米大統領府(ホワイトハウス)は10月15日、気候変動が米国にもたらす金融システミックリスクを測定、開示、管理、軽減するための包括的な政府戦略を発表した。バイデン大統領は5月にも「気候関連の金融リスクに関する大統領令」に署名しており、同大統領で掲げられた6つの柱も今回の戦略に継承された。
米大統領府は今回、2021年だけで、異常気象が米国経済を揺るがし、米国人の3分の1にすでに影響がでていると指摘。さらに、中国やテキサス州で発生した洪水や、巨大な山火事等、気候変動によって国内外のサプライチェーンが破壊され、住宅、建設、半導体、農業等の重要な産業のサプライチェーンが影響を受け、消費者と企業の双方に遅延や物資不足をもたらしていると危機感を顕にした。さらに、異常気象により、過去5年間だけでも、米国人の一般家庭も物理的・経済的に6,000億米ドル(約67兆円)の損害を被っていることもあげ、市民のリスクにもなっていると言及。加えて、退職金制度が抱える気候関連のリスクにより、米国の退職者はすでに何十億米ドルもの年金損失を被っていると指摘した。
今回の戦略では、金融リスクと物理的リスクによるインフラリスクを主眼に据えた。
まず、米国の金融機関でのリスク対策では、連邦政府の金融安定監督評議会(FSOC)が近々発表する報告書が重要な方向性を示すと言及。財務省連邦保険局は、保健会社に対し、気候変動リスクマネジメント強化の他、アフォーダブルな保険の提供を指導。米国証券取引委員会(SEC)は、行政機関の発行体に関し、リスク開示を義務化するルールを導入することで、投資家への情報を充実させる。
生命保険や年金での対策では、労働省のエリサ法改正によるESG投資促進に大きな期待を表明。改正案が成立すれば、米国労働者のうち1億4,000万人の年金合計12兆米ドル(役1,400兆円)が気候変動リスクから保護できるようになると伝えた。650万人が加盟している連邦政府公務員向けの確定拠出(DC)型年金制度「Thrift Savings Plan」に関しては、個別に対策を検討する。
【参考】【アメリカ】労働省、エリサ法改正案を発表。ESG投資への支持を鮮明。議決権行使も促進(2021年10月15日)
年間6,500億米ドル(約73兆円)以上にもなっている連邦政府の公共調達では、行政管理予算局(OMB)が、公募決定で、二酸化炭素排出量が最も少ない企業からの入札を優先的に行うことを義務付ける連邦調達規制(FAR)の改正手続きを開始済み。
連邦政府機関の気候変動リスク・エクスポージャーの把握では、OMB、連邦政府機関、連邦会計基準諮問委員会が、リスク評価手法の開発に着手。2023年の連邦政府予算案には、連邦政府の気候リスク・エクスポージャーと長期予算見通しへの影響に関する評価が追加で盛り込まれる予定。
連邦政府機関による融資制度では、住宅都市開発省(HUD)、退役軍人省(VA)、農務省(USDA)、財務省は、気候変動の影響を最も受ける地域社会の安全と安心を確保しつつ、融資ポートフォリオの気候変動による財務リスクに対応するため、連邦政府の引受基準と融資プログラムの基準を強化する。
強固なインフラ政策では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、全米洪水保険プログラム(NFIP)の基準を改訂する作業を開始。地域社会が土地開発や土地利用において、洪水リスクデータを考慮できるようにする。NFIPは1976年以来改訂されずにきた。また、米国海洋大気庁(NOAA)は、連邦政府が提供する気候情報を米国人が利用しやすくするため、ウェブサイトをアップデート。また、連邦政府機関は、気候に関するツールやサービスのオープンアクセスを促進するため、包括的な計画をまとめた2つの報告書も発表した。
【参照ページ】FACT SHEET: Biden Administration Roadmap to Build an Economy Resilient to Climate Change Impacts
【参照ページ】NOAA upgrades climate website amid growing demand for climate information
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