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時価総額上位100社の96%が
Sustainable Japanに登録している。その理由は?

【インタビュー】日本プロロジスリートがグリーンボンド発行予定 〜保有物件ほぼ全てグリーンビルディングの衝撃〜

【インタビュー】日本プロロジスリートがグリーンボンド発行予定 〜保有物件ほぼ全てグリーンビルディングの衝撃〜 1

 世界最大規模の物流不動産会社米プロロジス・グループ。1983年にカリフォルニア州サンフランシスコで創業し、現在は19カ国で約3,260棟の物流施設を開発、所有、運営。ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額は約360億米ドル(約4兆円)。物流業務に携わる世界約5,000以上の企業に物流施設を提供しており、全世界のGDPの1.7%に相当する物資がプロロジス・グループの物流施設を通過しているとも言われています。

 プロロジス・グループのこだわりは、徹底した保有物流施設の質への追求。ここでの「質」には、物流施設としての機能面での質だけでなく、入居企業の従業員の健康や働きやすさ、災害発生時でもカスタマー(プロロジスではテナントを「カスタマー」と呼ぶ)が事業継続できる機能整備や耐震構造、地域社会とのつながり、そして環境性能までも含む広範なものです。環境性能を掘り下げると、二酸化炭素排出量の削減、館内照明器具のLED化、施設内の緑化、高い断熱性能を実現しており、さらに施設の屋上には設置可能最大限のスペースに太陽光発電パネルを敷設しています。物流不動産開発会社の中で、ここまで環境性能にこだわる大手企業は世界に類を見ません。

 プロロジス・グループの日本法人「プロロジス」は、1999年に設立。2002年から2018年までの間に全国で93物件の物流施設を開発。そのうちの40物件を保有し、運用しているのが日本プロロジスリート投資法人です。同投資法人は6月26日、グリーンボンドを発行する予定と発表しました。日本プロロジスリート投資法人にとってのグリーンボンドとは何か、なぜプロロジスはそこまで環境性能の高い物流不動産にこだわるのか。同法人の資産運用会社であるプロロジス・リート・マネジメント株式会社の戸田淳・取締役CFO財務企画部長、永田高大・財務企画部財務チームシニアマネージャー、田川慶久・財務企画部IR/PRチームマネージャーに話を伺いました。

【インタビュー】日本プロロジスリートがグリーンボンド発行予定 〜保有物件ほぼ全てグリーンビルディングの衝撃〜 2

保有物件の環境性能にこだわっているそうですね?

戸田淳氏

 日本プロロジスリート投資法人で保有する不動産金額は、取得価格ベースで5,603億円ですが、そのうち4,877億円分がグリーンビルディング。比率にすると87%です。世界的に見ても、ここまでグリーンビルディングの割合が高い発行体はないと思います。Jリートの中でも、グリーンビルディングの資産保有額はトップクラスです。

 プロロジスでは、グリーンビルディングの定義を厳格な基準で定めており、環境認証で高い評価を受けたもののみをグリーンビルディングと位置付けています。CASBEE(※1)認証ではS、A、B+、DBJ Green Building認証(※2)では5と4のみ、BELS認証(※3)でも5と4のみとしています。

 この定義は、実はプロロジス・グループ全体で定めているものです。海外では他にも、LEED認証やBREEAM認証、DGNB認証等がありますが、同様に厳しい基準値を定めており、その中で日本の認証であるCASBEE、DBJ Green Building、BELSについても盛り込まれています。
 
※1:国土交通省主導のもとで、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が運営するグリーンビルディング認証。物件をS、A、B+、B-、Cの5段階で評価。
※2:株式会社日本政策投資銀行(DBJ)が運営するグリーンビルディング認証。物件を最高位5から最低位1までの5段階で評価。
※3:国土交通省策定の評価基準に基づき、一般社団法人住宅性能評価・表示協会が運営する省エネに特化したグリーンビルディング認証。物件を最高位5から最低位1までの5段階で評価。

どうしてそこまでグリーンビルディング保有率を高められるのですか?

 本投資法人の保有物件は、基本的にプロロジス・グループの日本法人であるプロロジスが設計、開発した物件です。プロロジス・グループが開発した物件は、もともと環境性能にも多大な配慮がされており、もともとグリーンビルディング認証で高い評価を得やすいものなのです。

【インタビュー】日本プロロジスリートがグリーンボンド発行予定 〜保有物件ほぼ全てグリーンビルディングの衝撃〜 3 環境性能が高いポイントの一つに、屋上に敷設している太陽光発電パネルがあります。プロロジス・グループが開発した物件の屋上には、構造上可能な範囲内で最大限に太陽光発電パネルが敷設されており、発電の出力量(設備容量)合計は水力発電所1基分に相当する34.7MW(2018年5月末時点)あります。プロロジス・グループの世界全体での太陽光発電出力量は175MWあります。

各ESGインデックスへの採用状況はいかがですか?

戸田氏

 まずプロロジス・グループ全体のお話からしますと、プロロジスは、ESGインデックスのDow Jones Sustainability Indices(DJSI)に採用されていますし、ESG評価機関のSustainalytics(サステイナリティクス)から業界内でのトップ企業である「Outperformer」の称号を頂いています。

 日本プロロジスリート投資法人も、Dow Jones Sustainability Indices(DJSI)に採用されていますし、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も採用しているMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数にも採用され「A」格付をいただいています。

 インデックスではありませんが、不動産企業の環境性能を評価する国際団体GRESBから、プロロジス・グループは「GRESB Green Stars Sector Leader in North America」のタイトルを受けており、北米でトップの評価です。日本プロロジスリート投資法人は、2016年にはそれを上回る「GRESB Green Stars Sector Leader in the world」をいただき、世界トップとなりました。2017年は僅差で世界では2位になってしまいましたが、それでも「GRESB Green Stars Sector Leader in Asia」としてアジアでトップの評価をいただいています。

 また、プロロジス・グループは、世界経済フォーラムの年次総会、ダボス会議が発表する「Global 100: Most Sustainable Corporations in the World(世界で最も持続可能な100社)」にも7年連続で選ばれました。

どうしてそこまでグリーンにこだわっているのですか?

戸田氏

 プロロジス・グループでは、グリーンだけでなく、ESG全体を非常に重視しており、企業文化になっています。それは、物流不動産業界の世界的なリーダーであり続けるためには不可欠なものだと捉えているためです。

 環境性能の高い物件であれば、地球環境とともにカスタマーにとってのコスト削減にもなります。耐震構造や働きやすさを追求すれば、カスタマーの社員にとってもプロロジスの物件で働く魅力を感じてもらえるはずです。各物流施設では、地域社会を招待したイベントも開催していますが、地域社会にとってもプロロジスが近くにいることを喜んでもらいたいと思っているためです。

 私達、財務部門にとっても、ESGは切っても切り離せない関係にあります。投資法人では、株主のことを「投資主」、株式のことを「投資口」と呼びますが、当法人の投資口を持っている国内外の上位30社を占めるトップクラスの機関投資家は、いずれもESGを非常に重視してきています。そのため、ESGに真剣に取り組まないでいると、株価(投資口価格)の健全な形成が難しくなりつつあると感じています。そのため、財務、IRとしてもESGは非常に重要だと考えています。

今回発行予定のグリーンボンドの使途はなんですか?

戸田氏

 プロロジス・グループでは、日本プロロジスリート投資法人より先に、欧州において2018年2月にグリーンボンドを3億ユーロ(約390億円)発行しました。その際、今後グループ全体でグリーンボンド発行が増えていくことを見越し、グループ全体のグリーンボンド発行フレームワーク「Prologis Green Bond Framework」を制定しました。このフレームワークでは、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)に則り、資金使途、プロジェクト評価・選定プロセス、調達資金管理、報告の4つが定められています。

 この中で、グリーンボンドの使途については、グリーンビルディング、再生可能エネルギー(太陽光及び風力発電)、エネルギー備蓄システム等の省エネ設備の3つに定められています。ですので、本投資法人のグリーンボンドもこの3つを対象としています。

 資金使途となるグリーンビルディングは、本投資法人が保有しているグリーンビルディングの取得資金のリファイナンスも対象となります。本投資法人では、不動産の取得時から債務と対象不動産が一対一で結びつけていますので、今回のグリーンボンドでも、適格性のあるグリーンビルディングのみに調達資金が充当され、明確に管理することが可能となっています。

 調達資金管理では、グループ全体と各グループ法人に、「グリーンボンド・コミッティー」が設置されています。今回のグリーンボンドは、当社の社長が委員長を務める本法人の「グリーンボンド・コミッティー」が、調達資金が適切に充当されているかを管理します。

グリーンボンド発行の狙いはなんですか?

戸田氏

 今回3つのことを狙っています。まず、グリーンボンド発行を通じたサステナビリティ意識の醸成。本投資法人がグリーンボンドを発行することで、今大きくなっているサステナビリティやESGという大きなトレンドに貢献したいと考えています。

 2つ目は、投資家層の拡大。グリーンボンドという新たな債券を出すことで、今までは興味を持っていただけなかった機関投資家の方に投資家になっていただきたいと思っています。

 最後は投資法人債市場の盛り上げです。Jリートの投資法人が発行する債券は、投資法人債と呼ばれているのですが、日本では投資法人債市場はまだまだ小さい状況にあります。グリーンボンドを機に、機関投資家に投資法人債に興味を持ってもらい、Jリート全体の拡大に貢献したいと考えています。

 グリーンボンドを発行するには、通常の投資法人債発行よりもセカンドパーティ・オピニオンを取得するコストが余分にかかります。しかし、グリーンボンドを機に、プロロジス・グループの存在や、当グループが非常にESGにこだわっていることを債券投資家以外の方にも幅広く知って頂くことで、本投資法人の投資口にとってもプラスに作用すると考えました。

日本でのESG投資への状況をどう見ていますか?

戸田氏

 本投資法人はこれまで投資法人債を複数回発行していますが、ESG投資に対する機関投資家の関心はどんどん高まっていると感じています。そして今後はますます大きくなっていくと思います。

プロロジス・グループ全体として日本の物流不動産市場をどう捉えていますか?

戸田氏

 プロロジス・グループは、日本を重要なマーケットと位置付けています。その背景には、日本の物流不動産市場には、まだ環境性能も含めた質の高い施設が少なく、先進国内でも非常に遅れている状況にあります。

 そのため、日本法人のプロロジスも、今後も継続して物流不動産を計画し開発に着手していますし、日本プロロジスリート投資法人もプロロジスから継続的な物件取得を行っていきます。2018年においては、合計5物件の新規取得を予定しています。

今後については?

戸田氏

 今後、私達が発行する投資法人債は、基本的に全てグリーンボンドになっていくのではないかと思います。

永田高大氏

 本投資法人が現在保有する物件のグリーンビルディング比率は87%と極めて高い状況ですが、将来的にはその比率を100%まで上げたいと個人的には思います。今後、取得する物件は、いずれもグリーンビルディングとしてのポテンシャルがある物件だからです。より厳しく見積もっても95%程度までは行けると思っています。

戸田氏

 また、物件をカスタマー(テナント)に一括して運営を任せる「ビルト・トゥ・スーツ(BTS)型」の物流施設では、当社ではなくカスタマー自身が施設を運営しているため、一部は認証の取得が難しい点もあると見ているためです。しかし、BTS型施設も物流施設のポテンシャルとしては、やはりグリーンビルディング認証で高い評価を得られるレベルにあります。既存物件でもグリーンビルディング認証未取得のものは取る準備を進めています。今後この87%という数値は、基本的に下がることはありません。

田川慶久氏

 私達は、昨今のESG投資の高まりを受けてグリーンビルディングの取得を始めたのではなく、もともと環境性能の高い施設を手がけて来たという経緯があります。そのため、本投資法人の投資口や投資法人債の投資家は、もともとESG投資をしていたと言うこともできます。しかしながら、セカンドパーティ・オピニオン等を通じて本投資法人の中身についてよく知っていただきたいと思い、グリーンボンド発行を計画しています。

戸田氏

 私達は非常に長い目で見ています。サステナビリティへの取組は、今日明日に私達の事業へのリターンとして返ってくるものではないのかもしれません。しかし、中長期的には必ずプロロジス・グループの利益につながると考えています。

インタビューを終えて

 不動産業界においてグリーンビルディングへの関心が高まっているとはいえ、不動産投資法人の運用物件のうちグリーンビルディング比率が87%という府日本プロロジスリート投資法人の現状は、はっきり言って「衝撃」です。さらに驚くのは、同業他社と比べても、グリーンビルディングの基準を非常に厳しく設定いるにもかかわらずこの水準を達成していること。さらに日本プロロジスリート投資法人の中では、この比率を100%にまで高めたいう意識もすでに生まれており、驚異的としか言いようがありません。

 不動産投資法人によるグリーンボンドについて、ぜひ注目していただきたいのは、このように資金使途とするグリーンビルディングの定義です。セカンドオピニオン提供機関は、これまでの事例から考えると、DBJ Green Building認証とBELS認証ではプロロジス・グループ基準より一段階下の「3」でも適格と判断する傾向にあると言えますが、それにもかかわらず「4」で線引するプロロジス・グループの設定基準は高い。また、プロロジス・グループはCASBEE認証ではS、A、B+の3段階を適格としているものの、実際にはほぼ全てでS、Aの上位2評価を得ています。

 これらから鮮明に見えてくるのは、プロロジス・グループの環境さらにはESGに対する強いコミットメントです。グリーンビルディング物流不動産に特化しながら世界トップクラスの市場規模を掴んだ同社の経営の迫力。今回は、グリーンボンドをテーマとしたため、環境面に特化したインタビューとなりましたが、お話し頂いた内容に率直に感服しました。

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聞き手:夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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