに手間がかかりますが、その分のメリットも大きいと今は確信しています。

インタビューを終えて

 金融商品の世界で日本から世界初が出るということは、そんなに多いことではありません。そんな中、今回のグリーンボンドは、難易度も容易ではない海運業界から生まれた世界初。この点だけでも海運業界全体を引っ張っていくのだという日本郵船の意義込みが感じ取れます。さらに驚いたことは、CBIでの基準策定に参加するのだという意気込み。日本企業は国際基準に積極的に参加することは多くはないと感じていますが、英国NGOの会議に日本郵船が船出していく姿が非常に頼もしく見えます。

 また海運業界では、国際海事機関(IMO)が4月13日、2050年までに業界全体の二酸化炭素排出量を総量で2008年比50%以上削減するという長期目標を採択。それに向け、海運業務当たりの原単位二酸化炭素排出量を2030年までに2008年比40%以上削減し、2050年までに70%削減できるよう努めるとしました。世界の国際物流の多くは海運が担っています。この海運業界で二酸化炭素排出量の大幅な削減が実現できれば、気候変動の緩和に大きく貢献することになります。日本郵船が先陣を切る技術開発が、企業競争力と環境負荷低減の双方に大きく寄与していってほしいと思います。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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